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ネコ20匹を世話するため、本を書いたりバイク乗ったり。見えない世界ととその狭間を見ながら日常を生活する一人の男の物語。

アトランティスの記憶<中期アトランティス 9>

2013-02-07 08:19:02 | 『日常』



秘書たちの協力と、シャレ、そして神殿の役人たちの協力。
長の手助け、などもあり。無事に仕事のほうは進んでいった。

そして、秋になろうとする頃、その施設は完成した。

その全体像を見るために、夏に来たシャレの秘密の場所に登ってきていた。
ここは街のすべてが見渡せて、別の街も見えるので現在の状況を目で見て比較するのにいいのだ。

俺たちは、別の街に関する情報を知ることは無い。
街には長が居て、そこからしか情報は流れてこないからだ。
街同士は孤立しており、それぞれで独自のやり方で街の運営を行っている。

なので、他の街を直接目で見ることができる場所は貴重なのだ。
東の街を遠視鏡で見てみる。遠視鏡は内部に力粒子と液化クリスタルが存在していて、自分の見たいモノに対して意識を向けると、それを拡大して見せてくれるものである。

東の街は肉眼でははるかに霞んでいたが、遠視鏡の画像修整によって、海岸線がかなりはっきりと見えるようになった。
それを見てみると、こちらの街に比べて、どうも海岸線の後退が著しい感じを受ける。
夏以来、ここにきては観測を続けているのだが、高潮に対しての対策を何もしていないように見受けられる。
波間に沈む建物も多くなってきているようだ。
すでに海岸線にそって住民は移動してしまったのだろうか?

遠視鏡を下して、自分の街を見る。
そこには潮受けの堤防と、高潮の調整池。
そして、その海水を汲みだすための風車群。
これらの風車群はもともと存在していて粒子を維持するエネルギー発生用に用いられていたものである。
そのエネルギーの一部を海水汲みだし用に用いているようにして、調整池はすでに高潮に何度もやられている農地を使って。
唯一新たに作ったものは潮受け用の堤防。これも、調整池を掘った時に出た土砂を利用しているので、新たに何かを使って作りだしたものでもない。

低いところにある住宅は高潮が来た場合でも移動できるような。フロート式の住居に変更され、力粒子の道を利用して、もしもの場合でも高台まで移動できるように作りかえられている。

これらの施設を作り上げるために、特別な予算は結構使ったが。
そこまで日常生活に影響を与えるほどの金額を使ったわけではない。街の人達が少しずつ不要な部分を分け与えて行く事で、この事業は完成した。
既存の施設をほとんど利用しているので、それほど大規模な改修を行っていないところもあるが。

やる気になれば、なんとかなるものだな。

と街を見ながら思っていた。これまでは長の決めた通りにやりくりするのが議会であり、議長であったのだが。
自分達で変えたいと思えば、変えられる。
その事を今回の件で実感した。

しかし、この事を他の街の議長などに教える事は出来ないものなのだろうか。

東の街を見て、そのような事を考えていた。
なぜ、他の街との情報やりとりは禁じられているのか。そもそも、できないようになっているのか。
長と役人と、そのあたりの会合をいくら重ねても、「それができない状態である」としか答えをもらえない。

他の街とのやりとり、中央、と呼ばれる場所とのやりとりは 長、と言われる一部の存在や、役人達でしか情報のやり取りができないようになっている。

そもそも、なぜ今、この世界はこうなっているのか?

考えれば考えるほど、何かのひっかかりを覚えてくる。
図書館にもその答えはない。情報粒子のなかにもその答えは存在していなかった。
長や役人たちとはこのことについて話しても同じこと。
であれば、自分たちでこれを改善するために動けばいいのか。


「あ、議長、やっぱりここに居ましたね。」
背後から元気のいい声が聞こえてきた。振り返ると、シャレがにこにこと笑っている。
「早くしないと、そろそろ議会ですよ。」
と手を振りながら言ってくる。
そうか、そろそろ議会の時間か。
後ろにはヒャラントの姿も見える。議会用の資料作成は終わったので、シャレに連れ出してきてもらったのだろう。景色にすっかりはしゃいでいるようだが。

ということは、ノルロンが今は一人で頑張っているわけか。
早く戻ってやらないと切れ長の目でいつものように睨まれてしまう。
「分かった、すぐそっちに行く」

ちらっと横に建つ巨大な水晶を見て、シャレの方へと歩いて行った。
そう言えば、この水晶は使えるのだろうか?


議長室でいつもの服に着替えて、
「今回の資料では、A17~G12までの部分が補足として別資料フォルダNN82に入ってます。各議員には転送済みです。」
「いつもながら手際がいいね。」
「『準備万端』が私の好きな言葉ですから。」

ニコリともせずにいうノルロンの冷静な声を聞きながらボードと資料の入ったチップを受け取って、会場に入る。
議長の席に座り周りを見渡すと、議員が今にも意見交換をしたそうに、うずうずしているのが感じられる。
もう俺の資料に目を通しているようだった。

議会も変わった。

以前は決定事項の連絡のみで終わるものであったが、
最近は各自が責任を持って意見を言い、それを実行するべく動いている。
長の意見を忠実に行う、のではなくて、自分たちで街を動かして行く。
その意識が全員についてきたように思える。
議員の目つきが変わった。

高潮対策、そして、それによって生じた予算の不足をどのあたりで補い運用するか。
そういう細かい動き、そして、予算を安定させるための短期的な決まりごとなどを話し合い、街を動かして行く。
議論もいつも白熱する。多くの人が多くの経験を話し、それを共有の経験として認識していく。
それにより物事は決定され、より良い方向が決められていく。

「お疲れさまでした。」
議会が終わって、俺が議場の部屋に戻ってくると、シャレが冷たいお茶を持ってきてくれた。

秘書室と議長室はシールドボードで分かれている。これはクリスタル状の壁で、手元の端末で壁の色や濃さを変更出来るので。
家の仕切りに使ったり、町のショーウィンドウに使われていたりもする。

俺の部屋にあるのは、秘書室との区切りとして入れられていて、一人でこもりたい時は見えないように壁にして。ある程度コミュニケーションを取りたい時は透明にして、
というやり方をする議員は多い。
だが、俺は来客があっても基本透明にしているままなので、俺の様子を見てはシャレが気をきかせてこちらにお茶とかを持ってきてくれるのだ。このあたりの気遣いはありがたい。
シールドボードは壁と扉の両方の役割を持っているので、腕の端末で開いたり閉じたりも出来る。扉くらいはいつも閉めているのだが、秘書側から自由に出入り出来るようになっている。でないと、迅速なやりとりは難しいのだ。

議会は盛り上がるのだが、その分、疲労もする。

「それにしても、夏の時から議会は変化しましたね。」
シャレもしみじみそう言う。一緒に議会に出ているし、他の議員とのやり取りも任せているところがあるので。俺よりも余計にその事を感じているのだろう。
どの議員が最近熱心に話を聞きに来るとか、そういう話題も出てくる。
神殿からの情報が、俺とシャレからの発信になるので情報を知りたい議員は俺達の周りに集まってくるのだ。

おかげで、この数カ月(くらい、というイメージで)はゆっくり休めた記憶が無い。
本当に、あの時に海に行った時以来休みと言う感じではない気がする。

「さて、今日は夕方から明日の午後まではちょっと時間もありそうだ。たまにはゆっくり休んだらどうだ?あとの二人はそれなりに交代して時間を作っているだろう。」

シャレに言うと、シャレは「議長が休まないなら、私も休みませんよ。」とにっこり笑って返してくる。
「それなら指令をあたえる。これから髪の毛を切ってくる事だな。そして、明日の午前中はマッサージ(精神的な安定をもたらす、波動調整のようなもの)にでも行ってきてくれ。
最近、前髪が邪魔になってきているだろう? 横で見ていてそれが気になる。」
「じゃあ、議長切ってくださいよ。」
「俺ができるか! たまには女を磨く事も重要、と言う事だよ。仕事は十分できるんだから、同時に女としての魅力も上げることだ。」
「議長がそれを望んでます?」
「それもない事もないが、今後も多くの人と会う事になるんだから。さらに身だしなみに気をつけようと言う事。俺が気になるなら、他にも気になっている人がいるわけだ。」
「仕事の一環ですか。」
「そう言わないと行かないだろう。」
「私はそこまで仕事女ってわけじゃないんですけど。」
とシャレがなにかモノ言いたげに口をつぐむ。

とりあえず、シャレには早めに帰ってもらう事にした。

「ノルロン、資料をくれ」
そう言うと、無表情でさっとボードを手渡して
「長のところへ行くのですか?」
と珍しく聞いてきた
「そうだが?」
「私たちもついて行くことはできませんか?」
それを聞いて、ヒャラントも
「私も行きたいですぅ。」
と言ってくる。
秘書たちは好奇心旺盛なのか?

「ここを開けたら、誰が留守番してくれるんだ?」
「今日ではありません。シャレがいるときに、私たちも長という方にあってみたい、そう考えただけです。」

「長と会うには、粒子を使う必要がある。それにはきつい目にもあってもらわないといけないし。長には、こちらの思考を読まれることもある。それでもよければ、今度訓練してあげてもいいが?」

というと、ノルロンはしばらく考えて
「そこまでやって、議長とシャレはいつも対峙しているのですか。」
そう言ってこちらを見る。
「対峙ってことじゃない。対話、って感じだよ。」
「でも、相手にはこちらの思考読まれて、こっちは長の思考は読めないんでしょう?」
ヒャラントがそう言ってくる

「こちらは読めなくても、気配で察すればいいさ。」
「なんか、不公平な感じ。」
「人それぞれ、対話のやり方は違うだろう?ノルロン、ヒャラント、シャレ、それぞれにそれぞれの特徴があるから、俺はそれぞれにそれぞれのやり方で接している。
それと長とそんなに変わらないさ。」

「さすが議長。」
ヒャラントはそう言って笑っていた。
ノルロンは納得したのか、ひとり頷いて

「分かりました、私は私の特徴を活かすほうで働かせてもらいます。」
と言って微笑んだ。

そして、ノルロンから受け取った議会の資料をまとめたモノ(シャレがしてくれた)に目を通して。
長へと報告に向かう。

しかし、秘書達も長には興味あるんだなぁ。
やはり「魔性の女」とかいろいろ言われているからだろうか?俺にとっては「魔性の」、という感じよりは、寂しい表情をする女性、という印象のほうが強いのだが。



・・・・・・・・・・・長・・・・・・・・・・・
「そうですか、今日やってきますか。」
金髪の直轄役人に長はそう言った。それを肯定の沈黙で答える。
ここはいつもの丸いテーブルのある部屋。

「そろそろ、真実を語る時期に来ております。」
直轄役人は静かに言う。
「そうですね。もう、彼にはいろいろとお話すべき頃なのでしょう。」
長はそう言って目を伏せる。
帽子からこぼれた銀の髪が、ゆっくりと流れた。
「あの人は、思い出してくれるでしょうか?」

その言葉に金髪の役人は静かに首を横にふる。
「それは、もう難しい状況でしょう。それに、思い出しても、もはやそれは彼にとっては過去の話に過ぎないのですから。」

「でも、私にとっては今なのです。」

「行動するための動きは作り出されています。今日は、そのための最後のキッカケになるのです。そろそろ、彼が主役となるべき時期にきております。」

「それは分かっています、分かってますが・・・。
なぜ、その役割が私でなくてはならないのですか?あなたではなぜいけないのですか?」

長は金髪の役人を見る。その目は責めるような、すがるような気配を蓄えていて。今にも溢れ出しそうに揺らめいていた。

「私は、あなたのためのコーディネーターです。そして、あなたは彼のためのもの。
私ではいけないのですよ。」

「私が、貴方の意図に沿わなかったらどうなるのです?」

「その時は、あと数百年かけて、また同じストーリーを作り直すことになるでしょう。
一時的にはあなたが主役になることもありますが。結局この場面を作るには、彼が主役でないといけないのです。
それは、これまでに何度も繰り返されてきて。そして、この大陸の寿命も、あと何度も繰り返せるほどは残されていないでしょう。」

「・・・・これまでに、何度私と彼のやりとりは存在していたのでしょう。」

「387回は繰り返されてきて。いつも最後には貴方の意思で流れが変えられてきております。」
一気に情報が頭の中に入ってきた。粒子によって、その387回の生が一瞬にして見えて来る。

そこには、長とヤッシュの過去世、それがいくつもいくつも現れては、その都度繰り返されているやりとりが見えていた。
長とヤッシュの過去世が、二人の関係が親密になり、それで流れが変わるものも中にはあった。
しかし、その全てはその時だけのことであり、次の生では同じように出会い、またその繰り返しをしていた。変化が来ない結末が何度も起こっていた。

計画を実行させなかった結果、町が滅ぶこともあった。
自分の選択次第で、より多くの人々が命を失ったり。世界の変化に巻き込まれて長い苦しみを受ける場面もあった。沈みゆく土地と不足する食料。
飢餓が人々を襲い、疫病が街を襲う。

長の過去世が行った行動の結果。そういう流れになった時期が存在していた。

それを見て、長は震える声で役人に問う。

「・・・・・・なぜ、その回数やってきて。全てはうまく行かなかったのですか?」


「あなたと、彼とのつながり、関係が正しく設定されなかったからです。
あなたは、彼のコーディネーターなのです。それをお忘れなく。」

それを聞いて、
「私は一人の女として存在してはいけないのですか?」
長はつぶやくように言った。

「女として、存在しているではありませんか。だからこそ、感情が動くのです。」

金髪の役人は、そう言って長をやさしく抱きしめた。
「感情が動く。それを大切にして、そして自分の心の動くことを体験として受け入れて。
その上で、あなたはご自分の仕事をすればいいのです。」
長は役人の胸の中で身じろぎした
「それが・・・・・辛いのです。」
金髪の役人は、フード付きの役人服の上に着ているマントを広げて、そっと長の体を包み込んで行く。
長い金髪が流れ、マントからこぼれていく。
長を包み込むマントからは、白い、羽のようなものが見えたような気がした。

「今回、あなたは損な役回りですが、次の生はやわらかな、心地よい関係になれます。」

そう言って、金髪の役人は長にビジョンを見せた。

長の頬には涙が流れた。






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