長内那由多のMovie Note

映画や海外ドラマのレビューを中心としたブログ

『陪審員2番』(寄稿しました)

2025-02-06 | 映画レビュー(は)

 2月3日発売、月刊シナリオ3月号の連載“洋画時評”でクリント・イーストウッド監督最新作『陪審員2番』をレビューしています。『ミスティック・リバー』『真夜中のサバナ』『トゥルー・クライム』、そして『ダーティハリー2』を経由して巨匠の作家性に触れています。お近くの書店で見かけた際はぜひお手にとってみて下さい!

 『陪審員2番』についてはポッドキャスト“年間ベスト10回”でも言及しています。


『陪審員2番』24・米
監督 クリント・イーストウッド
出演 ニコラス・ホルト、トニ・コレット、ゾーイ・ドゥイッチ、クリス・メッシーナ、J・K・シモンズ、ガブリエル・バッソ
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『ザ・バイクライダーズ』(寄稿しました)

2024-12-29 | 映画レビュー(は)

 『ザ・バイクライダーズ』のレビューは月刊シナリオ2025年1月号の連載『洋画時評』に掲載されています。
その他、ポッドキャストでも解説しています。




『ザ・バイクライダーズ』23・米
監督 ジェフ・ニコルズ
出演 ジョディ・カマー、トム・ハーディ、オースティン・バトラー、マイク・フィスト、デイモン・ヘリマン、ボイド・ホルブルック、マイケル・シャノン、エモリー・コーエン

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『墓泥棒と失われた女神』

2024-07-21 | 映画レビュー(は)


 2014年作『夏をゆく人々』でカンヌ映画祭グランプリ、2018年作『幸福なラザロ』で同映画祭脚本賞に輝き、2022年には短編『無垢の瞳』がアカデミー短編映画賞にノミネートされるなど、注目作が相次ぐイタリアの俊英アリーチェ・ロルヴァケル監督の最新作。その才能にマーティン・スコセッシやアルフォンソ・キュアロンらがプロデュースを買って出るなど、今や自国に留まらない注目の才能であり、本作もまたイギリスの最旬若手ジョシュ・オコナーが自らラブコールを送り、ロルヴァケルが彼に当てて役柄を書き直したという。オコナーはまさに身一つでロルヴァケル映画に飛び込み、全編イタリア語でセリフを披露。映画を異化する彼の存在感によって、ロルヴァケルのフィルモグラフィが転換点を迎えた。

 特定の時代性を帯びず、都市を離れた農村で繰り広げられるのがロルヴァケル映画である。オコナー演じる英国人アーサーが服役を終えて出所してくる。彼は地中深く埋まった古墳を探し当てる達人で、その心を占めているのは今や顔も朧げな恋人の残像だ。いったい彼女は何処へ行ってしまったのか。農村と都市、文明と未開を対比し続けてきた筆致は控えめに、今回は冒頭から夢幻的、祝祭的イメージが横溢し、ロルヴァケルはイタリア映画の正当な担い手としてフェリーニへ接近している(もちろん、ふくよかな女性も出てくる)。

 直線的ではないプロットラインにしびれを切らす観客もいるかもしれないが、ロルヴァケルのマジックリアリズムは夢現に楽しむのがいい。私たちの潜在意識を釣り上げる赤い糸を辿って映画館の暗闇を抜けてみれば、その先にはなんとも眩い世界が見えてくるはずだ。


『墓泥棒と失われた女神』23・伊、仏、スイス
監督 アリーチェ・ロルヴァケル
出演 ジョシュ・オコナー、イザベラ・ロッセリーニ、アルバ・ロルヴァケル
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『バティモン5 望まれざる者』

2024-06-14 | 映画レビュー(は)
 2019年の長編監督デビュー作『レ・ミゼラブル』でカンヌを圧倒し、脚本を手掛けた2022年のNetflix映画『アテナ』で世界中の度肝を抜いたラジ・リは、今や“フランスのスパイク・リー”とも言うべき重要監督の1人だ。フランス郊外団地に追いやられてきた人々の烈火のような怒りを撮らえるラジ・リは、再び自身が生まれ育った街モンフェルメイユの団地“バティモン5”を舞台に、現代フランス社会の問題を炙り、文字通り映画を発火直前までヒートアップさせていく。

 冒頭、団地を空撮するダイナミズムが今や“フランス郊外団地映画”とも言うべきジャンルを確立したラジ・リならではスペクタクルだ。カメラが団地の一室に入り込むと、そこでは葬儀が行われている。様々な国籍の多様な文化が凝縮され、移民二世、三世が新たなフランス社会を築く中、行政は団地の老朽化を理由に彼らを追い払い、新たに小規模世帯向けの賃貸住宅を作ろうとしている。多額のローンを払って今の物件を購入した住民はこの横暴に怒りの声を上げるが、行政側から言わせてみれば増加する犯罪に苦慮した”選択的移民”である。一種のブラック・ライヴズ・マター映画でもあった前2作での激しい怒りをラジ・リは理性的なまでに抑制し、住民と行政の双方から平等に視点を得ている。私たちの間には望むと望まざるとをかかわらず、決定的な断絶がある。その溝を少しでも埋めていくためにも時に拳を下ろし、言葉を交わして、全てに直結する政治へと参画し続けなければならないのだ。ラジ・リが現代映画における重要な視座を持った監督であることは疑いようがなく、これまでのテーマがさらに先へと押し進められた1本である。


『バティモン5 望まれざる者』23・仏、ベルギー
監督 ラジ・リ
出演 アンタ・ディアウ、アレクシス・マネンティ、アリストート・ルインドゥラ、スティーヴ・ティアンチュー、オレリア・プティ、ジャンヌ・バリバール
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『パストライブス 再会』

2024-04-29 | 映画レビュー(は)

 アカデミー賞で作品賞と脚本賞にノミネートされたセリーヌ・ソン監督の長編デビュー作『パストライブス』は、情感あふるる珠玉の1本だ。上映時間はオスカー受賞作『オッペンハイマー』の約半分にあたる106分。ゆったりと贅沢に時間を使ったソンの演出は大作偏重気味の昨今において、観客に真のストーリーテリングの豊かさを実感させてくれることだろう。

 24年前、ソウルに暮らす12歳のノラとヘソンは互いに想いを寄せ合う。まだこの感情に名前も付かない年頃で、やがてノラの海外移住によって別離が訪れる。『パストライブス』は厳密に言えばロマンス映画には分類されないかも知れない。将来の夢はノーベル賞を取ることと目を輝かせ、海外移住に胸踊らせるノラと、後に兵役に就き、国内の大学へ進学するヘソンは既に恋愛における同じ時間軸に存在していない。12年後、ソーシャルメディアの勃興が2人を繋ぎ合わせるが、それがさしたる関係性へと発展しなかったのも言わずもがなだろう。

 驚かされるのは実体験を元にしたというセリーヌ・ソンがノラ(成人後を演じるのは輝くように優雅なグレタ・リー)よりもヘソン、そしてノラの夫アーサーら男たちの優しさと繊細さに注目し、男性観客こそ大いに共感できる物語にしていることだ。12年間、変わらず同じ親友たちと同じ居酒屋で呑み続けるヘソンは誰よりも人の情と縁を重んじる男であり、演じるユ・テオはロマンスの相手役としてのルックスはもちろんのこと、目線だけで歳月と心情を表現する稀有な才能である。

 “Past Lives”は前世を意味し、移民にとってはかつての祖国というアイデンティティを指す。ノラの言う東洋思想“イニョン=縁(えにし)”を信じ、愛しい人の前世を知るヘソンの登場に感動する夫アーサーの姿は、本作で最も心揺さぶられる場面の1つだ。『ショーイング・アップ』『ファースト・カウ』など、近年ケリー・ライカート作品で頭角を現してきたジョン・マガロは本作の宝である。

 現世における人の縁(えん)とは前世から幾重にも繋がる縁(えにし)であり、ロマンス映画が描いてきた本質とは人と人が出会うことの奇跡だ。そんな東洋思想と、移民のメンタリティが西洋で巡り合った珠玉作である。


『パストライブス 再会』23・米、韓
監督 セリーヌ・ソン
出演 グレタ・リー、ユ・テオ、ジョン・マガロ
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