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ネコ20匹を世話するため、本を書いたりバイク乗ったり。見えない世界ととその狭間を見ながら日常を生活する一人の男の物語。

アトランティスの記憶<アトランティス中期7>

2013-02-05 10:24:13 | 『日常』

「うわぁ、凄い!」
ギャロットから降り立ち、潮風に押されながらシャレが言う。
そこには海岸沿いに立ち並ぶ何かの結晶達。塔のような巨大なそれは、海からそそり立つように立ち並び。そのまま海岸まで押し寄せている。
夏の光を反射しながらその巨大な結晶はまぶしく輝いていた。

白い砂浜にそそり立つ水晶の結晶群のような。

驚くシャレを見て楽しんでいると、くるっと振り向いてこっちに走って来た、目が好奇心で輝いている。

「何ですかここ。こんな場所があるの初めて知りました!」
「ここは長達のような神殿の役人と、議長、そして一部の議員しか来る事の出来ない場所なんだ。さっき、君が特別な場所を見せてくれたからね、そのお返しだ。」
「私なんか連れてきて大丈夫ですか?」
「チームだろう?俺の仕事にもここは関係するから、君も見ておいてもらいたいと思ってね。」
「そう言ってもらえると嬉しいです。でも、なんか仕事の延長って感じなんですけど。」
「俺はプライベートでもここに来るから、一応プライベートな場所だと思っているが。」

そう言いながら、ギャロットを止めた場所から海岸へと降りて行く。
真っ白な海岸へ足を降ろすと、ギョッ、ギョッ、と足音がする。
最初、シャレは驚いて跳びのいていたが。慣れてくると楽しそうに歩いていた。
「なんで、足音がするんですか?」

俺は砂をすくって見せながら、
「ここの砂は、そこに建っているでかい結晶がはがれおちて出来上がった砂だ。だから石英質でしかできていない。歩くと音がするのは、それが擦れるからさ。」
そう言って説明すると、足踏みしたりして、音を楽しんでいる。

なんとなく、二人でその巨大な結晶のところへ歩いて行く。
波の音と、二人分の足音だけが聞こえてくる。

ここに来ると、いつもどこか違う次元の、違う場所に居る自分の感覚を思い出すような、そんな気持ちになってくる。

「でも、この大きな結晶は何なんですか?自然にできたにしては巨大ですね。」
「もちろん、これは人工のものだよ。」
「人が作ったんですか?これ?」
「そう、古代の人々が作った『街』の一部だ。」
「街?」

そこで、俺は神殿の図書で見た昔の大陸にある街の様子を話した。
昔は結晶でできた街が大陸の各所にあって、そこで人々は暮らしていた。
そこでは今よりも共通の認識で人が動く事が多く、「粒子」を使った技術が栄えていた。
しかし、その粒子を使う技術も次第に縮小されていって。
昔の用の使われているのは、今は神殿とその周辺あたりにとどまっている。
一般的な市民は、今のようにある程度の粒子の技術を使って生活していて。
ギャロットや情報をやり取りする端末、ペーパーなどにそれらは活用されている。
使用するのに特殊な人間でなければ行けなかった技術が、だんだんと一般人でも使えるように改良されてきた。
「そういう感じかな。」
と俺が言うと、
「でも、これだけ美しいものを作って来たのに、なんでこの街は放棄されているんですか?」
「必要が無くなったからだろう。見て分かるように、水没している街には人が住めない。
過去に何かそういう出来事があって、それで俺たちは今ここに居るのかもしれないな。」
「その出来事って分からないのですか?」
「このあたりは長達しか知らない。俺達には知らされていない出来事だ。」
「なんで教えてくれないんですかね。」
「知ってもしょうがないからだろう。」

そう言うと、シャレが俺を見上げて。
「でも、知ってみないと分からないですよね。なんでも。」
と言ってきた。
確かにそうだな、
もしかしたら今の高潮に対してのいい知恵があるかもしれない。

「また考え込んでますよ!」
とシャレの声でハッとする。
「ところで、あの建物には入る事できないのですか?」
「あれはどこから入っていいのかも分からない。俺達には分からないモノだらけの建物なんだ。」
「なんだ、中に入るともっと美しいかと思っていたのに。」
ちょっとがっかりしたかな。
「また、今度はちゃんとした仕事の時にちゃんとした手順で中を探検すればいいさ。今日はとりあえず、海を見に来たって感じでいいじゃないか?」
「そうですね。じゃあ!」

と言ってシャレは波打ち際に走っていった。
サンダルを脱ぎ捨て、はだしになって海に入っていく。
「冷たーい!」
とか言ってはしゃいでいる姿は、やはり年相応の姿であって。
いつもの仕事モードとは違う一面が見れて、ちょっとホッとしていたりする。

俺のところで仕事させてて、いいのかなぁ。

「議長!泳いでも良いですかぁ~。」
とシャレが叫んでいる。
「はぁ?服は?それじゃ泳げないだろう。」
「こう言う事もあろうかと思って、」と言ってシャレはさっきまでのワンピースを脱いで
「下にはトルパ(「万能肌着」日本語で書くとこうですが)着てきてたんです~。」

「なんでも、用意がいいねぇ。」
「それがとりえですから。議長、パス!」
そう言ってシャレはワンピースを投げてよこやがった。俺は危うく海に落ちそうになるのを海に走り込んでキャッチした。おかげでずぶぬれだよ。

「あはは、議長も泳ぎます?」
「俺はトルパ着てないよ。」

トルパとは、これも粒子技術の1つを使っているもので。
繊維の状態を変化させることで、同じ服で有りながら性質をまったく違うものに変化させることができるというもの。
シャレの着ているものは、ちゃんと女の子用、普通は下着に使っていても、イザトいう時は水着にもなるという、見た目もオシャレなものである。繊維を変化させるのには襟元や裏にあるタグにあるスイッチを入れる事で可能となる。
普通の見た目は短パンにタンクトップのような姿だが、水着になると、布質が軟質ゴムのようになってぴったりと体に密着し、水を吸って重くなったりせず、体温も逃がさないように保温性も高まるようになる。一説には、力粒子の働きで水を繊維にしみこませないようになるらしい、とも言われるが、俺には分からない。
ちゃんと、パットやらガードやら入っているので、男子も女子も、へんに一部が盛り上がったりはしないようになっている。
トルパの繊維はなぜか青い色が多く、今日シャレが来ているのも薄い青と濃い青のツートンで、そこに女の子らしい刺繍が施してあるというもの。
ちなみに、まったく色気は無い。

健康的でいいねぇ。
そんな、年寄りじみた事を考えている自分に気付きハッとする。
いかん、もっと若い考えを身につけねば。

議長用の服が青色なのは、実はあれもトルパと同じ材質で出来ていて。モードを変えていくと宇宙服並みの気密度と耐圧、対放射線、そして対衝撃性を備える。
その気になると、ヘルメットをかぶるだけで深海から宇宙まで行けると言う話を聞いたことはあるが、試した人間はいないので良く分からない。

議長の服は、石を投げつけられても、刃物で切りかかられてもびくともしないという、実は凄い服なのである。

あの服なら、気兼ねなく泳ぐ事も出来たのだが。

と思ったが、それで泳いでいるところを見られた方が恥ずかしい気がする。

などと考えていると、目の前にシャレが走って来た。
「また、何か仕事の事考えてました?」
「いいや、自分の内面性と対話していただけさ。」
「???」
「もういいのか?」
「いいえ、もう少し泳ぎます。」
「それなら、ゆっくり泳ぐといい、俺は浜に上がっているから。」
「いいえ、議長も泳ぐんですよっ!!」
と言ってシャレは手を思いっきりひっぱって、俺を海に沈めやがった。
その後はもう適当。やけになって泳いだり。シャレを海に投げたり。
年甲斐もなくはしゃいでしまったが。

しばらくして、浜の木には俺の服と、シャレのワンピースが風にそよいでいて。
俺もシャレも浜に転がっていた。
さすがに俺は全裸では無い。ズボンは履いている。

水晶質の砂は温かく、濡れた体の水分を吸ってくれるので、早く乾いていいのだ。
それに、砂の粒子が大きいので、軽く払うだけで肌にも衣類にも残らない。

たまに、こういう風に何も考えずに遊ぶのもいいものか。

空を流れる雲を見ながら、ぼんやりと思っていた。
向こうには結晶の建物の街が見える。
半分沈んだその街には、どれくらいの人々が暮らしていて、どういう生活をしていたのだろうか?

そんな事を考えていると、また何かが見えてきた。
暗い空、夜か?
その中で、目の前に居る少女。
また、あの銀の髪の少女のイメージだ。
緑の目がおれをまっすぐ見ている。
「君と、一緒にいたいんだ。」
そんな事を言っているように聞こえた。

君? いや、俺は何だ、この女の子は?

「どうしました?疲れました?」

ハッと気付くと、目の前にはシャレの顔。
俺があまりにもぼんやりしているので、心配して覗き込んでくれている。

体を起こしながら、
「いや、まだ疲れているわけじゃない。」
「無理しないでくださいね。皆の議長なんですから。」
「そういうなら、海に引っ張り込まない事だね。」
「すみません、なんか楽しくなっちゃって。」
と言いながらもあまり反省していない表情でシャレは言う。

「そのお詫びではないですが、はい!」
と何処からともなく飲み物を差し出してきた。
「いつもながら、用意がいいね。」
「海に遊びに行くときは、飲み物は必須ですから。」
「もしかして、最初から海に行くことを想定していたのか?」
「夏と言ったら海です。ただ、思ってたところとは違ってましたけど。でも、予想外で楽しかったです。」
にこにこと笑うシャレから飲み物をもらう。
まあ、彼女がたのしいならそれでいいか。

しばらくそのまま、海を見てぼんやりと過ごして。
服が乾いたころにギャロットへと戻る。
ギャロットの運転手は、この間いつもほったらかしになるが、それが彼らの仕事なので。
特に俺らは何もしないのだが、シャレは運転手にも飲み物を差し入れしたりして気を使っている。

「良いお嫁さんになるだろうに。」
と年寄りじみた事を考えている自分がちょっと悲しい気もする。

一応表向きは公務なので、一旦議場へと戻る事にして。
「さて、今日の公務は終了だ。」
と俺が言うと、シャレは楽しそうに笑っている。
「おかげさまで、私もいい勉強になりました。」
「と言う事で、これで今日は解散、明日は自由にしてくれ。明後日からは打ち合わせなので、その資料整理で午後から少し出てくるが。君は休んでいてもいいぞ。」
「議長が出るなら、私も出ます。」

と言う事で、結局明日の予定を話し合ってから解散という事になってしまった。

先にシャレを返そうとすると、シャレは「議長が一人で残ると、ぜったい仕事しますから。今日は休日なんですからね。このまま家まで送りますよ。」
と言われて、結局ギャロットで送られるはめになった。

別れ際、
「すみません議長、なんか、私が勝手に楽しんでいたみたいで。」
「いや、俺も久々楽しめたからいいよ。一人だと海で泳いだりしないからな。」
と言うと、何か思い出して笑っている。
「ふふふっ、私を海に投げこんでいる顔、なんかとても楽しそうでしたし。」
たしかに、女の子を投げるなど姪を海に投げて遊んで以来ではあるな。
若いころは彼女などを投げて遊んでいたが。
ちょっとその頃を思い出してしまったところはある。

「しかし、君も休日くらいは仕事以外の面子と会ったほうがいいぞ。まだ若いんだから。人生経験ももっと積まないと。」
「私の今やりたい事は、議長の秘書ですから。今はそれだけで十分人生経験させてもらっています。」
そう言って笑う。

ギャロットを下りて、その窓越しに。
「まったく、せっかくの休みを俺なんかと過ごして。君のご両親に申し訳ないよ。」

と去り際に言うと、

「大丈夫です。両親も『議長のために働くのだ!』っていつも言ってますもん。それに、もしもそうなった時は議長に責任とってもらえって言われてます。」

と笑顔で返されてしまった。

ご両親に「そういう話はもっと慎重に」と提言しに行くべきか。

しばらく、本気で考えてしまった。






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