星くず雑記

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令和6年3月スーパー歌舞伎『ヤマトタケル』

2024年03月20日 11時26分21秒 | 歌舞伎
歌舞伎を観続けて幾星霜…
スーパー歌舞伎の初観劇でした。

思えば、一昨年春
團子の若武者ぶりに、澤瀉屋の将来を期待したもの。
現代的な長身でスタイルが良く
三代目猿之助と浜木綿子の容姿(華やかさ)、
父の聡明さを受け継ぎ、
従伯父の四代目猿之助に学んだならば、
どれほど素晴らしい俳優になるか、と。
(一般人の方なので写真は分かりませんが、
元CAのお母様も、スラリとした端正な方なのでしょう)

昨年の事件の直後、
代役を引き受けた彼の姿は鮮烈でした。
旦那二人(猿翁・段四郞)を一挙に失い、
若旦那一人は(四代目猿之助)長期的に舞台に立てず
もう一人の若旦那(中車)も事情あり、となった澤瀉屋を
潰さない、潰れないという存在感を示したのは、
天性のカリスマ性、華やかさを感じさせるものでした。

スーパー歌舞伎は、三代目猿之助が46歳で創始し、
・養成所出身者の活躍の場を開いた
・演劇の新ジャンルを築いた
・歌舞伎鑑賞の間口、ファン層を広げた
ものと認識しています。

とは言え、私のような保守的なファンにとっては
「三代目猿之助が新橋演舞場の方でやってる
古典歌舞伎とは違うもの」
という認識で、三代目が健在な当時から
今まで観たことはありませんでした。

一昨年になって初めて、
スーパー要素を排した、歌舞伎座『三国志』で
四代目猿之助の姿に涙を流して感動し、
やっとスーパー歌舞伎を観てみようかなと思った次第です。

私個人として仕事上の大失敗があり、
世界的にもウクライナ紛争開戦で辛く悲しい時期でしたから
「平和な国をつくる」というメッセージが、強く心に刺さりました。

三代目猿之助の映像を集めて観るようになり
もちろん『ヤマトタケル』も観ました。

その上で、新たな看板俳優である團子が主演となり
澤瀉屋が再スタートする本公演に足を運ぶことにしました。
本来、この時期の新作『鬼滅の刃』で主演となるはず、でした…

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あらすじに関しては多くを割きませんが、
古代史ファンとしては、
劇中の固有名詞や、歴史人物の描かれ方に不満もあります。
(例えば帝(みかど)ではなく、大王(おおきみ)か
天皇(すめらみこと)であるべきでは?等)

それを圧倒的な迫力で、
独特の世界観に引き込む魅力のある
脚本であるとも思います。

三幕は明らかに加筆されていましたが、
ワカタケルの場面は、かなり冗長になり、
余韻を損なうものでした。

最後のラインナップで、
帝とヤマトタケルが手を取り合って和解する演出、
帝は手を握り直していました。

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三代目猿之助がスーパー歌舞伎を演じていたのが
40-50代であったことを思えば、
20歳になったばかりの團子は、
圧倒的な若さと華やかさで、目を引きます

激しい立ち回りでも息を切らすことがなく、
(当時の)三代目猿之助が持ち得なかった
若さと長身は、圧倒的なアドバンテージであり
幸先の良い初主演だと思いました。

今回の團子の姿に、
歌舞伎のテクニックと、現代劇風の演出や
洋舞風の群舞を取り入れた、スーパー歌舞伎を
ゼロから創始した三代目猿之助の偉大さを
改めて感じました。

※ただし、もともと世襲や門閥によらない抜擢をしてきただけに、
事情が事情(三代目の病気療養が発端)とは言え、
結局世襲に落ち着かざるを得なかった、
いまの澤瀉屋を残念に思うファンの方がいるのも分かります。

いつまでも祖父や従伯父のコピー、
では無いと思いますが、歌舞伎界において
やはり先達の面影を感じさせる姿は
ファンにはたまらないものです。

また、この作品が世に現れたときの、
作り手(出演者やスタッフ)、
観客の熱狂を想像させます。
邦楽をベースにしたオリジナル音楽の情感に、
豪華な衣装は、古代日本というよりは
より広くオリエンタル・ファンタジー風で独創的。
また二幕の炎(焼津)や、荒波(走水)の、
フラッグや布を使った表現は、ミュージカル的であり、
これを歌舞伎と融合させるアイデアの斬新さ。

そして、俳優を志していた大学生、
香川照之青年が、どのような心境だったか…

また、その名を継いだ四代目猿之助の
葛藤にも思い至ります。

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日舞を始めたのも、歌舞伎界入りもやや遅く、
また学業との両立を家風とするだけに、
先に歌舞伎座主演を果たした
成駒屋の次男三男(中村福之助・歌之助)や
高麗屋の市川染五郎の後ろにいた團子ですが、
思いがけず主演と一門を「背負わねばならず」、
しかも圧倒的な光輝を放つのですから、
ショービジネスの一寸先は分かりません。

成駒屋の三兄弟(&児太郎)は
もっと活躍の場が開かれて欲しいものです。

また團子におかれても、
コストがかかり、ロングランしなければならない欠点を持つスーパー歌舞伎だけでなく
古典の舞台に立つ機会が失われないことを願います。

いつの時代の誰とは言いませんが、
実力が欠ける、と評される俳優、
それもビッグネームであればあるほど
情けないものはありませんから。

今回のヤマトタケルを観ながら、いずれ團子で
『双生隅田川』の最後の激しい舞踊など
観てみたいなあと思いました。

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團子に三代目の面影を重ねながら
スーパー歌舞伎が、
まるで(三代目猿之助の血を引く)團子の登場
待っていたかのような作品・ジャンル、と言いたいのですが
ここに至るまで、大勢の俳優たちが
スーパー歌舞伎文化を繋ぎ発展させてきた功績を忘れることはありません。

受け継がれて、上演を重ねたからこそ、
「三代目猿之助のやってる新しい何か」ではなく
(一過性のサブカルではなく)文化としての普遍性を持ち、
演劇の一ジャンルとしての地位を確立できたのです。

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昨年の四代目猿之助の事件は、
最終的に自殺幇助での判決となりました。

発端となったハラスメント疑惑はうやむやなまま。

本来、ハラスメントは、それぞれの組織・集団の中で解決すべきことで、
週刊誌の刺激的な記事で世に訴えるのは、
最終手段であるべきでした。

四代目猿之助が、演出やキャスティング、そして主演まで果たす八面六臂の活躍振りで、
彼に負担、そしてパワーが集中しているのは明らかでした。
(歌舞伎に限らない、芸能そのものの特質とも言えます)
外部の舞踊家や俳優を積極的に受け入れる澤瀉屋、場合により松竹において、
ハラスメント対策や相談・解決の仕組みが構築されていたか、
この点は検証や改善が必要でしょう。

一方、明らかに誇張した記事(※)や
彼がオープンにしていない性的指向のアウティング(※※)は、
適正な「報道」の枠を超えたものとして、憤りを感じています。
※一例として、
・四代目猿之助が團子を厳しく指導したことを妬みや嫌がらせとした記事
(後継者候補の弟子に熱心な指導をするのは至極当然であり、その動機を曲解)
・歌舞伎界の改革として、男女混成に言及
(「前進座」歌舞伎が顕在であることを知らない、低質なライターによる記事。男女混成の東宝・前進座等は松竹より興行的に成功していない)
※※香川照之父子の歌舞伎入りに際し、未来の段四郎・猿之助になる「團子」の名が与えられたことで、四代目猿之助が実子又は養子の「後継者を作らない」意思は多分に推測可能でした。
とは言え、そこから類推される彼の性的指向をスキャンダラスに噂するのは、人格の尊重に反する行為です。

ところで私は、裁判の中で、四代目猿之助が
舞台復帰の可能性に言及したことに驚きました。
自殺、と言う道を選んでしまった以上、
世を捨て、舞台人を辞める決意をされたかと思いました。

四代目猿之助の舞台に大きな感動をもらった身として
彼の優れた才能が、永久に失われるのはあまりに惜しい。
一方、当然のことながら、
事件の発端であるハラスメント疑惑に対し、
被害を申し出た方との和解や、再発防止策がなされることが絶対に必要です。
未来に続くクリーンな業界であるべく
・師弟関係(親子、養子を含む、愛情と信頼が担保される関係)での厳しい指導と
・ハラスメント
の別は、きちんとつけるべきです。

その上で、ひとり生き残った四代目猿之助こと喜熨斗孝彦氏が、
心穏やかに、徐々に現実に向き合われ、またいつの日か、
(表舞台とは限らず、脚本、振付、指導など様々な形で)
芸事の才能を発揮されることを願っています。

ただし、観客やスポンサーの支持を受けるかは、また別の話です。

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三代目猿之助の発病以来、約20年間の澤瀉屋の歩みが
「無かったこと」にならないよう、
この間に澤瀉屋や、あるいは歌舞伎界から
距離を置いた方々に思いいたしつつ
新たな「ヤマトタケル様の時代」の到来に大きな期待を寄せます。






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