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ネコ20匹を世話するため、本を書いたりバイク乗ったり。見えない世界ととその狭間を見ながら日常を生活する一人の男の物語。

アトランティスの記憶<中期アトランティス 12>

2013-02-12 10:06:46 | 『日常』


「ほかの町に行ってみようと思ったことはないか?」
と俺が言うと、シャレはきょとんとして、口に食べ物を入れたまま俺を見る。
今は二人でショット(ヤーフル時代とは多少異なる)に来ていた。
一応、俺も顔がみなに知れているので、ちょっと個室のようなところを選んではいる。
シャレは口に入れていたフォーク(のようなものです)を出して、

「それって、駆け落ちのお誘いですか?」

俺はむせて咳き込んだ。

「・・・・・どういう考え方でそうなるかな。」

「男女二人で、ほかの町に行こうって話になるとそれは駆け落ちでしょう?」

「確かにそういう話もあるなぁ。ほかの町に行くということは逃亡と同じのような意味合いで捉えられているし。」

「それ以外にほかの町に行きたいと思う理由が無いと思いますけど。」

「そうかな~。」

「議長はいろいろと長とかと接触しているからほかの町があるのを普通に思ってますけど。私なんかは秘書やるまではほかの町の存在を考えて生活していたことありませんからね。」

「それが普通だよな、確かに。」
そう、俺も実際議長になるまでは今の町だけが俺の世界のように感じていたものであったが。
今は長とのやり取りによって、ほかの町が存在し、そこには別の生活が存在していて。人の営みはどこにでも存在していて。
ならば、そういう人たちとコンタクトをとる方法などはないものだろうか?
そして互いの知恵を出し合って町をよりよくする方法は無いものだろうか?
という話をシャレにしてみる。
すると、シャレは

「そういうのは、長の仕事なんじゃないですか?議長はこの町のことをだけに意識を向けられていたほうがいいと思います。」

といわれてしまった。
そこで、長とのやり取りをできる限り説明してみた。
過去にあった粒子技術のある世界の話、統一された民、分断された民、そういう話をしてみると、シャレはしばらく考えて。

「私が思うに、議長はこの町で、今の仕事に集中されることが一番だと思います。」
そう言って俺をじっと見る。

「その話は過去の話ですし、長の言う『統一された民』とかそういうものも、私達には関係ない事でしょう?ならば、議長は今ある議長としての仕事に意識を向けたほうがいいのではないですか?」

正論だ。
正論であるがゆえ、それに従いにくい意識もある。
うーむ。
腕を組んで考えていると、

「議長」

とシャレが言う。

「長とのやり取りのときは私も同行させてください。議長だけがそのような悩みを持つことが無い様にして。一人では重たくても、二人で持てば重くないものもありますし。」

シャレの気持ちはうれしかった、しかし、それに甘えても何も解決しないことも知っていた。
俺と長との問題。
そういう気はしていた。


数日後、仕事が一段落して、俺はまた長のところへと足を運んでいた。
ノルロンとヒャラントに見送られて。
「一人で長に会いに行くと、シャレが泣いちゃうよぉ。」とヒャラント
最近、この2人もいろいろと冷やかしてくるので困ったもんではある。

シャレは別の仕事で外に出ているので、その間に神殿へと来たのだ。
シャレはああ言っていたが、やはりこれは俺の問題だと思う。

「また来ましたね。」
長はそういって、少し微笑んだ。
「いろいろと考えさせてもらって、結局また長に聞くのが一番だと思ったんですよ。」
「それで、何を聞きたいのですか?」
「統一された民、について。」
長は椅子に深く腰掛けて、俺にバンダナに意識を向けるよう促した。
長は珍しく、何かをためらうような表情を見せたあと、

「この話を見て、それでも議長を務め続けたものは居ません。それでも見ますか?」

「どういうことですか?」

「これまで、あなた方が「長の魔性に捕まった」と呼んでいるものたちと同じ道を歩むかもしれない、という事です。」

そういって、長は微笑んだ。

「結果、そうなる場合は仕方ないと思いますが。俺はただ、今の真実が知りたい。それだけです。」

「真実を知って、それでどうしたいのです?」

「知る必要がある、と思ったから知りたい。それではいけませんか?」

すると、長はじっと俺を見つめた。
その目は、どこかで見覚えがある気がした。
自分を見上げる、緑色の瞳・・・。
また、何かが見えてきた。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<前期 アトランティス>

「ほら、ここはこんなに景色がいいじゃないか!」
とヤーフルが両手を広げ立っていた。
目の前には広い空と、大地と、その先に海が見える。
結晶の町が海沿いに広がり、緑色の大地の縁が光に縁取られているかのような美しさだ。
ヤーフルの体を風が揺らして。まるでそのまま鳥になって飛んでいきそうな感じに錯覚しそうになる。
「ほら、君もこっちに来て一緒に見ようよ。」
と僕に手を伸ばしてくる。その手をつかんで、僕はヤーフルの隣に立った。
こんなに高いところにくるのはめったにないので、なんだか楽しい気持ちは良くわかる。
僕らの後ろには、巨大な水晶が納められている建物があり、その展望台から風景を見ているのだ。
水晶が外からも見えるが、情報粒子を各地に分散させる役割を持っているものなので、人間が近くに居ては危険らしい。
以前、施設見学に行った際に見せられた粒子の結晶に近い状態になっているらしいからだ。
その水晶を見にきたはずなのに、ヤーフルは目の前の風景にばかり気をとられている。
まあ、いいか。ちょっとしたピクニックだと思えば。
二人で並んで風に吹かれていると、ヤーフルがこちらをじっとみた。
「何?」
「君とこうしている時間が、ほかの生でもあるのかな、なんて思って。」
僕は美術館で見た創世記と未来の姿を思い出してみた。
どうも、こんなにのんびりした関係ではないような気がするなぁ。

僕が考え込む様子を見て、ヤーフルは
「いいよ、君が思い出さなくても。ただ、これからの生でこういう時があるといいなって、思っただけ。」
「別に、ほかの生でなくても、今こうやっていれればいいじゃないか。」
と言って、僕はヤーフルの肩を引き寄せた。
ヤーフルはにっこりと笑って
「君もちょっと男らしくなったな。」
と言った。
そして、表情を急に変えて
「でも、私は君とどこの生でも一緒に居たい。」
と僕を見上げる。その真剣な緑色の瞳に、僕は愛おしさがあふれてきた。
「僕らは、どこの時代でもまた出会えるし、そこでまた関係を深めることができるよ。」
そう言って、僕はヤーフルを抱き寄せた。

・・・・・・・・・・・ヤッシュ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


ハッとして意識が戻る。なんだ今のは、情報粒子からの映像か?

ここは長の部屋か?


「わかりました。それでは、『統一された民』についてのお話をしましょう。」

淡々と言う長の声が耳に入ってきた。
長は俺をまたじっと見る。そして、情報粒子へと意識を向け始めたとき、
「あのときの約束が果たされんことを。」
と、そっとつぶやく声を聞いた気がした。


情報粒子を通じて見えてきたのは、『中央』と呼ばれる場所。
そこは、緑色の瞳の少女が出てくるイメージのときに見える「街」と同じような雰囲気に見える。
結晶のような建物が広がり、粒子が街中に存在し。
バンダナをつけた人々はその粒子を使って生活をしている。
それは、俺達とはまったく違う生活のようにも見えた。
物を思念で動かし。
病気や食事の苦労も無く。
高潮の恐怖も、今月の町の予算を考えることも必要ない。

そして、そこで生活する人々の間には、すべてに信頼関係が成り立っていることに気が付く。

情報粒子を通じてのやり取りには誤解も無いので、そこから生じる迷いや疑いが発生していないのだ。

これは、まさに理想郷ではないか。

俺はそう考えた。すると、長の思念が入りこんでくる。
「この街は完全に機能しています、まさに良いバランスを持って。」
「この街のように、なぜほかの町もしないんだ?」
俺が反応すると、
「完全であるがゆえ、弱さもあるのです。」
そういって、次の場面を見せてくる。
街のすぐ外の様子。そこは緑の深い森に覆われていて。しかも、そこには人の姿は一切無い。街の住民は塔を取り囲む3番目の運河より外には出て行ってないという情報が入ってくる。
森を良く見ると、そこには遺跡のように木々の間にクリスタルのような光が見える。
情報粒子から入ってくる内容では、昔、街はもっと広く。ギャロットの走るような道ももっと広範囲に及んでいた。
しかし、高潮の影響などで世界が変化してくると、街の規模も縮小してきて。
「統一された民」の数も減ってきた。
ということが入ってきた。
なぜ人が減ってきたのか?

「粒子技術による寿命の変化」
という情報が来る。これはどういうことだ?と思っていると、長が情報を入れてくる。

昔の街の人々は、今の俺達よりも倍以上の寿命を持ち、それで粒子を使って生活をしていた。
しかし、粒子を使うようになって、寿命が次第に短くなってきて、今は俺達とおなじくらいになってしまったらしい。
しかし、粒子を使う生活では子孫を増やし、育てて行こうという気持ちがわきにくくなる。
それは生活が安定しているので、変化に備えた「種」としての本能のようなものが子孫を生み出すことに積極的にはたらかなくなってきた。
そこで、次第に人口は減ってきて。
現在のような塔と運河のあたりまでの世界で完結してしまっている。
という情報だった。
そして、人口が減るにつれ、男の人口比が極端に低くなり、外部に出るような仕事には女性がなるようになってきた。
それで、「長」は基本的に女性であるのだ。

「街は完全に粒子によるシステムが成り立っています。しかし、そこを一歩出ると人々は生活することができません。ここの「統一された民」は温室で育てられた植物と同じで。環境の変化にはついていけないのです。」
「では、分断された民、はどうして生まれてきたのだ?」
俺の疑問に長が情報を送ってくる。
高潮の被害などで町の連携が途切れたときから、それぞれの町では新たな生活を行う必要性が出てきた。
そのときに、中央とその町をつなぐために粒子のルートを確保するために神殿が完成したが。
町同士を結ぶギャロットの道などは作られることがなかった。
粒子を送るには、それなりの施設とエネルギーが必要となるのだが、海岸沿いにあった町の建物が水没してくると、その循環させるエネルギーが明らかに不足していた。
なので、粒子を中央から運んで、蓄積する方法がとられるようになったのであった。
それが「神殿」である。
神殿にある粒子は町で循環させる程度しか蓄積できないので、ほかの街とネットワークを結ぶことができない。
そこで、町ごとにそれぞれで粒子を使って生活できるシステムを作り上げていった。
それが今の状況であると。
「中央は、粒子を作り出している街ですが、そこがすべての町を管理しているわけではありません。ただ、すべてのバランスをとるように互いの長がやり取りをして流れを調整しているのです。粒子の量、情報、お金、それらすべてにおいて。」
「しかし、結局中央が存在しないと、俺達の町も存在できないのではないか?」
と俺が考えると、長が
「いいえ、あなた達は自分で環境の変化に対応する術を身につけてきております。今回の高潮対策の流れは、中央の「統一された民」には思いつきもしない発想です。」
「では、このやり方をほかの町に教えることはできないのか?」
「あなたが望めばできます。」
長を見ると、俺をじっと見つめていた。
「歴代の議長達は中央の街の様子を見て、そこで私達の仕事に協力してくれるようになってきました。あなたの前の議長も、今は他の町で役人をしています。
私達だけでは思いつかないアイデアを出して、その町の長達と町の人々と互いにやり取りをして、町をいい方向へと持っていく仕事するようになってきました。
それは強制でもなんでもありません。
ただ、他の町をもっと良い状態にしたい。という気持ちから私達とともに神殿から変化を作るように動いてくださっています。
そういうやり方もあるのです。」

「それは、俺に長のやり方に協力しろと?」

「強制はしません。ただ、望めばそういう方法もあるということです。」

俺は大きく息を吐いた。
なるほど、議長がなぜ長の魔性に取り付かれるのかがわかった。
結局、町を良い状態にしたい、だから議長になった。そして他の町の状態も知ることができると、次はそのほかの町に対して何かアクションを起こすことになる。
世界が広がれば、それだけ見える範囲も広くなるし、考えることも多くなるから。

しばらく考えて、

俺は顔を上げた。
すると、そこには俺を見つめる長の青い瞳。
先ほど見えたイメージと重なる。緑の瞳の少女が言った言葉

「でも、私は君とどこの生でも一緒に居たい。」

というフレーズが思い浮かんだ。
そして、長とその少女のイメージが重なる。
長は、ヤーフル?
いやいや、これは俺の中のイメージの話であって、長とは関係ない。
首を振って、頭から考えを追い出した。

「選ぶのはあなたです。良く考えてください。」

そういって、長は席を立った。

俺はどうしたらいいのだろうか?







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