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ネコ20匹を世話するため、本を書いたりバイク乗ったり。見えない世界ととその狭間を見ながら日常を生活する一人の男の物語。

アトランティスの記憶<中期アトランティス 13>

2013-02-13 07:40:33 | 『日常』



冬になった。

高潮への対策もほぼ完了した。
これで、冷たい中で高潮の害に合う事も無くなり、町の人々も安心している気配が伝わってくる。
そして、議会は次々と自分たちで出来る事、に意識を向け始めてきた。
町の資産を考える組織を作り、そこで経費のやりくりを行うようにもした。
長から伝えられる予算を、どこに効果的に振り分けるといいのか、そういう事も自分たちで検討するようになったのだ。

俺はその予算書を議場の部屋で見ていた。
高潮対策にはまだお金もかかるが、一部予算を他の事に回せるくらいにはなってきたようだ。
それに、こころなしか予算配分が増えていることに気付いた。
これが、情報を中央に送った結果、であれば自分たちでこの予算は引き出したことにもなる。自分たちで動く事で、変化が起こってくる。

長とのやり取りでも自分たちで行う事の報告は必ずしているが、長はそれに対しては反対をすることはない。

「統一された民」について聞かされた後でも、俺はそれに対しては何も長には言っていない。
そういうやり方も有るのだろうが。

それを俺が望んでいるのか?

あの後、しばらく自問自答が続いた。
その間、シャレに気を使ってもらってしまったが。

シャレは相変わらず仕事をこなしてくれる。
新しく来た秘書達とも仲良くやっていて、皆で食事に行く風景もほほえましいものだ。
他の議員、それに神殿の役人たちとも仲良くしているのを見ると、これはもう才能としか言いようが無い。

「只今戻りました。」
そんな声が聞こえたので顔を上げると、シャレが両手に紙袋を抱えてにこにこしていた。

「嬉しそうだね?」
俺が聞くと
「これからピクニックでしょう?必要なものを買いこんできましたよ。」
ピクニック・・・。ではないのだが。それにしても、買いこんできた袋の中身が気になる。
なにか香ばしいにおいもするし。
なので、聞いてみると、
「それは、ヒミツです。」
と笑っていた。

今日は、これから、シャレのヒミツの場所へと行く事にしていた。
遊びでは無く、純粋な公務として。

あの水晶が使えるのかどうか、それを検討するためだ。
そのために、俺は準備をいろいろとしてきていた。

午後から二人で移動する。最近、二人だけで移動するとなぜか皆が意味ありげにほほ笑みながら見送ってくれるのがひっかかるが。
部屋を出るときは、ノルロンは意味ありげに微笑みながら黙って見ていて。ヒャラントは「何かあってもこちらはご心配なくぅ。」と言って笑っている。

この間も、長老議員に言われてしまった
「で、いつ身を固めるのだ?」

他の人々の目にはどう映っているのか。
議長と秘書の関係なのだが。

と俺がギャロットで考え込んでいると、水晶のある丘についた。
高い山には雪が積もるらしいが。
この町には雪はたまに降るが積った事はほとんど無い。

「議長、今回の実験、上手く行くといいですね。」
シャレは俺がずーっと黙っていたのは、実験結果に対しての気負いだと思ってくれたらしい。実験は、実は上手くいくような気は最初からしてはいたのだが。

水晶を使った実験とは、この水晶のネットワークがまだ大陸中に生きているのか、それを確かめるための実験だ。
それに、もうひとつ目的もある。
他の町にメッセージが送れるかどうか。
それも試してみたいと思っていたのだ。

使うのは指向性をもった光粒子を発する強力なライト。
それを水晶の横に設置する。
秋の間にこの周囲はある程度整備しておいた。そして、過去の記録、神殿にあるネットワークの地図などを参考に、水晶の反射角なども計算して、土台の修理も行った。

そして、ある方向から光を差し込むと、すべての水晶を通ってここに光が戻ってくる事を発見した。
これらはシャレが神殿の役人達とやり取りして得てきた情報であり、
役人達も俺達が行う事には全面的に協力してくれるのでありがたい。

「水晶は反射するもの。粒子もクリスタルを通る時に光と同じ動きをします。」
と金髪の直轄役人に言われた、ということを言っていたが。
みな、シャレには甘いのかもしれない。

北風が吹く中、コートの襟を立ててシャレが寒そうに立っている。
「ほら、これを羽織って。」
おれが議長服の上着を差し出す。青い上着は宇宙から深海まで行けるくらいの耐衝撃性、保温性、気密性を持たせることができるくらいのモノなので、これくらいの寒さではびくともしない。
「え、でも議長は?」
「今は作業中だから、上着がないほうがやりやすいんだよ。」
そう言って俺は作業に専念した。
しばらくして、無事にセッティングは終了。
ふと一息ついていると、シャレが先ほど持っていた紙袋を差し出してきた。
「ちょっとお茶タイムですね。」
中からは温かいフロフ(肉まんみたいなもの?)とお茶が出てくる。
保温粒子を使っているので、できたてのようにあたたかい。

「なるほど、確かに必要なものだ。」

俺がフロフ好きなのをどこかで知っていたのだろうか。
ちょっと水晶の前に作った足場に腰かけて休憩する。
「議長は素晴らしいですね。こういう事を考える人、今まで居なかったでしょう。」
シャレが俺を見てそう言う。
俺は頭をかきながら、
「いや、これまでの議長も。他の町と共に今の町を発展させたい、という気持ちは持っていたんだ。そして、それを行うように行動もしている。」
「それが、役人になるって事ですか。」
その話し方から、シャレは知っているようだった。役人たちがほかの町で議長をしていたという事を。
一口フロフを食べて、それを飲み込むまで考えて。

「それを1つの解決策だと思うやり方もある。」

「では、なぜ議長はそれを選ばなかったのですか?」
見ると、シャレが真剣なまなざしで俺を見ている。
俺が議長と話した事を知っているのだろうか。

「まだ分からない。」

「まだ?」

「まだ、今の俺にやれることはたくさんある。それを探し出しているうちは、その選択肢は無いだろうな。」

すると、シャレがちょっと笑って。

「じゃあ、やれる事をたくさん用意しますから。もっと働いてくださいね。」
「そうなったら、俺はいつゆっくりできるんだよ。」
「議長が、もうひとつの選択肢を考えなくなったら、です。」
きっぱりとシャレがそう言って笑った。

太陽がだいぶ傾いてきた。真昼の日差しだと水晶の反射率を下げてしまうので、実験は最初から夕方を目標としていた。

俺たちは実験を始める事にした。
今回使う光粒子は指向性を持たせてあり、そして、光の点滅によるメッセージも含めて送られる。
各地の水晶に到達した光は、そこで町に向けてメッセージを発する。
それが大陸の周囲を一周して、ここに戻ってくるかどうかを今回は調査するのだ。
資料を見てみると、この情報粒子を送り出す水晶はぐるっと大陸を取り囲んでいるのでイメージでは可能なはずなのだが。
現状の水晶については、役人や神殿にある資料からは良く分からない。他の町に関する情報までは俺達は見る事が出来ないからだ。
「統一された民」以外はそういう情報を見る事が出来ないようにブロックされている、と役人も言っていた。
長に聞いたが、他の町の情報は教えてくれない。
なら、俺達でとりあえず実験をするしかない。

照射角度を調整して、
そして、俺は光を発した。

計算では光が一週回ってって来るまで、5秒。
これは、各水晶で光粒子が仕事をするために時間がかかるのであって、光の速度であれば一秒もかからずに来るはずなのだが。

光は東の町に向かって伸びて行った。
もしかしたら、水晶が草で覆われて反射しないかもしれない。
角度に変化が出ていて、それで戻ってこないかもしれない。
水晶自体が無い場合もあり得る。

数秒間で俺はいろいろと否定的な考えが浮かんだが。

「あ、キタ!」
シャレが叫んだ。
振りかえると、向こうから光が水晶へと差し込んできたのだ。
そして、水晶が点滅する。
それは点滅のパターンで、
『粒子技術を使って、ネットワークを開始する。情報粒子を活用する。』
というメッセージを発っしていた。

この水晶を使って、他の町にメッセージを送ってみたのだ。
このメッセージに反応した町は、何らかのアクションを起こし始めるはずだ。
それに期待する。

「やったー! やりましたよ議長!!」
シャレは俺に飛びつかんばかりに飛び跳ねて喜んでいる。
秋からずーっと二人で進めてきた計画なので、成功は嬉しいのだろう。

この感覚だよな。

これは、たぶん、「統一された民」になっていては味わえない感覚だと思う。
互いに考えて、意見を言って、そして計画して。努力して。
情報粒子を使えば一瞬である事が、俺たちはそれを数日かけて行う事になるのだが。
その分、成功した時の喜びは大きい。


光の道が通じてからしばらくかけて、俺は計画を作り上げた。
シャレとも話し合い、その公布は冬の議会で、と言う事になった。

冬の間は特に高潮対策も農地の対策くらいで忙しくなくなったので、ついに自分の計画を議会に話す事になった。

それは、「粒子ネットワークを新たに構築する」というもの。
最初は皆も信じがたい様子であったが、用意した資料と、俺の弁舌でだんだんと理解を示してくれるようになった。
もちろん、他の町との交流を快く思わない議員も居たりする。
その場合は、説得と、なぜそう思うのか、それをじっくりと聞いて、やり取りして。
長の考えに反するのではないか?
という意見も多数あったが。
長にはこの件に対して口をはさまないという証書ももらってきた。

長にこの内容を言いに行った時
「いろいろと動く事には反対しませんが・・・・。 」
と言って、少し悲しげな表情をしたように見えた

各議員に了解をとって、そして技術的な内容も詰めていく必要があったので。
冬の間に時間のある粒子を扱う職人達を集めて話し合いも行われた。
神殿にある資料をもとに、自分達の技術で再現可能なものを作り上げていく。

情報粒子を蓄積して、それを運搬するシステムを作る。
そして、それを水晶を通して他の町へと送り、情報を共有するネットワークを作り上げるのだ。

「過去の人々が作りえたものを、今の自分達ができない訳がない」

と皆を鼓舞し、続けていく。
あらゆる失敗と、成功と、改良がくわえられ。

「こんな事に予算を使うのなら、まずはギャロットの走る道を作ってほしい。」
という意見もあったりしたが。
技術的な面よりも人の心のほうが問題がたくさん出てくるものであった。

「ふぅっ。なかなか、人の心が一番難しいなあ。」
そういう説明会のあと、
俺が議場の部屋で、椅子に座って資料を見ていると、横でシャレが
「女性の心はもっと難しいんですよ。」
と言って笑っている。
女性か、そういえば長も女性だしなあ。
たまにおもわせぶりに話す事も多くて。何かを知っているような感じで口を濁す時もある。
俺のやることを許可はしてくれるが、何かどこかで心配しているようでもあり。
一体何か俺しでかしているかな?

と言う事をシャレに話すと。
じっとシャレは俺を見てため息をつく。

「議長。それは長が議長の事を好きなんですよ。」

俺はひっくりかえりそうになった。
「なぜ!」
「どう見たってそうでしょう!それに気が付かない議長も議長です!!」
「そんなの分かるかよ。それに、なんでシャレには分かるんだ?」
「だって・・・だって、私も議長好きですから!」

時間が止まる。
秘書室のノルロン、ヒャラントの二人が、こっちを見て停止している。

俺が何とも口に出せずにいると。

「議長は鈍いんです・・・。でも、そこがいいんです。仕事に一生けんめいで。皆の事を考えて。
そこが素敵です。だから、私は議長が好きです。議長のために働きたいと思います。
それは長も同じではないでしょうか?
長は議長が好きだから。だから議長の行う事には口をはさまないのだと思います。」

きっぱりとした口調でそう言う。

「そういうふうに、ハッキリ言われると気持ちがいいね。」
俺が余裕を見せるようにそう言うと、
シャレは顔を真っ赤にして。
「勢いで言ってしまって、申し訳ありません。」
とうつむいた。

まっすぐな気持ちを伝える。
これは大切なのだろうな。
「ありがとう、その気持ち、ありがたく受けさせてもらうよ。」
と俺は言って、そのまま次の会議へと向かった。

秘書室ではシャレが二人にからかわれている声が聞こえてきたが。
やれやれ、動揺しても表情に出なくなった分、経験を積んだ、というべきか。

会議の後、その報告のために神殿へと向かう。
そう言う事を言われて長に会いに行くとちょっと気まずい感じになるが。
仕事は仕事。

長もこれまでの俺達の動きを見て。特に何も問題ないような事を言われる。
しかし、やはりこの俺のすることに対しては完全に賛成しているようでも無い様子は見える。

「長は、俺のこの計画に反対なのですか?」
と俺が聞くと
「反対はしません。あなたの決めたことですから。
ただ、私の感情がそれを受け容れたがらないだけです。」
と言って表情を曇らせる。
「長は、もしかしてヤーフルなのですか?」
と思いきって聞いてみる。これまで俺が見てきた過去のイメージ、そこに出てくる緑色の瞳の少女。

すると、長は表情を選ぶかのように、しばらくうつむいて、そして顔を上げた。

「過去の生は、過去の話です。私は長であって、ヤーフルではありません。」
しかし、その言葉と表情には何かを隠すような響きがあった。

そして、俺は神殿を後にした。

そう、今の俺は今目の前にあるものに意識を集中させないといけないのだ。




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