もじもじ猫日記

好きなこといっぱいと、ありふれない日常

「ゆれる」

2006-09-01 21:48:41 | 映画
「蛇イチゴ」未見なんですが、
西川監督、すごい才能あらわる、です。

東京で写真家として成功した猛は、
母の一周忌に田舎に戻る。
日帰りするつもりの軽い気持ちで。
宴席で客に気をつかう兄・稔をよそに、
うわついた会話で父の怒りをかう猛。

実家のスタンドで働いていた幼馴染の智恵子。
兄へのあてつけだったのか、ほんの遊びだったのか、
猛は智恵子と関係をもってしまう。
しかし智恵子は猛の写真集を買い集めるほど、
昔の気持ちをひきずっていたのだった。
それに気がついて慌てて立ち去る猛だったが、
このことが一連の悲劇の幕開けとなる。

翌日三人で出かけた渓谷でも、
猛は智恵子に素っ気無い。
それに気づいてか気づかずか、
ひとり水辺ではしゃぐ稔。
ぎくしゃくした空気の中、一人でつり橋を渡ってしまう猛。
残された稔と智恵子。
そして、智恵子がつり橋から落下する。
その場に一緒にいたのは、高い場所が苦手な稔だけだった。
”落ちた”のか”落とされた”のか。

まるで”藪の中”のように、語る度に真実が変化する。
智恵子はなぜ死ななくてはならなかったのか。

兄をかばおうとする弟を演じているかのような猛。
今までの鬱積を払うように、奔放に語る稔。
肉親であるが故に、憎しみ会えばきりが無いのは、
父と叔父もおなじようだが、
猛と稔は”ゆれる”だけではなくねじれている。

香川照之が上手い。
部屋で洗濯物を畳んでいる背中に、
一人身であるのに父の世話までも背負い込み、
女性にも弟のように上手く立ち回れず、
頭を下げるばかりの人生の悲哀が全て現れている。
拘置されてからの面会時、裁判時の気持ちのゆれは、
もっと見事だ。

オダギリジョーは、
兄を信じているようないないような、
本心の掴みにくい役をこなしている。
個人的には、
自分の言葉によって兄ばかりか華やかもを失ってから
ラストへ向かうあたりが見事かと。

久々に見た新井君も、お手の物のやんちゃ青年から、
時を経て父親になり、
落ち着いた暮らしを送る常識人としての演じ分けがしっくりきた。

シーンごとに監督のセンスの良さが見て取れる。
母親の残した八ミリ。
不安定な構図や、ゆれるつり橋。
夕べ自分が抱いていた女が死体となったことに、
嘔吐する猛。
田舎暮らしの閉塞感。
父親の病の兆し。
結局最後まで”藪の中”の真実。
などなど、脚本も上手い。

含みのあるラストが、希望に繋がっていればいいのにな、
と、個人的には思った。
コメント (11)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする