・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・創世記
「それ」は我々の公園より抽出され始めた。
前宇宙の記憶を持ち、そして今の地球意識とも繋がれる存在。
そして、スーべロスの行動パターンから見つけ出された情報も追加されて。
それらは、すべてほぼ同じような姿をしていた。
我々に似た、手と足と。そしてスーべロスの美しい姿を模していて。
たいていは翼を背中に持っていた。
透明の翼、鳥のような翼。それぞれに似合った、それぞれの翼
美しい色をしたそれは、飛翔のため、というよりは情報を得るためのアンテナのような役割を示していた。
スーべロスが我々のところに来て。情報粒子が満ちた部屋に入って来た時。
なぜか情報が開放される感覚があった。
スーべロスの身のこなしに情報粒子が反応し、その情報が開放されていく。
カプセルを使わなくても我々にその情報のエッセンスを伝えてくれるのだ。
前宇宙の記憶を持つが故に、情報とのリンクがたやすいのかもしれない。
肉体にある、DNAレベルでの情報。
それと周囲の情報がリンクし合い、そしてこちらへと表現されてくる。
その感覚に最初は驚いていたスーべロスも、最近は慣れてきて。
「今日はどの情報を開放する?」
と言いながら、部屋の中で手足を優雅に動かし、まるで踊るように情報を開いて行く。
スーべロスは羽の感覚で必要な情報を探し、そして手と足の動き、体のひねりで情報を開く。
それは覚えたモノでもなく、教えられたものでもなく。
それが当たり前であるかのように、
そこで優雅に舞う。
周りで見ている我々はその踊りに魅了される。
今回から抽出する存在に羽が与えられたのも、このスーべロスの能力を目の前にしてからであった。
スーべロスの踊りにより得られた情報を、新しい存在に組み込んでいく。
そして、塔からの情報と、惑星意識からの情報を組み合わせ。
今地上に存在しているどのモノよりも情報とのリンク能力が強く、地上へ放たれた「抽出された存在」達をまとめ、1つの秩序を作り上げられるような。
スーべロスの存在は、より我々、というか私にとっては強いものになっていった。
共にリングで過ごす日々は常に新しい発見に満ちていて。
彼女の見せる1つ1つの動きには私を引き付ける何かがあった。
これは、前宇宙の記憶を持つが故、私の情報にもリンクしやすくなっているのだろうか?
情報の交換、リンク(つまり、「会話」という事)が互いにスムーズにいくと、それだけで充実した感覚を得られる。
この感覚はなんなのだろうか?
これから抽出する存在は、すべてこのような能力を持ち、情報の交換をしたすべての存在達は同じように充実した感覚を得られていくのだろうか?
だとすれば、それは素晴らしい事のように思えてくる。
すべての存在が充実すれば、そこには恐れるような事が一切起こらないのではないか。
しかし、スーべロスがトリョウと情報の交換をスムーズにしているところを見ると、何か心穏やかでない感覚も覚える。
これは、情報のリンクが今まで上手くいっていたのに、それが途切れた事から来る焦りだろうか。
情報リンクをもっとしたいのに、それができない不満だろうか。
自分の中に現れた感覚に気付いたが、これはどうする事も出来ない。
その分、スーべロスと会う時間、情報を交換する機会を得た時は、より密度の濃い情報リンクを行うようになってしまった。
焦り、不満を埋めるためか。
分かってはいるが、それを行わずにはいられない。
・・・・・・・・・・・・・・・・・
初期アトランティス
「なにこれ、やっぱり嫉妬?」
僕が言うと、ヤーフルはふくれて、
「新しい感覚に気付いたんだよ。」
とぶっきらぼうに言う。どうやら、自分でもこのあたりの情報を見るのは恥ずかしいらしい。
「それで、このあたりの君の記憶は無いのかい?」
とヤーフルが聞いてきた、
「いや、まあ、無い事もないけど。」
「じゃあ、見せて。」
「いや、あんまりおもしろくないと思うよ。」
実はあまり見せたくない感じでもある。
ヤーフルの反応が分かるから。
そうやって隠すと、ヤーフルはここぞとばかりに迫ってくる。
「なんだい?君は見られると恥ずかしい事でもあるのか?」
僕の目の前に顔を近づけて、ニヤッと笑っている。
やれやれ、ここで見せたほうが後で恥ずかしい思いをするよりマシか。
そう思って、
「じゃあ、分かった。僕の見たものを見せるよ。」
そう言って、バンダナから粒子に情報を送り出した。
ヤーフルは満足したように椅子に座りなおし、僕からの情報を見始めた。
・・・・・・・・・・・・・・・・
・創世記
私はチェリスに連れられて広い場所を見ていたら。
透明の壁の向こうで、羽をもった人がカプセルに入って浮かんでいるのが見えた。
ここは公園の中の区と呼ばれる場所。
前に外で見た、羽をもった人達に似ているけど、でも羽の場所は背中についているし。
見た目は私やチェリスと同じような姿をしている。
これから、チェリスとトリョウはその人を起こしに行くみたい。
私は外で一人その様子を見ていた。
純白の翼で体を包み込み金の髪の毛を持ったその人は、カプセルの中で丸くなって。
まるで鳥の雛が卵の中にいるような、そんな感じに見える。
そのカプセルにチェリスが近づいて行く。
すると、カプセルが開いて。
その人はゆっくりと二人の前に立った。
体を包み込むような金色の髪の毛は光を反射して美しく輝き、
純白の大きな翼は、私の羽なんかよりも立派で。
その姿は息を飲むほど美しかった。
体も美しい曲線を基本としたデザインで。
目は深く青い色をしていて。
2,3度翼を広げたり閉じたりして、今の自分の体の感覚を試しているように見える。
そして、トリョウとチェリスと何か話している。
その青い目は知性にあふれていて。
私と比べても言葉がとてもスムーズに出ているのを感じる。
その人は、しばらくトリョウとチェリスと会話した後、自分のやるべき事を理解したのか、外へと出る事を志願していた。
私なんか、外に出たく無かったのに追い出されるように出されて。
そして苦労したのに。
この人は最初から外に出て行こうとしている。
一体、どういう人なんだろう。
その人は翼を広げ、飛びあがった。
一瞬、私と目が合うと、その人はほほ笑んで。
そして、あっと言う間に区から外へと出て行った。
チェリスは新しい存在を送り出すと言っていたけど。
確かに、私が地上で見てきたどの存在よりも美しく、強く、知性的な感じを受けた。
あの人なら、外でも大丈夫かもしれない。
そう思って、戻って来たチェリスにそう言うと、チェリスは喜んで、
「そうか、君がそう言うならそうかもしれないな。」
と言って私の頭に手を置いてくれた。
その感触がなんとなく嬉しくて。
昔の記憶かしら?
私はチェリスと施設を見まわったり。トリョウと情報の見方を勉強したり。
そして、最近よくやるのが、踊り。
最初、情報粒子の入っている部屋に入った時、体にピリピリする感覚と、手を動かす時に何かを開放するような感覚が合って。
それで、自分の思うままに体を動かしてみたら、その情報を自分が体を使って解放している事に気がついて。
これまで、二人が情報粒子を使っていろいろと探している情報の、必要なところを私が感覚的に見つけて開放してしまったみたい。
それから、私は彼らのために踊る事にした。
言われた情報を探すため、
でも、私は踊っているととても安心感もあった。
何かと繋がっている感じ。
そして、すべてを受け入れている感じ。
踊りは私にとって日課となり、それは必要とされているからではなくて。
私のここに居る意味にもなってきた。
でも、踊りを踊らない時は不安になる時もあって。
一人の孤独を感じる時もある。
でも、そんなときにチェリスは私と共にいてくれる事が多くて。
そんな時、とても安心することができた。
チェリスも私と一緒に居る時が何か特別な感じを持っていると言っていたし。
二人でいると、もう私は一人では無い、という安心感がとってもあった。
その理由は分からないけど、
踊りを踊って、情報とリンクして開放すればするほど、チェリスと一緒に居る時間を長く持ちたいと思うようになってきた。
より、強いきずなを求めたくなっていた。
なんだろう?
この感じは。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
初期アトランティス
目の前で、ヤーフルがふき出している。
やれやれ、見せたくなかったのはこれなんだよなあ。
「あはははははっ、何これ! まるっきり恋愛モノじゃないの。」
そう、自分で見ていても恥ずかし限りの内容で。
僕としてはむっとするしかない。
「なーんだ、そういう風に見てたのか。よしよし。」
そう言って、ヤーフルは僕の頭をなでる。
その手をはらいのけて、
「そう言う事だよ。つまりは。」
そう、この時、チェリスとスーべロスは相思相愛であったって事なんだけど。
双方恋愛という感覚が無い状態なので、この感情に困惑している感じもあって。
互いの過去であっても、その状況を見てしまうと、まあ、こういう反応になるだろうね。
「作ったモノが、作られたモノに恋する話はたくさんあるけど、それは創世記の神話にもあったし。物語にもあったし。でも、それを目の当たりにすると、思いっきり恥ずかしいね。」
ヤーフルがそう言って、また笑っている。
まさか、自分たちの過去でそういう事やっていたとは思わなかったし。
ただ、僕らはその結末を知っている。
作ったものが、作られたものに恋した結末は、どれも決まりきったモノになってしまうから。
だから、今のこの様子を見て、笑う事も必要なのかもしれない。
たのしい時間を覚えておく事も必要なのだから。
「それで、フロルの時代はなんで同じような事が出来ているのかな?」
とヤーフルは僕に聞くけど
「それが分かっていたら、今僕らはここに居ないんじゃない?」
「???」
不思議そうにこっち見てるけど、
「踊りで情報を引き出せるなら、わざわざ美術館やら博物館に行って、そのシンボル的物質を探して記憶を探るような、そういう事をしなくていいだろう、って事だよ。」
ヤーフルは納得した。そして、
「じゃあ、試しに踊ってみようよ。」
といきなり言う。
「そんなの意味無いよ。」
「どうして、やってみなけりゃ分からないだろう?」
「僕らはバンダナで情報粒子を読みとるように訓練されているんだから。踊りで引き出される必要もないし。その踊り自体もよくわからないじゃないか。」
「君が踊ればいいじゃない。過去でも、未来でも踊っているなら、今も踊れるんじゃないの?」
「そんな理屈聞いたこと無い。それを言うなら、ヤーフルだって長みたいに落ち着いて行動できるだろう。」
「それとこれは関係ないじゃないか。」
「同じだよ言っている事は。」
じゃあ、ヤッシュの時のシャレになびいたときはどうなんだとか、
そういう不毛なやりとりをしばらくして。
ヤーフルが
「この結末まで、見た方がいいのかな。」
と言う。
「僕らはこの結末を神話とかで知っているから。無理に見る必要はないのかもしれないけど。」
「けど?」
「僕はフロルの記憶ところで、最後まで見る事になっているみたいだから。でも、ヤーフルは無理して見なくてもいいよ。」
そう言うと、ヤーフルは少しふくれて
「私は君とペアになるんだから、同じ情報を共有する必要はあると思う。君の気遣いは不要だよ。」
と言って笑った。
「それなら、情報粒子をつないで。スーべロスじゃなくて、フロルのところから入る。」
僕らはリンクした。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます