男は年を取るとだんだん不機嫌になっていき、
女は年を取るとだんだん上機嫌になっていく…。
スポーツクラブのプールなどの光景を見ていると、
快活におしゃべりをして高らかに笑い合う女性たちと、
ひとり黙々と、苦虫を噛み潰したような顔で水中ウオークする男性たち。
そんな姿を見ていると、「男女の機嫌差」がよくわかる。
自分は不機嫌爺さんだけにはなりなくないなぁと、常々思っているけれど…
一昨日の午前中のこと。
大和川堤防コースをのろのろジョギングをしていたら、妙な光景に出会った。
僕の目の前、50mあたりのところで、2人の男がにらみ合っているのだ。
ゆっくり走りながら近づいて行くと、声が聞こえた。
「お前やろ!」
「何言うとんねん。お前じゃ!」
このご両人、ケンカをしている様子だ。
どんどん僕はその「現場」へ近づいて行く。
2人ともニット帽を被っていて、明らかに70歳は超えているようだ。
お互いに、ウォーキングをしている途中であることも、間違いない。
そのうち、ひとりが相手の胸元をこづいた。
こづかれた方は体を引き、ボクシングのファイティングポーズをとった。
「やるんか!」
「やかましいわい!」
まるで映画のような怒鳴り合いから、2人は胸倉をつかみ合った。
およそ30年間この堤防を走っているが、こんなシーンは初めて見た。
あわや…のところで、僕がそこへトロトロと走り着いた。
このまま素通りするわけにもいくまい。
巻き込まれるのもイヤだけど。
僕は2人から数メートルの間隔を取って、その場に立ち止まった。
そして、わざとらしくエッヘンと咳払いをして、
「おたくさんたち、何やってんのん…?」
という顔をして2人を見た。
2人は、互いに胸倉をつかみあったまま、僕の方を見た。
2人の動きが止まった。
「ふん。人が見てるやろ!」
ひとりが僕を見て、そう言いながら相手の手を放した。
相手のほうも、ふてくされた表情のまま、手を放した。
少しにらみ合っていたが、やがて左右に分かれて歩き始めた。
やれやれ。一件落着であった。
僕は再び、ジョギングを始めた。
しかし…なんであんなケンカが始まったのか?
たぶん…と僕は思うのだけれど、
2人は互いにコースを譲らなかったのだろう。
堤防は、車1台通れるくらいの道幅はある。
そして、ウォーキングする人も、そう多く歩いているわけではない。
僕はモミィを幼稚園に送り届けて帰宅してからジョギングに出るので、
時間はだいたい午前9時から11時までの間である。
こんな時間帯に堤防を走ったり歩いたりしているのはヒマな年寄りだけだ。
多くの人は、堤防道の真ん中ではなく端っこを歩く。
舗装された道路と草の生い茂る土手の境目近くを歩く。
僕にも、同じようなところを踏みしめながら走る習性がある。
それも、なぜかみんな河川敷の側の隅を歩いたり走ったりするのだ。
そのコースをとると、なんとなく落ち着ける感じがするのも事実である。
すると、当然、向こうから来る人とぶつかることになる。
だから人が近づいてくると、こちらから道の真ん中寄りにコースを変える。
僕はいつもそうしているし、相手が先に譲ってくれるときもある。
そんな中で、絶対に譲らない人、というのも中にはいるのだと思う。
相手がよけたらええねん…という感じの、不機嫌で依怙地な爺さんである。
その不機嫌依怙地な爺さん同士が、たまたま双方から歩いてきたら…
おまえが真ん中へ寄れ、といわんばかりに、ギリギリまで譲らず歩く。
それでも普通、「衝突」の寸前でどちらかが譲ってすれ違うだろう。
しかし、絶対に譲らないチョー不機嫌依怙地同士だとどうなるか…?
その結果が、先ほどの2人のケンカなのだ…と、僕は推測した。
たぶん、毎日同じ時間帯に歩いているこの人たちだから、
これまでも何度か2人の間に「ニアミス」があり、
一触即発の状態でここまで来ていたのだろうと思う。
それがこの日、とうとう爆発してしまった…ということだ。
温かい日差しを浴びながら景色のいい堤防を歩くって、楽しいことである。
心身がリフレッシュされ、1日の英気が養われる大切な時間であろう。
それなのに、そこでこんなケンカをしていたら、1日が台無しである。
散歩やジョギングは楽しまなければね~
やっぱり、不機嫌爺さんにだけはなりたくありませ~ん。