「逃避行」6. 2023-01-08 19:27:00 | 三好達治抄 p51月々、生活費を渡してくれれば、予算が立つので、少しでもまとめてもらいたいのに、お金は全く自由にならない。生活費のことで突っ込んでゆくと、平手打ちを喰らわされるのである。
「逃避行」5. 2023-01-07 08:29:00 | 三好達治抄 p48箸の上げ下ろしまで、文句を言われるのには音をあげてしまい、台所など手出しをするのがますます厭だったが、放っておくと余計うるさいので、仕方なく私がするようになって来た。お米を計っていると、ーーそんな計り方はない。そんな計り方で、何が計れるか!…私は心の中で冷笑しながら、三好の計ってくれた米を研いでいると、今度は研ぎ方が悪いと怒る。…散歩の時の恥ずかしがる様子の人とは、まったく別人だ。
「逃避行」4. 2023-01-06 11:31:00 | 三好達治抄 p46気の合うところと言えば、お風呂好きのことくらいだろうか。夕刻になると手拭と石鹸を持って石だたみの小径を、手をつないで歩いて旅館「わかえびす」の風呂をもらいに行くのが、たのしみといえばたのしみだった。…人っこ一人通らないひっそりした石だたみの道で、二人が若い恋人同士のように手を取り合って歩くのに、ふさわしい。女と手を取って歩くなど、あの人は生まれて初めてだと少年のように恥じて顔を赤らめてしまうが…あんまりぎこちないので、尊敬の念が沸かないのだ。
「逃避行」3. 2023-01-05 12:14:00 | 三好達治抄 p44ーーこれで良いとはなんだ!!と、いきなり大声を挙げる。私はむっとして、相手にならないでいると、ーーつけ直してください。と、言う。私は仕方なく台所に立って、コンロにまだ残っている炭火をかき集めて、徳利を温めて持ってゆくと、今度は、ーーこんな熱燗が飲めますか!とまた怒る。
台所 2023-01-04 20:43:00 | 三好達治抄 三好達治はこのあと自分で食事を作ります。ガスがないので炭を炊いて。慶子に「たくさん食べなさい」とすすめて、食後に自分の詩集を見せる。今の時代よりもずっと「いい家の人」とそうでない人の差が激しくあって、「いい家の女性」家事をしなかったんだな。なんか、女性なら誰でも家事育児介護担当の現代って、案外歴史が浅いんだ。このへんまでの話では、三好達治の甲斐甲斐しさと、慶子のプライドの高さ(けっこう好ましい)が目立ちます。