MCUは2025年のフェーズ6に至る作品ラインナップを発表したが、“アベンジャーズ”シリーズの続編『アベンジャーズ:ザ・カーン・ダイナスティ』『アベンジャーズ:シークレット・ウォーズ』で終わるその長大なロードマップに興奮したファンと同じくらい、徒労感を覚えた人も少なくないだろう。パンデミック発生直後に麻痺状態のエンターテイメント界を救ったTVシリーズ『ワンダヴィジョン』『ファルコン&ウィンター・ソルジャー』はまだしも、その後は平均点ギリギリの『シャン・チー/テン・リングスの伝説』『エターナルズ』『ブラック・ウィドウ』『ドクター・ストレンジ/マルチバース・オブ・マッドネス』『ホークアイ』や、駄作と言っていい『ロキ』『ムーンナイト』『ソー ラブ&サンダー』とすこぶる低調で、歴史的大ヒットを記録した『スパイダーマン:ノーウェイ・ホーム』に至っては映画化権を持っているのがディズニーではなくソニーである。さらには視覚効果アーティストに対する過重労働が明らかとなり、今や粗製乱造ではなく時間をかけて練ってほしいと願うファンは筆者だけではないハズだ。
そんなフェーズ4の一角を成すTVシリーズ『ミズ・マーベル』は、ムスリム系の少女ヒーローを主人公とした2014年の画期的コミックを原作とする意欲作。フェーズ4の他作品と比べると見るべきところはあるが、もっと時間をかけて企画開発されるべきだったと言わざるを得ないだろう。PeakTVにおいてナラティヴが多様化する今、ただただ劇場映画のプロットを6分割し、予算的にもトーンダウンしたアクションシーンで一応のシーズンフィナーレを迎えようとするMCUの方程式はマンネリ化している。
もっとも『スパイダーマン:スパイダーバース』の影響下にあると思われるグラフィカルな画面設計は目にも楽しく、主人公カマラ・カーンをはじめパキスタン系アメリカ人の女の子たちが男尊女卑のモスクに不平をこぼし、コミュニティ改革を訴えるエピソードはこれまで描かれる事のなかった移民にルーツを持つ等身大のティーン像で、ポジティブなエネルギーがある。実にキュートなカマラ役イマン・ヴェラーニが来る長編新作映画『マーベルズ』でブリー・ラーソンと共演するのも楽しみな話じゃないか。
物語がアメリカからパキスタン(ロケはタイで行われたという)へ移ると、シリーズは思いがけない方向へとシフトする。家族のルーツを辿る旅路は国家と民族の歴史的な分岐点に接続。思いがけず同年にリリースされた『ロシアン・ドール』シーズン2、『アンダン』シーズン2とも通底した。アカデミー賞受賞のドキュメンタリー作家シャーミーン・オベイド=チノイを監督に迎えた第4〜5話は本シリーズのハイライトだ。オベイド=チノイはデイジー・リドリーが再びレイを演じるスター・ウォーズ最新作の監督としてもアナウンスされており、これはひょっとするとディズニー買収後のフランチャイズに新しい風を吹かせるかもしれない。MCUフェーズ4の中で少なからず今後の可能性を感じさせるのもまた『ミズ・マーベル』なのである。
『ミズ・マーベル』22・米
監督 アディル・エル・アラビ、ビラル・ファラー、シャーミーン・オベイド=チノイ、他
出演 イマン・ヴェラーニ、アラミス・ナイト、マット・リンツ、ヤスミーン・フレッチャー
※ディズニープラスで独占配信中※