2014年作『夏をゆく人々』でカンヌ映画祭グランプリ、2018年作『幸福なラザロ』で同映画祭脚本賞に輝き、2022年には短編『無垢の瞳』がアカデミー短編映画賞にノミネートされるなど、注目作が相次ぐイタリアの俊英アリーチェ・ロルヴァケル監督の最新作。その才能にマーティン・スコセッシやアルフォンソ・キュアロンらがプロデュースを買って出るなど、今や自国に留まらない注目の才能であり、本作もまたイギリスの最旬若手ジョシュ・オコナーが自らラブコールを送り、ロルヴァケルが彼に当てて役柄を書き直したという。オコナーはまさに身一つでロルヴァケル映画に飛び込み、全編イタリア語でセリフを披露。映画を異化する彼の存在感によって、ロルヴァケルのフィルモグラフィが転換点を迎えた。
特定の時代性を帯びず、都市を離れた農村で繰り広げられるのがロルヴァケル映画である。オコナー演じる英国人アーサーが服役を終えて出所してくる。彼は地中深く埋まった古墳を探し当てる達人で、その心を占めているのは今や顔も朧げな恋人の残像だ。いったい彼女は何処へ行ってしまったのか。農村と都市、文明と未開を対比し続けてきた筆致は控えめに、今回は冒頭から夢幻的、祝祭的イメージが横溢し、ロルヴァケルはイタリア映画の正当な担い手としてフェリーニへ接近している(もちろん、ふくよかな女性も出てくる)。
直線的ではないプロットラインにしびれを切らす観客もいるかもしれないが、ロルヴァケルのマジックリアリズムは夢現に楽しむのがいい。私たちの潜在意識を釣り上げる赤い糸を辿って映画館の暗闇を抜けてみれば、その先にはなんとも眩い世界が見えてくるはずだ。
『墓泥棒と失われた女神』23・伊、仏、スイス
監督 アリーチェ・ロルヴァケル
出演 ジョシュ・オコナー、イザベラ・ロッセリーニ、アルバ・ロルヴァケル