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ネコ20匹を世話するため、本を書いたりバイク乗ったり。見えない世界ととその狭間を見ながら日常を生活する一人の男の物語。

アトランティスの記憶 <終末期26 > 最終話

2013-04-06 08:31:59 | 『日常』



・・・・・・・・・・・・・・・


<初期アトランティス>

そして、
ヤベーへは言う。
「終末の風景を見て、どう思った?」

そこには、僕と、ヤーフルがいる。
あの部屋に戻って来たのだ。

ヤーフルは最後の最後の風景まで見せられて、しばらく茫然としていた。

僕らは、あの部屋に戻って来た。
目の前にはヤベーへ、そして隣にはヤーフル。

ヤーフルは終末の風景を見せられたせいで、まだ小刻みに震えている。
それをヤベーへは優しく抱きしめていた。

あの時の姿と、今の姿。
ヤベーへは、いく千の年月を経ても、その姿は変わっていないんだな。

さっき見せてもらった風景。
沈みゆく大陸と、それにかかわる人々。
僕はその瞬間には意識はそこに存在していなかったけど、意識的な融合が行われている感覚は分かった。

塔の内部にある情報が、地球意識全体に広がり。
すべての大陸、すべての地域に存在する意識体達の「情報」と混じり始めたのだった。
交わり、そして広がる意識。

惑星全体が、新しい意識状態に変化して行く。
それは混沌とした変化。

争い、貧困、病。

そういったものが、多く現れ、世界が分断されていく。

そんな、惑星意識の大きな変化が、この時始まったのだった。

新しい意識状態へのシフトのために、この大陸が消滅した。

そんな事を思ってしまう。

有る程度落ち着いて、皆でまた椅子に座る。
ヤベーへがまたお茶を入れてくれた。「このお茶は、アレスの飲んでいたものと同じ。数千周期の先にも、同じものが存在しているのだよ。」
そう言ってほほ笑む。
ヤーフルもやっといつもの様子に戻っている感じだ。
お茶を一口飲んで、ふーっと息を吐いてから、急に僕を睨む

「今回、君はまったく何もしていないじゃないか。」
今回って、まだ起こってない事を言われてもしょうがないんだけど・・。
「いまの僕が自分で決めているわけじゃないんだから。そんな事言われても。」
「思わせぶりにふらふらした挙句に、さっさと居なくなるし。」
「でも、それがあったから、アレスとカズールの二人が動きだす理由になったんだから。ある意味重要なポジションだったじゃないか。」
「その、なんか大変な時はすでに居ません的なのが、何か腹が立つよ。」
そう言われてもねぇ。
「まだ起こってない出来事についてとやかく言われるのも、それに今の僕でなくて。ほとんど他人と言えるくらい周期を重ねた「僕の意識」を持っている人にまで、行動の責任は取れないって。」
「じゃあ、今その分動いてもらおう。」
「そんなん有り? だったら僕はヤッシュ時代にいっぱい働いてたじゃないか。」
「その分、フロルの時代はふわふわ生きていたじゃない。」
「それはお互いさまだろう?」

二人で自分の過去と未来について文句を言いあう、というのもどうなのかと思うけど。
その様子をたのしそうに見ていたヤベーへが、口を挟んできた。

「見てきた世界は、これから起こる事。それについて、何か聞きたい事は無いかな?」
僕とヤーフルは顔を見合わせて、
「こうなる前に、防ぐ事は出来ないのですか?」
ヤベーへは首を横に振った。
「君たちは、明日の事すら予想できないかもしれないが、これから数秒後の自分についてはある程度予測もつくだろう?それは確実なものであり。そして、無意識にそれを決定している。
我々にとって、数千周期、というのは君らにとっての数秒の感覚と同じなのだよ。だから、その状態が分かるし、先に進む事も確実だと言う事が理解できる。
今回は、私の認識力に合わせて見てもらったから、君たちも未来の姿を見る事が出来た。
私とっては、君らが「次に何をしよう」、と思いついたのと同じくらいの感覚で、この状態を理解している。」
「であれば、なぜ僕らだけにこの様子を見せたのです?」
「他にも26の存在、ヒトヲメンバーは居て、それぞれに選んだメンバーにこの姿を見せている。君たちだけでは無いよ。」
それを聞いて、少し安心した。僕らだけに託されたとかだったら責任重大だ。

「このあとは、どうなるのですか?」
ヤーフルが聞く。大陸消滅後の世界についてだ。

ヤベーへはしばらく目を閉じ、そして。
「君たちは地球の意識体達の中にある「情報」に入りこみ、そして転生を繰り返す。」
「それは、アトランティスで行われてきた事が、惑星規模になるって事ですか?」
「今までのように、安定した世界では無い。分裂と融合が常に起こり、それは混沌としたエネルギーを持っている。アトランティスで行われてきた周期的な転生とはまた異なる状態になるだろう。」
「それを行う理由は?」
「意識は常に変化し、そして生まれ変わる。惑星全体もそこに意識がある以上、その変化を行う必要がある。
それは一見混乱と思える状態に見えても、そこでは確実に変化が行われる。」
「それは、なんで分かるんですか?」
すると、ヤベーへはヤーフルに微笑みかけ。
「さっきも言ったが、私の認識は君たちの数秒先に行う事を決定しているのと同じくらい、数千周期先を知っている。私が、その最後まで見守っている。責任もって。」
ヤーフルは、そんなに長い間ヤベーへを見守っていると言う事か、では、僕はどうなんだろう?

と思ったけど、気になる事を聞いてみる。
「あの、船達はどうなったんですか?」
脱出した船団のその先は大丈夫だったのだろうか?

「彼らは導きに従い、それぞれに適した地域に無事に移動した。そして、そこで文明を作りだしたよ。それぞれの特性を生かして。」
「でも、あの船は粒子を使っていたんでしょう?その粒子は?」
箱舟、は粒子を使って動いていたのだったけど、アトランティス最後の様子を見ると、その粒子をほうっておくとまた大変な事になりそうな気がするけど。
すると、ヤベーへは手に持っていたお茶をスッとひっくり返して中身をこぼす。

あっ、と思っていると、そのこぼれるはずのお茶は空中で停止し、そして、四角い形に固まって行く。

「粒子を、固定化させる技術があるんだよ。我々だけが持っている力だが。
各、船に積んである粒子は、集めると不安定になるが。そのまま空気中に放出するのも悪い結果を産む場合もある。君の最後の時のように。」
と言って僕を見る。いや、でも未来の話だしなぁ。
ヤベーへが言うには、粒子を26の存在達が固形化し、
そして、それぞれの文明を生み出したところの地下深くに埋めている。
という事だった。

僕らにその様子を見せてくれた。
情報粒子ではなく、ヤベーへの意識と同調する形で。

船の動力機関から、ゆっくりと粒子が抽出されていく。
この船は、黒髪の26の存在、シェラシンの船のようだった。
しずくのように現れてくる青い姿。
それを、シェラシンが固形化していく。
その周囲にいる人々はシルバーコートをまとい、その影響が無いようにしている。

そして、固形化された粒子を運び。そして特徴的な形をした建物の地下にそれを埋めて行く。
この四角い底面を持った三角の建物は、粒子に対して安定させる力を発すると言う事で、
僕らの時代にも良く使われている形だ。
地下に納められた粒子を抑えておくため、分散しないようにするために、この形の建物の地下に、それは埋められた。
深く掘られた穴の奥に。その青い結晶はゆっくりと納められ。
そして、重い石の蓋でそれが閉じられる。

そして、人々はその土地で生活を始めた。

「世界各地に、このような形で粒子は保管される。」
ヤベーへがそう言って、そして、

「そして、君達二人が、この星の上でまた出会う時にこの粒子が開放され始める。」

と言葉をつづけた。
また出会う時?
しかし、塔の転生システムは崩壊しているのでは?

ヤベーへは微笑んで。

「そう、君達が、地球の意識体の中で循環し、まじりあい。
そして意識の融合が起こり始めた時期に、再びこの世界へと現れる。その時に、この粒子達は再びこの星に姿を現すだろう。」

と言った。
また、この世界に現れる?

僕らは塔にある「情報」内で意識の変化、肉体を失った後にも精神的に存在し。それが再びある周期を経てこの世界に現れる。肉体的には生まれ変わりであり、意識的には新しい役割を体験している感じになるのだけど。

それを行って行く事になっているけど、それが地球意識の中に入りこんだ場合は、そんな生まれ変わりとかそういうものがあるのだろうか?
「今、この惑星上で行われている生まれ変わりのシステム。それを一段上に上げるには、君たちのシステムを組み込む必要があった。
だから今から数千周期の後、惑星にある意識体の進歩が確認できた時にそれが実行された。
惑星上の生命系が充実してきたタイミングと、アトランティスの滅亡はリンクしている。」
「それは、避けられない事?」
「そう、見てきたことは確実に起こる。それは宇宙にとって必要な流れであり、この星にとっても必要な出来事である。」
「でも、そのなかで命を落とす人もたくさんいるんでしょう?」
「すべては巡り、すべては循環する。それは人の意識すらもそれからは逃れられない。
落ち葉は自分の状態を「死」と思っても、木にとってはそれは1つの循環の姿でしかない。落ち葉により、それで生活する虫達は命をつなぎ。その落ち葉を分解した要素が再び木に取り込まれ、それが葉となり。
それは物質の循環であるが、そこに意識の循環も存在していて。葉の意識は木に存在し、新たな葉はその意識を受け継いでこの世に現れる。」
「それを変えようと思ったら?」
「葉が自分の意識で落ちないように頑張ったとしよう。すると、その一枚が無いために虫が生きられなくなり。その葉は寒い冬にもそのまま栄養を撮り続けるので木はその分衰弱し。
そして、結果その木全体すらも枯れてしまうかもしれない。
循環の輪は止められない。」


だから、ヤベーへ達は沈む事に対しては何も手を出さずに、見ていただけだったのだ。

そうやって、新しい循環の形になって、それからどうなるんだろう。
その疑問をぶつけると、
「新しい循環のなかで、君たちは出会い、分かれ、そしてめぐり合う。それが、また新しい循環の形になるまで続くだけ。そして、新しい循環ができた時、またその中で出会い、分かれて、そしてめぐり合う。」

そう言ってヤベーへはほほ笑んだ。
「その結末まで、私が見守る役割を持っているから、また私と会う事もあるだろう。」

そう言って、またヤベーへの意識に同調した。

新しい循環。
それは、今まで見てきたアトランティスの世界とは違っていた。
人々は個人で意識を発達させ、個人ですべてを行えるほどに、高度に文明を発達させていた。
環境に負荷を与え、人間同士で負荷を与え合い。
そして、その中から激しい動きが生まれ、変化して。

戦争、病、争いと絶望が世界を覆う時もあり。その中でも、希望と愛があり。

そんな世界のなかで、僕らは何度もめぐり合う。

時には同士、時には男女。そして、ペア。

意識は変化し、前の状態を一切記憶に持たない状態で変化していく。

アトランティス、という1つの宇宙を形造っていたものが、今度は個人一人一人の意識の世界が、宇宙そのものとなる。

一見分離しているようにみえて、根源では繋がっている。

それがこれからの世界。そして、人間達。

僕らは平和なひと時を過ごしている、そんな世界の風景を見せられた。
そこでは豊かな環境と、平和な国、
そこでペアとして暮らし、子供と過ごしている。
今の僕らとは全く違う姿と町並み。ギャロットのようであるけど、丸い回転する車輪に乗って移動する乗りもの達。

物質が化学変化する時に発するエネルギー物質で調理や暖をとり、電気的なエネルギーであらゆるものが動いていて。

その中で、僕が何かの機械の前に座って、何かを記録している様子が見えてきた。
四角い、白い機械。端末のようであるけど、もっと原始的な様子にも見える。

「君達は、これから数百の世代を繰り返し、新しい世界でも私と再び出会う。その時に、君は私との記憶を思い出すだろう。」

そう、今見せてもらっている様子は二人が長い時を超えて再び出会い、そしてヤベーへと出会う。

そんな時代の姿。

僕らはこれからも出会う事ができる。新しい世界に入っても、出会う事ができる。
ヤーフルが僕を見て笑った。
その笑顔は、僕が見た中で最高の笑顔だった。
世界がいくら変わっても、僕らはいつでも出会えるし、そしてその縁は切れる事は無い。

「さて、そろそろ戻らないと、他の子達が心配するかもしれないな。」
そう言って、意識の同調が解かれた。


建物の外に出ると、太陽がまぶしい。
光が街を覆っている。

この美しい街も、数千周期後にはああいう風になってしまうのか。
アトランティスの滅亡、そして新しい世界の始まり。

変化、循環のためとはいえ。

ちょっと寂しい気持ちになっていると、すっと僕の手をヤーフルが握って来た。

「私達は、今ここにいるんだから。それでいいじゃない?」

そう言って笑う。
これからいろんな生があっても、何度出会う事ができても、結局今の僕らは今しか居ないんだから。

僕もヤーフルの手をしっかりと握り返して笑いかける。
その笑顔と、カズールがフェールに向けた表情と重なった。

「カズールはあのあとどうなったのだろう?」

僕がヤーフルに聞くと、ヤーフルは笑って、額を近づけてきた。
バンダナが接触した瞬間、どこかの地域が見えてきた。
低い丘のつらなる場所。そこには赤い果実のなる木々が生えていて、その間で実を収穫している女性がいる。
肩まで切りそろえた黒髪をスカーフに包み込んで、歌を口ずさみながら手にもったカゴへと赤い実を収穫している。
この歌は聞き覚えがあった。さっきの未来の記憶の中で流れていた歌。
乾いた季節の風がその歌を運んでくる。
ふと歌が途切れた。その女性がこちらに気づき、手を振りながら嬉しそうに駆け寄る姿がみえた。

その女性の顔には見覚えがあった。
フルカ?

ということは、この目線は?

「え?」
僕がそう思ってよく見ようとすると、ヤーフルはすっと身を引いた。
僕と目が合うと、とても嬉しそうに笑っていた。

「いまのって?」

僕の問いに、ヤーフルは笑って

「未来の、私の記憶」

そう言ってまた笑っていた。
その意味が理解できて、僕もちょっと嬉しくなった。

「そうか、約束はちゃんと守ったんだ。」
「まだ先の話だけどね。」
そう言って、またヤーフルは笑った。
すべてが消えたわけでもない、全てはつながる輪のなかにあって、
ただ廻っているだけ、
その輪が見えたからといって、僕らは僕ら以外の何者になるわけでもないのだし。

「じゃあ、家に戻ろうか。」
「うん。」

そして、僕らは光の中へと飛び出していった。




『終』

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ご愛読ありがとうございました。
最初から読みたい、という方は、左の「カテゴリー」で「アトランティス小説」で分類してますので。
読まれて見てください。
ご意見ご感想お待ちしてます。





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2 コメント

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やっと新しく書かれたアトランティスを読むことができました!! (つぐみ)
2013-04-18 21:46:41
やっぱり号泣です。・>w<・。

けれど、シェズの心情やロールンの心からアレスを思う気持ちが前よりも記されていて、それがまた複雑に感情が入り組み、悲しくなりました。
最後にカズールの未来の思い出が救われるような気持ちになりました。
巡り続く輪廻の約束と、今を大事に生きること。
やっぱり大好きな小説です。
ありがとうございました。
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やっと新しく書かれたアトランティスを読むことができました!! (つぐみ)
2013-04-18 21:51:05
やっぱり号泣です。・>w<・。

けれど、シェズの心情やロールンの心からアレスを思う気持ちが前よりも記されていて、それがまた複雑に感情が入り組み、悲しくなりました。
最後にカズールの未来で救われる気持ちになりました。
巡り続く輪廻での出会いの約束と、今しかないこの時を大切に思う気持ち。
やっぱり大好きな小説です。
ありがとうございました
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