長内那由多のMovie Note

映画や海外ドラマのレビューを中心としたブログ

『ゲーム・ナイト』

2020-06-01 | 映画レビュー(け)

 マックスとアニーはボードゲームやビンゴ、ツイスターにジェンガ等あらゆるゲームを楽しむゲーム愛好家夫婦。毎週末、仲間と集まってのゲーム大会が楽しみだ。ところが今日はちょっと様子が違う。マックスにとって目の上のタンコブのような兄ブルックスがやって来るからだ。彼は世界を股にかける企業家で、高級車を乗り回し、サービス精神旺盛な皆の人気者。今回も彼が企画した“リアル推理ゲーム”をやる事になっている。ところが家に押し入ってきた暴漢とブルックスは大乱闘。実は彼はホンモノの犯罪に巻き込まれていたのだ。でもみんなゲームだと思って気付いてない!

 『ゲーム・ナイト』は使い古されたプロットかも知れないが、脚本にはツイストが効いており、監督ジョン・フランシス・デイリーとジョナサン・ゴールドスタインの監督コンビもあの手この手で飽きさせない(途中でトリッキーな長回しも炸裂する)。出演はジェイソン・ベイトマン、レイチェル・マクアダムス、ジェシー・プレモンスと演技巧者揃いで、彼らの楽し気なアンサンブルが映画のグレードを1つも2つも上げている。中でも近年、いぶし銀の魅力が光るカイル・チャンドラーが何とチャラ男の兄ブルックスを演じているのが新鮮だった。

 日本ではこの手のアメリカ製コメディは冷遇気味で、本作も多分に漏れず配信スルーである。だが監督として飛躍を遂げるベイトマンや、演技派として開眼しながら近年再び娯楽作に戻っているマクアダムスなど名優たちのフィルモグラフィを本作のような良質なコメディ抜きで一面的に語るのはつまらないのである。


『ゲーム・ナイト』18・米
監督 ジョン・フランシス・デイリー、ジョナサン・ゴールドスタイン
出演 ジェイソン・ベイトマン、レイチェル・マクアダムス、カイル・チャンドラー、ジェシー・プレモンス、ビリー・マグヌッセン
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『ゲーム・チェンジ 大統領選を駆け抜けた女』

2020-03-07 | 映画レビュー(け)

 2008年アメリカ大統領選挙でのオバマ勝利はまだ記憶に新しいが、共和党の大統領候補として彼と争ったのが2018年に亡くなったジョン・マケインだった事を覚えている人はそう多くないだろう。ベトナム戦争の英雄であり、保守中道を行った人格者である彼の敗北は今こそ見るべきものが多い。この選挙で彼はアラスカ州知事サラ・ペイリンを副大統領候補に指名した事で敗北する。地元で絶大な人気を誇ったペイリンはほぼワンイシューで知事選を勝ち抜いたに過ぎず、政治観はおろか、人格的にも破綻した人物だったのだ。

 本作が放映された2012年当時であればブラックコメディとして笑えただろうが以後、共和党が求心力を失い、トランプ誕生のきっかけとなった今となればそうもいかない。過激なポピュリズムで資質なき政治家が台頭する様はここ日本でも馴染み深く、他人事では済まされない。選挙戦終盤はあのマケインですらオバマ陣営へのネガティヴキャンペーンに終始してしまった。「ポピュリズムは怖ろしい」というセリフにマケインの無念が滲む。

 ジェイ・ローチ監督は0年代からポリティカルなTV映画をいくつも作っており、以後15年の『トランボ』、19年の『スキャンダル』劇場映画で成功を収めていく。ペイリン役ジュリアン・ムーアはじめウディ・ハレルソン、そしてマケイン役エド・ハリスらが名演を披露し、本作はエミー賞でも複数部門に輝いた。近年、アダム・マッケイやトッド・フィリップスらコメディ監督のシリアスドラマ転向が相次いでいる中、一回り年上のジェイ・ローチが道を切り開いた格好だ。今こそ再評価すべき作品だろう。


『ゲーム・チェンジ 大統領選を駆け抜けた女』12・米
監督 ジェイ・ローチ
出演 ジュリアン・ムーア、エド・ハリス、ウディ・ハレルソン、サラ・ポールソン、ピーター・マクニコル
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『激突!』

2018-11-11 | 映画レビュー(け)

スティーヴン・スピルバーグ、24歳の監督デビュー作。元々はTVムービーとして製作されたが評判を呼び、ヨーロッパや日本では劇場公開された。
しばしば「映画監督はデビュー作に全てがある」と言われるが、まさにサスペンスアクションの達人スピルバーグの原点がここにある。リチャード・マシスンの短編小説を原作に、アメリカの田舎道で暴走トラックに追い回される恐怖は今見ても全く色褪せない。また撮影期間16日、放映まで3週間という強行スケジュールは後に彼を驚異の早撮り監督へと進化させる事になるが、それでいてカメラワークや編集は緩急自在。一本道のカーチェイスを手練手管で見せる手腕は新人離れしている。

 本作の最大の恐怖は迫りくる大型トラックの運転手の姿が全く見えない事だ。トラックはまるで怪物のような威容を誇り、次第にエスカレートする凶行は社会に潜む得体のしれない病理を思わせる。このサスペンスホラーの手腕は75年の『ジョーズ』で早くもピークを極めた後、彼のフィルモグラフィに2度と現れないのも興味深い。


『激突!』71・米
監督 スティーヴン・スピルバーグ
出演 デニス・ウィーバー
 
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『ゲティ家の身代金』

2018-06-10 | 映画レビュー(け)

これも異常な実話だ。1973年、ローマで大富豪ゲティの孫ポールが誘拐された。犯人側の要求は身代金1700万ドル。ところがこれをゲティは拒否する。彼は常軌を逸した守銭奴だったのだ。ポールの母ゲイルは既に一族から離れており、金銭的な余裕はない。ゲイルは誘拐犯と世界一の大富豪の間で板挟みとなる。

リドリー・スコット監督は余裕の手並みでこの事件を映画化した。事件発生から犯人側との交渉、誘拐されたポールの苦難、そして身代金受け渡し、既に結末が明らかな話だがサスペンスたっぷりだ。ゲイル役ミシェル・ウィリアムズの素晴らしい“受け身”の芝居は演技の本質がリアクションである事を改めて思い出させてくれる。

 なぜ御年80歳の巨匠はこの題材を選んだのだろうか。ゲティは守銭奴である一方、美術品の収集には目がなく、どんな高額品にも金の糸目はつけなかった。あくまで金は水物であると信用せず、人も物も所有する事で征服心と虚栄心を満たしたのだろう。天井まで連なる美術品に囲まれた姿はフィレンツェ潜伏中のレクター博士(『ハンニバル』)や、エイリアンの標本に囲まれたデヴィッド(『エイリアン:コヴェナント』)の冷酷さを彷彿とさせる。当初、ゲティ役はケビン・スペイシーが演じていたが、セクハラ問題によりスコットは再撮影を決断、クリストファー・プラマーを起用する事となった。58歳のスペイシーが特殊メイクで演じた80代のゲティはおそらく『ハウス・オブ・カード』のフランク・アンダーウッド役で見せたシェイクスピア的冷酷漢だったのではないだろうか。

 プラマー演じるゲティは冷酷さの中にまるで『クリスマス・キャロル』のような憐れさが同居している。冷酷とは決して超然とした存在ではなく、人の中から生まれるものなのだ。88歳の老優だからこそ体現できた年輪。プラマーの演技を得て、近年のリドリー映画にあった欝々とした諦観は薄らぎ、本作は人間ドラマとしてのルックを得るに至ったのである。近作の“歪さ”が好きだった僕としてはいささか物足りないが、巨匠の手練れた一本だ。


『ゲティ家の身代金』17・米
監督 リドリー・スコット
出演 ミシェル・ウィリアムズ、クリストファー・プラマー、マーク・ウォルバーグ、ロマン・デュリス
 
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『ゲット・アウト』

2017-11-12 | 映画レビュー(け)

どっひゃ~!
これはとんだ怪作、快作だ。
現代の低予算ホラーの帝王ジェイソン・ブラム製作による本作はハラハラするスリラーであり、観客が望むだけの血糊をぶちまけて、後半のトンデモ展開はいわゆるジャンル映画のそれである。しかし、根底にはヘイトの時代を揶揄するそれはそれは黒い笑いが込められたブラックコメディだ。

主人公クリスは恋人ローズの実家へ招待される事になった。カノジョの実家に行ってご両親と挨拶…男子なら誰もが憂鬱になるシチェーションだが、クリスにはもう1つ大きな理由がある。ローズは白人、自分はアフリカ系アメリカ人という事だ。
いやいや、さすがに黒人も大統領を務めたこの御時世にそれは時代錯誤な杞憂だろう。ところがローズの実家へ行ってみると…。

おっと、ここまで。
続きはぜひとも映画館へ行って自分の目で確かめてもらいたい。
脚本、監督を務めたコメディアン、ジョーダン・ピールのユーモアセンスは“真っ黒”だ。白人の掲げる上っ面のポリティカルコレクトを笑い、アメリカでは黒人であること自体がそもそもホラーなんだけど!と笑う。

 これがトランプの大統領就任直後に全米で大ヒットしたというのだから面白い。社会不安を娯楽へと転化するのが優れたホラー映画の条件ならば、ちょっと複雑な気分ではあるが、いよいよホラー映画のルネッサンスが到来しつつあるのかも知れない。


『ゲット・アウト』17・米
監督 ジョーダン・ピール
出演 ダニエル・カルーヤ、アリソン・ウィリアムズ、キャサリン・キーナー
 
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