時事解説「ディストピア」

ロシア、イラン、中国等の海外ニュースサイトの記事を紹介します。国内政治、メディア批判の記事もあります。

キューバの有機農業③

2015-05-07 23:15:21 | キューバ・ベネズエラ
キューバ研究者の新藤通弘氏いわく、日本人しか注目していないキューバの有機農業。


今回は、アメリカの農業NPO、ロデール研究所からの記事を紹介したい。


------------------------------------------------------------
キューバ革命から約30年後の1991年、ソ連が崩壊し、
キューバはほぼ一夜にして絶望的な食糧危機に陥りました

~(中略)~

この危機を緩和する主要な戦略の一つとして、都市に住む人たちが、都市農業を実施しました

――人々は裏庭を耕したり、放棄された土地や、閉鎖された製糖工場の敷地を、
持続可能な野菜生産や林業などの用途に解放することによって新しい命を吹き込んだのです。


政府が危機的な状況への対応策として自由市場を刺激したために、
今ではハバナ市内で十分な量のオーガニック農産物が育てられ、
250万人の市民一人ひとりに、毎日最低300グラムの果物と野菜が供給されています


私たちが会った都市農家の中には、
とても安定した職を離れ、初めて農業に従事することになった人もいました。

例えば、私たちは「チュチョ」という人に会いました。チュチョは、以前は獣医だったのです。
彼は、当初、自分の子供たちを食べさせるために農業に転向しました。

彼が言うには「1日に卵1個しかとれなくて、それを子供2人で分け合うという状況に気づいた時、
手遅れになる前に何かを変えようと決意したのです。」とのことです。

彼と以前化学者だった彼の奥さんは、今では2つの農場を経営していて、
前の職業で得ていたよりもずっと多くの収入を得ています。



もう一つの戦略というのは、大規模国営農場を小規模の協同組合に分割してきたことです。
それは協同生産基礎単位(UBPC)と呼ばれているものです。


私たちは55軒の農家を雇っているUBPCの一つを訪ねました。

彼らは合計約3.2ヘクタールの土地を耕作していて、
それぞれの農家の収入は、国民の平均月収の約4倍です。

彼らは食物を一般の市場で販売する前に、社会義務の一端としてまず地域の学校、
病院、老人ホームに供給しなければならないという事情があるにもかかわらず、
こういった成果をあげているのです。


キューバにおける都市農業成功の鍵は、農場が生産物を買う顧客の家の近所にあるということです。

例えば、私たちが会ったもう一人の「アメリカ」という名前の農家は、
自宅近くの土地を隣人の助けを得て耕作しています。
彼女は社会義務を果たしたあとで、改装した鉄道車両で農産物を売っています。
かつての鉄道車輌も、今や道沿いで、野菜直売所として活躍しているのです。

ハバナ内外のあちこちにあるこのような野菜の販売所が、
毎日、数百、数千というお客さんを引き寄せているのです。



都市農業成功のもう一つの鍵として、この国が大学の学外教育活動の改革と活性化に取り組み、
現在にまで至ったことがあげられます。この国のいたる所で、学外教育者と呼ばれる人たちが、
本来は「解放」と称される「民間教育」のモデルを厳格に守っているのです。

このモデルでは、教師が生徒より重要だと考えられることは決してなく、
教師も生徒もその過程で共に学び、経験を共有するのです。


キューバにおける学外教育の本質的な目標は、
伝統的な生産体系に新たな技術を織り込んでいくことです。

農家というのは何をどのように生産すべきかについて一番正しく判断できる人だと考えられています。
ある学外教育者が言ったように、「農家は自分が食べないようなものは育てるべきではない」のです。

キューバの持続可能な畜産生産の達成率は、野菜と果物のそれに比べると遅れています。
もっとも、豚肉と鶏肉の生産が、今では小規模農家のより多様化した農業体系で実施され始めていて、
キューバ危機以前の水準に達しているというのは目を見張ることです。

その頃はすべての家畜が従来通りの柵で囲われた施設で育てられていました。
キューバで実施された大学の調査によると、牛20頭で行う酪農が
最大の効率を上げると結論づけられました(なお、この調査は
彼らが開発した持続可能性指標を用いて行われたものです)。

http://newfarm.rodaleinstitute.org/japan/features/200304/200304052Cuba/SJ_cuba.shtml
--------------------------------------------------------------


前回、新藤氏の主張におかしな点がいくつかあると述べ、
その1つとして「キューバの有機農業に注目しているのは日本だけ!」を挙げた。


氏の奇妙な主張は他にもあり、例えば、上にもあるように
キューバ農業を支持する人間は、都市での自給が可能であることに触れているのに、
新藤氏は国全体の自給率に言及して、自給率100%など神話に過ぎないと述べている。



他にも、キューバを実際に視察して高い評価を下した人間には
上手くできている所だけ案内してもらっているのだ」と述べ、
キューバの食糧自給率が上昇したという統計結果については
捏造されたデータだ」と述べている。


その一方で、自分と話した学者や農家や議員の話を持ち出して、
「キューバの農業は上手く言ってないと現地の人も言っている」と主張する。


こういう都合の悪い証言や統計を嘘だの捏造だのと言って無視をし、
他方、自分に都合の良い意見は事細かに取り上げる態度は、
中国政府の批判者の声をピックアップして
「ほらね、中国の人も自分の国がおかしいって思ってるんだよ」と語る右翼によく似ている。



----------------------------------------------------
筆者(新藤)は、キューバ現代史研究を専門としていますが、結論からいいますと、
「世界の視線が熱くキューバ(の有機農業)に集まっている」という実情はありません。


ここ5年間キューバ国内も含めて発行された研究書(英語・スペイン語)の中で、
キューバの有機農業を専門的に論じた本も、論文も見たことはありません。

http://estudio-cuba.cocolog-nifty.com/blog/2011/07/post-c21a.html
----------------------------------------------------


ところが、この記事が書かれた2011年の12月に
フロリダ大学から研究書が出ちゃったのだ。



もちろん、「記事が書かれたのは7月だろ」と反論することも可能だが、
研究書がないから注目されていないというのは論理が飛躍しているだろう。


キューバの有機農業が日本に紹介され始めたのは2003年ごろだが、
この時期には英語論文でもキューバの有機農業に着目したものが多く執筆されている。
(Googleスカラーで検索をかければ、容易に気がつくことだ。)

新藤氏が批判している吉田太郎氏の著作はちょうどこの時期に執筆されたもので、
「キューバの有機農業が世界で注目されている」という主張はこの意味において正しい。


新藤氏の反論は吉田氏の発言された当時の状況を無視したものだ。


さて、件のフロリダ大学からの研究書(Sustainable Urban Agriculture in Cuba)だが、
この本は、著者のSinan Koont氏が数年をかけて
キューバの都市農業をフィールドワークした研究結果をまとめたもので、
新藤氏が語る「有機農業への幻想的な願望によるキューバ訪問とその報告記」とは
レベルそのものが違うものである。

次のサイトでPDF形式で入手できる。英語に自身がある人はイントロダクションだけでも読んで欲しい。
(http://muse.jhu.edu/books/9780813040431/)


この学術書は、新藤氏がキューバの農業事情を知るための
参考文献リストに書かれていない
ものなので、その意味でも読む意義はあるだろう。
意図的にリストからはずしたかどうかは不明。本人のみぞ知る)

学者だけでなく、アメリカのジャーナリストたちも有機農業に注目している(2013年時点)
http://pulitzercenter.org/projects/cuba-agricultural-sustainability-government-economy-organoponico-vivero-alamar

アメリカという国は実に不思議な国で、
政府は侵略主義丸出しのくせに、個人は参考になる意見を提言する人がそれなりにいる。
実際、サイードやチョムスキーもアメリカの知識人だ(問題は彼らの意見が無視されていることだ)


ちなみに、新藤氏はハバナ大学のリカルド・トレス教授の話を取り上げて、
自説の正しさを主張している
が、ハバナ農業大学の持続農業研究センターのルイス・ガルシア教授の
話は載せていない。同じハバナ市内に大学があるのだから、足を運んで話を聞けば良いのに。


ガルシア教授は「キューバ式持続農業」と題し、次の提案を行っている。

・総合的病害虫管理(IPM)・有機肥料およびバイオ肥料
・土壌の保全および回復 ・馬や牛など動物を耕耘に活用
・間作および輪作 ・作物生産と牧畜とを組み合わせた混合農業
・代替となる機械化 ・都市農業、および地域の参加
・地域の事情に合った代替の獣医学 ・土地の協同利用の促進
・農業研究の改善 ・農業教育の改革


新藤氏の最もおかしな点は、キューバの農業学者……というか、
キューバ政府が予算を下ろして持続可能な農業研究をわざわざしているにも関わらず、
まるでキューバ政府が有機農業を軽視しているかのような論調を示していることだ。


もちろん、立場によって取り上げたい人物は自ずと選択されるので、それ自体はおかしくないのだが、
できるだけ客観的な資料にもとづいてキューバの真実をお届けしたいというサイトの説明は
一体どこに行ってしまったのかなと思わなくも無かったりする。


最新の画像もっと見る