「どうしたんだい?ぼんやりして。」
ヤーフルが僕の顔を覗きこむ。
「あ、いやいや。ちょっとね。」
僕は急いで手を振った。
ヤーフルの背中に羽を見たような気がしたあと。
僕の頭の中には妙なイメージが降りてきた。
何だったんだろう、さっきのは。
羽を持った女の子?
もしかして、あれが「宇宙の書庫」にアクセスした感じなんだろうか。
「ねえ、ヤーフルは『宇宙の書庫』にアクセスしたことあるのかい?」
「なんでそんなこと聞く?」
「いや、どういう感じなのかな、と思ってね。」
「記憶を思い出すような感じかな。昔、お母さんに聞いた話を思い出すように。」
「今まで、どんなものを見たことある?」
「私が見るのは、たぶん私の今の命になる前の記憶だと思う。
透明な空気の中を、色のついた羽で空を舞うような感じとか。
人間の姿でありながら、海の中を自由に泳いでいる姿とか。
面白いよ。いろんな自分の姿を体験できて。」
「それって、つまり過去の自分?塔の中にある意識の情報?」
「それだけじゃないみたいだけど・・・塔の情報だったら創世記かなぁ。でもそれよりも前の記憶もあるから、別宇宙の話も入っているのかも。でも、なんで急にそんなことを聞く?」
「ん~さっきヤーフルを見ていたら、急にイメージが降りてきたんだ。情報粒子からダウンロードするよりもハッキリした感じで。」
と僕が言うと、ニマッとヤーフルが笑った。
さっきまでの、ちょっと悲しげな顔よりはこっちのほうがよっぽど彼女らしい。
「ついに、君も『読み手』になったって事だね。」
そう言って手を差し出してくる。
僕も思わず握り返すと。
急にさっきのイメージの中に意識が戻った。
カプセルの中から見ているのは、僕。
そして、外から見ている背の低い人は、ヤーフル。
ハッとして手を離す。
ヤーフルがこっちをじっと見ている。
「ほら、君と私は昔も同じように会っていたんだ。だから、この生でも一緒にいる必要はあるんだよね。」
そう言って、ヤーフルは花が開いたように微笑んだ
僕のみた、あの世界は何なんだろう?
ヤーフルに聞いても分からなかったので(そもそも、こういう事を聞く事が無駄だった。)、自分で調べるしかない。
さっきの一件でヤーフルは安心したのか、部屋へと戻って行った。
こちらの世界だけでなく、僕との関係が昔からあって、たぶん今後も続く事を理解したからだろう。
僕もそれが体験できてうれしかった。
でも、バンダナを使っている時は、こういう事は起こらない。
常に情報粒子を介しての事だから。
僕は部屋に戻った後、ゴーグルを取り出して、バンダナを頭に巻いた。
このゴーグルで、情報粒子から送られてくる画像イメージを、もっと鮮明に受け取ることができるのと、目的を深く追求する時はゴーグルがいい。
なぜって、バンダナだと気が削がれると、途中から集中できなくなって、受け取る情報が薄くなる事もあるけど。
ゴーグルは機械的な操作になるので途中で止めても続きからそのまま見ることができるし。
ただ、ゴーグルはでかくて重いので。外では使えない。
頭の半分くらいを覆う、透明なまるいカバーと、金属でできたフレームからなるので。外見は大きな丸いガラスボールを半分に切って、針金を巻いたような姿に見える。
そのフレームにある小さな金属片に触れることでこのゴーグルの操作を行う。
ゴーグルをかぶって、右横の金色の部分に触れると、空気の抜けるような音がしてゴーグルのサイズが僕の頭にあわせて縮む。透明な部分は液化クリスタルなので、大きさはフレームの範囲内で自由に変えられる。
フレームの金属片にもう一度触れる。今度は内部の透過率を調整する。
内側から見える風景を少し暗めにして、モニターのように映し出されるようにしていく。僕の目の前にはいくつかのキーが浮かびあがってくる。
それを目で追って、自分のやりたい情報をここに映し出していくのだ。
視線によってキーを操作することができるので、手を使うのはかぶる時と最初の調整の時。あとは脱ぐときくらいかな。
ゴーグルは結構重たいので、装着して横になれない。椅子に座って姿勢を正しくして。
重心が背骨にちゃんとくるようにしないといけない。
これはそういうふうにわざと作ってるということだった。
ベッドでゴロゴロして見られたらいいのに。
最初は「宇宙の書庫」に関する情報を下ろしてみた。
「宇宙の書庫」、とは今の宇宙すべての情報がそこに存在していて。
ある特定の条件を満たすと、そこにアクセスできる。
その時にゴーグルには細かい網目状の物体が浮かんでいて、
その表面にある無数の点が輝いている姿と。
その中央にある光輝く星のようなものと、
そういうものを見せてくれた。
これが、宇宙の書庫のイメージだそうだ。
ただ見ると、目の粗い布でできた中空のボールの中に、光り輝く玉が入ったおもちゃのように見える。
イメージがピンとこなかったので、その「特定の条件」を目線でクリックすると、
「意識をシフトする事ができる人物」
と短い説明。それと共に、頭にはその状態をイメージする情報が流れ込んできた。
感じとしては「ぼんやり」している感じかな?
情報粒子を受け取りながら、他の事を空想している感じというか。
この状態を意識して作るのは難しいなあ。寝てしまいそうだ。
なので、一回このアクセスを切って、次のキーワードを見る。
「何らかの、過去の生と関連するキーワードを見たとき。」
という説明が入ってきた。
同時に、頭の中に情報も降りてくる。
その場所に居る人間と、何か深いかかわりを感じた時、その状況と同じ意識状態になった時に、宇宙の書庫にアクセスして、情報得る場合もある。
という事らしく、その状態をイメージさせてもらっていると、これはさっきヤーフルと一緒に居た時の感覚に似ている。
ということは、さっきの状況の意識と、さっき見た過去の記憶らしい意識は同じ状態であった、ということか。
試しに、横にあった「分析」キーをクリックしてみる。
しかし、さっきヤーフルといた時はバンダナを外していたので。
その時のデータが存在していないので分析はできなかった。
そうだった、バンダナをつけていないと意識のモニタはできてなかった。
ついつい、バンダナがあるのを普通に思ってしまうので、こういう時に失敗してしまう。
うーむ、しかし、バンダナを外している時でないとこういう意識にはなれないのかな?
と思って検索をかけると、
バンダナの有無に関しての情報は無かった。
見える人は、バンダナがあっても無くても問題無いみたい。
そういえば、ヤーフルはいつもぼんやりしてニヤニヤしている事があるけど。
あれは宇宙の書庫につながっていた時だったのだろうか?
それとも、つまらない情報を下ろして、いろいろと空想して楽しんでいたんだろうか。
ふむ。バンダナを外した時と、付けている時の意識の状態を示す情報は?
「制限 @99」
そういう文字が出てきた。
あ、そうか。このあたりからの情報は専門知識になるのか。
なので、[簡易]という項目をクリックした。
すると、僕にも分かる範囲で情報を下ろしてくれる。
バンダナをつけている時の脳波状態をしめした絵が出てきた。
右脳と左脳が交互に活動していて、情報を下ろしている時はこうも脳内が忙しいんだなあ、と思った次第。
外しているときは、注意が動いた時に脳内が動き出す感じ。
そういう感じで、いくつか見ていたところ、1つの意識状態を示す絵に驚いた。
これは、左右の脳が同じ状態で活動している事を示している。
へえ、こういう感じにもなるんだ。
そして、これがどういう状態の時かというと
「宇宙の書庫とアクセス」
とラベルが打ってある。
ということは、宇宙の書庫とアクセスするには、右と左の脳が一緒に活動する状態にしないといけないのか。
しかし、どうやればこうなるんだろう?
またキーをクリックすると
[制限@99]
とまた文字が出てきた。
そこで、簡易をクリックすると。
眠りに入るときから、眠ってしまうまでの意識状態の時に、この状態になる。
という事。
じゃあ、なんでさっき僕はヤーフルとの昔の状況を見たんだろう?
もう一度元に戻る。
過去の関係を見た時に、という項目だ。
すると、
人間の意識は常に同じ状態ではなくて。宇宙の書庫とアクセスしたり、こちらの状態に意識をシフトさせたり。
そういう事を繰り返している。
その「宇宙の書庫」へのアクセスができる状態になった時に、過去のキーワードを見ると、その情報がダウンロードされてくる。
なお、バンダナを使用しているときは脳波の揺らぎが狭まるようになっているので。宇宙の書庫とのアクセス状態にはなりにくい。
なんだ、ここに書いてあるじゃん!
アクセスできる人はバンダナの有無に関係ないけど、キーワードで見てしまう場合はバンダナの有無が関係するんじゃないか。
だから、僕はさっきヤーフルと過去を見たのか。
そして、今度は僕のみた世界に興味が向いた。
あの、透明なカプセルに入った、羽のある存在はなんだろう?
小説、とても素晴らしいです。
昨日友人にユングの集合的無意識の話を自己流に説明していたばかりだったのでそのイメージとシンクロしていて、やっぱり全てはつながっていると実感した今日この頃です。
でも、決してシンクロ病になっている訳ではありませんので、ご安心ください。
また、機会があったらセミナーに参加してヘミシンクの勉強をしたいと思います。