横浜市神奈川区の大口病院(横浜はじめ病院に改称)で2016年9月、入院患者2人が相次いで中毒死した事件で、うち1人の男性(当時88)を殺害したとして、神奈川県警は7日、病院の看護師だった久保木愛弓(あゆみ)容疑者(31)=横浜市鶴見区=を殺人容疑で逮捕し、発表した。

 捜査関係者によると、久保木容疑者は逮捕前の任意聴取に対し、2人とも消毒液を体内に混入させて殺害したことを認めたという。

 久保木容疑者は「他の入院患者の体内にも消毒液を入れた。20人ぐらいやった」とも供述。動機については「自分が勤務のときに亡くなると、家族への説明が面倒だった」などと説明したという。

 県警は2人を含む計4人の患者の体内から消毒液の成分を検出しているといい、慎重に解明を進める。

 神奈川署特別捜査本部によると、逮捕容疑は16年9月18日、西川惣蔵(そうぞう)さん=横浜市青葉区=の体内に何らかの方法で消毒液を混入させ、殺害したというもの。

 久保木容疑者は容疑を認め、「申し訳ないことをしてしまった」と話しているという。

 西川さんは同日午後4時50分ごろから心拍数が低下し、午後7時に死亡が確認されたが、いったんは病死と診断された。

 2日後の20日、同室に入院していた八巻信雄さん(当時88)=横浜市港北区=が死亡。司法解剖の結果、殺菌作用が強い消毒液「ヂアミトール」に含まれる界面活性剤の成分が検出され、

 点滴にも同じ成分が混入されていた。このため、西川さんも司法解剖が行われ、同様の中毒死と判明した。

 この時期に死亡した他の入院患者についても県警が調べたところ、男性(当時89)と女性(当時78)の体内からも界面活性剤の成分が検出されたという。(山下寛久、伊藤和也)

現在の姨捨山 

 「大口病院は、ほかで見放された終末期の患者が、比較的安く入院できる病院です。

 近所の人が大口病院に入院すると、『ああ、あの人ももうだめか』と誰もが思っていた。

 病院前の道路は“霊柩車通り”と呼ばれ、亡くなる入院患者は常に多かった」

 病院の近所に住む男性はそう語る。

 事件が発覚した4階では、7月1日から9月20日までに48人が死亡しており、ほかにも犠牲者がいる可能性は高い。 

 未使用の点滴用の輸液に、消毒薬を混入させる犯行方法から、病院内部の人間に疑いの目が向けられている。

 「亡くなられた患者さんには本当にお気の毒ですが、事件を知ったときは、ついに起きたか、と思いました。ここは、不満を持っている働き手がとにかく多かったので」

 こう語るのは、同院にパート看護師として勤務した経験がある現役看護師、安藤宏子さん(40代、仮名)だ。

 「もともと大口病院は、今のような終末期の病院ではなく、小児科、産科、

 泌尿器科が評判の総合病院でした。

 しかし1984年、大口駅の反対側に系列の大口東総合病院が出来て、終末医療とリハビリ中心の病院に転換。

 『大口病院は勤務環境が悪い。できれば東病院で働きたい』と、不満をもつ看護師が多かったのです。

 外来担当は看護師が20~30人、(今回事件が起きた)病棟担当はもう少し多かったけど、そのほとんどが准看護師でした。私もパートで、時給は1700円と、相場より安かった。

 パワハラも蔓延し、看護師不足が常態化していた。

 常にハローワークに求人をかけている状態でした。採血など初歩的なスキルさえ未熟な看護師もおり、ストレスで精神を病んだり、ほかの病院を解雇された看護師もいました」

 同院に通院したことのある近隣住民はこう言う。

 「外来は待ち時間が少なく『穴場』だと評判でしたが、看護師の態度は、がさつで丁寧ではなかった」

 患者が亡くなった4階のナースステーションには、使用前の点滴50本が箱に入れて置かれていた。

 そのなかの10本の電解質輸液剤に、保護シールの上から、ゴム栓に注射針で刺したような穴が開いていた。

 捜査関係者が語る。

 「院内に防犯カメラがないため、犯行証明ができないでいる。

 ゴム手袋をしていれば指紋も残らない。

 そのため、病院関係者を取り調べても、本人が否定すれば、それ以上追及できないでいるのです」

 事件発覚後、病院4階では患者は亡くなっていない。

 48人のうち、いったい何人が「殺人点滴」の毒牙にかけられたのだろうか。