長内那由多のMovie Note

映画や海外ドラマのレビューを中心としたブログ

『ニモーナ』

2024-01-28 | 映画レビュー(に)

 ディズニーによる20世紀FOX買収によって『アイス・エイジ』シリーズなどを手掛けてきたアニメーション部門“ブルースカイ・スタジオ”が閉鎖。N・D・スティーブンソンの同名コミックを原作とする『ニモーナ』も製作中止に追い込まれてしまう。その後、アンナプルナ・ピクチャーズによって企画がすくい上げられ、晴れてNetflixからのリリースとなった次第だ。2000年代に入り、ハリウッドメジャー各社は傘下にアニメーション部門を設立、収入の大きな柱としてきた。しかし家族連れの動員が見込めないパンデミックを境に、多くの作品が劇場公開から配信へと形態を変えることとなる。Netflixは近年もソニーから快作『ミッチェル家とマシンの反乱』を買い上げ、アカデミー賞へ送り込んでいた。今年はディズニーの創立100周年記念作『ウィッシュ』の大失敗を尻目に、『ニモーナ』はアニー賞最多ノミネートを獲得する快挙である。

 コミックならではの簡略化されたキャラクターデザインをカートゥーン調に膨らませ、自由自在に姿を変えるシェイプシフターであるニモーナの活躍をアニメーションならではのダイナミズムで見せるなど、製作陣が原作に惚れ込んでいるのがよくわかる。騎士や剣といった中世的モチーフに現代テクノロジーをマッシュアップしたハイファンタジーの世界観も新しく、原作に込められたメッセージやダイバーシティを再現せんとクリエイター陣は奮闘だ。大人が観るにはやや説明が過ぎるところも多いが、まずは子どもたちに楽しんでもらいたい1本である。ピクサーを擁するディズニーも、かつては子供の付き添いで劇場にやって来た大人が泣かされるという、示唆に富んだ作劇を行っていたはずだが、昨今のアニメーションは何もかもが直截的である。


『ニモーナ』23・米
監督 ニック・ブルーノ、トロイ・クエイン
出演 クロエ・グレース・モレッツ、リズ・アーメッド
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『人数の町』

2020-10-13 | 映画レビュー(に)

 人数合わせ程度のタスクを日々こなしていれば衣食住は補償される町…これを聞いて「けっこうオイシイ話じゃね?」と思った人は少なくないだろう。町ではエクササイズが奨励され、公共のプールもある。町で出会った男女は部屋番号の書かれた名刺を交換すればセックスもできる。家庭や子供を持つ事は許されないが、その代わり背負う責任もない。

 ただし名前と戸籍を捨てることが条件だ。それに町から出ることはできない。病気やケガになったらどうなるのか、誰にもわからない。

 荒木伸二監督、脚本によるこの恐るべきデビュー作は日本にまつわる忌まわしい数字(DVと幼児虐待の数字が抜けている)を挙げながら、奇妙な町に僕らを引き込んでいく。低予算ながらプロダクションデザインはアイデアが利いているし、中村倫也、石橋静河、立花恵理、山中聡らキャスト陣も注目に値する演技だ。

 本作を僕は“ディストピア”という言葉で評したくない。世の中はとっくに“人数の町”だからだ。この春、僕が4か月務めた短期バイトの話をしよう。機密情報保持のためポケットのない制服を着せられ、100人以上が1つの部屋に押し込められた。〇×選択のみのパソコン操作を繰り返し、主体性も連帯も必要とされなければ、名前を呼ばれる事もない。世間はコロナで緊急事態宣言下にあり、体調不良は“自己責任”だ。

 衣食住だけあれば人間は人間たり得るのか?無気力に“数字”でいる事を享受してきた主人公は恋に落ち、自らの意志で町を出る「オレは結婚して、家庭を持ちたい!」。決定論と自由意志は『ウエストワールド』『テネット』『グッド・プレイス』にも登場する2010~2020年代共通のテーマだ。しかし主人公が“人数”を脱し、それを管理する“人数”になることも町のシステムなら?

 僕のバイトの話に戻る。僕の仕事は人数を管理することだった。制服に黄色いバッジを付け、他の数百人よりもずっと高い時給をもらい、偉そうに指導するが、同じ派遣社員で、コロナにかかれば自己責任だった。報道を見る限りでは僕らの仕事から大層な金額をピンハネした奴らがいたらしい。

 人数の町に行きたいか?
劇中、タスクを終えた彼らには酒瓶が1本配られる。あのマズそうなこと。中身はきっとストロングゼロだろう。安酒だけには手を出さない、酒飲みの僕にはガマンならない町だね!


『人数の町』20・日
監督 荒木伸二
出演 中村倫也、石橋静河、立花恵理、山中聡
 
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『ニーナのすべて』

2020-10-06 | 映画レビュー(に)

 PeakTVの功績の1つが多くの女優に上質な役柄を用意した事だろう。もともとハリウッドにおいて女優の役は圧倒的に少なく、40代以後はほとんど皆無と言っていい。そうして多くの女優がキャリアを絶たれ、“デヴラ・ウィンガー化”していったのである。『ビッグ・リトル・ライズ』でエミー賞を獲得し、キャリアを復活させたニコール・キッドマンは受賞スピーチでこう言った。「もっとテレビドラマに出たい!」

 この状況は若手女優も同様で、彼女らが当てがわれてきたのは“主人公男性の(都合の良い)相手役”ばかりだった。近年、『ウエストワールド』で再ブレイクしたエヴァン・レイチェル・ウッドも20代は低迷している。

 ウッドより3歳年下のメアリー・エリザベス・ウィンステッドもTVシリーズを経て大きく飛躍した女優の1人だ。20代の作品で記憶に残っているのは完全に“カワイコちゃん”枠だった『デス・プルーフ』くらいか。その後、密室スリラー『10クローバーフィールド・レーン』を経て、人気TVシリーズ『ファーゴ』シーズン3に到る。彼女のしなやかなさと色気はシリーズ屈指の難解作となったノア・ホーリー節を超え、主演スターの華があった。その後は『ジェミニマン』『ハーレー・クインの華麗なる覚醒』でハードなスタントを披露し、アクション女優としても開眼。ジェンダーレスなハンサムさはこれまでになかった魅力だ。

 そんな彼女の通過点としてこの主演作は貴重だろう。彼女が演じるのは赤裸々トークが売りのお笑い芸人ニーナ。舞台の上で自らの性癖を晒し、ビビっときたらすぐにセックス。酒とタバコが手放せないハードボイルドなヒロインだ。彼女はコモン扮する実業家と出会い、恋に落ちる。コモンは演技力云々ではなく、完全に彼のカリスマ性だけで役を成立させており、ウィンステッドとのケミカルも抜群。自身もこんなにスクリーンタイムの長い役柄は初めてではないだろうか。2人の本気のキスシーンは画面を熱くヒートアップさせている。

 終幕に明かされるニーナの秘密がそれまでの映画のトーンとイマイチ噛み合わず、テーマの重大さが引き立たないのは惜しまれるが、それがウィンステッドの充実を妨げる事にはならない。今後のさらなる飛躍に期待だ。


『ニーナのすべて』18・米
監督 エバ・ビベス
出演 メアリー・エリザベス・ウィンステッド、コモン、ジェイ・ムーア、ミンディ・スターリング、クレア・デュヴァル、チェイス・クロフォード、カムリン・マンハイム
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『2分の1の魔法』

2020-08-28 | 映画レビュー(に)

 複雑で思いがけない感動があった『トイ・ストーリー4』の後ではあまりに直球で刺激に乏しく、“子供っぽく”すら見えてしまうかも知れない。物語はエルフやユニコーン、ケンタウルスら神話の生物が僕らと同じように暮らす大都市が舞台だ。かつて世界には“魔法”と呼ばれる力があったが、それらは全て電気に取って代わられてしまった。主人公イアンは16歳の誕生日に亡き父の遺した魔法の杖を譲り受ける。ファンタジーオタクの兄バーリーの助言で父を蘇らせるべく呪文を唱えると…なんと生き返ったのは腰から下だけ!イアンは魔法を完全なものにすべく、バーリーと共に旅立つ。

 見所はトム・ホランド、クリス・プラットの“アベンジャーズ”共演だ。高校生役はお手の物のホランドはもちろん、TRPGオタでヘビメタオタのぽっちゃりという兄バーリーに扮したプラットが本来の芸風で笑わせる。近年、すっかりタフガイが板に付いたプラットだが、もともとはビリング3番目以下“主人公の陽気な友達”枠の人だったのだ。

 そんなイタい兄貴と気弱な弟が絆を確かめ合う兄弟愛ドラマはわかっていても泣かされてしまった。本作は監督ダン・スキャンロンが幼い頃に亡くなった父への想いを基にしているという。彼を支えたのも家族愛だったのだろう。本作の直球はコロナショックの現在、より胸に響いた。


『2分の1の魔法』20・米
監督 ダン・スキャンロン
出演 トム・ホランド、クリス・プラット、ジュリア・ルイス=ドレイファス、オクタヴィア・スペンサー
 
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『2001年宇宙の旅』

2018-11-17 | 映画レビュー(に)



今更どうこう書く必要もないだろう。
公開から50年を経てIMAXスクリーンに甦った不朽の名作はその先見性に驚かされる。CG以前のあらゆる映像技術を駆使した宇宙空間の再現、テクノロジー考証は今見ても全く色褪せず(宇宙飛行士たちはタブレットで映像を見ている!)、その描写が後の『スター・ウォーズ』や『機動戦士ガンダム』に影響を及ぼしているのは明らかだ。アルフォンソ・キュアロンが『ゼロ・グラビティ』で行った真空空間の無音演出は既に本作で採用されており、スターゲイトをくぐってからの宇宙人との邂逅はクリストファー・ノーランが
『インターステラー』で変奏している。キューブリック演出のトレードマークとも言える不協和音を用いた音響設定はポール・トーマス・アンダーソンが『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』以後、踏襲しているものだ。言うまでもなく、現代の映画監督にとってキューブリックこそが先駆者であり、そういった意味で1968年当時よりも本作のサブテキストは豊富になったと言えるだろう。唯一、本作が敵わなかったのはアンディ・サーキスが『猿の惑星』で到達した猿演技メソッドくらいではないだろうか。

観客の知性に訴えるアヴァンギャルドな演出は僕たちを思索と酩酊に誘う。道具を使うことで殺人を知った猿人類はそれから幾数万年を経て、軍事衛星を地球に巡らせるようになった。スーパーAIのHALLは人知を超えるのと同時に人類同様の精神の薄弱さも得た。2001年もとうに過ぎて僕たちは進化の袋小路にハマった感がある。映画では謎のモノリスが人類を導くが、果たして僕らはどこへ行くのか。
 開映前の序曲からインターミッション、そして『ツゥラトストラはかく語りき』…細部に至るまでキューブリックの妥協なき設計が伺い知れる不滅の映像詩である。



『2001年宇宙の旅』68・米
監督 スタンリー・キューブリック

 
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