ホームドラマチャンネルで放映されたTVシリーズの再編集版である本作が、奇しくも寡作の名匠・橋口亮輔9年ぶりの劇場長編映画となった。TVシリーズゆえバジェットの制約があり、ペヤンヌマキの原作戯曲から空間的な拡がりは得られていないものの、しかし橋口ならではの演出術で極上のアンサンブルが楽しめる1本である。
3人姉妹が母親を連れて、親子水入らずの温泉旅行にやってくる。子供時代から家族旅行が機能しなかった彼女らにとって、中年のそれはなおのことだ。長女の弥生は東京で働くキャリアウーマンで、婚期はとうに逃して久しい。次女の愛美は若い時分にルックスをもてはやされたものの、30代も半ばとなる今はろくに定職も就かず、フラフラしている。唯1人、実家に残った三女の清美は誰にも知られずに結婚の準備を整えていた。タイトルロールでもある“お母さん”は画面に一切登場しない。彼女らの口論から伺い知れる姿はいわゆる“毒親”であり、中でも長女・弥生はそんな母の暴虐さを内面化してしまっている。
さぁ、橋口演出の真骨頂だ。俳優を剥き出しにし、心の丈をくんずほぐれつに乱闘させる。図々しいまでのふてぶてしさで映画を貫通する江口のりこを筆頭に、舞台版からの連投で心得た内田慈の好演、注目株古川琴音らのアンサンブルに時に笑い転げ、時に居心地が悪くなること請け合い。それでいて家族、姉妹を讃歌するハートウォーミングな語り口は松竹が伝統とするホームドラマの文脈である。橋口が造作もなくプログラムピクチャーを撮っていることも嬉しい1作であった。
『お母さんが一緒』24・日
監督 橋口亮輔
出演 江口のりこ、内田慈、古川琴音、青山フォール勝ち