「しまった、考えすぎた。」
急いで祐一は門の外にでる。すると、そこにはあの男がいた。
そして、外葉に話しかけている。
「ほら、私の言った通りになってる。」
横に桜火がすっと来て囁く。どうやら、本当に「お母さんがね、」という話をしているようだった。外葉は少し警戒しているようだったが、わざわざココに来ていることに疑問を感じつつも話を聞いて居るようだった。
「今日はお母さんから帰りが遅くなるから外葉ちゃんをよろしくって頼まれてね。それで迎えにきたんだ。車で来てるから、乗りなよ。夕御飯ご馳走するからさ。」
正也のその言葉に、外葉は怪訝そうにして、
「でも、お母さんは私に家に帰っているように、って言ってたし。正也さんと一緒に居ろ、なんて言って無かったわ。」
「いや、俺も今朝電話もらってね。迎えにいってくれって。それで急遽仕事を抜けて迎えに来たんだよ。」
「さっき、お母さんには私もデートで遅くなるってメール入れておいたんだけど。」
「沙織さんは忙しくて見てないんだろう。返事が来るまで、食事でもして待ってれば?彼が間に合わないなら、俺とデートでもするか。」
そう言って品の無い笑い声をたてた。
そのやりとりを隠れて聞いていて、
「昭和の悪党か。古い手だなぁ。」
そんなツッコミをいれながら、祐一はその現場に走り、呼びかけた。
「外葉、お待たせ。行こうか?」
そこにいた女子生徒数人もその姿を見て怪訝そうに祐一を見る。
外葉の表情がぱっと明るくなった。
男は祐一の姿を見て、
「お、この間の外葉ちゃんの彼氏か。今日はお母さんに迎えを頼まれたんだよ。残念だが、今日はデートをキャンセルしてくれや。」
明るい口調で笑って言うが、目の奥は冷たいままだ。
俺に向けてくるのは、嫉妬か憎しみか。
祐一はその気配をかんじていた。目を開いて、男の気配を見る。
瞳の色が、いつもよりさらに深い緑色に染まる。
何か、今の男の意識とはまた別の意識が出てきている感じを受けた。
過去生、か?
何か、宇垣母娘を自分のものにしようとしている強い意識。
なんだろうこれは。
俺を邪魔な存在として排除しようとする意識を強く感じる。なぜ、俺が?
その意識を感じていると、横から桜火が囁いてきた。
「あなたが現れたことで、過去生の情報とつよくリンクしてしまったみたいですね。」
そう言われても祐一にはどうしようもなかった。八坂のようにそこで何かをできるほど、能力は無い。
これを解決するにはどうしたらいいのか。
周りにいた女子生徒は、何かざわざわし始めた。
そりゃそうだ、いきなり彼氏、デート、というこれまでの外葉には存在しなかったキーワードが発せられているのだから。そこに現れた祐一。
うわ、注目を浴びてしまった。ええい、こうなったらもうどうでもいいや。
祐一はクッと男を見据えて言った。
「今日は外葉と約束をしています。それはお母様からも許可を得ていることです。いきなり来てそういう事を言われても困ります。」
更にまわりがざわざわしてきた。
「何?」「どうしたの?」「喧嘩?」と野次馬も増えていく。
外葉は違う違うと真っ赤になって手を振っているが、構わず祐一は、
「お母様のから直接外葉に電話連絡などありましたらその通りにしますが。そうじゃなければ今日の約束を優先させていだだきます。」
「いやいや、急なことなんだよ。」
男は困ったように作り笑いを浮かべた
「こんなふうに校門で待ち構えて、それで来てくれ、というのは説得力に欠けますね。」
「おいおい、これでも外葉の父親になるかもしれないんだぜ。もう少し口の聞き方を気をつけた方がいいんじゃないか?子供はさ。」
「子供のような事を言っているのはどっちでしょうね?」
明らかに、祐一はこの男を挑発していた。
外葉は祐一の意図がわからず、不安な顔をしている。
祐一はたしなめるようににやりと笑った。
そして、それがわからないほど、男は馬鹿では無かった。
「ガキが、知ったような事を言いやがって。なんだ、その顔は!」
急に語句が強くなった。
脅しが入ってきた証拠だ。男の手がかすかに震え出す。次に何かあったらすぐに手が出てきそうな気配だ。
祐一がこうも冷静に立ち向かっているのは、よこで桜火の援助があるからである。
桜火がささやく。
「そろそろ、おちょくるのも限界です。外葉さんの手をとって走りなさい。」
もうやけくそだった。
「では、失礼します!」
そう言って祐一は外葉を引っ張るように駆け出した。
「オイこら 待て!」
男は怒鳴りながらすごい速さで外葉の手を掴んで引っ張った。
「きゃー!」
「父親の言うことを聞け!」
男は強い口調で外葉に言い、同時に引き寄せようと手に力を入れる。
桜日が祐一の耳元に囁いた。
「男の膝に蹴りよ!」
言われたと同時に、体重を落として膝を踏み潰すように足を落とす。
膝の関節が外れるかというくらいの衝撃を受けて、男は叫びながら思わず手を離した。
二人は走り出した。
なんとか外葉を救わねば。という気持ちで祐一は頑張っていた。
その根底には、外葉がこの男に汚されるのは我慢ならないのと。
そもそも、彼女の娘に手を出そうという考えが「男の風上にもおけぬ」というみょうな正義感をもってしまって、というのもあるが。なぜかそれ以上に、この男に外葉を渡してはいけない、という気持ちが強くでてきていた。
でも、桜火の援助があるからやれているところは7割ある。
後ろで叫ぶ声が聞こえるが、振り向きもせず全力で外葉の手を握って走っていった。
走りながら
ああああああ、明日は絶対噂になってしまう。どうしよう。今まで普通の生き方で通してきたのに。
目立たないように生きてきたのに。どうしよう。
と考えていた。
あれだけの数のギャラリーの前で不本意なやり取り。しかも手に手をとって逃亡。
どう考えても「噂にならないはずはない。」である。
「ほら、私の忠告通りにしなかったから、ちょっとしたお仕置きしますよ。」
と桜火が楽しそうに囁いた。
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