僕は定期的にラブコメ映画を摂取したくなる体質だ。お気に入りの女優が出演していて、ヒロインが恋や仕事に奮闘し、最後はもちろんハッピーエンドで終わって、明日からの活力につながったりひょっとしたら思わぬロマンスの到来があるかも?なんて夢想するのが好きだ。ついでに新しい何かが発見ができたら最高だろう。でもいざ90〜120分の映画を見ようとすると、さてどうしたものかとNetflixのマイリストを眺めたまま終わってしまうことも珍しくない。
そんな僕のニーズに叶ったのが『エミリー、パリへ行く』だ。1話30分弱で全10話。アメリカからフランス支社への転勤が決まった主人公エミリーが、憧れの街パリで恋や仕事に奮闘するラブコメだ。本作は世界中で大ヒットを記録し、ゴールデングローブ賞やエミー賞では作品賞にノミネート。Netflixの新たな看板番組となった。
でもこれはいくらなんでもあんまりだろう。ついに代表作を手に入れた主演リリー・コリンズは毎話、パトリシア・フィールドがスタイリングした数々の衣装に身を包みパリを闊歩するが、エミリーがいったい何者なのかはシーズンフィナーレを迎えても一向に描かれない。彼女がこれまでどんな人生を歩み、なぜパリに憧れ、どうしてこのマーケティング業に情熱を燃やすのかサッパリわからないのだ。いや、唯一理由があるとすればそれは「パリだから」なのか?製作陣は観光客の思い描くパリをロケーションし、視聴者を高揚させ、それだけでドラマを成立させようとするも、まるでインスタグラムのフィードを流し見しているような味気なさだ(ところでヒロインはインスタへ投稿する度にフォロアーが爆増しているが、そういうもんなのか?)。
何より「マズいな」という気分にさせられるのはあまりにもステレオタイプなフランス人の描き方だ。フランス人は全員意地が悪く、職場には昼まで現れず、ワインばかり飲んでロマンスのことしか考えていないスケベばかり…。昔、フランスに留学した友人からバスを降りるだけで「ジュテーム」と囁かれと聞いたことがあるが(彼女は外国人が思い描く典型的な日本美少女ではあったけど)、ここまで徹底されるとフランス人じゃなくてもいい気分はしない。
唯一好感を持てたのはヒロインの恋のお相手となるシェフのガブリエルだ。階下に住む彼はシャワーが壊れたら助けてくれるし、もちろん料理の腕は最高。お金持ちの恋人には頼らず、独立独歩で店を立ち上げようとする好漢だ。エミリーも彼に劣らぬ魅力的な人物として描かれるといいのだけど…。
良くも悪くもこの“軽さ”が売りとなってしまった『エミリー、パリへ行く』。元を辿るとNetflixの製作ではなく、MTVスタジオで作られた謂わば“払い下げ品”だという。ここから人気に火が付き、晴れて正式なNetflixプレゼンツへと昇格することもままあるだけに今後、ステレオタイプをひっくり返して新たな機知と現代性を獲得するのか、期待したい。
『エミリー、パリへ行く』20・米
製作 ダーレン・スター
出演 リリー・コリンズ、フィリピーヌ・ルロワ・ボリュー、アシュリー・パーク、リュカ・ブラヴォー、サミュエル・アーノルド、ブリュノ・グエリ、カミーユ・ラザ