時事解説「ディストピア」

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キューバの有機農業②

2015-05-07 21:50:25 | キューバ・ベネズエラ
恐らく、日本語で読める最も「バランスの良い」キューバ情報サイトは、
「キューバ研究室」だろう(http://estudio-cuba.cocolog-nifty.com/blog/)。


このサイトは現役のキューバ研究者が何人かで運営しているブログで、
キューバに関する最新情報を読むことができる。講演会の情報も掲載されている。


しかし、このサイトは参考になる情報も多い一方で、首を傾げたくなる主張も散見される。
例えば、キューバの有機農業に関する説明は、一面的というか極端に感じた。


キューバの有機農業は「世界的に」有名で、
日本でもキューバといえば有機農業として紹介されることが多い。


この場合、キューバの農業政策を褒める意味合いで語られるのだが、
同サイト執筆者の新藤氏によると、キューバの有機農業が凄いというイメージはゲバラに憧れ、
社会主義政権に夢を見たい左翼の願望から来たもので、実際には惨憺たる状況であるらしい


実際、キューバの有機農業はソ連崩壊後に同国からの支援が得られなくなり、
同時にアメリカからの経済制裁によりキューバの貿易能力が極端に制限されたために、
やむを得ず始めたものであり、悪く言えばその場しのぎのものでしかない。

有機農業といえば聞こえは良いが、大量生産するにはコストがかかり、
品質も劣るので商品作物としては不十分だし、作物の種類も限られているので、
これだけで国内の食糧事情を万事解決できるかといえば、そんなことはない。


その意味では、新藤氏の説明はその通りなのだが、言葉の端々に違和感を覚える。

例えば、同氏によると、実際にキューバ農業を視察して高い評価を下している人物は、
キューバのイメージアップのために良く出来ている農場だけを案内されていることになり、
キューバの農業に注目しているのは日本ぐらいなもので、世界的に有名なわけではなく、
キューバの学者は、自国の農業が最悪のものだと告白しているということになる。



ところが、実際には、キューバの農業は国連にも評価されている。
http://www.unep.org/greeneconomy/SuccessStories/OrganicAgricultureinCuba/tabid/29890/Default.aspx

それどころか、食糧保障運動に携わるアメリカ人たちにも理想視されている。
http://civileats.com/2010/04/21/the-exceptional-nature-of-cuban-urban-agriculture/

もちろん、この礼賛はキューバとアメリカのシステムの違いを無視したものであるのだが、
少なくとも「キューバの有機農業をベタ褒めするのは日本だけ!」という主張は間違っている。


そればかりでなく、新藤氏はアメリカの経済制裁を軽視しており、
それは政府によるプロパガンダの一種として無視を決め込んでいる。


実際にはどうか?

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しかし、キューバ革命から約30年後の1991年、ソ連が崩壊し、
キューバはほぼ一夜にして絶望的な食糧危機に陥りました

――が、それは、農業改革の速度を劇的に加速しました。

アメリカは、東欧、ソ連に続き、キューバでも
新たに資本主義反革命を引き起こす絶好の機会だと察知し、
1992年にトリチェリ法を、さらには1996年にヘルムズ・バートン法を成立させました。

アメリカがこれらの法規制によって、キューバの輸出入禁止を強化したので、
キューバ国民にとって事態はさらに悪化したのです。


今回の視察旅行を通じて我々はたくさんの人たちに出会いました。
行く先々で皆、口々にかなりの感情をこめて対ソ貿易の消滅と
アメリカの法規制という歴史的なワンツーパンチの衝撃について話していました。

ところが、どういうわけか誰もがそれぞれふりかえって
恨みがましい言い方にならないようにしようとしていました。

それどころか、押しつぶされそうな状況に直面しながらも、
自分たちが成し遂げてきたことについて誇りをもって語っていました。

それまで輸入によってもたらされていた濃縮飼料、肥料、殺虫剤や
その他の農薬が不足したために、この社会に暮らす人々は政府や大学の援助を得て
オーガニック農業が広範囲で多様でよく普及することを実現するようにと、
キャンペーンを大々的に展開したのです。まだ完全ではないまでも、
その成果は驚くべきもので、キューバ文化に依然として現存する、
革命の精神がもつ不朽の力というものを証明しています。

http://newfarm.rodaleinstitute.org/japan/features/200304/200304052Cuba/SJ_cuba.shtml
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このヘルムズ・バートン法というのは全4章で構成されており、

①キューバへの投資の禁止とキューバの国際金融機関への加盟反対
②暫定政権の樹立とその後の選挙による民主政権の樹立の支援
③国内の亡命者の資産を取引に使っている他国の法人、個人に対し訴訟を起こす権利を認める
④上記に該当する第三国企業の幹部社員と株主、その家族の入国拒否を認可

というもので、要はキューバに資金が入らないように圧力をかけたのである。


社会主義国であっても、資金は必要だ。資金がなければ輸入ができない。
輸入ができなければ原料がない。原料がなければ商品が作れない。

この法律の効果は絶大で90年代のキューバは他の共産主義国同様、甚大な被害を受けた。

ところが、キューバ研究室には、この制裁の詳細に関する記事がない。
1つぐらいはあるのかもしれないが、キューバを考える上で重要な問題が軽く扱われている。


次回、新藤氏いわく、日本人しか注目していないはずのキューバの有機農業について、
アメリカのNGOであるロデール研究所(ペンシルヴァニア州)の翻訳記事を紹介しよう。


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