長内那由多のMovie Note

映画や海外ドラマのレビューを中心としたブログ

『GLOW シーズン3』

2019-09-19 | 海外ドラマ(く)

Netflixドラマ『GLOW』は回を重ねる毎にそのユニークさが際立つ野心作だ。最新シーズン3には驚かされた。落ちこぼれ達が逆境を跳ね返す『がんばれベアーズ』よろしくなスポ根ドラマとしてスタートしながら、今シーズンではなんとレスリングシーンをほとんどオミットし、より人間ドラマを深く掘り下げ、登場人物を新たな旅立ちへと導いているのだ。まさにターニングポイントとなる重要シーズンである。

TV番組の成功を受け、レディーズ達はショーのメッカ、ラスベガスへと進出。ホテル専属で毎晩ショーを行う長期興行だ。だが、同じ事を繰り返すルーティンにレディーズ達はダレており、カジノで夜遊びの毎日。チームの空気は停滞気味だ。
主人公ルース(アリソン・ブリー)もマメに興行報告日誌を付け続けるが、例外に漏れずマンネリ気味だった。そんな中、同室のシーラは演技養成所に通い、めきめきと才能を発揮している。親友デビー(ベティ・ギルピン)はプロデュースと子育てに奔走し、留まる所を知らない。前シーズンから距離が近づいている監督サム(マーク・マロン)も新作の脚本を執筆中だ。自分はいったい何者になりたいのだろう?

『GLOW』にはショウビズの世界で生きる事の高揚がある。毎日が凄まじい喧騒で嵐のように過ぎ去る。楽しい事もあれば涙を流す事もある。舞台が終われば別れがあり、新しい企画が立ち上がればそこには夢見の心地がある。そして何度も苦しい挫折が訪れ、違う道を選ぶ者もいれば、ひた走る者もいる。

ドラマはスポットライトの下だけではなく、その影にも目を凝らしている。LGBTQの孤独を捉えた第9話『リバティーン・パーティ』、そしてアメリカそのものの縮図となる第6話『大自然の中で』は今シーズンの傑作回だ。

『大自然の中で』はバラバラになりかけていたレディーズ達がキャンプをする中で結束を強めていく。リング上で人種をステレオタイプ化してきた彼女達だが、マンネリ打破のために役柄を入れ替えてみればそれが如何に差別的であり、互いに思いもよらぬ偏見を抱き続けてきたかと気付く。わたしはいったいどうやってアメリカに来たのか。移民が脅威である事を声高に訴える大統領が跋扈する現在、移民こそがアメリカを形成したルーツであるとドラマは静かに訴えているのだ。

それぞれの道へと歩み始めたレディーズ達が、この先再び交わる事はあるのだろうか?アリソン・ブリー、ベティ・ギルピン、マーク・マロンらの演技は充実を極め、クリエイター陣の野心的な挑戦によってよりスリリングなTVドラマへと進化を遂げた『GLOW』は今後が最も気になるドラマの1つとなった。


『GLOW』17~・米
製作 リズ・フラハイヴ、カーリー・メンチ
出演 アリソン・ブリー、ベティ・ギルピン、マーク・マロン、ブリトニー・ヤング、シデル・ノエル、ブリット・バロン、ゲイル・ランキン 
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『ザ・クラウン シーズン1~2』

2019-08-01 | 海外ドラマ(く)

“これぞ大河ドラマ!”と膝を打ちたくなる。イギリス女王エリザベス2世の治世を描く本作は豪華絢爛なプロダクションデザイン、スケールある演出、俳優陣の素晴らしい演技に支えられた堂々たる風格だ。歴史の知られざる秘話を解き明かすダイナミズムは僕たちを魅了し、ツイストやクリハンガーがなくてもビンジがやめられなくなってしまう。

イギリス国民ならいざ知らず、エリザベス女王が生きてきた時代背景というのは他国の僕らにはなかなか想像がつかない。彼女が王位を継承したのは第2次大戦後間もない1953年。当時の首相は先頃、伝記映画も公開されたウィンストン・チャーチルというのだから如何にその在位が長いかわかるだろう。彼女の治世を描く事は激動の戦後史を描く事であり、彼女は歴史の生き証人とも言えるのだ。

いくら英国人が王室好きとは言え、ともすればゴシップ的興味が先行しそうな本作(日本の皇室では絶対にやれないだろう)に風格をもたらしているのがショーランナー、脚本を務めるピーター・モーガンだ。ヘレン・ミレンがエリザベス女王に扮した映画『クイーン』や舞台『The Audience』で脚本を手がけてきた当代きっての”エリザベス女王評人伝作家”である。徹底したリサーチに1つだけ大きなフィクションを忍び込ませるその手法は評伝ジャンルに新風を吹き込み、前述『クイーン』やロン・ハワード監督作『フロスト/ニクソン』ではアカデミー賞にもノミネートされた。

治世初期を描くシーズン1ではとりわけ若き女王の統治者たる目覚めに重点が置かれている。彼女が即位するまでには本来の王位継承者である叔父ウィンザー公が一般女性との結婚を優先して王位を辞退、弟の父ジョージ6世が代わって即位し、第2次大戦を乗り切ったという経緯があった(この件はアカデミー賞受賞作『英国王のスピーチ』や『ウォリスとエドワード』に詳しい)。この王位継承にまつわるすったもんだが若きエリザベスにより一層、王位に対する強い責任感と使命感を抱かせてきた事は想像に難くない。そして哀しいかなこの王位と個人という葛藤はその後も妹マーガレット妃や時を経てダイアナ妃はじめ、しばしば英国王室を揺るす火種となってしまう。長きに渡って未だ現役であり続ける女王の強さに敬服の念を抱かずにはいられなくなるハズだ。

"私(わたくし)と王位”という問題は夫フィリップ殿下との夫婦関係にも常に影を落とす。妻の添え物として扱われることは男尊女卑の風潮下では屈辱的であり、彼は裏方になる事を良しとしなかった。演じるマット・スミスは長身痩躯、くしゃっとした顔の個性的なルックスで、フィリップ殿下をちょっとフーテンっぽく演じているのが面白い。王室からクレームが出ないかと心配になってしまう描写だが、この女王にすら強いられた女性差別との戦いという現代的主題は何度も登場する。とりわけ必要な教育を与えられてこなかったばかりにコンプレックスを抱いた女王が、自力で家庭教師を見つけ、閣僚達とやりあう第7話は傑作回の1つだ。

エリザベス女王を演じるクレア・フォイは本作でエミー賞の主演女優賞を受賞。以後、デミアン・チャゼル監督作『ファースト・マン』や"ドラゴン・タトゥーの女”シリーズ最新作『蜘蛛の巣を払う女』主演に抜擢されるなど、一気にブレイクした。マーガレット妃役ヴァネッサ・カービーは今夏『ミッション・インポッシブル/フォールアウト』でヴィランに扮し、トム・クルーズに劣らぬ存在感で映画ファンにしっかり印象を残している。チャーチル役に扮したジョン・リスゴーはエミー賞助演男優賞を受賞。近年ではゲイリー・オールドマンがやはりオスカーに輝いた役柄だが、誰が演じても同じ芝居になってしまう所にチャーチルの際立った個性がわかる。この稀大の宰相の歪で高いプライドとエゴに迫った第9話は先行するチャーチル映画よりも深味のある評人伝だった。

2シーズン毎にキャストを入れ替えることが発表されており、シーズン3ではエリザベス役に今年オスカーレースを賑わせたオリヴィア・コールマン、そしてマーガレット役にヘレナ・ボナム・カーターというベテランの抜擢が決まっている。まだまだ先は長いがこのクオリティを維持できればドラマ史に残る一大傑作シリーズになるだろう。新シーズンが楽しみだ。


『ザ・クラウン』16・英
製作 ピーター・モーガン
出演 クレア・フォイ、マット・スミス、ヴァネッサ・カービー、ジョン・リスゴー、ヴィクトリア・ハミルトン、マシュー・グード
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『クラッシング』

2019-02-07 | 海外ドラマ(く)

フィービー・ウォーラー・ブリッジは今や「やり過ぎ」の代名詞みたいな存在だ。頭角を表した『フリーバッグ』では赤裸々という言葉を超えた赤裸々さでヒロインのイタ〜い日々を演じ、僕らの引き笑いと涙を誘った。Netflixオリジナルドラマ『クラッシング』でも脚本、製作、主演を務め、その個性を遺憾なく発揮している。

『フレンズ』よろしく男女7人がルームシェアするのは何と廃病院だ。すれ違いの続く婚約中カップル、破天荒なフランス人アーティストと妻に去られた中年男性、インド系ゲイとゲイの自覚がない白人といった個性的なカップリングにウォーラ・ブリッジ扮するルルが割り込んだ事からすったもんだの大騒動が巻き起こる。自堕落で自己チュー、トラブルメーカーなヒロイン役は彼女の専売特許だ。字面に耐えない醜態を次々と晒し、床にぶちまけられたカレーに食いつくシーンでついに「ここまでやるか」と戦慄を呼ぶ。

だが見た目はドギツくても、ラブコメディとして多幸感ある着地をするのだからこの才媛はただの破廉恥で終わらない。3組3色それぞれの愛の形が見えてくる。特にゲイカップルは後半どんどんキュートでいじらしい展開になって萌え必至だ。

 ところで恋敵となるケイトは『フリーバッグ』に出てきた美人で賢く、ちょっと神経質な姉とキャラクターが瓜二つ。ルルに当てられ、堅物というイメージを覆そうと空回りする姿にはウォーラー・ブリッジの悪意すら伺える。さてはモデルがいるな。


『クラッシング』16・英
出演 フィービー・ウォーラー・ブリッジ、ジョナサン・ベイリー、エイドリアン・スカーボロー、他
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