今年だけでも日本劇場公開作が3本という多作ぶりのフランソワ・オゾン監督。デビュー当初こそゲイである自身のセクシャリティと、日本では所謂“オシャレ映画”に分類されてしまうカラフルな画面作りに、たっぷりの毒気を盛り込む作風で注目を集めたが、今やヒューマンドラマ、実録モノ、サスペンス等々あらゆるジャンルを手掛ける名匠となった感がある。最新作『私がやりました』は代表作『スイミング・プール』よろしくプールサイドから幕を開けるが、同じサスペンスでもこちらは愉快なサスペンスコメディだ。
女優志望のマドレーヌと駆け出し弁護士のポーリーヌ。若さと美貌があってもいかんせん金がない2人は、パリのオンボロアパートでルームシェアをしている。今日も今日とて大家に家賃を取り立てられる有様だ。そんなある日、マドレーヌに大物演劇プロデューサー殺害の容疑がかけられる。ハーヴェイ・ワインスタイン事件よろしくあわやという事態に追い詰められていたマドレーヌだが、それでも殺しはやっていない。2人は殺人犯を騙ると世間の注目を集め、一躍時の人となるのだが…。
オゾンらしく二転三転、いや四転五転と捻りの効いたサスペンスだ。1935年を舞台に#Me tooを描いたフェミニズム映画とも見えるが、角度を変えればラディカルな社会運動、大衆心理への皮肉とも見て取れる。マドレーヌへ寄せるポーリーヌの献身は同性愛的な好意にも見え、それは中盤から登場するイザベル・ユペールによってオゾン映画ならではのクィアネスを強めていく。マドレーヌ役ナディア・テレキスウィッツ、ポーリーヌ役レベッカ・マルデールはとびきりチャーミング。デプレシャンの『いつわり』で短い出番ながら印象を残したマルデールはさっそくオゾン映画の主演を射止めた。大根役者すぎてトーキーに移行できなかった元サイレント女優のユペールは余裕綽々で、若手2人を前に大芝居で笑わせてくれる。
豪華なプロダクションデザインに笑いとサスペンス、程よい色気が詰まって上映時間はたったの103分。ツイストの効かせ過ぎで些か着地点が見えなくなったが、“大衆映画”はこれくらいの塩梅が丁度良いのかもしれない。オゾン、随分毒気が薄れたものの、ウェルメイドな匠の仕上がりである。
『私がやりました』23・仏
監督 フランソワ・オゾン
出演 ナディア・テレスキウィッツ、レベッカ・マルデール、イザベル・ユペール、ファブリス・ルキーニ、ダニー・ブーン
2023年11月3日(金・祝)よりTOHOシネマズシャンテ他全国順次ロードショー