星くず雑記

日々の出来事は煌めく星くずのように…

令和5年5月明治座代役公演と『この恋は雲の涯まで』②

2023年05月28日 16時02分48秒 | 歌舞伎

<第2幕:下の巻>

金国の宮廷。幼王衛紹王(中村米吉)の傍らには、姉紫蘭姫(壱太郎:二役)がいる。

乾竜の紹介で、知盛一行が王の前に参上する。

紫蘭は知盛に一目で心惹かれ、舞を披露させるが、

紫蘭の婚約者で金国乗っ取りを画策する宰相武完(下村青)が、非礼であると止めさせる。

部下らは反発するが、知盛は素直に慣習の違いと無礼を認めて引き下がる。

紫蘭は武完に、知盛に心惹かれたことなどを告げる。二人の歪な関係が露わになる。

設定が完全に『この恋は~』と同一(笑)。発表の時系列では『不死鳥よ~』が先なので

これが後に『この恋は』第2部の原型なんだなあと思いました。

紫蘭が心惹かれた一方、知盛は紫蘭への反応が薄いです。

 

紫蘭は知盛を自らの元へ呼び寄せ、酒を口にさせる。毒が入っていると脅すが、

知盛は紫蘭のような高貴な方がそのようなことをするはずは無いと告げ、

また信頼の証として、一人で参上したと話す。

紫蘭は知盛の誠実さと度胸に、さらに魅了され誘惑するが

知盛は「紫蘭様にうり二つの女性」を想っていると、姫の誘惑を拒む。

想い人を告げるくだりは、『この恋は~』と(以下略)

この中国?モンゴル風衣装が、長身の團子に実に似合っていました

「匂い立つような」という表現がぴったりの美しい姿とオーラでした。

動き始める際に、マントを胸下あたりで少しつまむ仕草がたまらないです。

※さらに脱線:

 OSKの桜花昇ぼる悠浦あやとに、雰囲気がそっくりです。

 長身でスタイルが良く、品があり、周囲を明るくする陽の雰囲気、

 柔和さと凛々しさを併せ持つような…。宝塚とは、また違う、歌劇向きの雰囲気。

 

落胆した紫蘭の元に武完が現れ、高貴な姫君が異国の男に拒まれた惨めさを煽る。

「俺は蛇遣い、お前は蛇」とマインドコントロールしていき、

紫蘭は「知盛を殺して!」と絶叫するに至る。

この様子を紫蘭の妹蓮花(男寅)が見ており、蓮花は衛紹王に報告する。

武完は怯むことなく知盛殺害の必要性を述べ、揉み合いの中で蓮花が死ぬ。

武完役の下村青は、劇団四季出身とのこと。

圧倒的な歌のパワーと、禍々しさで、紫蘭の乙女心を踏みにじり

マインドコントロールしていきます。歌は『エリザベート』の「最後のダンス」にそっくり…

男寅もキュートさが印象に残る。

 

武完は乾竜に知盛殺害計画を告げる。

一方、宋の官吏も、この5年のうちに情勢が変わり、源氏の世となった今、

宋で知盛を受け入れられないと、説明する。

板挟みになった乾竜は、せめて自らの手で知盛を介錯したいと申し出る。

あくまで武人としての名誉を尊重しようとする乾竜。

ここで、隼人のルックスの良さや貴公子ぶりで、乾竜の高潔な振る舞いが際立ちます。

 

しかし、衛紹王が単独で知盛の幕舎を訪れて危機を告げると、

そこを武完が襲撃(クーデター)する。

知盛は武完を倒し、自らと王を守るが、乾竜と王に自らを殺すよう依頼する。

このまま宋に行っても、宰相不在の金が攻め込まれるのは不可避。

金を守るため、立派な君主となるよう王を説得する。

御伴するという部下に、知盛は「壇ノ浦以来死に場所を探していた」と話し、

「死んではならぬ」「生きよ」と説得する。

再びの激しい立ち回り。殺陣は模造刀とは言え、棒を振り回すわけですから、安全管理上

振付は全て計算されたものです。團子本人はもちろん、周囲の方も良く合わせたと思います。

説得のくだりのセリフ回しが、三代目猿之助(現猿翁)にそっくりでした(※歌舞伎役者としての最大級の賛辞)。

第1幕同様、今の状況と重なり、場内すすり泣き。

 

乾竜はなおも拒むが、知盛はあえて剣を取り、彼に襲い掛かる。

二人の立ち回りは互角だが、知盛が乾竜の剣を自らに刺す。

瀕死の知盛は、乾竜の腕の中で不死鳥を思い描き、やがて絶命する。

瀕死の知盛が、最初は片手(左手の指)だけを小さく、しかし細かく動かし、

最後は両手を動かして、ついに事切れる。

この演技は誰のものを手本にしたのだろうか…

 

美しい幻想(スモーク)の中、若狭をはじめ大勢の人々に見守られる中

知盛は不死鳥となって昇天する。(第2幕:幕)

團子がとにかく美しかったです。

急遽の代役、しかも事件の帰結が見えない中、

とにかく澤瀉屋を中心とした出演者の団結の核心になろうと

必死に務めたことがうかがえます。

(寿猿によれば)中車”若旦那”が出演者に団結を促す声を発したそうですね。

なお、こんな感じの動線でした。

花道のスッポンから、一度垂直に上がって、腕を広げてスパンコールも眩い衣装がはためくと

瞳を閉じて(若狭の形見の)笛を取り出して口にし、少し下ってから

またゆっくりと3階の鳥屋に羽ばたいていきました。

 

宙乗りって、こんなに高くまで上がるっけ…?

高所恐怖症だったら大変だろうなあ…等と思っているうちに昇天。

ミラーボールの輝きや、スパンコールの煌めきが眩く幻想的で

本当に美しい宙乗りでした。

笛を取り出して口に当てた瞬間の、

その伏し目がちな表情が心に焼き付きます。

-----

余韻の中5分弱位拍手したところで、「夜の部の準備がございますので…」という趣旨のアナウンスがかかり

徐々に退場していく人が増えました(私もここで退場)。

報道では、4分半→5分→7分、とどんどん長くなっています(笑)

最後まで残った方が7分くらい続けたんですかねえ。

-----

作品そのものの話に戻ると、

邦楽を使っていない、等、古典歌舞伎の枠組みからは外れています。

しかし、三代目猿之助がスーパー歌舞伎を新ジャンルとして確立した今となっては

より広義の「歌舞伎」の一つとして、十分受け入れられるものです。

(歌劇ファンでもある私個人としては「歌舞伎スペクタクル」と言うより

「歌舞伎ミュージカル」とか「レビュー歌舞伎」の名称がしっくりきます)

-----

先週の隼人の記事でも述べましたが、舞台公演は上演を中止すれば

収入が完全に断たれます。映像作品のように、配信やレンタルで根強い人気や収益を、となりません。

この日も団体客が入っていました。

"The show must go on"の慣用句のように、舞台公演は続けざるを得ないのです。

 

そういう中で、主演を引き受けた團子はもちろんのこと

相手役として受け止めた壱太郎や隼人、脇を固めたベテラン陣、

激しい立ち回りを合わせた出演者の方々、稽古代役の方

(猿之助とは身長体重が違うので)急遽衣装をサイズ直ししたり、宙乗りの調整をしたりと

大勢の裏方さん、劇場のスタッフさんら

大勢の方の力で成し遂げた代役公演だと思います。

改めて、公演を続けたこと・歌舞伎文化を繋いだことに、感謝と敬意を表します。

 

芸達者で人気も知名度もある猿之助主演でしたから、キャンセル多数でもやむを得ない所ですが、

「せっかくだから代役も観てみたい」と思わせたのは素晴らしいことです。

-----

今回は團子個人の、技術より、とにかく熱量(勢い・気迫)が圧倒的で、

すさまじい輝き・香気を放っていました。

(以前團子本人も、澤瀉屋は熱量がすごい、と語っていましたね。)

今回、中一日+1週間でここまで三代目や四代目を彷彿とさせる演技になったのも

彼がSNSにアップしていたように、日頃から古い映像などで研究した賜物でしょう。

 

昼の部代役公演で團子に劣らずキラキラしていた

20代以下の歌舞伎俳優は、隼人くらいのもので、

團子の熱演に呼応した壱太郎・米吉も大健闘(この二人は30代前半組)。

※名誉のために、夜の部の米吉は、揺れ動く心を熱演しすごく良かったです。

 隼人は一回り年上で、テレビドラマ主演もしているわけですから

 その安定感や煌めきは、非常に貴重な存在だと思います。過小評価されて欲しくないです。

 

昨年来、福之助も芝居が上手いなあと思っていたのですが

4人組セット扱いなこともあり、今回はすっかり霞んでしまいました。

團子が思いがけず(しかも嫌な形で)全国的な注目を受け、ファンの動揺や期待を背負う中、

それらに見事に応えた姿に、若手の皆さんも良い刺激を受けて奮起して欲しいです。

-----

晴れやかな舞台ではありましたが、

四代目猿之助休演の経緯が経緯だけに、今後の澤瀉屋一門の行く末や、

来月以降の猿之助出演公演の変更(代役?演目変更?)等

現実には課題が山積しています。

 

これらの諸課題や、澤瀉屋の負の部分、再興の期待を

若い團子一人に負わすことなく、彼の学業や

(年齢相応の)修練の機会が確保されることを願ってやみません。

 

-----

歌舞伎は特殊な世界で、ファン以外の方に忌避されがちな「世襲」

後継者を幼少から確保し、ファン(特にタニマチ/パトロン)を繋ぎ留め、

稽古場(不動産)や演目(著作権)等の様々な「遺産」を円滑に継承する点で

優れた制度である面もあります。

世襲や男性のみ、というルールを廃した団体が大きな勢力になっていないのが

一つの答えになっています。

一方、主演なのにポスターの扱いが小さい、等弊害があるのも事実です。

 

いま歌舞伎が嫌な形で注目されており、ファンとして本当に残念に思います。

改善すべき点を改善し、今後も続く芸術であって欲しいと期待します。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

令和5年5月明治座代役公演と『この恋は雲の涯まで』①

2023年05月28日 13時32分24秒 | 歌舞伎

段四郎ご夫妻と四代目猿之助の件に関する考えは、

先週時点と変わりありません。

5/18午前中に事件があり、5/18-19昼の部は中止、

5/20以降は未定という状況でした。

5/19昼頃、5/20昼の部も市川團子の代役で続行と発表があり、

直ちに、夜の部と共にチケットを購入しました。

5/20、團子代役主演の昼の部初回が大好評で、その後一気に完売しました。

-----

先週夜の部で中村隼人主演を観た際の様子を

舞台ファン以外の方に伝えると、何故観劇に行くのかピンと来ない様子。

①出演者やスタッフを、金銭・座席を埋める点で応援したい

②休演の四代目猿之助が作り上げたものを見届けたい

(③もともとチケットを持っていた/ツアーに組み込まれていた)

(④稀有な事件なので、興味本位で)

と言った所ではないでしょうか。私は①②です。

-----

そもそも、本公演歌舞伎スペクタクル:不死鳥よ 波濤を越えて』の特徴は

植田紳爾による作品であり、宝塚歌劇『この恋は雲の涯まで』との類似性が高いことです。

<植田作品時系列>

1973年(昭和48年)宝塚『この恋は雲の涯まで』 ※振付に二代目尾上松緑

落ち延びた義経が蝦夷経由で中国へ渡ろうとするが、船が悪天候に見舞われる。

海神の怒りを鎮めるため、静が入水する(1幕のみ※1)。

1979年(昭和54年)歌舞伎『不死鳥よ波濤を越えて』

落ち延びた知盛が中国へ渡ろうとするが、海の神の怒りを買うと愛妾若狭の乗船を拒まれる。

知盛は「命よりも大切な」若狭を選ぶが、その言葉に満足した若狭は自決する(第1幕※1)。

宋を目指す一行は、途中の金で足止めされる。金には幼帝と悪い大臣がいる。

知盛は悪い大臣を倒すが…(第2幕へ※2)

1992年(平成4年)宝塚『この恋は雲の涯まで』全2幕の一本ものに再構成。(※2025.3.2訂正:1部2部にタイトルが新たに付いた、金国の場面が加筆された(悪い大臣①=張栄勲、は新キャラ)、が正確なようです)

第1幕は初演と同じ。

宋を目指す一行は、途中の金で足止めされる。金には幼帝と悪い大臣2人がいる。

義経は静と再会する。しかし「命よりも大切な」という言葉に満足した静は悪い大臣①の愛妾である身を恥じて自決する。

義経は悪い大臣①を倒すが、国王に尽くす彼の真意を知る。

悪い大臣②の攻撃に、義経は宋ではなくモンゴルの民のために決起し、ジンギスカンと名乗りを上げる(第2幕※2)

…ということで、この両作品の類似性を踏まえると、より楽しめるかと思います。

なお、本作はツケ打ちこそあれど、邦楽がほとんどなく、さらに歌唱もあるため

「歌舞伎」というより「歌劇」です。

(ここまで前置きw)

-----

5/20昼時点で、明治座公式サイトから取れた席(1x列4x番)です。

澤瀉屋系の宙乗りがあると、2階席が被ってしまうのは残念ですが、まあまあ観やすいと期待。

-----

<第1幕:上の巻>

スクリーンにタイトルが映されただけで盛大な拍手。

幕開き、白拍子の華麗な舞(※女性舞踊家も数名いる)で平氏の優雅な世をイメージさせる。

不死鳥の船に乗った平知盛(市川團子)と愛妾若狭(中村壱太郎)が登場し、知盛の歌唱。

平通盛の愛妾で白拍子の一人:陽炎役の笑也の瞳が潤んで見えた。目の下にキラキラしたワンポイント有るが…

四代目猿之助のキーのままなので、團子は歌い辛そうだが問題なし。

途端に荒々しい源平の戦い(壇ノ浦の戦い)の場面。

知盛も血まみれになって奮戦、海に飛び込む。

若狭は側近と共に自決しようとするが、源氏方に捕らえられる。

再登場した血まみれの知盛が、長刀をペロリと一舐めする。

そっと口づけるようであり、上品かつ耽美でゾクゾクした。

(猿之助なら、もっと濃厚な感じだったのかなあ…)

知盛は小舟に一人。

敗戦を悟り、碇の綱を体に結び付けて、碇を頭上に持ち上げる。

ここの團子が素晴らしい熱演でした。

重い碇を持ち上げるまでに、美男が苦悶する表情の美しいこと。

(実際に必死に演技しているはずですので、現実の熱演と、役柄の苦悶が相まった姿)

なお、持ち上げる所で、暗転になってしまいますが、古典歌舞伎の『碇知盛』のオマージュですので、飛び込んだのは明らか。

その後、知盛は宋の宰相の息子:楊乾竜(中村隼人)の支援で、屋島に落ち延びる。

一方、若狭と陽炎は置屋に拾われた。陽炎は通盛を想いつつもすでに客を取っているが、若狭は拒み続けている。

二人の元に知盛の部下が訪れ、二人を連れて行こうとするが陽炎は残る。

置屋の主は実は源氏方の武将で、陽炎に若狭らの行方を問いただす。陽炎は殺される。

「お約束の展開」ですが、陽炎の覚悟が泣かせます。

まあ貞操観念は『この恋は~』と全く同じです。

(いつの間にか)再会した知盛一行の元に、乾竜の率いる船団が到着するが、

水夫たちは「海の神の怒りを買う」と、女性の乗船を拒む。乾竜は知盛を説得するが、

知盛は「命よりも大切な若狭」や乳母:師の尼を置いて行けぬと、逆に中国行きを取りやめようとする。

尼らは若狭を説得するが、若狭は「自ら別れを告げることは無い」と言い放ち、小屋に閉じこもる。

知盛が若狭を捜しに訪れると、白拍子姿になった若狭が現れ、

愛された喜びと感謝を胸に抱き断崖から身を投げる。

知盛は発狂寸前となり、断崖で「お前が死んで私が喜ぶと思うのか」と絶叫する。(上の巻:幕)

乗船を巡るやりとりは、声の抑揚が四代目猿之助そっくりでした(※歌舞伎役者としても、代役としても最大の賛辞表現)。

(広く公開されている)代役公演初日の写真と異なり、澤瀉屋風に赤いラインを目の下にハッキリと太く入れており

それがまた、最後の絶叫のシーンで声の裏返り具合の演技が四代目や三代目を感じさせ、

かつ自殺を嘆くセリフに場内すすり泣き。

【次の記事に続く】

ところで、知盛は、どんな態度で

やっぱり中国に連れていってもらいたいと、乾竜に頼んだんですかねえ…

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする