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ネコ20匹を世話するため、本を書いたりバイク乗ったり。見えない世界ととその狭間を見ながら日常を生活する一人の男の物語。

アトランティスの記憶<中期アトランティス 14>

2013-02-14 09:29:17 | 『日常』




・・・・・・・・・・・長・・・・・・・・・・・・

椅子に座り帽子を取る。
銀色の髪が流れ落ちていく。

私は、何をしたいのだろう。
彼は思い出してくれた。それで十分ではないのか。
それとも私はあの頃のことを、この時代でも体験したいと思っているのだろうか。

自分の心が分からない。

ヤッシュがやろうとしていることは、自分がほんの少し、いつもの部屋から他の町の長へと連絡を取り、今動いている情報と、やりとりしている情報を流し、議会へと伝えてくっるようにするだけでいい。
資料もある、情報もある。

ヤッシュはなにも苦労することなく、その目的を達成出来るのだ。
自分にはその力ももっている。ほんの少し手伝うことで、自分はヤッシュの願いを叶えられることができる。

長は無意識に情報粒子にアクセスをし始めた。どのように伝えれば、他の長を説得できるのか。
しかし、急激に粒子の動きが停止しアクセスが切れる。

「あなたは、まだ自分の心が整理できていないのですか?」
後ろを振り返ると、そこには金髪の直轄役人が立っていた。

「私は、人です。あなたとは違うのですから。いくら時空のはてが見えていても、知っていても、今ここで行動する正しい選択、を常に選べるほど完全じゃありません。」

「見えているものは、その結果に責任を持つ必要もあるのです。一時的な心の動きで後悔するような動きはするべきではありません。」

「でも、私は壊れそうなのですよ。彼のためになることをしたい、私には簡単にできる。
でもそれができない。なぜそれをしてはいけないのかも分かる。
もう、どうしたいのか私は自分がわからなくなりそうです。」

「人であるがゆえ、そのゆらぎはとても大切なものです。貴方の心の動きは常に豊かであるからこそ、今の世界が美しく動いているのです。それを大切にされてください。」

「私は、人の世界では生きられないのでしょうか?」

「今、そうやって悩んでいるところが、すでに人間として存在しいてる証拠です。
見守る、という意識を持ってください。迷いながらも人は人を見守って行くことが出来るのですから。」


・・・・・・・・・・・・・・ヤッシュ・・・・・・・・・・・・・・・・・



仕事が山ほどでてきた。
秘書もあと3人増やして、ほぼ資料作成と打ち合わせをそちらに任せてしまう。
ノルロンの下に若い男がひとり入って、ヒャラントの下に若い女性が2人入り、5人体制で仕事を進めていく。
それを取りまとめるシャレの技量も目を見張るものがあるが。

秘書室は基本的にはデスクを5個並べられるようになっていて、それ以上は入らないので。シャレのデスクが議長室の方へと移動してきた。
議長室は秘書室よりも広く、俺の机と接客用のソファーなどが並んでいるのだが、それを避けて秘書デスクが置かれている。
ちょうど議長室の入口横、秘書室との堺にいるので、連絡にはちょうどいいのだが。

他の議員がやってくると、決まって
「おお、議長はついにシャレと部屋をともにしだしたか。」
と冷やかしていかれるので困ったものだ。

しかし、、仕事は増えるばかりで減ることがない。
技術面での打ち合わせ、人との意見交換。実務、予算。
などなど、見るところはたくさんありすぎて、資料の作成はしなくてもよくなったが、それを確認する作業は常につきまとうので、冬の間は一切家に帰っていない。
こういう時に情報粒子が使えたら、と思うところだが。

すっかり議場の部屋に泊まり込む生活が続いた。

「もうそろそろ、服も替えて清潔になってもらわないと。着替え取りに帰ってください。お客さんに迷惑ですよ。」

と、2週間泊まり込んでいたらシャレに言われてしまい。
「着替えがあれば、議場のシャワー室とかで済ませられるでしょう?それとも私がご一緒して服を選んであげましょうか?」
とも言うので、それを断って、一度家に戻る。
風呂に入り、ヒゲを剃り。
10日分の着替えを持ってまた議場に戻る。

議場には仮眠室にシャワー室などもあるので。
一応長期滞在が出来るようになっていたりする。

あとは調理室があれば、俺は家を出てここに暮らしたほうがいいかもしれん。
と最近本気で思うようになってきてしまう。


そうこうしているうちに、だんだんと計画は進んでいき。
春を過ぎる頃には最終段階になってきていた。

その頃には、議場にある俺の部屋には俺の私物が増えてきていた。

「すっかり議長の家になってしまいましたね。」

俺が寝袋から体を起して声の主を見ると、呆れた顔でシャレが立っていた。

「早くどいていただかないと、そのソファーは来客用なんですからね。」

俺はあくびをしながら寝袋を畳んで、時計を見るとまだ議場の開く前。
シャレは毎朝、俺が泊まっている時には必ずこの時間に来ておれをたたき起こしてくれる。

「他の秘書が、議長のそんな姿を見たら幻滅するでしょう?」

そう言って朝食の用意をしてくれたりするのだ。
俺はそのままシャワーを浴びて、すっきりしてから議長室にもどると、すでにそこは仕事モードに切り替わっていた。
俺の散らかしていたボードやペーパーが片付けられ。私物も目立たないように追いやられていて。
相変わらず隙がない。

俺は椅子に座り、シャレのいれてくれたお茶を飲む。
「しかし、こうも忙しくなると、家の片付けも人に頼まないといけなくなるなぁ。」

しみじみ口にすると、シャレが、
「よろしければ、私が片付けもしておきますよ。」

といって笑って言う。

「そうだな、今度お願いするとしようか。」

俺がそう言うと、一瞬驚いた表情をしたが。嬉しそうに笑ってくれた。

それから、
シャレとの関係も、前よりも深まっていった。

計画も大規模になっていて。
いろいろな人の力がそこに注ぎ込まれていく。
この計画のおかげで、多くの人々のつながりができ、町の様子も変化した。
新しいコミュニケーションとして、ボードを使ったネットワークを構築し、街角のステーションにて情報粒子を介しての共通情報が得られるようになって。
人々がリアルタイムで情報を得られるシステムも作り上げていった。

ある程度軌道にのると、それなりに休みが取れるようになって。
休日は、シャレと二人で過ごす事も増えてきた。

公私ともに面倒を見てくれる大切な相手。
すっかり彼女はその位置に入り込んでしまったようだ。






・・・・・・・・・・・長・・・・・・・・・・・・・

長は情報粒子に蓄積された、現状の計画の進み具合に目を通して。
そして、中央と、他の町の長へと情報を送る。

他の町のいくつかも、ヤッシュが送った水晶からの光信号情報を得て動き出しているのが分かるし、長たちもこちらに歩調を合わせているのを感じる。

ヤッシュの動きが、世界を結びつけ始めている。

丸いテーブルの周囲に映し出される様子は、以前のような打ちひしがれた感じではなく。希望を持って活動する民たちの姿ばかりであった。

人は希望を持つことで生きていける。

分断されていたが故に、互のことを求め惹きつけ合う。
この世に男女がうまれた理由もそういうことらしい。と創世記には記されていた。

「分断されているがゆえに、惹きつけ合う・・・・。」

長は小さくつぶやき、モニターを閉じた。
周囲に広がっていた映像が全て消え、計器類の光で薄ぼんやりと室内が赤く光っている。

長は上を見上げ、大きく息を吐きだした。
このままでは、動き始める。
すべてが融合する歴史へと。

そして、ヤッシュは重要な役割を持つ。
人々の記憶の中にある意識の鍵へと。

「そのような役割を、あの人に抱えさせてしまっていいのでしょうか。」

横にいつの間にか金髪の直轄役人が来ていた。
「人には、それぞれに役割があります。これまでの387回では、あなたはこの役割を果たせなかった。彼の代わりもなり得なかった。
それは仕方の無いことです。」

「人は融合を語るときに、あの人のことを思いだし、あの人を意識する。その役割を、あの人が永遠に背負わされるものになってしまうのが、耐えられないのです。」

「彼はそのために今存在している。そして、君が彼の役割を受け入れて、それを補佐して行けばいいだけのことではありませんか?
次の生でも、君は存在する。そこでヤッシュの意識を守るようにすればいいことです。
君は、彼のコーディネーターなのだから。」

「それは・・・・・分かっています。」

「これから続く長いサイクルのなかで、この時代は重要な位置になります。
君のやっていることは、とても意味があること。だから、思い悩み、結論を自分なりに引き出してみてください。」

「自分で、ですね。」

そう言って、長は顔を伏せた。


・・・・・・・・・・・ヤッシュ・・・・・・・・・・・・・





夏になった。
ついに、計画を発動させる日も決定した。
実は、光粒子でのやり取りで、他の町でも同じように粒子を使った連絡法を思考している状態が分かっていた。
光による連絡法で、計画を動かす日も連絡を取っていた。
ただ、どの町から来たものか、どの町が動いているのかが分からない。

連絡が来た以外の他の町ではどのような事が行われているかは分からない。ひょっとしたら、俺達の町だけで頑張っていて、他の町はそこまで技術がいっていない場合もある。

これで他の町との反応が無かったら、この計画はいったん後退することになってしまうが。

水晶の周りも整備され、神殿から情報粒子を運ぶ仕組みも作り上げ。
その粒子を動かすシステムも、風車を使ったエネルギーでやりくりするようにしておいた。
すべての準備が整い、議会のメンバー、技術者、今回の計画に携わっている多くの人々が見守る中、情報粒子を流し始めた。粒子を取り扱う際には、神殿の役人の手伝いもあり。
役人と一般市民との垣根も、この計画でだいぶ無くなってきた感じだ。
粒子を扱うメインのところには、役人に入ってもらう。
粒子は目で見えないので、それを確認する計器を見ると、じわじわと粒子の流れる量が増して行くのが分かる。
粒子自体の量が昔と違って少ないので。限定した量だけだが、それでも町と町をつないて情報を交換するくらいには役立つ。

俺とシャレは、水晶の横に作られている管理ルームでバンダナを付けて待機していた。
水晶を通してきた情報粒子から来た情報は、ここの部屋でその確認を行う。
この部屋には補佐で、髪を肩のあたりできり揃えた、いつもの直轄役人も入ってくれている。粒子を、俺たちが受け取りやすいようにさらに調整してくれるのだ。

外と中では技術者、役人が走り回り、議員達も俺達の反応を待つ。
バンダナの使いに慣れている人物が俺とシャレなので、今回はその情報を受け取る役を引き受けているという事だ。

出力を見ると、そろそろ情報粒子がすべての水晶を通る頃になる。

しかし、何の反応もない。
俺とシャレはバンダナに意識を向け、少しでも情報が入ってくるのを待ち構えていた。
静かな時間が長い。
もしかして、失敗か?

嫌な思いが脳裏をよぎる。
すると、シャレが俺の手を握ってにっこりと笑ってくれた。
また、気遣ってもらってしまったか。

情報粒子が全体に回ったと思われる時、こちらから情報を発信した。
今の町の様子を撮影した映像を粒子に載せて送り出す。

しばらくすると
俺の脳裏に映像が入って来た。
そこに見える海と山は今まで見た事の無い形をしていて。
町の様子も俺達の町とは全く異なっていた。
その映像には

「新しい出会いに感謝を」
という言葉も添えられていた。

「やった、伝わった、来た!!」
つい叫んで横を見ると、シャレも喜びで目がうるんでいる。
俺はシャレを思いっきり抱きしめた。

管理ルームが歓声に包まれる。
技術者、議会のメンバー、市民、役人、それら皆が喜びに溢れている。
抱き合い、握手をして、肩をたたき、労をねぎらう姿も各所で見られた。
町がひとつになる。

俺の見た映像はチップに落とされ、そのままペーパーとして町じゅうに発信された。
全ての人が喜びに溢れていた、この瞬間を俺は忘れられない。
そして、隣にいる大切なパートナーと喜びを分かち合えるのも、
俺たちが俺たちの手で動かしてこられたからだ。

そして、長たち、過去に別の町で議長をしていた役人達、その手助けもあったからここまで来れたのだ。

全ての人たちの流れのなかで。
俺は今手の中にある小さなものと、周りに広がる大きなものを愛おしく思い。再びしっかりと抱きしめた。

全てを手放しはしない。



・・・・・・・・・・・・・・長・・・・・・・・・

長はバルコニーからその様子を見ていた。
街中に、そして情報粒子から実験成功の話題と、シャレとしっかりと抱き合うヤッシュの姿が流れている。

長は部屋に戻り、帽子を取って椅子に座った。
長い銀色の髪が流れおち、美しい顔を覆い隠す。

「ついに、始まってしまいました。終末へと繋がる流れが・・・・・・・。
でも、だれもこれを止められない。止めることはできないのですね。」

そう言って、長は一人、涙を流した。

横では金髪の直轄役人が佇み、バルコニーから空を見上げた。
フードが外れ、太陽の光を跳ね返しながら、美しい金色の髪が外に溢れ出る。
白く美しい顔は、大理石の彫刻のような、男女の性別を超えたものがある。
その瞳は深く美しい青い色をしていて、壁画にあったあの存在の目と同じものであった。

「もう始まったのです。さらなる大きな融合の時代へと。その流れが。」






『アトランティス中期 完』


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