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ネコ20匹を世話するため、本を書いたりバイク乗ったり。見えない世界ととその狭間を見ながら日常を生活する一人の男の物語。

アトランティスの記憶 <終末期 23 >

2013-04-03 08:34:14 | 『日常』

「何、農園で脱走?」
シェズにその一報が届いたのは夜中。翌日には粒子技術が本格的に稼働する。
というのでそのための演説原稿を最終チェックしていたときであった。

軍からの直通電話による報告では、
農場の36人が死亡、16人が逮捕。他はすべて逃亡。
死亡者の中に、首謀者であるアテレスも居た、という報告であった。
脱出組が動き出す事は分かっていたので網をはっていたのだが。
なかなかに上手くいかないものだ。

「その捉えた16人は尋問して、何を計画していたのか、などを聞き出しておけ。」
と指示を出して、シェズは原稿の確認に戻った。
今は原稿の確認のほうが重要な事である。カズール達のたくらみなど、粒子を復活させた後でも可能だ。

とシェズは思っていた。
明日の演説を、塔の上にあるステージで行う。
その様子を自分でイメージする。
自分を称賛する声が響き渡り。
シェズ・アームの名は歴史に刻まれる。

この瞬間を、いつも夢見ていた。

誰からも認められて。そして皆から尊敬されて。そして、歴史に残る。
明日の事を考えると、興奮して眠れなくなりそうであったが。
少しは仮眠を取る必要もあるので、原稿のチェックが終わってからベットに横になった。

明日の、歴史的な日を夢見て。

アレスはその頃、粒子を発生させるすべての連結を確認していた。
流れをすべて確認し、何のミスも起こらないようにすべてを完全にしていく。

粒子は大量の水の中を通らない。と言う事が分かっていたので、いざという時には補助動力装置からメインの動力装置の場所までに大量の水を注入することで粒子の漏れを防ぐ事も考慮してあった。
これは古代にも存在したシステムであり、塔の周囲にある運河はそのための水がめでもあったのであった。
何かが起こった時に運河の水を引き込んで粒子の動きを抑えるために。
計算上では塔の容積と同じ量の水がそこにある。
この計算をして作った人々はなんという技術力だろうか。
と古代の技術には驚かされっぱなしであったが。

アレスは自分の行ってきた事が、ついに形になる事が嬉しかった。
あらゆる犠牲があり、取り返しのつかないものもあったが。
それを無駄にしないためにも、この粒子を国中で活用できるようにしないといけない。
それができれば、フェールも喜んでくれるだろう。

「まだ、寝無いのですか?」
デスクですべてのチェックをしていると、ロールンがお茶を入れて持ってきてくれた。
先ほど、夜中に明日の最終打ち合わせが終了し、今神殿の自分の部屋に戻って来たところではあるのだが。

「いや、もう少し見てからにしよう。君はもう休んだほうがいい。明日はもっとハードになるはずだから。」
そう言うと、ロールンは微笑んで
「私はあなたの秘書です。だから、あなたが働く間は起きてお手伝いします。」
アレスは自分の上にロールンを座らせ、そして抱きしめた。

「ありがとう、君のおかげですべてがうまく行っている。本当に感謝している。」
そう囁くと、ロールンは嬉しそうに腕の中で動いて、
「そう言って下さるだけで、私は嬉しいです。」

孤独なアレスのため、ロールンは仕事でもプライベートでも尽くしてきた。
それは自分の夢をかなえるためであり、そしてアレスの事を愛しているからでもあった。

この孤独な人を私は支えて行きたい。
ロールンは、アレスと共にこれからも進む事を心に誓った。

「では、何か資料の整理を行いましょうか?」
としばらく抱き合った後、ロールンが言う。
「それでは、この35から89までの流れをまとめておいてほしい。」と言ってアレスも手を離して、代わりに資料を手渡した。

恋愛事よりも、目の前の仕事。

そういう二人であった。



・・・・・・・・・・・・・・・・

カズール達の元にフルカがやって来た。
傷だらけで、髪も乱れて。
そして、涙で腫れた顔。

その様子を見て、カズールはすべてを悟り、そしてフルカを抱き寄せた。
「ありがとう、良くやってくれた。」

フルカはまた、声を上げて泣いた。
自分の不甲斐なさを責めて。


農園からの脱出者も合流して、それぞれの船に乗船してもらう。
船の行き着いた土地では農業が必要になるので、そのためでもあるし、全体を仕切るにはある程度の横のつながりのある組織が必要になってくるので。
農園で共に暮らしていた人々がそのまとめ役として船に乗り込む事になっていた。

26の存在のうち、8人(?)が地下におり、それぞれの船に降り立っていた。
皆を見守り、その姿を見た人々は安心感を覚えていた。
自分達には最高の守護がついているのだから。
何も心配することはないのだと。

フルカも着替えて、女性の神官服になっていた。
これから移動する際、人を誘導したりする場合は目立つ姿になっていたほうが良いだろう、ということで。

カズール達はアテレス達の最後を聞き、全員で黙とうをした。
今回の犠牲になった人々を思い。そして自分達の旅を成功させるためにも。

そして、フルカはアテレスの代わりに、残った人々を救いながら移動する船の担当になった。
これは、今の8の箱舟ではなく、明日になってから、粒子技術が復活した際に起こる何らかの出来事で。
この大陸から脱出をしようと試みる人々がいるはずなので、それ用に準備された4隻の船の事である。
8隻は明日には粒子技術の復活と同時に出港し、4隻の船団はあとにのこされた人々を救いながら移動する。ある意味、一番難しく混乱も大きく、危険も大きい。

この4隻には、トエウセン、ファロウ、アテレス、ハルツ、など今回の計画で主要なところを抑えていた人物が責任者として乗る事になっていた。
その、アテレスの船をフルカは引き継いだ。フルカはアテレスの意思を継ぎたいと思っていたのだ。
「生き残ろうとする人たちのために。」


すべては明日のために。
そして、すべての終わりと始まりの時にむかって。






・・・・・・・・・・・・
その日、朝が来た。
カズール達は地上へと出て、その朝日を感じていた。
一人空港遺跡の建物に登り、平原から登る太陽を見つめている。

空は晴れ渡り、美しく伸びる雲が遠くへと広がっている。
これから、この国で何が起こるのか。

すると、ヤベーへが隣に降り立ってきた。
金色の朝日が美しく白い羽を輝かせていた。この世のものとは思えない美しい姿。
その姿に一瞬息を飲む。
やはり、この人達は人間では無い。そう思いつつも
「いつも、あなた方は突然なんですね。」とカズールが言うと、ヤベーへは微笑んで、

「あなたに話しかけるタイミングを見計らっているのです。」
と言う。
「これから、何が起こるのですか?」
カズールの問いに、ヤベーへは。
「それを、共に見に行く必要がある。」と言った。
「船の出港準備とかは?」
「君が居なくても、もうすでに大丈夫だ。君の代わりはフルカがしてくれる。」
「いや、まだ彼女には早い。」
「そう言って、彼女の一人立ちの機会をいくつ奪ってきたのかな?」
その言葉が、ぐっと胸に突き刺さる。そういえば、そうかもしれない。
「彼女は今、もっとも頼れる人物になった。だから、任せてみては?」
「・・・・分かりました。では、俺はあなたと行動を共にすればいいのですね?」
「そう。私と共に、この世界の変化を見るのです。」
そう言って、ヤベーへは姿を消した。
男性のように見えて、そのように聞こえる時もあれば。女性のように優しい声に聞こえたり。
毎回、ヤベーへと話すと、自分は何と会話していたのかを忘れそうになってしまう。

「おーい、カズール。船長が全員集まっている。今日の動きの最終打ち合わせ、やるぞ。」
とファロウが呼びにきてくれた。

返事をして、カズールは下に降りていく。
ヤベーへはファロウとカズール以外には姿を現していないような感じであるが。
他の存在は堂々と地下に居て、自由にそのあたりを散策しているようである。
いつまでも船の上に居ても楽しくないのか、子供達のところに行ったり、作業のちょっとした手助けをしたりと直接共に働いていたりするのであった。
であれば、農園の惨劇も防げたのではないのか?
と思う事もあったが。自分達の意思で行動する場合は、彼らもそれには手を出さないのかもしれない。
では、なぜ今回は脱出を手伝ってくれるのか?

「我々は、脱出できた人々を必要としていて、脱出できなかった人は「その必要があった」から、できなかったのだ。」
とヤベーへが言う。カズールが驚いて振り向くとそこに白い羽を背負った姿がある。
どうやら、後ろをついてきていたようだ。

「その必要、とは?」
「アトランティス人の意識は「塔」により生まれ出でて、そして死すればそこに戻って行く。これまでは、そこで魂の情報が循環していた。その循環に入っておく必要のあるものはそのまま残り、これから新しい循環、惑星規模の魂の融合を果たすために出て行く人々が今回の脱出組なのだよ。」
「それは誰が決めるのですか?」
「魂がそれを決める。」
「つまり、本人の意識次第という事ですか。」
「表に出ている意識だけでは無い。塔に存在する個人のこれまでに循環してきた魂の記憶がそう判断した時に、そうなる。」
「今回の事は、ではすべて何かのシナリオ通りなんですか?」
「そうではありません。あなたの動きでそれは変化していきます。自分の動きたいようにやってみて下さい。私はそれをサポートします。」
「1つ聞いていいですか?」
「なんだい?」
「どうして、あなたは俺みたいな人間と関係を持っているんですか?もっと有力な人間などいるでしょうに。」
すると、ヤベーへは微笑んで。
「魂の繋がりがあるから。」
と言った。

建物を降りると、ファロウが驚いた顔をして見ている。それはそうだ、ヤベーへが普通に歩いて出てきたのだから。

「俺は、あんたは空飛んでいるとばかりおもってたが。」
ファロウが言うと、ヤベーへは
「飛んでばかりだと疲れますから。」と。

地下へと通路を通って降りて行くと、ヤベーへの姿を見て、多くの人が歓声を上げる。
新たな26の存在がまた地下にやってきたのだから。

船の船長、責任者、それらの集まる会議場に、ヤベーへも現れ。
そして、ヤベーへの周りに26の存在達が集まってくる。
今回船に乗る8の存在と、これまで姿を現していなかった4の存在がそこに集まっていた。

全部で13の存在がそこにいた。
残りの13の存在は、地球のグリッドを安定化させるためにすでに星の上に移動しているという。

船長達の会議が、26の存在達のうち13の存在に見守られて行われる事となった。
粒子技術の稼働と共に、船は地上へと出発し大陸から出て行く。
その数は8隻。
そして、同時に4か所から船を出し、辺境に居る人々を救出に向かう。
粒子の影響は中央から次第に来るはずなので、辺境へ来ている人々の救助を行う事にしていた。
カズールは、自分の船をフルカに任せると言った。
それにより、やや動揺があったが「ヤベーへと共に中央に行く事にした。」という言葉で、全員がその意図を理解した。
粒子についての、その様子を見ておきたいのだろう。

フルカが中央へと向かう担当となった。
最初から、その予定で小型船は用意されていたので、フルカの操る船団で救助に向かう手筈になった。
他の3隻は辺境の都市を周り、脱出者を乗せていく手はずだ。

中央からも脱出者は居るはずと言う事でフルカが行くのだが、箱舟では巨大すぎるので、方舟の搭載している5隻の小型艇で、中央に近い港へと救助に向かう予定になった。
小型艇なら運河に入り込むことも可能だ。

そして、脱出について、
26の存在が導きのルートを説明した。
それはこの空間にある粒子を使い、人々の頭に直接聞こえるような、不思議な手段で行われていた。
なので、離れている人々も、船の中にいる人々にも全員が同じ情報を共有する事ができた。
そして、それぞれの船ごとにまた存在が分かれて移動し、そこで各船ごとの連絡が行われ。
一瞬ですべての情報が伝わっていった。

船長会議の内容も伝えられ。
そして、船はすべてに出港準備が伝えられた。
全員が船に乗り込んでいく。

この間仲間として働いてきた人々は、これで最後の別れになるかも知れないと思い。
それぞれに別れの挨拶を交わしていた。
抱擁と、握手と、そして歌と、
それぞれの旅の安全を祈って。



船の舳先にはそれぞれに26の存在達が立ち並び。
出港の時を待つ。

そして、最後に。
ファロウ、フルカ、トエウセン、ハルツ
と各一隻ずつ船に乗り込み。

粒子の稼働する時をまった。

ヤベーへからの合図で26の存在がそれを察知し、そしてすべてが動きだす手はずである。

カズールは、粒子の動きを見るために中央へヤベーへと共に移動する。
自分も関わって来た、粒子技術の結果を見るため、
そしてアレスとの再会を目的に。






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