(本頁は「鳥海山の花図鑑/初夏1」の続きです。)
本頁では、概ね六月から七月上旬にかけて咲く花のうち、
雪渓や雪田の際や湿地、稜線の風衝地に生える花たちを扱ってみた。
場所的には西鳥海山の笙ヶ岳から長坂道を辿り、御浜までの稜線と大平ルートならば河原宿、
鉾立ルートならば賽の河原付近が該当する。
なお滝の小屋ルートの雪渓地帯や祓川ルートの大部分は初夏にはまだ雪に覆われているので花は見られない。
何か間違い等にお気づきの方は遠慮なくご指摘頂きたい。
2018/06/10 長坂道稜線
ミツバノバイカオウレン(コシジオウレン) Coptis trifoliolata
日本海側高山特有のオウレンで、雪田や雪渓近くの雪が融けた場所でいち早く咲く。
花の径は1.5センチ程度。前頁のミツバオウレンに似るが、花弁状に見える萼は楕円形、
花茎は褐色を帯びる点などで識別する。なお本物の花弁は花の中心近くに見える黄色い点。
2018/06/10 少し花の古くなった群生。賽の河原にて。
2020/06/24 新鮮な花のアップ。
イワカガミ Schizocodon soldanelloides
高山で見かける小型のものをコイワカガミと呼ぶこともあるが、識別不可能なのでイワカガミとした。
比較的低所(鉾立付近)から雪渓の近くや湿地、外輪山の岩場など広範囲で見かける。
一般的なイワカガミ。2015/05/30 鉾立付近にて。
こちらは花色が白っぽい。2018/06/10 御浜付近にて。
ヒナザクラ Primula nipponica
東北地方の高山限定のサクラソウ類。
雪田、雪渓の際や湿地に群生する。雪消えの遅い場所では盛夏や秋になって咲き出すこともある。
2020/07/30 長坂道稜線近くの群生。
2020/07/17 鳥海湖にて。
イワイチョウ Nephrophyllidium crista-galli
ヒナザクラ同様、雪田、雪渓の際や湿地、場合によっては雪解け水で出来た池塘の中に群生する。
雪消えの遅い場所では盛夏や秋に咲き出すこともある。名の由来は秋の黄葉をイチョウに見立てたとも聞く。
ショウジョウバカマ Heloniopsis orientalis
分布域の広い植物で山麓、低山帯の林中から高所の雪渓周辺まであちこちで見かける。
イワイチョウ 2020/06/24 ショウジョウバカマ 2018/06/10
ハクサンイチゲ Anemone narcissiflora var. japonica
ポピュラーな高山植物だが、意外にも東北地方の高山には少ない。日本海側では鳥海山が北限で月山、朝日、飯豊連峰。
奥羽山系では羽後朝日岳が北限で焼石岳、不忘山に有るのみ。
東北にはエゾノハクサンイチゲ A. n. var. sachalinensis も有るとされるが、鳥海山のものはどちらなのかよく分からない。
鳥海山では西鳥海山(笙ヶ岳~御浜~御田ヶ原)の稜線上、風衝地に多く、大群生するが、
何故か鳥海山本体山頂部や東側、南側の斜面では全く見かけない。
その開花は早く、六月上中旬に盛りになるが、御田ヶ原など場所によっては、七月以降にも咲いている。
また少数ながら秋に咲くものもあった。
白い花弁のように見えるものは萼。花弁は退化して無いとされる。
2020/06/24 長坂道のハクサンイチゲ群生。バックは笙ヶ岳、手前右の黄花はミヤマキンバイ。
2020/06/24
よく見ると、花が一輪しか付かないタイプもあり、チョウカイイチゲ(イチリンハクサンイチゲ)と呼ばれることもある。
このタイプは鳥海山特産かと思ったが、月山でも多く見かけた。
ハクサンイチゲ 2020/06/24 チョウカイイチゲ 2018/06/10
ミヤマキンポウゲ Ranunculus acris var. nipponicus
湿り気のある草叢に生える。同じキンポウゲ科でもハクサンイチゲ(Anemone)やシナノキンバイ(Trollius)とは異なり、
黄色いのは花弁(光沢がある)で陰に緑色の萼がある。是非確かめてみて欲しい。
なおシナノキンバイは私が今まで歩いた範囲では、鳥海山には分布していないようだ。
2020/06/24 御浜付近にて。
チングルマ Geum pentapetalum
雪田や雪渓の近く、湿地では岩上などに群生するが、御浜や御田ヶ原では比較的乾いた場所にも見られ、
ハクサンイチゲと混生することもある。雪解け後ほどなく開花し、夏山シーズンには実姿のことが多いが、
雪消えの遅い場所では真夏に咲き出すこともある。
一見、草のようだが、小低木。花だけでなく実姿も愉しめるし、秋の紅葉も素晴らしい。
2020/07/30 岩棚の上に生えた株。
2016/07/02 ハクサンイチゲとチングルマの混生。御浜にて。
チングルマの実姿。2018/07/20
キバナノコマノツメ Viola biflora
奥羽山系では代表的な黄花スミレだが、鳥海山にはあまり多くない。
2020/06/24 御浜付近にて。
ミヤマウスユキソウ(ヒナウスユキソウ) Leontopodium fauriei
エーデルワイスの一種で東北地方の限られた高山の風衝地に産する。
月山や朝日連峰には多いが、秋田駒ヶ岳と鳥海山には少ない。ここ鳥海山では御田ヶ原でしか見たことがない。
白い綿毛に包まれた花弁状のものは葉であり、本当の花(頭花)は中心部の黄色い部分。
花持ちが好く、長期間咲いているように見えるが、盛りはおおむね7月上旬まで。
2020/06/24 御田ヶ原にて。
2020/07/17 御田ヶ原にて。
「初夏1」に戻る。
「初夏3」に続く。
鳥海山の素晴らしいお花を見せていただき、ありがとうございます。
昨秋に一度だけ訪れましたが、次回はお花の盛期にぜひ行きたいと思います。
さて、イワカガミとコイワカガミの識別は私も間違えたことがあります。
山渓ハンディ図鑑によると、イワカガミの分布域は北海道南部から九州なのに対し、コイワカガミの分布域は本州(中部地方、大峰山)に限られるので、鳥海山で観られるのはイワカガミでよいと思います。
また、葉に観られる鋸歯の数はイワカガミが両側に10数個、コイワカガミは両側に8個なので、私はそれを識別の手がかりにしています。
シロバナイワカガミは、私は一度だけしか観ていませんが、昨年平ヶ岳で幸運にも観ることができました。花弁だけでなく萼も真っ白でした。
下記の記事の下の方に載せておりますので、よろしければご覧くださいませ。
https://blog.goo.ne.jp/shu2702/e/690f32fbeaded0aca35f64d5ab67019e
改訂新版・日本の野生植物(平凡社)によると、
イワカガミ、コイワカガミ、オオイワカガミの三種はDNA集団構造解析でも全く違いが無いので、イワカガミで一本化しておりました。
私もその見解に従い、今回はイワカガミとさせて頂きました。
なお平ヶ岳の白花みごとですね。これは、ハクサンチドリやカタクリなどでもときどき見かけるアルビノ、品種レベルの違いだと思います。
一方、平凡社図鑑ではハクサンシャジンとツリガネニンジンも同一との見解でしたが、こちらは個人的には現段階ではいまだに受け入れがたく、
後の盛夏編ではハクサンシャジンを通す予定です。
植物の分類ってホント難しいですね。