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ネコ20匹を世話するため、本を書いたりバイク乗ったり。見えない世界ととその狭間を見ながら日常を生活する一人の男の物語。

アトランティスの記憶<アトランティス中期 5>

2013-02-03 10:36:31 | 『日常』

今回は金髪の直轄役人に案内されて長のところへと移動する。
この役人は顔はローブで隠れていてよく見えないが、髪の毛は美しい金色をしていて。
今のアトランティス人にしては珍しい髪の色だ。

「長、ヤッシュ議長がおいでになりました。」

会談の部屋には2つの椅子が並んでいて。片方には長がすでに座っている。
俺は空いている方に腰をかける。
「それでは、私はこれにて。終了しましたら及びください。」
そう言って役人は扉の外へと出て行った。

「いかがです? あの子は大丈夫ですか。」
長が少し微笑みながらそんなことを言うので。少しドキッとしてしまった。
長の表情が瞬間、普通の女性のそれに見えてしまったからだ。

「あれは寝てます。やはりしょっぱなこういうやりとりはキツかったのでしょう。」

「そうでしょうね。粒子を使うにはそれなりの経験が必要になりますし。
それに、私も少し意地を張ってしまったかも・・・・・。」

後半はつぶやくように言ったのでよく聞き取れなかったが?

「今度こられたときは、もう少し私も注意するようにしますから。もう一度つれてきてくださいな。」
長がそういうことを言うとは思わなかったので一瞬停止してしまったが。
すぐにわれに帰り
「は、ああ、わかりました。今度はもっと難しくないやりとりの時につれてきます。」

それを聞くと、長は優しい感じで微笑んだ。

正直、この微笑みは反則だ。
なぜか懐かしい感じもする。この青い目はどこかで見たことがあるのだろうか?

しばらく見取れて、ハッとわれに返って

「そうでした。それでは先ほどの情報の手直しと質問がありますので、よろしいでしょうか?」
と俺が言うと長は頷いた。

そこで、シャレの作った資料について質問とやり取りを行う。
情報粒子のやりとりなのであっという間に済んでしまう。
金額的な変更、場所の細かい設定、などを短時間で終わらせてしまった。

うーむ、情報粒子を使って長とやり取りすると、早くなんでも終わってしまうかもしれない。

・・・・・・・・・・・・・・・・長・・・・・・・・・・・
「更に、具体的になってきましたね。」
長は丸いリング状のテーブルのある部屋へと来ていた。ここは唯一、ほかの街と、中央との連絡を取れる場所。
住民には知らされていない場所であった。
テーブルの脇には金髪の直轄役人の姿もある。

「彼は一度やろうとすると、それを突き詰めていくエネルギーを持っています。だから議長に選ばれたのでしょう。」

「私の記憶している彼、とはまた違った風なのですね。」
長がそう言ってため息をつくと、

「長い年月のなかで、役割を変えながら進むのが我々です。前回と今回、バランスは取れていると思いますよ。」
そう言って金髪の役人は微笑む。

長はそれを見て
「バランスが取れている、ですか。
であれば、私もそのように前の記憶が無いようにしていただけたら良かったのに。そうしたら今のような苦しみも減ったハズですが。」
そう言って目を伏せた。

「長は重要な位置にある人です。常に多くの情報とつながっていただく必要があります。前の記憶を持つことは仕方の無いことなのです。」

「ほかの町の長達も、同じ苦しみを味わっているのでしょうか・・・・。」
長は誰に言うでもなくそうつぶやき、テーブルの周りに映し出される映像を見ていく。
それぞれの町はそれぞれのやり方で復興を行っている。
しかし、ヤッシュのような思い切った手法を使う人々はまだ居ないようだった。

「彼のやり方を、この全ての町の長に流したらどうなるのでしょうね?」
そう言う長に、役人は
「もうひとつの歴史が始まってしまうことでしょう。彼が主役ではない、あなたが主役になってしまう物語が。
その時は、役割が変わるだけのこと。そして、先の再開もありえなくなるということ。」

それを聞いて、長は目を伏せた。自分の指が無意識のうちに情報を発信するボタンの上を行き来しいているのに気づき、慌てて手を引っ込める。

「冗談ですよ。私もそのようなことをする気はありません。」

そう言うと、直轄役人は一例して下がっていった。
長はほかの町との情報のやりとりに意識を戻した。
そう、自分の今出来ることをやることが、今は大切なのだから。

「でも、誰か支えになる人が欲しいと思うのは、贅沢なのでしょうか。」

長はひとりつぶやいて、大きく息を吐きだした。

・・・・・・・・・・ヤッシュ・・・・・・・・・・
手元にある分厚いペーパーを見て、長とのやりとりの便利さを実感していると。
そこにあの言葉が脳裏をよぎる

「長の魔性に取りつかれるな。」

そうだな。俺は人民のところで働く人間だ。長のレベルに合わせてはいけない。
あくまで、俺は俺なのだから。
そう思いながら、ギャロットに乗って家へと戻った。
シャレにはゆっくり休んだら家に戻っていいと、医務室には伝言を残しておいたが。


朝、議場に行くと、シャレがちゃんと来ていた。
秘書デスクの上で、俺が昨日まとめた資料とにらめっこしている。

「お、復活したようだな。良かった良かった。」

俺がそう言って上着をかけながら机に座ると、すっとシャレが立ちあがった俺の前に来た。
そして深々と頭を下げて。

「申し訳ありませんでした。私のわがままでご迷惑をおかけして。」
急に殊勝な態度をとられたので、こちらも面喰らう。
ああ、いや、とかあいまいな対応になってしまったが。

顔を上げると、手に持ったボードを見せてくる。

「さっそく質問なんですが、この資料は議長が作ったのですか?」
と昨日長と打ち合わせした資料を見せてくる。
いや、君の作った資料を長と練り直しただけだと伝えると、何か急に黙り込んで、自分の席に戻って言った。

まだ昨日の影響が残っているのか?
「シャレ、まだ本調子でないのなら・・・。」
「いえ、今日はばっちりです。最後までお供します。」

あまりのきっぱり口調に、ああ、そう。
みたいな感じで答えてしまったが。

その後もその資料をもとに今日の計画を立てて、朝に回る議員と、午後には用地の見学、そして業者との打ち合わせ。
その連絡をシャレにやってもらって、俺は少し議場にいる議員への説明にも足を運んだ。

たいていは秘書しかいないので、チップとボードわたして置く感じになるのだが。
朝から来て仕事しているのは、俺くらいじゃないのか?とふと思う。
独り身で、特に両親も世話をする必要もないので、俺は時間を使う事ができているが。
他の議員は家族もあるので、ここまで動くことはしにくいのだろう。
まあ、俺が働きすぎってことだなあ。と思って長老議員ジョルフの部屋に行くと、そこには本人が居た。
「年を取るとな、朝が早いんだよ。」
そう言って俺の訪問を歓迎してくれた。若い男の秘書がお茶(のようなもの)を入れてくれる。
「長と上手くやっているか?」議員が聞いてくるので、やり取りは順調にこなしていると答えると、
「あまり長い間長とだけのやり取りを繰り返しすぎると、こちらの我々の時間に合わせにくくなってくる。そこは気をつける事だ。」
「それはどういう事で?」
「情報粒子を使うと、それは早くやり取りが成立して、すべてが順調に進む用に感じられる事もあるが。動くのは人民であり、長達ではない。そこを抑えておけば良いのだが。」
「だが、ってそこでなんで口を濁す。」
「これまでの議長は、すべて長との情報粒子のやり取りで、向こう側の考えに陥ってしまった。これはある意味しょうがないのではあるが。おまえさんにはそうなってほしくないんだよ。その行動力は今までの議長には無いものであったし。
思い切りのいい判断も期待できる。それだけに、長との接触に注意してほしいと思う。」
「そのあたりは注意しているつもりだが。」
「仕事が忙しくなると、それだけ長に頼ってしまいがちになるから、そこを自制することだ。」
「俺には有能な秘書がいるから。適当に割り振りして忙しくないようにするさ。」

そして、細かい打ち合わせを直接行い、議員の部屋を後にした。

なるほどね、情報粒子のほうになびく気持ちもよく分かる。
シャレと数時間のやり取りが、長とでは数分で片付くのだから。
ま、TPOにそっていろいろと考えていこうか。

そして、午前中の議員回り。
今回は直接家に向かう。
なぜかと言うと、その議員のいる周辺の状態を見ておく事も今後のやり取りには重要だからだ。
その議員が低い土地に住んでいる場合は、その保障と移動に関する話をメインに行い。
高台に居る場合は、後から移動してくる人々の用地について話をしたり。
議員はその土地の人民を代表している存在だから、その住んでいる場所を見る事も重要になってくるのだ。

ギャロットに乗って、議員のところに言って、シャレと説明して。
要望を聞いて。

それを午前中に5件こなすと、さすがにくたびれる。
午後からは用地の件で視察に行くので、ゆっくりと食事をする時間も無い。
このまま飯抜きで行くか。
と俺が言うと、
「こんな事もあろうかと、ちゃんと用意してきました。」
と言ってシャレが弁当を取り出してくる。
「忙しいと思って、全部パット(サンドイッチのようなもの)にしてるから、資料を見ながら、移動しながらでもばっちりです。」
「気がきくな、すまない。」
「おなかがすくとロクな事考えませんから。」
そう言って、シャレはニコッと笑った。が、そこにいつもの元気な様子が無い事に気付く。
やはり、昨日の影響があるのかな、と思ったが口には出さず。
午後はそんな感じで。食べながら打ち合わせをしながら移動をしていった。

議場に帰って来たのは回りもすっかり暗くなってから。
一息ついて、シャレの入れてくれたコーヒー(のようなもの)を飲んでいると、
どうもシャレの元気がいつもほど無い気がしてしょうがない。

「どうした、昨日の情報粒子のやり取りでまだクラクラするのか?」
俺が聞くと、シャレは首を横に振って。
「確かに情報粒子のせいかもしれないけど、・・・。」とつぶやいて。
こちらをくっと見る。

「私が医務室に居た時、長に会いに行ったんでしょう?」
ときいてくる、
「君の資料で、ちょっと訂正個所があったからな。でも君が倒れているからおこすのも悪いし。俺でなんとかしておこうと思って。そしたら、予想以上に膨れ上がってしまったが。」
シャレはため息をついた。
「私の資料じゃ、物足りなかったんですね。」
いや、そういうわけではない。シャレには今日頑張ってもらえるようにそのまま休んでもらっていただけだから。と伝えたが。シャレは。
「そういうときは気兼ねなく私を起こして下さい。私は議長の秘書です。」
「それはそうだが、一人の人間でもある。無理をしすぎるとあとが続かない。」
「無理はしていません。」
「昨日倒れたのは何だい? 無理しない程度に見ておくように、という俺の言いつけを守らずに、俺達の情報交換に入り込んできていただろう。
出来ない事には手を出さない。自分のできる範囲で全力を尽くしてくれ。」
俺がそう言うと、シャレはしばらくうつむいていた。
ちょっと言い過ぎたかな?でも、これくらい言っておかないとまた無理をしてしまう。
そう思っていると、シャレは急にすっと立ち上がり、自分の机を片付け始めた。
「議長が言われたように、私は自分のできる範囲で全力を尽くさせてもらいます。なので、今日は帰って休みますが、いいですか?」
みょうな迫力があったので、そのまま許可してしまったが。

まあ、仕事のしすぎも問題だから、彼女にはある程度自制してもらうとしよう。
そう言いながら、俺はそのまま夜中まで資料をまとめる事となる。






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