長内那由多のMovie Note

映画や海外ドラマのレビューを中心としたブログ

『ダーティハリー2』

2025-01-14 | 映画レビュー(た)

 1971年の『ダーティハリー』は大ヒットを記録したものの、“ニューシネマの女神”とも言われたポーリン・ケイルを始め、多くの批評家から警察権力、体制を礼賛していると批判された。『ダーティハリー2』は68年のイーストウッド主演作『奴らを高く吊るせ!』のテッド・ポストが監督を務め、脚本に後の『サンダーボルト』を手掛けたマイケル・チミノが参加するなど、“イーストウッド映画”としての文脈が色濃い続編である。

 法の裁きを免れた凶悪犯が次々と殺害される事件が発生。白昼堂々、車両を停止させての犯行にハリー・キャラハンは交通警官が関わっているのではと気付く。警察内部に暗躍する私刑集団との戦いは“人は人を裁けるのか?”というイーストウッド終生のテーマでもあり、これは『陪審員2番』まで反復されていくこととなる。「法律を守る。腐っていても、別の秩序ができるまでは守るんだ」と言うハリー・キャラハンは国家権力の信奉者でも無頼の徒でもない。彼はアメリカが標榜する自由の賛同者なのだ。


『ダーティハリー2』73・米
監督 テッド・ポスト
出演 クリント・イーストウッド、ハル・ホルブルック
 
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

『ダンサー イン Paris』

2023-09-04 | 映画レビュー(た)

 セドリック・クラピッシュ61歳、なんと若々しい新作か!パリ・オペラ座バレエ団で将来を嘱望されるダンサー、エリーズは公演中のアクシデントにより足を痛め、キャリアの中断を余儀なくされてしまう。これまで何度も故障してきた足が完治するまではリハビリと手術を重ね、2年がかかるかも知れない。伸び盛りの20代にとってこの歳月はあまりにも重い。新たな人生の模索に直面したエリーズは、やはりかつてバレエダンサーを志し、現在は女優に転向した友人の誘いでブルターニュでの調理補助の職に就くことになる。

 挫折から始まるエリーズの物語には愛すべき人々が集い、映画には心地よい風が吹き抜けていく。20代をとうに過ぎてしまった筆者も、人生におけるこの季節がいかに出会いとチャンスに満ち、あらゆる苦難も新たな始まりであったことを思い出した。エリーズがブルターニュで訪れたのはパトロンが運営する私設のアトリエ。ここに実在の振付家ホフェッシュ・シェクター率いるコンテンポラリーダンスのカンパニーがやって来る。逆境に直面しているエリーズだが、決して頑なではない。彼女は誘われるがまま少しずつ身体を解放させ、やがてバレエからコンテンポラリーへと転向していく。「コンテンポラリーは重力を感じて、より地面と密接な感じがいい」とまるでこの世の真理を見出したかのように語るエリーズ。あらゆることにオープンでいられるのもこの季節を生きる者の特権だ。

 エリーズを演じるのはパリ・オペラ座バレエ団の気鋭ダンサー、マリオン・バルボー。クラピッシュは2010年にドキュメンタリー『オーレリ・デュポン 輝ける一瞬に』でやはりパリ・オペラ座バレエ団のエトワール、オーレリ・デュポンを追い、ダンスへと深く傾倒していった。オーレリ・デュポンの類まれなカリスマ性と、己の身体に向き合うストイックさ、そしてひたすら反復と探究を繰り返すコンテンポラリーの創作現場をつぶさに見続けた彼が、“踊れる役者よりも、芝居の出来る踊り手がいい”とマリオン・バルボーを起用したのは理に適っている。

 クラピッシュは都市の作家でもある。『スパニッシュ・アパートメント』から始まる“青春3部作”は作品ごとに世界の大都市を舞台にし、観光名所から裏道までくまなく歩いて、フランスの俳優たちを映えさせた。クラピッシュはマリオン・バルボーの身体性はもとより、生来のチャーム(ちょっとハンター・シェーファー似)も撮らえて、パリの美しい景観に映えるエリーズはクラピッシュ映画のヒロインの系譜に連なる。彼女を囲む助演陣では医学療法士ヤンを演じたフランソワ・シヴィルに笑わせられた。“青春3部作”はロマン・デュリス演じる恋多きパリジャン、グザヴィエが主人公だったが、常に全力投球である彼の恋愛体質はどうやら本作のヤンに引き継がれたようだ。

 クラピッシュは20代の等身大を瑞々しく活写するが、それは決して若作りではない。人生のある季節を生きる若者たちを賛歌しながら、61歳の現在へと視点が転換するクライマックスの鮮やかさに思わず落涙させられてしまった。クラピッシュの映画はエンドロールが流れ始めてからも、登場人物の物語はなおも続く。この季節を既に終えている筆者も足取り軽く、一夜の成功と新たな旅立ちを迎えたエリーズに「夢を見続けてくれ」と願わずにはいられなかった。


『ダンサーインParis』22・仏、ベルギー
監督 セドリック・クラピッシュ
出演 マリオン・バルボー、ホフェッシュ・シェクター、ドゥニ・ボダリデス、ミュリエル・ロバン、ビオ・マルマイ、フランソワ・シヴィル、メディ・バキ
2023年9月15日より全国順次劇場公開
 
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

『ダンジョンズ&ドラゴンズ アウトローたちの誇り』

2023-07-06 | 映画レビュー(た)

 RPGゲームの元祖とも言うべきTRPG『ダンジョンズ&ドラゴンズ』はこれまで何度も映像化されてきたものの、長い歴史と強固なファンダムを持つにも関わらずヒットには恵まれてこなかった。11年ぶり4度目の映画化となる本作は人気スターを揃え、ファン以外の層にも広くアピールするユーモラスでフィールグッドなブロックバスターとしてようやく大ヒットを記録(おまけに批評家からも大絶賛)。原作との比較なんて野暮なマネはファンの諸氏にお任せするとして、ファンタジー特有の壮大さよりもハイストムービーとして明確なミッションに的が絞られ、何よりわかりやすいギャグがふんだんに散りばめられているのが本作の勝因だろう。

 嬉々として悪役を演じたヒュー・グラントは脚本を読んで「それで(コレを書いた3人のうち)誰がイギリス人なんだ?」と聞いたそうな。チャーミングなチャラ男ぶりに磨きのかかるクリス・パインと、テキトー男ぶりに拍車がかかるヒュー・グラントが並び立つ様は肩肘張らない本作の魅力を象徴しているではないか。戦闘要員が女性に任されているのも小気味よく、自由自在に動物変化するドリック役ソフィア・リリスがキュート。そして今年45歳を迎えるミシェル・ロドリゲスには貫禄すら漂い、あの『ガールファイト』の眼光鋭い少女が随分立派なスターへと成長したなぁと見惚れてしまった。NetflixのTVシリーズ『ブリジャートン家』でブレイク以後、上り調子のレゲ=ジャン・ペイジの出番が思いの外、短いのは残念だが、彼演じるセクシーパラディンは映画のバランスを崩しかねない色気なので、まぁこんなもので良いのだろう。もちろん製作されるであろう第2弾にはぜひともパーティーを再集結してもらいたい!


『ダンジョンズ&ドラゴンズ アウトローたちの誇り』23・米
監督 ジョナサン・ゴールドスタイン、ジョン・フランシス・デイリー
出演 クリス・パイン、ミシェル・ロドリゲス、レゲ=ジャン・ペイジ、ジャスティス・スミス、ソフィア・リリス、ヒュー・グラント
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

『タイラー・レイク −命の奪還−2』

2023-06-30 | 映画レビュー(た)

 クリス・ヘムズワース主演、Netflixオリジナルのアクション映画第2弾が早くも登場だ。前作のラストで瀕死の重傷を負い、生死不明となったタイラー・レイク。九死に一生を得た彼は過酷なリハビリを経て、元妻の妹を救出すべく東欧に向かう。

 近年『ジョン・ウィック』シリーズのチャド・スタエルスキやデヴィッド・リーチなど、スタントマン出身監督によるフィジカルを重視したアクション映画が人気を集めており、長回しでスタントマンの“技”を見せていく手法はアカデミー賞スタント部門設立がささやかれる程の勢いがある。やはりスタントマン出身のサム・ハーグレイヴ監督は、今回もあの手この手のシチュエーションで過酷なスタント技を披露し、前半にはなんと21分間にも及ぶアクションシークエンスが用意されている。しかし映画のアクションがリアルでハードになるほど被弾、裂傷描写からの回復が早すぎるという、あまり上手ではない嘘が目立ち、「そうか負傷ダメージは応急処置と時間経過で自然回復するのだな」とシラけるのである。刑務所潜入から脱出、車での逃走から最後は走行中の列車上でのアクションという長回しはハーグレイヴ監督以下スタントチームの力作であるものの、ほとんど荒唐無稽な場面転換と顔のないモブ敵(彼らにもゲームよろしく耐久値がある)にいよいよ“ゲームっぽさ”は増すばかりで、そもそも映画におけるアクションのパワーとスピード、アドレナリンとは編集と撮影、そしての俳優のチャームによって生まれたのではないかと思わずにいられないのである(この点、スタエルスキもリーチも俳優の疲労までキャラクター描写として撮っている)。ヘムズワースにはスピードと重量感があり、ゴルシフテ・ファラハニの女傑ぶりも実に凛々しいだけに絶対作られるであろうシリーズ第3弾にはアクションの斬新性のみならず、“映画”的興奮も期待したいのである。


『タイラー・レイク 命の奪還2』23・米
監督 サム・ハーグレイヴ
出演 クリス・ヘムズワース、ゴルシフテ・ファラハニ、アダム・ベッサ、ティナティン・ダラキシュビリ、オルガ・キュリレンコ、イドリス・エルバ
※Netflixで配信中※
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

『TAR/ター』(寄稿しました)

2023-05-31 | 映画レビュー(た)

 リアルサウンドにトッド・フィールド監督、ケイト・ブランシェット主演の映画『TAR/ター』のレビューを寄稿しました。全編に張り巡らされた伏線の考察は他の方にお任せして、フィールドの前作『リトル・チルドレン』から『TAR』に潜む新たな“音”を聞き出しました。ぜひ、御一読ください。


『TAR/ター』22・米
監督 トッド・フィールド
出演 ケイト・ブランシェット、ノエミ・メルラン、ニーナ・ホス、ソフィー・カウアー、アラン・コーデュナー、ジュリアン・グローバー、マーク・ストロング
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする