ディズニーは伝統的に作り続けてきた実写映画の良作をストリーミングのライブラリに埋もれさせることなく、北米では劇場公開に踏み切った。ダイアナ・ナイアド(『ナイアド』)から遡ること約100年前、トゥルーディ・イーダリーなる若者が単独で英仏海峡を泳ぎきった実話の映画化だ。
現在とは全く異なる時代を生きた女性である。映画冒頭の1905年、NY。港湾内に停泊していた大型船で火災が発生し、多くの人が犠牲となる。その大半は女性だった。この時代、女性は泳ぎを学ぶことすら無益とされ、ほとんどの女性が岸まで泳ぐことを断念した結果の事故だったのだ。事件を聞いたトゥルーディの母ガートルードは夫の反対を押し切り、娘たちに水泳を学ばせる。しゃんとした佇まいにこの母にしてこの娘ありと思わせてくれるジャネット・ハインが素晴らしく、『ヤング・ウーマン・アンド・シー』は卓越した助演陣の演技に支えられている。女性が通える水泳教室もろくになかった時代である。ボイラー係のかたわら少女たちを指導するコーチ・エッピー役は『フリーバッグ』の神経質な姉役であなじみのシアン・クリフォードが好演。エッピーの指導の下、トゥルーディは瞬く間に才能を開花し、やがて1924年パリ五輪への出場が決まるのだが…。
デイジー・リドリーの清廉かつ凛とした個性が、人並みの人生を拒み、孤高の挑戦を続けるトゥルーディにピタリとハマる。社会因習に立ち向かい、我が道を進みながらやがて多くの人々の心を動かしていく様は、さながら『スター・ウォーズ』続3部作で描かれるべきだったレイの真なるヒーロー像と言えるだろう。『スカイウォーカーの夜明け』後、仕事が途絶えたというリドリーがエグゼクティブプロデューサーも兼任するこだわりのキャリア形成を経て、再び“レイ3部作”に挑むことが発表されている。
ディズニー映画ならではのお行儀の良さ、説教くささはあるものの、『コン・ティキ』などで海洋演出はお手の物のヨアヒム・ローニング監督と、御歳80才の大ベテラン、ジェリー・ブラッカイマーのバックアップも得て手堅く仕上がった本作は、見逃すには惜しい1本である。
『ヤング・ウーマン・アンド・シー』24・米
監督 ヨアヒム・ローニング
出演 デイジー・リドリー、ティルダ・コブハム=ハーベイ、スティーブン・グレアム、キム・ボドゥニア、クリストファー・エクルストン、ジャネット・ハイン、グレン・フュシュラー、シアン・クリフォード、アレクサンダー・カリム