公開収録番組。公開生放送。前説。
まず、バラエティー番組の収録の前説。
スタジオに来ている観客の皆さんを「温める」のが目的。
では、「温める」とは?
出演者のやりとりを観て聞いて、「自然に大きなリアクションで笑ってもらえる状態」に観客を持って行く。それが「観客を温める」という事。それが「前説」のいちばん重要なポイントだ。
基本は若手有望な漫才コンビの皆さんが「前説」をやっている事が多いのだが、あるバラエティー番組では後輩のN君がやっていた。彼は番組の「総合演出」だ。
彼の「前説」は、今流行っている事などから話し始め、大阪人ならではの「笑いのセンス」で観客を魅了し、爆笑に誘う。
スタジオ観覧のほとんどが若い女性だ。100人位の女性の前で、N君の話は盛り上がる。特に女性が興味を持っている「恋愛あるある」とか、一方的では無く、観客と双方向に会話をする様に徐々に女性たちを盛り上げていく「前説」をするのが彼の流儀。
僕が女性だったら、彼の魅力的な喋りにぞっこんになり、惚れてしまうかも知れない。そんな事を思った事もあった。
但し、あまり本番前に観客を爆笑させ過ぎると、観客が本番中疲れて「笑い」が起きにくくなってしまう。
その辺の塩梅がN君は絶妙だった。
N君の巧いのはそればかりでは無い。
MCとゲストがスタジオに入り、本番3分前位まで「前説」をやるのだ。
スタジオ内の観客がホッカホッカに「温まり」、それが頂点を迎えた瞬間、MCの二人がスタジオに飛び出す。
「オーオーオー!」
スタジオにこだまする観客のどよめき。それに続く大きな拍手。
MCも気持ち良く番組をスタートする。MCの気持ちは呼び込むゲストにも伝わり、相乗効果となって番組は盛り上がっていく。
N君の「前説」に僕は何度も爆笑した。他の番組で「前説」をする若手漫才コンビには絶対真似できない何かを彼は持っていた。
「前説」は難しい。
僕もいろんな番組で「前説」をした経験は有るのだが、結構緊張する。人見知りの僕には。
50〜300人位の前でやるのが、いちばん「アガる」。観客一人一人の顔がはっきり見えてしまうからだ。
「ウケる」と思って言った言葉に反応がそれほどでも無かった時、焦る。焦れば焦るほど、「前説」は面白く無い方に一気に転げ落ちて行く。最悪だ!
AD時代、「高校生クイズ近畿大会」、大阪城ホール満員、一万人の高校生の前で「前説」をやった事がある。
この時は全然アガらなかった。一万人になると、各々の高校生の顔は点にしか見えない。だから、自分のペースで「前説」が出来る。
大阪城ホール、一万人の高校生の前で今、僕は喋っているんだという高揚感もプラスに働く。
公開収録でも公開生放送でも大事なのが「拍手の仕方」を観客に伝える時。
先輩から教わった言葉。
「ハイ、これから拍手の練習をします!」
パチパチパチ。
「隣を見て、拍手をしていない人がいたら、その人は置き引き犯ですよ!御注意下さいねー!」
その言葉に観客はより一層大きな拍手をしてくれる。
芸人でもタレントでも歌手でも観客が入っていた方がすぐにリアクションが見られて、番組の進行がやりやすい。
その「大切な観客」をテレビ画面の外で盛り上げる「前説」。テレビ番組を作っていく上では無くてはならないものなのである。
今日もあっちのスタジオ、こっちのスタジオで、ユニークな「前説」が行われているに違いない。