今まで、キューバ研究所の新藤氏のおかしな部分について指摘してきたが、
簡潔に述べれば、無知か故意かは知らないが事実とは異なる指摘があり、
また、その引用する情報も恣意的だということが言えよう。
特にキューバの有機農業を高く評価するものを
「有機農業への幻想的な願望によるキューバ訪問とその報告記」とみなすのは如何なものか。
大変申し訳ないが、都合の悪いエピソードは「体制派の人間の言葉だ」
「上手くいっているところにしか案内されないのだ」と延べ、都合の悪い統計は「捏造だ」で
すます一方で、自分にとって都合の良いエピソードは逐一紹介するのは学者としてどうよと思う。
もちろん、キューバ社会は問題が山積みされており、そういう負の部分はあまり語られないので、
その点では氏の様な批判的意見は貴重であり、傾聴に値する。有機農業もしかりだ。
有機農業はキューバの食糧事情を解決する万能薬ではない。
しかし、キューバの食糧事情(特に都市部における)に貢献するものである。
この点から、ハバナ農業大学をはじめとして、国内でも農業研究が行われている。
氏のように何でもかんでも否定的に捉えるスタンスは、
結果としてアメリカのキューバ制裁を正当化させてしまうのではないか?
新藤氏の言葉を読むと、我が国の中国や北朝鮮に対するそれと似たものを感じる。
例えば、北朝鮮では食糧事情を解決するために国が総力を挙げており、
結果的にここ数年で少しずつ生産量がアップし、かつ市場の部分的導入により、
余った収穫物は各農家が好きに売っても良いという風に変化した。
ところが、ほとんどの論者はこの点に全く触れずに、やれ飢餓だ、やれ餓死だと囃し立てている。
新藤氏はこれとよく似ており、農業のほかにも医療や教育についても、
ここも悪い、ここも腐敗している、これも問題だと一生懸命だ。
それも、どちらかというと、手放しの礼賛者と同様に、一部分を極端に強調している。
これは悪い点を知るにはある程度参考になる(誇張されている面も否定できない)
だが、大変申し訳ないが、私は90年代の冷戦終結以降、
キューバ人が金を求めることしか考えない連中になったと主張する彼の主張は受け入れられない。
--------------------------------------------------------------
80年代のキューバでは、普通、家族は3,000~4,000ペソ貯蓄がありました。
それぞれが、職場を定時に終わり、友人や家族と談笑したり、映画や音楽会に行ったり、
ゆっくりと生活を楽しみました。バケーションは年間1カ月とって、海水浴場に行き、
リフレッシュしました。ないものは融通し合い、助け合い、市民の間に連帯感がありました。
「黄金の時代」と言われるゆえんです。
しかし、ソ連・東欧の経済が急激に悪化し、これらの国々からの資材の輸入が激減し始め
たキューバでは、1990年8月「平和時の非常時」が宣言されました。各種の生産が低下し、
食糧生産が減少するとともに、インフレが急上昇し、20年間で実質賃金は、
かつての5分の1に低下しました。つまり、普通の賃金だけでは、生活できなくなったのです。
あるものは、海外からの家族送金に頼り、あるものは観光関係の職業で得られるチップでカバーし、
あるものは、外国企業に勤めて正規以外の賃金を取得し、あるものは、特技を生かして
家庭教師や修繕サービスで副収入を得たり、あるものは、勤め先でモノを横流しする、
レジで売り上げをごまかす、賄賂を得たり、便宜を供与してもらったりして対処しています。
横流ししたり、国のものを盗んで手に入れたりすることを、
「解決する」という言い方で表現するようになりました。
一方、政府は、こうした社会現象を見て、1993年から自営業を大幅に認める政策を打ち出し、
現在、自営業者は、20年で20倍増加して42万人に達し、
経済活動人口510万人の10%近くになろうとしています。
実際、ハバナ市では、各地にパラダール(民間のレストラン)、
露天商、各種修理店が目につくようになりました。
外国人観光客は、1990年の30万人から10倍の300万に達し、
観光客向けのいろいろな商売が目につきます。
観光客のもっている日用品をキューバ人も見て、羨望心がかきたてられます。
自営農は、この5年間で5万人から22万人に増え、未利用地の使用権を取得した
新たな農民の中にニューリッチ層が生まれつつあります。
こうして、キューバは、残念ながら、それぞれが、
カネ、カネ、カネとより多くの収入を追い求める時代になってしまいました。
思いやり、連帯が忘れられ、何よりも自分と家族の問題を解決することが最優先の社会となりました。
(ラウル議長も嘆くキューバ社会の実態より)
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重要なのは、前回の記事で紹介したように、この増えつつあるニューリッチな自営農が
実は新藤氏が批判している都市の有機農業者であるという点である。
こういう都合の悪い部分をサラッと流すのは絶賛者と大差ない態度だろう。
今のキューバ社会は徐々にだが市場化されている社会であり、
自由経済の中で淘汰された人間に対するケアが不十分だという意見なら納得できる。
(それも、この不十分さは長年の経済制裁と金融制裁、国際政治からの迫害に大きく起因する)
だが、「キューバは、残念ながら、それぞれが、カネ、カネ、カネと
より多くの収入を追い求める時代になってしまいました。思いやり、連帯が忘れられ、
何よりも自分と家族の問題を解決することが最優先の社会となりました。」と断言するのはおかしい。
例えば、日本でイジメを黙認したり、時には率先してイジメる教師がいたからといって、
日本の教育は最悪なレベルにまで堕落したと結論付けられるだろうか?
新藤氏の言葉は、それと同じで極端なのである。
(そういう無茶な主張をするため、氏はキューバの市場の導入が社会の悪化を招いたと
主張する一方で、さらなる市場化を望むという矛盾した態度を取っている)
教育も駄目!医療も駄目!農業も駄目!
自分たちが悪いのにアメリカの経済制裁のせいにする!国民は金の亡者!
こういう主張を聞いて喜ぶのはどこの国だろうか?
問うまでもない。
次回、キューバ批判者の致命的な問題点について語ろうと思う。
簡潔に述べれば、無知か故意かは知らないが事実とは異なる指摘があり、
また、その引用する情報も恣意的だということが言えよう。
特にキューバの有機農業を高く評価するものを
「有機農業への幻想的な願望によるキューバ訪問とその報告記」とみなすのは如何なものか。
大変申し訳ないが、都合の悪いエピソードは「体制派の人間の言葉だ」
「上手くいっているところにしか案内されないのだ」と延べ、都合の悪い統計は「捏造だ」で
すます一方で、自分にとって都合の良いエピソードは逐一紹介するのは学者としてどうよと思う。
もちろん、キューバ社会は問題が山積みされており、そういう負の部分はあまり語られないので、
その点では氏の様な批判的意見は貴重であり、傾聴に値する。有機農業もしかりだ。
有機農業はキューバの食糧事情を解決する万能薬ではない。
しかし、キューバの食糧事情(特に都市部における)に貢献するものである。
この点から、ハバナ農業大学をはじめとして、国内でも農業研究が行われている。
氏のように何でもかんでも否定的に捉えるスタンスは、
結果としてアメリカのキューバ制裁を正当化させてしまうのではないか?
新藤氏の言葉を読むと、我が国の中国や北朝鮮に対するそれと似たものを感じる。
例えば、北朝鮮では食糧事情を解決するために国が総力を挙げており、
結果的にここ数年で少しずつ生産量がアップし、かつ市場の部分的導入により、
余った収穫物は各農家が好きに売っても良いという風に変化した。
ところが、ほとんどの論者はこの点に全く触れずに、やれ飢餓だ、やれ餓死だと囃し立てている。
新藤氏はこれとよく似ており、農業のほかにも医療や教育についても、
ここも悪い、ここも腐敗している、これも問題だと一生懸命だ。
それも、どちらかというと、手放しの礼賛者と同様に、一部分を極端に強調している。
これは悪い点を知るにはある程度参考になる(誇張されている面も否定できない)
だが、大変申し訳ないが、私は90年代の冷戦終結以降、
キューバ人が金を求めることしか考えない連中になったと主張する彼の主張は受け入れられない。
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80年代のキューバでは、普通、家族は3,000~4,000ペソ貯蓄がありました。
それぞれが、職場を定時に終わり、友人や家族と談笑したり、映画や音楽会に行ったり、
ゆっくりと生活を楽しみました。バケーションは年間1カ月とって、海水浴場に行き、
リフレッシュしました。ないものは融通し合い、助け合い、市民の間に連帯感がありました。
「黄金の時代」と言われるゆえんです。
しかし、ソ連・東欧の経済が急激に悪化し、これらの国々からの資材の輸入が激減し始め
たキューバでは、1990年8月「平和時の非常時」が宣言されました。各種の生産が低下し、
食糧生産が減少するとともに、インフレが急上昇し、20年間で実質賃金は、
かつての5分の1に低下しました。つまり、普通の賃金だけでは、生活できなくなったのです。
あるものは、海外からの家族送金に頼り、あるものは観光関係の職業で得られるチップでカバーし、
あるものは、外国企業に勤めて正規以外の賃金を取得し、あるものは、特技を生かして
家庭教師や修繕サービスで副収入を得たり、あるものは、勤め先でモノを横流しする、
レジで売り上げをごまかす、賄賂を得たり、便宜を供与してもらったりして対処しています。
横流ししたり、国のものを盗んで手に入れたりすることを、
「解決する」という言い方で表現するようになりました。
一方、政府は、こうした社会現象を見て、1993年から自営業を大幅に認める政策を打ち出し、
現在、自営業者は、20年で20倍増加して42万人に達し、
経済活動人口510万人の10%近くになろうとしています。
実際、ハバナ市では、各地にパラダール(民間のレストラン)、
露天商、各種修理店が目につくようになりました。
外国人観光客は、1990年の30万人から10倍の300万に達し、
観光客向けのいろいろな商売が目につきます。
観光客のもっている日用品をキューバ人も見て、羨望心がかきたてられます。
自営農は、この5年間で5万人から22万人に増え、未利用地の使用権を取得した
新たな農民の中にニューリッチ層が生まれつつあります。
こうして、キューバは、残念ながら、それぞれが、
カネ、カネ、カネとより多くの収入を追い求める時代になってしまいました。
思いやり、連帯が忘れられ、何よりも自分と家族の問題を解決することが最優先の社会となりました。
(ラウル議長も嘆くキューバ社会の実態より)
-----------------------------------------------------------------
重要なのは、前回の記事で紹介したように、この増えつつあるニューリッチな自営農が
実は新藤氏が批判している都市の有機農業者であるという点である。
こういう都合の悪い部分をサラッと流すのは絶賛者と大差ない態度だろう。
今のキューバ社会は徐々にだが市場化されている社会であり、
自由経済の中で淘汰された人間に対するケアが不十分だという意見なら納得できる。
(それも、この不十分さは長年の経済制裁と金融制裁、国際政治からの迫害に大きく起因する)
だが、「キューバは、残念ながら、それぞれが、カネ、カネ、カネと
より多くの収入を追い求める時代になってしまいました。思いやり、連帯が忘れられ、
何よりも自分と家族の問題を解決することが最優先の社会となりました。」と断言するのはおかしい。
例えば、日本でイジメを黙認したり、時には率先してイジメる教師がいたからといって、
日本の教育は最悪なレベルにまで堕落したと結論付けられるだろうか?
新藤氏の言葉は、それと同じで極端なのである。
(そういう無茶な主張をするため、氏はキューバの市場の導入が社会の悪化を招いたと
主張する一方で、さらなる市場化を望むという矛盾した態度を取っている)
教育も駄目!医療も駄目!農業も駄目!
自分たちが悪いのにアメリカの経済制裁のせいにする!国民は金の亡者!
こういう主張を聞いて喜ぶのはどこの国だろうか?
問うまでもない。
次回、キューバ批判者の致命的な問題点について語ろうと思う。