「私は親に夢をつぶされて、人生を狂わされたの…」
シノブさんは言う。
ずいぶん前からの顔見知りではあったが
人見知りが激しいタチらしく、最近やっと話すようになった。
シノブさんは、いい人だ。
タテにもヨコにも大きいのがいい。
二人でいると、私が小柄で華奢に見えるというヨコシマな利点がある。
「え!虐待?」
「中学の時、バスケットやってて、来て欲しいという高校もあったのに
親が行かせてくれなかったの」
「ふ…ふ~ん」
「もしもその高校に行ってたら
今頃は、バスケで有名になっていたかもしれないでしょ?」
「そりゃ…まあ…」
「未来の可能性をつぶされたのよ」
「…」
「主人ともね…無理矢理結婚させられたの…
どうしても私じゃなきゃダメと言われて
さらわれるように連れて来られて、籍も勝手に入れられたの」
「拉致?」
ちょっと前のしずちゃんみたいな彼女をさらうのは、大変だぞよ…。
シノブさんは、背丈と腹周りに漂う私の視線を察してか、急いで続ける。
「昔は細かったのよ!
でも、ストレスで食欲に走らされたの…」
「だ…誰に…?」
「主人によっ!」
シノブさんは、私の反応が望ましいものでないことに
いら立ちを感じているようだった。
「私…結婚する前に、本当は好きな人がいたのよ…」
55歳の彼女の結婚前って、いつのことなんじゃ。
「そっちと結婚すればよかったじゃん」
「キャッ!そんなこと…付き合ってなかったんだもん」
「な~んだ」
「でも、私の心はずっとあの人のものなの」
シノブさんはおもむろに、財布から古びた写真を取り出した。
あどけない坊主頭の男子学生が写っている。
いろんな人にこれをやっているらしく
さんざん出し入れを繰り返した写真は、すり切れている。
「告白すればよかったのに」
「どうしても無理だったの…事情があったのよ…」
その事情というのを言わないが、なんとな~くわかる。
詰め襟のダブつき加減や、つるりとした幼い顔立ちから見て
この男子、かなりの小柄だったと思われる。
「もし彼とつきあって、結婚してたら
どうなってるかな~って、よく考えるのよ」
どうなるもこうなるも…セントバーナードとチワワ…。
言いたいけど、我慢した。
シノブさんは言う。
ずいぶん前からの顔見知りではあったが
人見知りが激しいタチらしく、最近やっと話すようになった。
シノブさんは、いい人だ。
タテにもヨコにも大きいのがいい。
二人でいると、私が小柄で華奢に見えるというヨコシマな利点がある。
「え!虐待?」
「中学の時、バスケットやってて、来て欲しいという高校もあったのに
親が行かせてくれなかったの」
「ふ…ふ~ん」
「もしもその高校に行ってたら
今頃は、バスケで有名になっていたかもしれないでしょ?」
「そりゃ…まあ…」
「未来の可能性をつぶされたのよ」
「…」
「主人ともね…無理矢理結婚させられたの…
どうしても私じゃなきゃダメと言われて
さらわれるように連れて来られて、籍も勝手に入れられたの」
「拉致?」
ちょっと前のしずちゃんみたいな彼女をさらうのは、大変だぞよ…。
シノブさんは、背丈と腹周りに漂う私の視線を察してか、急いで続ける。
「昔は細かったのよ!
でも、ストレスで食欲に走らされたの…」
「だ…誰に…?」
「主人によっ!」
シノブさんは、私の反応が望ましいものでないことに
いら立ちを感じているようだった。
「私…結婚する前に、本当は好きな人がいたのよ…」
55歳の彼女の結婚前って、いつのことなんじゃ。
「そっちと結婚すればよかったじゃん」
「キャッ!そんなこと…付き合ってなかったんだもん」
「な~んだ」
「でも、私の心はずっとあの人のものなの」
シノブさんはおもむろに、財布から古びた写真を取り出した。
あどけない坊主頭の男子学生が写っている。
いろんな人にこれをやっているらしく
さんざん出し入れを繰り返した写真は、すり切れている。
「告白すればよかったのに」
「どうしても無理だったの…事情があったのよ…」
その事情というのを言わないが、なんとな~くわかる。
詰め襟のダブつき加減や、つるりとした幼い顔立ちから見て
この男子、かなりの小柄だったと思われる。
「もし彼とつきあって、結婚してたら
どうなってるかな~って、よく考えるのよ」
どうなるもこうなるも…セントバーナードとチワワ…。
言いたいけど、我慢した。