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ネコ20匹を世話するため、本を書いたりバイク乗ったり。見えない世界ととその狭間を見ながら日常を生活する一人の男の物語。

アトランティスの記憶 <終末期 6>

2013-03-08 07:47:48 | 『日常』


翌朝、ギャロットのデッキに全員集められて、トエウセンからの説明が行われた。
トエウセンの体験と、カードの使い方。

さすがに、多少の動揺はあった。そのような話は今まで聞いたことが無かったからだ。
しかし、長年調査現場に入っているメンバーばかりだったので、トエウセンに対する信頼もあるし、現場で得られるカンのようなものから今回はそういう新しい方法も必要であろうという事になり。

このカードを取り扱う事に対しては異論がなかった。
そこで、男女に分かれて少し練習を行う事になる。

技術神官の中には、今回フルカしか女性はいないが、労働者階級の方は人数の半分が女性である。
ギャロットの移動時は技術神官と労働者階級は部屋の場所も作りも違うので、カズールとフルカが交代で部屋を使う感じになっていたが。
今は外に広いテントを建ててその中で過ごしているので。女性たちは女性同士で互いにテントを共有しているので、階級が違っても仲良くやっている。労働者階級の女性の中には若い女性のほうが多いくらいなのだ。
これは、労働者階級で旅行とか他の土地に移動する、というのは基本的にほとんどできない環境であるのと、特に女性は外に出ると言う機会が極短に少ない。
なので、こういう調査という仕事に入ると自分の知らない土地にも移動できるし。
いろいろな体験もできるので、結婚前の好奇心旺盛な若い女性の方が参加してくる率が高いというのもある。そのまま、結婚してからも参加してくる人も多いので、そう言う人は特に重宝される。今回も、何度も顔を見かける女性も来ていて、メンバーからは「お母さん」的に呼ばれているティルルという女性も居る。
カズールがアレスと発掘している時から良く一緒に行動している人物で。この発掘隊の中では、アレスのことも良く知っている人物だ。
未婚、既婚にかかわらず、女性は仕事が細かいので発掘作業等にも向いているので。
発掘現場は、男の現場というよりも、女性の姿の方を良く見かける事も多い。

技術神官をしていると、こうやって労働者階級の人々と一緒に仕事をする機会が多いので、彼らに対して特別に差別意識は働かないのだが。
儀礼神官など、支配階級の中でしか生きていない人々には、差別意識が強いものも存在する。
支配階級だけで世の中が成り立っていると本気で思っている人もいるくらいなのだが。

とはいえ、無意識に互いに差をつけているところはある。
ギャロットの中での部屋割もそうだし、仕事の分担についてもそう。
自然と、肉体労働系を労働者階級の人達に任せてしまう事があり。
どうしても、社会的に身についてしまった意識というのはなかなか変えられないのかもしれない。

今回、このカードを使うやり方は全員が覚えておく必要があるので、時間のある朝と夜に訓練を行う事になった。

訓練は、互いの意識を共有することから始める。
1つのものを見て、それを同じと認識すると、その情報が互いに共有できると言う。
言葉で言うと分かりにくくなるのだが、訓練の1つにあるものとして、

5個の石を用意して。
その中の1つを一人が取り出して、それを見て、触って認識して。その情報を全員に送るイメージをする。
そして、全員がそのイメージを受け取ったつもりになって、その手に持つ石を見て、
その石と自分の頭に入って来たイメージを結びつける。

今度は、その石が丸い形をしていたとしたら、
他の石はその丸い石に比べて「四角い」「大きい」「大きくて四角い」「でこぼこ」
とか違う特徴を見ることができる。

一人のイメージを送る人が、丸い石をイメージして、他の全員も丸い石のイメージを受け取ったと確認したあと、無作為に他の石を選んで情報を送ってみる。
すると、「丸い石」のイメージが基準として意識にあるので、それを元に、大きい、小さい、形の変化、等の違いを感じて、それを受け取ると他の石のイメージも受け取れるようになる。
というような。
共通の情報を1つ作って、それを基準にあらゆるものを判断して、情報として処理して行くような、そんな訓練を行って行った。
今回は、トエウセンが1つのクリスタル球を持ってきていた。

それは、昔、情報粒子で端末などを動かしていた時代にその動きを調整する基準となっていた物質なのだとか。
それを共通のイメージに置いておくと、情報粒子などを発見しやすいだろう、と言う事で。

とはいえ、共通の認識をイメージできるようになるのは難しいものであった。

朝にそのトレーニングをして。
それから現場に入り、その神殿の中に入って行く。
さすがに中にも土砂が入りこんでいるので、それを取り除きつつの作業となるが、どうやら送られてきた資料にある図面通りであることが分かって来た。
下層へと移動する通路まで掘り進めば、そこからは土砂の入りこんでいない空洞になっているだろうから、そこまで注意して掘り進めばあとは楽になるだろう。

そんな作業を行って3日間経過した。

朝と夕のトレーニングで、かなり感覚をつかむのが上手い人間と、今一つな人間に分かれてきたので。
そこでクラス分けして、今一つなグループは後方担当。上手なグループは前線担当と分けて。
それぞれで情報粒子を受け取る練習方法を変化させた。

フルカ、ハルツ、はイメージの捉え方が上手く、カズールは残念ながら下手なほうであったので。

「カズールは僕達の後ろでのんびりしているといいよ。」
と勝ち誇った顔でフルカが言ってきた。
カズールはショックは隠せないものの、後方で管理するのがそもそも自分の仕事なんだし。
と思い返して自分を納得させていた。

面白い事に、長年現場に入っている人達にイメージを捉えるのが上手い人が多く、デスクワークを行う人に下手な人が多かった。

「イメージは右脳で行うからな、左脳を使うデスクワーク人間には向かないのかもしれん。」
とトエウセン。
とはいえ、トエウセンは両方ともこなしているので。その差を努力で解決しているのだ。
カズールは改めてトエウセンの凄さを思い知った。

調査隊も先発、中継ぎ、抑え、と3グループに編成し、先発はハルツとまだ若い監督技術神官ヨーヘンと、男性の労働者階級数人がメンバーとなり、率先して堀りすすむ。力仕事担当のような感じ。
中継ぎにはフルカを隊長に、若い女性でチームを組む。丁寧な作業を優先して。
抑え、にはベテランのティルルを筆頭に、こちらもベテランの監督技術神官ブッシエが組んで、見落としの無いように進めていく。ブッシェはトエウセンよりも年長であるが、技術神官になったのが遅かったために、年齢の割には仕事の内容は現場的なものが多い。
だが、管理職よりは現場が好きだということで、率先してこういう掘る現場に出かけているので。経験上はこのメンバーの中ではティルルと同じか、それ以上に信頼の置ける人物だった。
ティルルは茶色の髪を後ろに縛った肉付きのいい女性で、フルカの倍くらい体重はありそうである。現場経験もフルカの倍はある。

3人の子持ちで、すでに子供らは学校を卒業しているので、気兼ねなくこういう長期的な調査に参加できると張り切って参加してもらっている。

そのせいか、カードの使い方ではカズールなどよりもよほど上手であり。
「子育てをする女性のほうが、こういう粒子の扱いは得意なのかもしれんな。」とトエウセンが言っていた。

そして、副責任者のカズール以下2名の左脳型技術神官と今回の総責任者のトエウセンはその全体のとりまとめを行う。

神殿の内部にある空洞の調査には、そのような布陣で臨むことが決定されると、現場の緊張感もさらに高まってきた。

この緊張感と一体感。
これが心地よい。この感覚を味わうために野外調査に出かけるようなものなのだから。

アレスは混とんとした人間関係の中から、この世界を変化させる道筋を導きだそうとしている。
カズールはアレスと自分の進む道の違いを感じつつも、アレスの仕事が進みやすいように現場で少しでも手助けできれば、と思っていた。

夜、デッキで星空を眺めながらスラルを入れた発泡酒を飲んでいると、隣にフルカがやってきた。
「一人で寂しく飲んでいるのか?」
そう言いながら笑っている。
「フルカこそ、皆と一緒にいたんじゃないのか?」
と言うと、少し笑って。
「僕は女だけど、“女の子”の会話には付いていけないんだ。」
と言う。
技術神官などをしていると、最近の話題について行けないところもあるのだろう。
テレビに出てくるアイドル、話題、そういうものとはほぼ無縁の生活をしているようなものだから。

しばらく無言で星空を眺める。
「あの子達は、このカードと情報粒子があれば、好きな人同士が分かりやすいから便利だな、なんて言っていたよ。」
「若いね、発想が。」
カズールが苦笑する。もう、そういう時期を過ぎてしまった身としては、そういう話題をしている女の子達がかわいらしく思えてくる。
「互いの気持ちが分かるとべんりかもしれないけど、その分からないところに意義を見出してしまうんだけどね。」
カズールは言う、
アレスとフェールの姿が頭に浮かぶ。
ひだまりの中で、フェールの入れてくれたお茶を飲んで、楽しく3人で談笑をする。
いつもの休日の風景が見えてくる。

そう、自分の気持ちが分かってはいけない場合もあるのだから。


「意味深だな。なにか実体験がありそうな気配だが?」
フルカは面白そうに言う。
「いろいろと、長く生きているとあるんだよ。」
その言葉を聞いて、フルカは手すりにもたれたまま、
「でも、その気持ちは少し分かる。分からないほうが良いと言う事は確かにあるから。」
そう言って遠くに月の光が輝く海を見ながらつぶやいた。
今の関係が崩れるくらいなら、相手に伝わらない方が、分からないほうがいいことだってある。

フルカとカズールは、同じ思いで海を見つめていた。

粒子技術が衰退していったのも、実はこういう、簡単な理由からなのかもしれない。
そんなことをカズールは思っていた。



カズール達左脳人間が、指令室テント(と勝手に命名された自室)に集まり、そこで探索の状況と、今後の展開を予想していると、
入り口からフルカが飛び込んできた。

「出た、出た。」

短い言葉だが、これが一応合図になっていて。重要な発見があったら、とりあえず呼びに来るようになっている。
「どこまで出た?」
「神殿の中に下りる階段、ちゃんと原型をとどめている。」
すこしフルかも興奮している。下手すれば内部に入るには足場を作りつつになるかも知れなかったのだから。

図面を見ながら皆で走って行くと、現場には先発隊の隊長ヨーヘンが待っていた。
銀の髪の毛を短めに刈り込んだ、四角い感じの顔のイメージが残る人物だ。
「ハルツは?」カズールが言うと、
「まだ中に居る、皆で人が入れるくらいに穴を掘っている。」
そう言って、走って来た後方担当のメンバーを横の作業用テントに案内する。

そこには堀進めた状態の図面と、送られてきた図面が置いてあり、そこで比べられていた。
ほぼ同じルートを進んでいる事が分かる。
「意外と楽かもしれないな、今回は。そのまま原型がとどめられている。内部にも入口さえ確保できればスムーズに入れそうな感じだ。」
「土砂による崩壊の恐れはないのか?」
とカズールが聞くと、
「ハルツも言っていたが、おそろしいほどこの建物は頑丈で。内部はおそらくそのまま保管されているだろうという事だ。窓から少し内側までは土砂も流れ込んでいたが、その先はすでに空間になっている。
あとは、これ、」
といって頭のバンダナを指差す。
「この反応を感じながらいくと、面白いくらいに正確に堀進められるんだ。これは便利だぞ。」
とヨーヘンはいつもの笑顔でたのしそうに言う。
むすっとしていると強面のおじさんなのだが。笑顔は少年のように楽しそうに見える。
しかし、カードが上手く使えない後方担当、カズールを入れて3人はその笑顔に複雑な表情をしていた。
自分達も、できればそういう事したかったのだが。

「では、先発にもっと先に進んでもらうか。」
「そうだな、この通路の下まで。」
といって、図面を指差し。1つフロアを下ったところまでを示す。
「資料室らしい場所まで進んで、中継ぎを導入しよう。中継ぎが来たら、先発はさらに下に進んで、ホールまで一気に下りてもらう。ブッシェをすぐ呼んでくれ。」
という現場監督の意見に、カズール達も特に異論はなかった。
必要なのは粒子に関する資料と現物なのだから。
ほかは、後でも調査に戻ってこられる。決められた日数で仕事をこなすのもプロの仕事なのだから。
それに、予算がそこまで付いていないのだ。


その日は土砂を取り除き、中継ぎが入れるまでに調整して。
次の日の調査に向けてミーティングが行われた。この場には発掘に携わる労働者階級も参加していて。階級の差なく情報の共有を図ることが重要にされた。
現場では共有することが重要となってくる。
各隊の目的、そして粒子を発見した時の対応など。

「古代の資料によると、粒子は圧縮されて金色の容器に納められているという。
それを発見し、持ちかえる事。これが第一の目的だ。
あとは、それに関する資料など、持ち帰れるものは持ちかえる。
古代の資料は、これ」
と言って額のバンダナを指差す。
「のように、一見ただの結晶質の何か、と言う感じにしか見えないものも多く、我々の常識で判断してはいけない。バンダナが反応したら、それはとりあえず持って帰ってもらう。
それを頭に入れておいてほしい。」
とトエウセンが言う。
今回の目的は、粒子の発掘と、その情報を持ちかえる事。

「正直未知の体験になるので、何が起こるか分からない。そこのところは注意してほしい。」

と一言あって、解散となった。
さすがに皆、アルコールは抜きでバンダナでの調整に意識を向ける練習をするメンバーもいれば、図面を頭に入れるかのようにじっくりと見ているメンバーも居る。

カズールは星空を見るためにデッキに上がっていた。
これまでの情報は公式な文章と、手紙として個人的にアレスに手渡しているものもある。
個人的に、とはいえ、必ず中はチェックされている事は知っている。
調査中のものを密かに外に運び出そうとした人間が皆無ではないので、個人的な荷物でも調査隊から送られてくるものはすべてチェックされている。
アレスに、ちゃんと届いていればいいが。

今の現状、そしてカード、情報粒子、そのあたりの話を日常的な文章の中に紛れさせて送っていた。
「またここに居るのか。」
と言って、フルカがデッキに現れた。
「そういうフルカもまた来たのか。」
「夜空は好きなんだ。」
フルカはそう言って、空を見上げる。
「僕らの思いは空に上がって、そして願いを叶えてくれると言うし。」
そう言ってふっと振り返る。黒髪が風に揺れて、少しハッとする美しさがあった。
フルカも自分では気づいていない、もしくは気付こうとしていない一面もある。
女としての魅力。

しかし、カズールはそれには気付かないふりをする。
良き後輩、仕事仲間、そういう範囲で押さえておこうとする自分の意識。

情報をやり取りする粒子で、人々がその意識を開放して行ったらどうなるのだろうか?


「カズールはなぜここにいつも来る?」
フルカがぽつりと聞く。
カズールは夜空を見上げ
「そうだな、遠い人とも意識が通じるような気がしてね。目の前に居ると正直な気持ちになれなくても、離れていると自分の中に正直な気持ちが湧いてくる。
それを、夜空を通じて送り届けられるんじゃないかと思って。」
すると、フルカが笑う。
「似合わないじゃないか。詩的な事をいうなんて。」
「フルカだってさっき詩的な事言っていただろう。夜空はそういう場所なんだよ。」
「詩的な場所ってことか?」
「そう。」

そして、また二人は夜空を見上げた。
空にある星のように、近く見えるけれど、じつははるかに遠い存在。
それが人間同士なのかもしれない。
カズールはそんな事を思っていた。





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