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ネコ20匹を世話するため、本を書いたりバイク乗ったり。見えない世界ととその狭間を見ながら日常を生活する一人の男の物語。

第11話 『彼氏』

2012-12-26 18:48:00 | 『日常』


その夜、外葉は母親が戻った位の時間に家に帰った。
3LDKのアパートで、玄関を開けるとすぐに居間とキッチンが見える。
居間に、さっきの男が座ってビールを飲んでいた。
「お、おかえり外葉ちゃん。」
まるで何事も無かったように振舞う男。
その声に、キッチンから外葉の母親が顔を出す。
宇垣沙織、外資系企業の女課長を任されている位の仕事のできる女性で、
見た目もロングヘアーのまとめ髪にきっちりとしたメイク、それに隙のない服装とキャリアウーマンの見本のような女性だった。
仕事から帰ってすぐのようで、仕事スタイルにエプロンをまとった姿でキッチンに立っていた。
「帰ったわね、遅いと心配するでしょう。もう少し早く戻ってきなさいよ!」
と声をかけてくる。
「だって、彼氏とデートだったんだもん。」
外葉はしれっとそう言いながら自分の部屋へと入っていった。
「デート?」
母親がその男に話かけると、
「ああ、そうそう、沙織さんよ。学校の帰りに、なんかパッとしない男と歩いておったよ。」
「見たの?正也さん。」
「ちらっとな。」
という会話が聞こえてきたが。
何がチラッとだ!
と内心思いながら服を蹴散らしながら着替える。
全く、なんであんな男が家に上がってくるのかしら!

あえて、なんの色気もないジャージ姿になって、外葉はキッチンの沙織のところに手伝いに行く。

食事中は外葉はほとんどしゃべらずに。たまに聞かれることに答えていたくらいだった。
彼氏の名前は?とかどういう関係なの?とか沙織に聞かれることに対して答えていた感じ。
とりあえずいろいろと説明するのも面倒なので。祐一のことを説明して、彼氏ということにしてしまった。
その最中、正也の視線が少し変化したことに気づいた。
外葉の体を舐めるような視線で見ることが多くなって。
何か、祐一の話題になると祐一のことをしきりになじるような言い方をする。つまらなそうなやつだとか言うのだった。
「ああいう優男は外葉ちゃんには向かんな。」
としきりに悪口を言う。
そう言われると余計に祐一を擁護してしまう。
「見た目は優男だけど、いざという時はいつも助けてくれるのよ。」
と言ってしまった。それを見て沙織は
「そうか、そんなに外葉は祐一君が好きなのね。」
と笑って言う。お母さんはこの男の私に向ける視線に気がつかないのかしら。
よくそんなのんびりとした答えを言えるわね。
母親の無神経に外葉は少し苛立ってしまう。仕事はできるかもしれないが、この男からの目とか、人の気持ちを推し量るとかそういうことは本当に鈍かった。根がマイペース人間なのだからしょうがないのかもしれないけど。
もう少し周りに目を配ってよ! と思う外葉であった。

その親子のやりとりを聞いて、正也はグラスに残っていたビールを飲み干して。
「なんなら、俺がちょっとその祐一君と話をしてみようか? 沙織さんもどういうやつか知りたいだろうから。俺が男として、外葉ちゃんと釣り合うのかどうなのか見極めてやるよ。」
あんたに見極められるの?
と思ったが口には出さず。
「大丈夫です。私たちの問題ですから。」
と外葉はぴしゃりと答えた。
正也はぞっとするような目線で外葉を見て
「家族の問題は、皆で解決しないとな。」
と言い放って、品のない声で笑っていた。

正也は夕飯の後に、夜なのに仕事があるというので外出していったが。その際に外葉の腰のあたりをかるく触って行ったので、危うく悲鳴をあげそうになった。
この頃はスキンシップと言って、こういうことをされるので気持ち悪くてしょうがない。

夕飯の片付けの手伝いをしながら、
「ねえ、なんでお母さんあの人家に上げるの?」
さっきの視線を思い出しながら外葉が尋ねると、
「何よ急に。お母さんたちお付き合いしているのよ。それにもしかしたら、新しいお父さんになるかもしれないんだから。外葉も良く知っていたほうがいいと思って。」
「お父さん?まさか?」
「それは先のことだけど。お互い知っていたほうがいいでしょう。」
「でも、お母さんいない時に私にもなんかしようとするときあるんだもの。」
「それは自意識過剰!」
「今日だって家の前に待っていたんだから!二人きりで家に入ろうと誘うから、彼氏と出かけたんだもの。」
「そうなの?」
「あとで本人にきいてみたら。」
「でもね、あの人は私にぞっこんだから、あなたにまでは手を出さないと思うんだけど。」
それこそ自意識過剰だろう。年齢差も一〇以上、上のくせに。
と外葉は思ったが口には出さず。
「これまで、何度かお母さんの彼が家に来たけど。その都度私がどう思っているのか考えたことある?」
じっと見られて、沙織は
「そうね、でも、お母さんは外葉にもっと男っていうものを知ってもらいたいと思ってたの。それで家に連れてきているのよ。お父さんと小さい時に分かれて以来、身近に男がいないでしょう?だからあなたにはこれまで彼氏もいなかったのかと思って。」
「その男たちを見て、私は男に幻滅していったのよ。お母さんの彼って、ろくなのいなかったじゃない。今のだって。」
「そういうこというもんじゃありません。でも、まあ、言われてもしょうがないかもしれないわね。」
沙織が連れてきた男は、最終的には沙織にたかる様になってきて。それで破局することが今までのパターンだった。
ダメンズ製造機。どうも母親はそういう予備軍を見つけ出して、それを助長させているところがある。
と外葉は思っていた。だから、私はそうならない。と心に誓って生きているのである。
「でも、私今年は彼氏できたもん。」
「仮」、だけど。と内心付け加えながら。

「それを聞いて、お母さん、とても嬉しかったわ、ねえ、今度その子紹介してよ。」
「まだダメ!ちゃんとしてからじゃないと紹介しない。」
慌てて外葉が言う。
「あら、なんで?」
「だって。」
祐一君にはまだそういう話になっていること言ってないから。
とは言えなかった。
その沈黙を、単に恥ずかしがっているのだろうといい方に解釈して、沙織は微笑んだ。
「そうそう、明日はね、帰りが遅くなるから。家に帰ったら晩御飯とか自分で食べててね。」
「なんで?」
「仕事よ仕事。なんなら、彼氏とデートでもしてもいいわよ。」
そう言うと、沙織はまた笑っていた。

あの正也という男を、何とかして追い出せないかしら。と思いながら外葉はパジャマに着替えながら考えていた。
「イタタタタ・・。」
外葉はまた右手が痛いことに気がついた。
あれ?昼間までなんともなかったのに。
服を脱いて、全身を移す鏡の前にたってみた。右手の肩も後ろも特になにも腫れてもない様子。
でも動かすと、今度は腕全体が痛む感じだった。
なんでだろう?八坂さんに連絡してみようかしら。

その夜、祐一に八坂から連絡があった。
「あのあと、宇垣さんからメールが来たけど。
やはり右腕がまだ少し痛いみたいだね。近々また来ることになるだろうから。
その時は祐一君も同行しておいで。多分、二人のヒーリングが必要だから。」

というメールが来ていた。
今度はなんの縁なんだか。
外葉のお母さんの、あたらしい彼氏からの念、による縁。
韻は踏んでいるが、それがどうなんだか。

携帯をしまいながら、自分の部屋の天井を見上げる。
あのあとは歩いて家に帰ったので、通常の2倍は歩いて帰った事になる。
ちょっとくたびれたけど。
外葉との関係が少し近くなったのはいいことだった。二倍歩くくらいのことはなんてことはない。

しかし、ああいう家庭環境、というのは難しいところだろうな。
ま、よくきく話ではあるけど。
それが腕に関係しているということは、
その関係を解消したら、腕の痛みも解消するのか。
見えない世界から何かを解消すれば、この現実世界での出来事も変化するのだろうか。

八坂さんは何を見ていたのだろうか。

祐一はベッドの上で転がったまま、八坂の見ていたことが気になる。
「俺も、あれくらいできるといいんだけどな。」
多少見える、多少会話できる。くらいではまだ見えない世界というのが存在しているらしい。
向こうの世界、というのはどれくらい階層的につながって広がっているのだか。




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