パンデミック只中の2021年、ウィル・フェレルはサタデー・ナイト・ライブ時代からの盟友であるコメディ作家アンドリュー・スティールに「女性へ性別移行した」と告げられる。間もなく還暦を向かえる彼にいったい何があったのか?2024年、再会したアンドリューはハーパーと名を変え、女性として生活していた。かつては安いビールにロードトリップ、場末のバーで見ず知らずの人々との交流を楽しんだハーパーは、果たしてトランスジェンダーとなった今も同じ楽しみを享受することができるのか?ウィルとハーパーは旧交を温めるべく17日間の旅に出かける。
念の為、言っておくとほとんど劇映画のような体裁の『ウィル&ハーパー』はドキュメンタリーだ。2人はNYでSNL時代の同期たちと再会し、ワシントンDCを経てアイオワはじめ地方部へと移動していく。ロードムービーとしても心地よい車窓の光景は、アメリカが一部の進歩的大都市と、多くの辺境で構成されていることがよくわかる。やっぱり可笑しいウィル・フェレルと、コメディの間合いを心得たハーパーの“おかしな2人”の旅路を描く撮影、編集は劇映画と言われてもわからないルックだ。
なんとも人好きのする映画だが、難を言えばあまりにも均整が取れ過ぎていることだろう。全てのシークエンスが予定調和的で、ここにはドキュメンタリーならではの偶発性、事故性がなく、作り手が人間の不可思議さを発見する過程も存在しない。これまでNetflixは低予算のインディーズドキュメンタリーに広くスポットを当ててきたが、昨年の『“Sr.”ロバート・ダウニー・シニアの生涯』同様、スターのネームバリューを活かした本作のような“バラエティ”も真骨頂なのだろう。ウィルとハーパーの老いらくの友情を見て、嫌な気分になる人は誰もいないはずだ。教育ドキュメンタリーとしての機能は十分に果たしている。
『ウィル&ハーパー』24・米
監督 ジョシュ・グリーンバウム
出演 ウィル・フェレル、ハーパー・スティール