1972年、ワシントンDC。深夜のウォーターゲートビルに男たちが忍び込み…と冒頭部分は1976年の名作『大統領の陰謀』、はたまた2017年の『ペンタゴン・ペーパーズ』とまるで同じ。ところがいつもと様子が違うのは、賊がいつまで経っても民主党事務所の錠前を破ることができない。
「すまん、工具を忘れてきた」
「え、どこに?車にか?」
「マイアミ…」
事実、犯人たちはウォーターゲートビルに忍び込むべく3度挑戦するも失敗し、4度目の侵入で現行犯逮捕された。『ホワイトハウス・プラマーズ』はこんなズッコケてしまうようなやり取りから始まるダークコメディだ。
犯行を主導したのは元CIAのハワード・ハントと元FBIのゴードン・リディ。彼らはニクソン再選を目論むホワイトハウスから直々に裏工作を依頼され、自らを政権の“鉛管工=プラマーズ”と名乗る。ウディ・ハレルソンがハントを豪放に演じ、ジャスティン・セローはいかがわしい口ひげを生やして、ナチス信奉者というトンデモない人物リディを怪演している。彼らは二言目には「民主党めが」と特定の政党名を出して揶揄し、ニクソンに心酔する権威主義者だ。共に暮す家族はたまったものではなく、ハントの妻にはサーセイ・ラニスターことレナ・ヘディが扮し、御し難いほどの愚か者ばかりが出てくる本作で数少ない良識人を凛々しく演じている。ハントとリディの姿から視聴者の頭をよぎるのは2021年のアメリカ連邦議事堂襲撃事件の暴徒たちだろう。いずれもが逮捕、起訴され重い実刑判決が言い渡されている。ニクソンからはトカゲの尻尾切りとばかりに見捨てられ、家族から見限られるハントとリディの末路は、遠く海を隔てた本邦でも無縁の光景ではない。
本作のサブテキストとしては前述の名作『大統領の陰謀』『ペンタゴン・ペーパーズ』に加え、Netflixからリリースされている短編ドキュメンタリー『マーサ・ミッチェル 誰も信じなかった告発』を挙げておきたい。国家権力がいとも簡単に1人の人間を抹殺する過程が収められており、ウォーターゲート事件が“絶対に笑ってはいけない国家的陰謀”であることがよくわかる。『ホワイトハウス・プラマーズ』は突拍子もない現実を笑うにはやや痛烈さが足りず、軽量級なのだ。
『ホワイトハウス・プラマーズ/米国政治の失墜を招いた男たち』23・米
製作 アレックス・グレゴリー、ピーター・ハイク
出演 ウディ・ハレルソン、ジャスティン・セロー、レナ・ヘディ、ドーナル・グリーソン、ジュディ・グリア