※このレビューは物語の結末に触れています※
もしあなたが中間管理職で、チームビルディングに悩んでいるならぜひ『テッド・ラッソ』をオススメしたい。彼の明快かつヒューマニズムなマネージメント術はきっと最高のテキストになるだろう。
いやいや、コロナショックによって誰もが正常な生活、精神の均衡を保てない今日、彼の体現する”kindness”は見る者を励まし、ポジティブな気持ちを与えてくれるハズだ。
いやいや、コロナショックによって誰もが正常な生活、精神の均衡を保てない今日、彼の体現する”kindness”は見る者を励まし、ポジティブな気持ちを与えてくれるハズだ。
サッカープレミアリーグの新監督としてアメリカからテッド・ラッソが招聘される。彼はアメフト2部リーグで弱小チームを優勝に導いた時の人だが、サッカーはオフサイドもわからない門外漢。この仰天人事に地元の熱狂的サポーターは猛反発し、2部リーグ降格にリーチをかけるチーム内も懐疑的だ。それもそのハズ、若い女と不倫した夫から慰謝料代わりに経営権を奪い取ったオーナー、レベッカの目的はチーム運営ではなく、夫への復讐なのだから。
そんな思惑が渦巻くことも露知らず、女房役のコーチ・ブレッド共に渡英したラッソの胸中は何ともシンプルだ。「サッカーのことは知らないけど、まぁ飛び込んでみようか!」
本作の魅力は主人公テッド・ラッソの人物造形だ。彼は”マルボロマン”よろしく髭をたくわえ、お喋りとジョークが大好きなステレオタイプの”アメリカ人”。そして超が付くほどのスーパーポジティブ思考だ。ともすれば鬱陶しいだけの人物をジェイソン・サダイキスは好漢へと仕上げる事に成功しており、テッドの善良さが人々を変えていく様はほとんど聖人君子の域だ。
劇作の基本文法は対立と、”枷=かせ”と呼ばれる主人公の抱える問題に焦点を当てることだが、テッドの前ではそのどれもが大した問題になりえず、前述のレベッカ女史含め、皆が心を許してしまっているのがユニークだ。従来のスポ根ドラマが様々な困難と逆転勝利にカタルシスを見出してきたのに対し、『テッド・ラッソ』はただただ”kindness”で見る者の心を満たしていく。落ちこぼれチームが逆転勝利…という定石を外し、スタープレーヤーであるジェイミーのパスに達成を見出したシーズンフィナーレはその象徴だろう。
ジェイソン・サダイキスを囲んだキャストアンサンブルも楽しい。時に俳優以上のカリスマ性を発揮するサッカー選手役の俳優たちのリアリティは素晴らしく、中でもピークを過ぎたベテラン選手ロイに扮したブレット・ゴールドスタインの昔気質な風情は最高だ(本来はコメディアンだという)。彼と恋仲になるキーリーを演じたジュノー・テンプルは、すっかり大人の俳優へと成長して子役時代の危ういふくよかさがなくなったが、天真爛漫さはそのままにあけっぴろげなキャラクターを好演している。
そして『テッド・ラッソ』におけるサダイキスとの”ツートップ”がレベッカ役のハンナ・ワディンガムだ。はてどこかで見た顔だな…と思えば、『ゲーム・オブ・スローンズ』でサーセイ・ラニスターを折檻したセプタ・ユネラではないか(Shame〜!)。夫に去られ、女手1つで露頭に迷うクラブオーナーに扮した彼女のゴージャスさといったら!テッドが毎日差し入れる手作りクッキーを嬉しそうに頬張る姿も何ともキュートで、彼女の演技レンジの広さに感服し通しだった。レベッカとキーリーの連帯は清々しく、第6話ではまさかの「レリゴー」に泣かされようとは…。
シーズンファイナル、強豪相手の決勝ゴールに湧いたのも束の間、まさかの逆転負けにチームはいよいよ2部リーグに降格する。それでも「じゃあ、次の目標は1部昇格だね!」。この前向きさが何ともキモチいい快作である。
『テッド・ラッソ 破天荒コーチがゆく』20・米、英
監督 トム・マーシャル
出演 ジェイソン・サダイキス、ハンナ・ワディンガム、ブレット・ゴールドスタイン、フィル・ダンスター、ジュノー・テンプル、ブレッド・ハント