星くず雑記

日々の出来事は煌めく星くずのように…

OSK100周年『春のおどり』と歌舞伎『新三国志』②

2022年03月28日 22時37分46秒 | 歌舞伎

歌舞伎『新三国志』を観た。

保守的な歌舞伎ファンである両親の影響もあり、

三代目猿之助のスーパー歌舞伎=新橋演舞場でやってる派手なアクションを取り入れた現代歌舞伎であり、

歌舞伎座を中心とした古典歌舞伎とは別物、という認識でした。

 

しかしながら、正月に観た四代目猿之助が素晴らしく、

ひとつの極みにいる「今の猿之助」が、

スーパー歌舞伎に臨む姿を観たいと思いました。

また、市川笑也も、高卒の養成所出身者でありながら

三代目猿之助に見いだされたヒロイン役者であり

『新三国志』が彼のための宛書きであることも興味を引きました。

 

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ところで、宝塚と歌舞伎、そしてミュージカルの3つは

ベン図にすると重なり合う部分があります。

宝塚と歌舞伎の重なるところにいるのが、

片岡仁左衛門と汐風幸父娘であり、

そして香川照之こと市川中車です。

三代目猿之助と宝塚の娘役スターにして大女優の浜木綿子の一人息子。

「歌舞伎界に行かなかったのはもったいない」と言われていたのですが、

四代目の襲名に合わせ、長男の団子とともに、

46歳で歌舞伎界入りするとは思いもしませんでした。

確かに、幼いころからの経験がない分、古典歌舞伎は厳しいものがあります。

しかし、彼が歌舞伎界入りして良かったと思わせる活躍を見せていると思います。

 

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今回、「スーパー歌舞伎」とは銘打っていません。

四代目猿之助のインタビュー等を見る限り

「三代目猿之助四十八撰の『新三国志』」と言えば、これ

と言えるような作品になったということでしょうか。

 

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『新三国志』

原作者の羅貫中(ら・かんちゅう)ならぬ、

羅こんちゅう、として、中車が長台詞で歴史背景の説明。

演劇キャリアを活かした、堂々たる説明で世界観に引き込みます。

 

そして桃園の誓い。

劉備すなわち三代目が見出した:笑也(=いまや澤瀉屋の古参・中核の俳優)を中心に、

関羽すなわち三代目の芸を継ぐ:四代目猿之助

張飛すなわち三代目の血を引く:中車が、

手を取り合って固い絆を結ぶのは、

中車が映像作品や昆虫ビジネスで稼ぎ、

芸は猿之助が中核となって、笑也らが澤瀉屋一門が舞台で奮闘する

という姿に重なって胸が熱くなりました(笑)

本作のテーマである「夢」≒「平和で民が飢えぬ国」が明確になります。

 

三顧の礼:

諸葛孔明が劉備をじっと見つめ、「真実の姿」を知る。

静かな場面で、鳥のさえずりで、正体を暗示。

 

赤壁の戦い:

本来は、京劇を取り入れたスペクタクルシーンと思われるが

照明や布の使い方で、少人数でも大会戦を表現。

 

劉備と香渓の結婚:

孫権は劉備に対し優位を維持しようと、気が強く美しい妹:香渓を政略結婚させる。

劉備は香渓に真実を明かし、香渓は劉備に心酔する。

香渓(右近)の声の美しさの衝撃たるや!

そして、関羽と劉備が手を取り合い、そこに桃の花びらが舞い散ることで

二人が相思相愛であることを暗示。

 

以上、第1部。

後半第2部は、冒頭から関羽が死亡フラグを立てまくる、苦しい展開。

香渓の命がけの願いもむなしく、孫権は張飛や関羽を死に追いやります。

絶望する劉備。

しかし、関羽(と劉備)の養子である関平が志を継ぎ(将来の澤瀉屋の継承と重なる)

関羽の幻が劉備を包みこみ、立ち直る。

順に登場人物が花道を歩き、最後に関羽(猿之助)が宙を舞う。

そこに桃の花びらが舞い散り、昇天。

私はここで号泣しました。猿之助が発光しているのです。

 

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笑也:

立ち姿のスタイルの良さ、透る声。

そして、その声を「男装の麗人」「ひとりの女性」と使い分ける見事さ。

正直、主役は彼です。

(無論、それを包み込む猿之助があって、物語が成立します)

それでも、ポスターの写真が小さいのは、

閉鎖的な歌舞伎界を象徴していて残念です。

 

団子:

終盤に目立つ若武者役。初演では、亀治郎(現:四代目猿之助)

声は実年齢通り、十代の少年なのですが、

顔がとても小さく、そのスタイルの良さにびっくりしました。

歌舞伎役者としては顔が大きく、恰幅が良い方が、

舞台映え・メイク映えするので、「小顔で長身」

であることが求められているわけではありません。

しかし、新しい歌舞伎役者の姿を体現できる可能性を秘めた

団子に期待大です。(もう、団子ちゃん、と気軽に言えないですねw)

 

右近:

おそらく、初めて(成人の俳優としての)右近を観たので、

その声の余りの美しさにびっくりしました。(笑也の素晴らしさを上回る驚き)

歌舞伎を長年観てきて初めて「男性がこんな美しく高い声を出せるのか」

と本当に驚きました。

清元の家系であり、また、六代目菊五郎の血を引くとのこと。

(※当代の菊五郎は、六代目の養子の系譜)

清元の稽古を積んでいるからなのでしょうか、

とにかく声が美しいのに心奪われますが、容姿も美しいです。

こんなに素晴らしい若手を知ることができて、良かったです。

 

福之助:

孫権はもっと年配の役者かと思い込んでいたので、

福之助だと知りびっくり。

存在感も、孤高さや狡猾さも良く出ていました。

 

猿之助:

多くは語りません。圧巻でした。

古典もスーパーも、現代劇も何でもできる。

今の猿之助を、もっと心に焼き付けたい。

 

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女性同士の宝塚やOSKならば、

キスや手足を絡ませることや、ベッドシーンも普通にあるわけです。

でも歌舞伎はそんなことは、滅多にしない。

そんな暗黙のルールの中で、どうやって関羽と劉備の愛を表現するか。

手を繋いで花弁が舞うなんて、なんて美しい表現なのだろうと思いました。

桃の花びらが二人の心の象徴になります。

現代的でありながら、慎ましく風雅な愛の表現に感動しました。

 

劉備が女性である設定は、

諸葛孔明に忠誠を尽くさせる神秘性を表現するために着想されたそうです。

笑也が劉備の持つ多面性を声で表現していたのはさすがでした。

でも多くの人が気づいていたのですね(笑)

 

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今回は、本来4時間ある大作を、約半分にした短縮版です。

おそらく、戦闘シーンはもっと大人数だったのでしょうし、

例えば猛女四天王のように、本当は見せ場が多かったと思われる役もありました。

 

大人数での演出が、出演者・スタッフ、また稽古において

コロナ対策による制約があると思うのですが、

潔くカットしたことで、「平和な国」という夢が際立ったように思います。

 

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100周年で新スタイルに挑んだOSKの姿を重ねつつ、

全く新しいスタイルの現代歌舞伎を創始した三代目猿之助は偉大だと、

改めて確信しました。

 

彼自身の演技力、企画力、統率力があってこそスーパー歌舞伎が成立しました。

そして、四代目がそれを良く受け継いだことは

本当に素晴らしいことですし、

離別した息子である中車が、実父である三代目に敬意を持ち続け

澤瀉屋に帰還したこともドラマチックでした。

 

ますます澤瀉屋(と尾上右近)から目が離せません。


OSK100周年『春のおどり』と歌舞伎『新三国志』①

2022年03月28日 20時57分20秒 | OSK・宝塚(OG含む)
OSK100周年『春のおどり』と歌舞伎『新三国志』
を観てきました。
 
私自身、感激が久しぶりなこともあり
どちらの公演でも、感動で最後に泣いてしまいました。
共通点も多く、二つを連続して観た感想を書きたいと思います。
 
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『春のおどり』
・第1部 光
 
コロナ対策なのか、演出なのか
日本髪のカツラが無い!メイクも洋風!
なのは驚き半分、残念半分でした。
でもその分、衣装が本当に豪華でした。
 
第1章:花の巻の「三番叟」は、
トップスターの楊琳が豪華で色も鮮やかな衣装で
スピーディーに舞い踊り、これぞ女性歌劇の和物!
と思いました。(カラフルな刺繍でしたよね?)
 
第2章:夢の巻は、歌舞伎風の演出で
さすが和物を大切にするOSK!
と思いました。
虹架の早変わり、遥花の花魁も良かったけれど、
愛瀬・華月の剣術シーンは素晴らしかったです。
(宝塚では(日本物が激減してるので)技術面、(長期公演故に)体力面でできないでしょう)
アクロバットや見得の切り方は、歌舞伎を見ているようでした。
若手モブの役名も「若い者」とのことで、歌舞伎を意識したのが分かります。
 
写楽役で目立つのが、男役ホープの翼和希。
花魁との絡みは妖艶だけれども、哀しさ儚さと相まって実に幻想的。
ここで、今回、日本髪のカツラを使わなかったことが活きます
突然、花魁(白夜大夫)の唯城ありすがドレスに。
そして琥珀大夫のが燕尾服に。観客席は戸惑いと驚きで、どよめきました。
(私も、パンフを見て気付いていましたが、やはり驚きです)
ここで洋舞と日舞の不思議な融合があり、
まるで、モネの『ラ・ジャポネーズ』を見るようでした。
 
そして第3章:月の巻は、内容は全く違うのに、
どうしても暗い舞台×黒系の着物×月モチーフ
なので、2021年宝塚月組『Welcome to Takarazuka』(演出:植田紳爾
を想起させてしまい、もったいない感じはあります。
ちなみに、演出の山村友五郎氏は、植田センセの息子です(笑)
 
さておき、この月の巻の楊の着物がとにかく豪華でした。
(螺鈿細工のような…)
彼女を中心に、男役たちの一糸乱れぬ舞から
現代演劇のようなセリフ、力強く壮大な舞踊、セリや照明の大胆さ…
OSKのあの(2004年の)復活劇を想起させる歌詞はどこにもありませんが
何度でも立ち上がる「凛とした」逞しさを感じさせました。
 
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・第2部 INFINITY
 
プロローグは期せずして、ウクライナカラーのラテン衣装。
この歌姫は誰?と思ったら遥花ここでした。
写真のイメージや私の記憶とも違っていて、びっくり。
 
アルルの女~ファランドールは
楊だけ軍服風で、周りが白燕尾の衣装が意味不明。
南仏~スペインの雰囲気なら、楊・舞美の雰囲気に合わせるべきでは。
 
パリ・パナムは、冒頭の舞美の黒燕尾も良かったし
全体の流麗な雰囲気がOSKらしくて非常に良かったし
OSKの歴史と言う意味で、途中で登場した歌手の千咲
傘を差すのも良かった。OSKの傘回しのルーツですからね。
でも独りだけ差すのは、どうしても千咲に視線が行ってしまい違和感。
傘回し以外に、傘を使うダンスを取り入れても良かったのでは。
特別専科の朝香の立ち位置も違和感。
ところで、この階段と桜のセットをフィナーレでも使うかと思ってました。
舞美さんは、90周年南座の『グラン・ジュテ』で、
ピョンピョン飛び回る少女役が印象的でしたから、
ふっくらとした(※体型ではなく雰囲気のこと)素敵なお姉さんになったなあと思います。
 
ここから、花の馬車に乗っては、実花さん大活躍!
日本歌劇団時代の団歌ですが、初めて聞きました。
小さな馬車も可愛らしいし、軽妙なラインダンスも良かった。
(OSKはもっと高速ラインダンスもできますが、
今回はこの位の、ゆるふわっと可愛らしい感じが合うと思います)
 
続く、大人のタップやジャズシーンは、桐生朝香が中心。
この場と言い、ラテンの黒と言い、ビターな場面は長身の城月が似合う。
(『娘役トップスター』が明確化されたため、城月の扱い方が残念である)
 
ジャストダンス、は見覚えがあるというか、
いつものOSKと言うか、新鮮味はなかったです。
 
鳩の場面は、やはり期待の翼に目立つパートを与えます。
昨年の女神と死にゆく戦士のシーンと、既視感。
雰囲気は好きですが、荻田先生の好みなのでしょうか?
 
そしてフィナーレは、わずかに楊・舞美のデュエット(リフト有)
があってからの群舞。
いくらトップコンビと言う概念が希薄とは言え、
もうちょっと時間を取ってほしかったです。
舞美千咲のダブルデュエットになるかと期待してしまいました。
 
虹色の彼方へ、はプログラム上「パレード」となっていますが
非常に斬新!
 
宝塚もOSKも階段を、スターが序列順に中央から降りてくる
というのが基本ですが、群舞の流れから
テーマソングを歌い継ぎ、要所要所でスターが出てくるというスタイルでした。
最後に中央から楊。宝塚風の丸い羽は背負いません(これ重要)。
てっきりパリ・パナムの階段セットを再利用すると予想していたので
全く新しいスタイルなのを歓迎します。
 
最後にカーテンコールで、楊の挨拶、桜咲く国で締め。
(私は『桜咲く国』の3番で泣きました)
 
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全体を通じ、100周年記念として
『伝統・定番』ではなく『全く新しいもの』を
創始したい意欲を強く感じ、見応えがありました。
今回は「今回」として良かったのですが、
やはりオーソドックスでクラシカルな日舞・洋舞レビューも
また観たいです。どちらも大切にして欲しいと思います。
 
また、スターの扱い方も宝塚とは全く異なり、
宝塚でいうところの「路線」を基軸とした起用ではなく
中堅以上の団員に満遍なく見せ場を与えているのも、
女性歌劇のあり方として良いと思いました。
観客としては、OSKは人数が少ない分、
一人一人の団員に思い入れが出てきます。
なので、それぞれに活躍の場があることは嬉しいです。
 
その上で、楊、舞美、千咲に加え、翼と唯城を
主力スターとして明確にしているのは
女性歌劇の文化として、必要なことだと思います。
 
今回、唯一物足りなかったのは、
OSKと宝塚の決定的な違いである、娘役の地位。
「娘役だけの場面」「娘役が男役を率いる」といった
力強い娘役シーンが少なかったことが残念でした。
 
久々のOSK生観劇でした。
楊さんは歌の上手いイメージは無かったのですが、
とにかく声が高く透明で美しく、魅力的でした。
(宝塚の男役のように、(煙草などで)不自然に声を潰していない印象)