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ネコ20匹を世話するため、本を書いたりバイク乗ったり。見えない世界ととその狭間を見ながら日常を生活する一人の男の物語。

アトランティスの記憶 <終末期 7>

2013-03-10 08:40:51 | 『日常』


アレスは家のリビングで、カズールからの手紙を読んでいた。
こちらは休日の朝なのだが、カズール達には関係ないようで。毎日発掘作業で発見の連続だと書いてある。なんともたのしそうな現場に、少し羨ましくもあるが。

そして、そこには、カズールとアレスにしか分からないような書き方で調査の内容についての詳しい事が書いてある。
手紙の中で急に昔話に入ったところからが今回の重要な内容になる。
学生時代の逸話のなかに今伝えるべきメッセージを書き込むようにしていて。
それによって、手紙を人に見られても昔話にしか見えないようになっている。

プレートによる情報粒子の活用、というところを見てアレスは興奮を隠せなかった。
やはり、実際に情報粒子、そして粒子技術はまだこの世界に存在するのだ。

そして、神殿の内部に潜入した様子も書いてある。
結晶質の壁面に取り付けられた通路がまだ生きているので、そこを生かして内部に入っているようだ。
資料室で大量の情報プレートを発見したが、そこに書いていある事がまったく分からないので。宝の持ち腐れだとも書いてある。
とりあえず持ちかえるそうだが、現在使っている石版を読みとる装置では無理であろう、という事も書いてあった。
粒子技術が動き出せば、もしかしたら。

この大量の資料、そして失われた技術の発見が可能となるのかもしれない。
「何か楽しい事が書いてあったの?」
後ろからフェールが覗き込んでくる。
アレスはソファーに座っていたので、フェールの柔らかい髪の毛が顔にかかってきた。
優しい香りが漂う。

どうやら、表情にでていたらしい。
アレスは手紙をしまいながら、フェールを振りかえり、
「カズールが面白いものを発見したみたいでね。俺もそこに行きたかったと思って。」
フェールはソファーの、アレスの隣に腰掛けて
「では、一緒に行けばいいではないですか?こっちの仕事は多少ほったらかしても何も変わりませんよ。」
そう言ってほほ笑む。
「そうはいかない、俺がこっちで押さえておかないと、カズール達の調査も打ち切られかねない。あいつのためには、俺がこっちにいないとだめだ。」
フェールは笑って、
「本当に、お二人は仲がいいですね。羨ましいです。」
「腐れ縁というやつだ。」
そう言ってアレスはフェールの肩を抱いた。
「俺は、本当はカズール達とまた野外に調査に行ったり、新しい発見をしたり。魚を釣ったり、そう言う事がしたいだけなんだがなぁ。
なぜか、それができない方向に進んでいる気がする。」
とつぶやいた。
それを聞いて、フェールは目を閉じて、
「そのうち、きっとできますよ。」
と、ささやいた。
大切な人達とただ時を共に過ごしたい。
それだけのことなのに、なぜそれが叶わないのか。

それが可能になる世界にしたい。

アレスは横に居るフェールの金色の髪をなでながら思っていた。


午後から、アレスはシェズとの会合に向かう。
今日はこれから行われる議会選挙についての話と、それに粒子技術に関する話を盛り込みたい、という内容の話だ。
使える技術も、その価値を見いだせない人間には使いこなせない。
人間的には好きになれないが、今回、シェズには期待をしている。
これまでの議員で粒子技術に関心を持つ人間はほぼ皆無で。むしろ、運河にかける橋とかそとの労働者階級の町を区切る堀の位置を動かせとか、そういう労働者階級の現実的な欲望をかなえるために、それらに受けるように議員達は動いて来ていた。

だから、今のようになったのだ。

とシェズは言う。
シェズにはシェズなりの動機があった。
シェズはもともと労働者階級の子供であった。父親が早くに亡くなり、運よくというか、支配階級の男に母親が見初められ。再婚を果たした。
シェズの新しい父親はシェズよりも、あとから生まれた自分の子供をかわいがり。
シェズには最低限の教育と生活を与えてたにすぎない。
それに母親も新しい夫に捨てられまいと必死であったため、シェズにまで気が廻る事はなかった。
だから、シェズは自分で行動し、自分の欲しいものは自分なりのルールでそれを得ていた。
それは社会的にみると犯罪と呼ばれるものでもあり。
集団の中では異質と呼ばれるものであったのだが。

いつもかわいがられる弟を見ては思っていた。
なぜ、こんなに扱いが違うのか。
なぜ、生まれが違っただけでこんなにも人に愛されないのか。

ある程度の年齢になると、シェズは人の関心を得ることに興味を覚え、それに没頭していく。
人に自分を認識してもらい、そして受け入れてもらえるように。
人に認めてもらった時の感覚は、自分が欲しい物を手に入れた時よりもはるかにたのしく、心躍った。

そして、それが自分の生きる方向性になった。

シェズにとって、粒子技術とは自分が人から関心を得るための道具であり。多くの国民が自分を認めて、受け入れてくれるための武器でもあった。

そのためには議会にもかけあい、予算を得て。
人を派遣し、神官たちとも会って。
そして、国民に訴える。
今の政治を変えて、より良い世界を生み出すために。

「粒子技術の復活を!」

そして、国民はそれに賛同した。
その期待にこたえるために、シェズは動く。
シェズが国民を動かしていたのだが、いつの間にか国民がシェズを動かし始めている。
しかし、それがシェズの望んだことでもあった。
多くの国民に認めてもらうことが、喜びであるのだから。


アレスは、シェズと会う度、本当はシェズというのは実在していない架空の存在で。それは国民の作りだした幻ではないのか。
と思っていた。
そこにいるのは、ただ人に認めてもらいたいだけの若者で。
それ自身には力も何もないのに。
国民の意識のが、それに力を与えていて。
そして、それが動き出す。

果たして、この動きは誰が操作できるのか。
シェズにも、国民にも、それが可能なのか?

自分にはそれが可能なのか。
アレスは考えていた。

それとも、俺もシェズに力を与えている人間の一人なのか。

人の欲が人を動かし、自分を動かす。
そのなかで、自分はどのように動けるのか。

シェズに反対する意見も多数あるのだが、
それは結局、「反対することで票数を稼げる」から反対する議員が居る訳で。
「反対する」事で自分の既得権益を守ろうとする人々、儀礼神官なども居る訳で。

結局、今のこの国はシェズを中心に動き始めていた。
アレスはその中心により近いところにいるため、全体の巨大な姿はまだ見えてこないのであった。

その渦の外にいるカズール達であれば、何かの答えを得てくるかもしれない。

アレスは会合からの帰り、街の明かりでかき消された星を見上げそんな事を考えていた。

カズールたちは、自分には見えないものを見て、聞こえない声を聞いてくれるハズだから。






神殿の内部に潜入し始めて、3日が経った。
すでに外には発掘したモノがあふれだしていて。資料室と思しきところから出てきた大量のクリスタルプレートが1つのテントの周囲に山積みになっていた。
その間をぬって、カズールはテントに入る。
すると、中はさらにプレートに占領されていて、足の踏み場もないほどだ。
その奥に小さな人影が見える。黒い頭がひょこひょこと動いているのを見つけて。
「フルカ、今いいか?」
と声をかけた。すると、奥からプレートの海から現れるかのようにフルカがやってくる。
だいぶ疲れた表情が見て取れるが。
「大丈夫か?なんかかなり疲れているぞ。」
と言うと、じろっとカズールを睨んで。
「毎日毎日、石の板と向き合ってみろ、疲れる以外の何物も無い。」
クリスタルのプレートを発見したのはいいのだが、その内容をすべて理解することはできない。プレートを使って情報粒子を多少扱えても、それから情報を引き出すにはもっと訓練と、大量の情報粒子が必要なようであった。
しかし、なんとなく「重要なもの」と「そうでないもの」はプレートを使えるようになった人間にはカンのような感じで分かるらしいので。
神殿の中で、「これは重要らしい」と発掘隊が感じたものをとりあえず外に運び出してある。
そして、すべて持ちかえるわけにはいかないので、さらにこのテントで選別を行っている。
トエウセンとの訓練のなかで、とりわけカンの良い二人が選ばれ、その選別作業に当たらせられているのだ。
外にあふれているのはすでに選別終了で、発掘の最後に神殿に戻されるものだが。
まだ選別作業用のプレートは1つの家ほどあるテントを埋め尽くすくらいあって。
そこに、カンのいいと選ばれたフルカと、もう一人労働者階級の女性が入っていた。
名前はシャロルという、フルカと同じ黒髪を肩のあたりで切りそろえている感じの若い女性で。フルカとほぼ同じくらい。顔つきが少し幼いのと体つきも小柄なので、かなり年下に見えてしまう。最初カズールが会ったときは学生かと思っていたくらいであった。人懐っこい笑顔の女のこなので発掘隊の妹的存在でもあったが。
フルカの前で、黙々とプレートを選別している様子を見て、
「シャロルは休まなくていいのか?」
とカズールが気を使って声をかけると
「休むと終わりませんから。」
と疲れた声でこちらを見もせずにぼそっと答えた。いつもの快活な様子が完全に消えている。
この作業はよほど過酷らしい。とカズールは思った。

このプレートの発掘、運搬、清掃、選別、はすべて中継ぎ隊がおこなっていて、先発隊は今、中央ホールのところに潜入しているらしかった。
抑え隊は、今のところ選別の終了したプレートに番号をつけてまた資料質に戻している。
また、後日調査に来た時にすぐに続きから始められるように。
調査と言うのも、掘ってハイ終わり、では無いのだが。
調査用の予算には、掘って運搬するくらいまでしか入っていないので、
片付けたり次回のための収納とかそういう予算は別からねん出しないと行けなくなるのだ。
それが、食費を浮かす、と言う事になり。時間のある時は食糧調達にいそしんでいるわけである。

フルカに、どうやって選別をしているのか聞いてみたところ、
プレートを眺めて、自分にとって難しい、と感じたものを選び出していると言う事。
「そんなんでいいのか?」とカズールが聞くと
「私の分からない知識がそこにある必要があるんだから。難しいと感じたものにそれが含まれる可能性はあるだろう。」
「しかし、フルカは料理とかするか?」
「いや、しない。」
「料理の情報がそこに書いてあったら、それを難しいと判断しているかもしれんだろう?」
「カズールは僕を馬鹿にしているのか?料理の手順くらい理解できる。それにそんなに難しくない。」
「その割には魚とかさばけないだろう。」
「理解できるのと、実行するのは違う。手順は理解できてもそれをおこなう経験が不足しているからやらないだけだ。」

そうは言っているが、潜在的に自分にとって難しいと思っているからやらないんだろう。とカズールは思って、そこに積まれた選別済みのプレートの山を眺めた。
もしかしたら、料理のレシピばかり書いてあったらどうするんだろうか。

一枚プレートを手に取り、光にかざす。
トエウセンから配られたプレートは、ほとんどクリアで、やや白っぽいラインのようなものが入っている感じに見えるのであったが。
この資料用らしきプレートには、わずかに緑色になっていて、そこに白いラインのようなものが刻まれていた。
こんなものに何が記録されているのか。

「で、なんか用事なんだろう?ちょっとテントの外に出よう。疲れた。」
と言ってフルカは休むいい口実ができたと、さっさと先に出て言った。シャロルにちょっとフルカを借りる事を伝えると、ジロッと無言で睨まれて、一瞬気が咎めたが。
カズールは何気に手に持ったプレートを服のポケットにいれてフルカの後を追った。
戻るときには何か飲み物でも差し入れしよう。

フルカは外で伸びをして、首を鳴らしている。
朝から毎日テントの中にいるので、かなり疲労しているのが分かるが。
鈍感な人はいいなあ、なんてカズールに皮肉を言ったりする。

カズールはフルカにトエウセンからの指示を伝えて、そして明日には地下の粒子貯蔵庫に入る、という事を伝えた。
「え、僕はこのままプレートのお守なのか?」
「それも重要な仕事だろう。しかし、明日は技術神官はすべて集まって、その現場に立ち会う事になっている。
明日はそのつもりでプレートと戯れていてくれ。」
「人ごとだと思って気楽に言うね。 ちゃんとその時には呼びに来ないと帰り道にずーっと恨み事を枕元で言い続けてやるからな。
「それはカンベンして欲しいな。ちゃんとトエウセン自ら呼びにくるから安心しなって。」


重要な場所に入る時、そしてそのあとに危険のある発掘を行うときは、技術神官は全員でそこの現場を確認することになっている。
これは、イザトいう時、自分以外のすべての神官が何かの事故に巻き込まれても、それをだれかが覚えておく必要があるからだ。
調査隊は、最後の一人になっても情報を持ちかえる義務がある。

実際、そのような事故は過去に何度か起こっており、一人生き残ったメンバーが伝えた情報に重要な出来事が記されていた事もあった。
それは伝説的な物語になっているが。

技術神官が全員でそこを確認する。もちろん、安全は確認された上での事であるが。

カズールはフルカにシャロルのための飲み物を手渡してからベーステントに戻り、明日の流れを確認していた。

ここには各隊からの情報と、潜入したメンバーから伝えられる映像と音声の通信により、リアルタイムで神殿の中で行われている事を知ることができる。
薄い形の画面が3つ並び、その横には音声を伝える装置が5つ。
それぞれのグループごとに分けて聞こえるようになっていて、インカムのスイッチを入れていれば全員の声をここで聞くことができる。
調査のときは何気ない一言が後日重要になる場合もあるので、
この様子は石版に重要な部分は記録され、すべて町に持ちかえることになっているが。
それを再生する装置は調査隊には無い。再生装置は高価で大きさもかなりあるので、移動用というのはまだ開発されていなかった。
石版といってもケイ素の軽い素材でできているので、重量自体はそれほどでもないのであるが。高価であるので、あまり枚数も持ってこれないと言う事情もある。
記録をするときも、「重要っぽい」部分から記録する感じになるので、ベーステントで記録を担当する人間には、結構な責任があるのであった。
それを今回はカズールが担当している。
無駄な作業中の音声や映像は記録せずに、重要な発見、変化の時の記録を優先して行っている。


今は先発隊のハルツが神殿の広間にはいっていた。
そこは町にある神殿とほぼ同じ作りであるが、大きさは1/3ほどであった。街の規模がそれくらいであったのだろう。

中には明りが存在しないので、すべて外から持ち込んでいる。
太陽光ケーブルを使うと、地底にも太陽光を持ちこめるので調査の役立つのだが、これは太陽が出ている間しかつかえないので、電気を所々に設置して全体を照らしだせるようにしている。

神殿の奥に進んでいく。そこは、町の神殿は「儀礼神官」達が守り、手を触れられない場所になっている部分。
「儀礼所」がある。
この場所は、昔に粒子を使って踊り子たちが記録を導きだしていた頃、ここから情報粒子等の粒子を放出したり、取り込んだりしていた場所らしい。

かなり以前、フルカと会話した時に
「踊り子って、性的交渉で人々を神殿に呼びこんでいた人の事?」
と言われて、カズールはため息をついて一冊の分厚い本を手渡した事もあった。
それは「踊り子」について詳細にまとめられた本。

踊り子、とは昔は情報粒子を使って、体をつかった踊りのなかで「情報」を引き出し。国民すべてにそれを伝えて表現していた特殊な仕事であったのであるが。
ある時期の記録から、急にその踊りによる情報を引き出す話が無くなってきて。
いつの間にか、「踊り子」は神殿に人を呼び込むための愛玩少女てきな呼び名になってしまっていた。
その少女と触れ合うため、そして性的な交渉を持つために人が集まるようになってきたという。

今はその踊り子すらも神殿にはおらず。儀礼神官が、街でおこなう儀式の時に使う場所となっている。
年の初め、議長、議員の任命。
そのほか、年に数十回もの儀礼が選定されていて、それを取り行うだけで神殿は存続しているようなものであったが。
そこに、労働者階級からの税金が使われるので、いろいろと意見は存在する。

そういう神殿にも、すべての場所に同じように粒子の貯蔵庫が存在していたはずなのだが。
今はそれらがすべて空になっているという話だ。
技術神官には絶対に扱わせないので誰もそこの中を見たモノはいないのだが。

記録を調べていくと、ある時から、粒子を循環させる技術が失われていったらしい。
その頃から踊り子たちの扱いも変化していった ようであった。

果たして。この神殿には粒子が濃い状態で残っているのか。







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