次から次へとツイストが起こり、クリフハンガーで終わる昨今の海外ドラマに慣れてしまったせいか、『コミンスキー・メソッド』には和まされる。主演はマイケル・ダグラスとアラン・アーキン。共にオスカーを受賞しているハリウッドの名優だ。長年の友人同士に扮した2人が自らの老いや人生にのろのろと向き合っていく1話30分程度のコメディドラマである。
舞台はハリウッド。ダグラス扮する俳優のサンディ・コミンスキーは仕事にあぶれ、今は演技講師として糊口を凌いでいる。アーキン扮するノーマンはそんなサンディを長年支えたエージェントだ。彼の事務所は業界きっての大手へと成長したが、妻の終末医療をきっかけに一線を退いた。
おっと、またしてもアメリカ芸能界が舞台だ。『マーベラス・ミセス・メイゼル』や『バリー』など、芸事をテーマにした作品が続く。ドラマ黄金期の今、ハリウッドが自分たちの身の回りにも普遍的な物語が転がっている事に気付いたのか。本作は人気俳優、有名作品の名前が実名で飛び交い、相次ぐカメオ出演も楽しい。エリオット・グールド(『ロング・グッド・バイ』)が現れては「オレもリーアム・ニーソンみたいにアクションやりたい」と言い出す始末で、さながらハリウッド版『やすらぎの郷』だ。
ドラマの見どころはもちろん長年の悪友に扮したダグラスとアーキンの掛け合いだ。今更、気を使う程の仲でもないが、相手の事は一番良くわかっている。互いを慮る関係性が微笑ましく、実に心地良い。特段大きな事件もなく葬式や家族、健康(ダグラスが延々頻尿に困る)、恋愛に悩みながらのんびりと進んでいく本作は海外ドラマファンの箸休めに丁度いいかもしれない。ゴールデングローブ賞では並み居る強豪を抑えてミュージカル/コメディ部門の作品賞に輝いた。
『コミンスキー・メソッド』18・米
出演 マイケル・ダグラス、アラン・アーキン
※Netflixで独占配信中※
本作の監督・脚本を務めるのも『アウト・オブ・サイト』『マイノリティ・リポート』『ローガン』などを手がけてきた脚本家スコット・フランクだ。往年の名作西部劇を彷彿とさせる本作は彼の最高傑作と言っていい堂々たる仕上がりである。とりわけソダーバーグやスピルバーグの下で第2版監督を務めてきた撮影監督スティーブン・メイズラーのカメラは筆舌し難く、これはスマホやタブレット、TVではなく劇場で堪能したいレベルの映像美である。しばしば"映画級”という宣伝文句が踊るTVドラマ界だが、これほどスクリーンで見たかったと思わせる画作りのドラマはなかった。こんな思いがけない傑作が生まれる事からも如何に現在のTV界が充実しているかわかるハズだ。
物語の舞台は1884年のニューメキシコ、炭鉱事故により男性のほとんどが死んだ町ラ・ベル。そこへ瀕死の重症を負った謎の男ロイ・グッドが現れる。無法者フランク・グリフィンの下で我が子同然に育てられてきた彼は大金を持ち逃げし、半殺しの目に合ったのだ。町の外れに暮らす牧場主アリスによって匿われたロイだが、グリフィンの魔手は迫りつつあった。
定型こそ西部劇のそれだが、時代は"Me too”である。
ロイとグリフィンの対決を主軸にしながら物語を動かすのはラ・ベルの寡婦達だ。『ダウントン・アビー』でお馴染みミシェル・ドッカリー、エミー賞助演女優賞候補に挙がったメリット・ウェバーがウエスタンスタイルに身を包み、ウィンチェスター銃を携える姿はほれぼれする程カッコいい。女手一つで生計を立て、身を守ることができる彼女らにとって男は必ずしも必要な存在ではない。教えを乞い、コミュニティに居場所を見出していく男たちのオールドスタイルな不器用さが対照的だ。ロイ・グッド役の好漢ジャック・オコンネル、トーマス・サングスターや、怪優のイメージが強い保安官役スクート・マクネイリーら男優陣も好演。中でもフランク・グリフィン役ジェフ・ダニエルズの単なる悪漢では終わらない深味は、この名優が新たなキャリアのピークに立った事を知らしめてくれる。
本作を見てアメリカ文学の巨匠コーマック・マッカーシーの小説を思い出した。マッカーシーは『すべての美しい馬』『越境』『平原の町』の"国境三部作”で近現代のアメリカ西部を舞台にしている。人と馬、親と子、大地と人、そして神と人の在り方を描いた散文詩のような文体はまるで神話のような神秘性があり、それは同時にアメリカが血と暴力で築き上げられた事を看破する。『ゴッドレス』はハリウッドがかつて量産した"ウエスタン”の定型を踏みながら、さらにアメリカを形成した西部開拓史の精神性にまで踏み込んでいるのだ。その抒情性はアメリカの地を踏む者のみならず、遠く海を隔てた僕たちをも魅了するのである。