殿は今夜もご乱心

不倫が趣味の夫と暮らす
みりこんでスリリングな毎日をどうぞ!

過去女房

2011年02月15日 09時16分14秒 | 女房シリーズ
「私は親に夢をつぶされて、人生を狂わされたの…」

シノブさんは言う。

ずいぶん前からの顔見知りではあったが

人見知りが激しいタチらしく、最近やっと話すようになった。


シノブさんは、いい人だ。

タテにもヨコにも大きいのがいい。

二人でいると、私が小柄で華奢に見えるというヨコシマな利点がある。


      「え!虐待?」

「中学の時、バスケットやってて、来て欲しいという高校もあったのに

 親が行かせてくれなかったの」

      「ふ…ふ~ん」

「もしもその高校に行ってたら

今頃は、バスケで有名になっていたかもしれないでしょ?」

      「そりゃ…まあ…」

「未来の可能性をつぶされたのよ」

      「…」


「主人ともね…無理矢理結婚させられたの…

 どうしても私じゃなきゃダメと言われて

 さらわれるように連れて来られて、籍も勝手に入れられたの」

      「拉致?」

ちょっと前のしずちゃんみたいな彼女をさらうのは、大変だぞよ…。


シノブさんは、背丈と腹周りに漂う私の視線を察してか、急いで続ける。

「昔は細かったのよ!

 でも、ストレスで食欲に走らされたの…」

      「だ…誰に…?」

「主人によっ!」

シノブさんは、私の反応が望ましいものでないことに

いら立ちを感じているようだった。


「私…結婚する前に、本当は好きな人がいたのよ…」

55歳の彼女の結婚前って、いつのことなんじゃ。

     「そっちと結婚すればよかったじゃん」

「キャッ!そんなこと…付き合ってなかったんだもん」

     「な~んだ」

「でも、私の心はずっとあの人のものなの」


シノブさんはおもむろに、財布から古びた写真を取り出した。

あどけない坊主頭の男子学生が写っている。

いろんな人にこれをやっているらしく

さんざん出し入れを繰り返した写真は、すり切れている。


     「告白すればよかったのに」

「どうしても無理だったの…事情があったのよ…」

その事情というのを言わないが、なんとな~くわかる。

詰め襟のダブつき加減や、つるりとした幼い顔立ちから見て

この男子、かなりの小柄だったと思われる。


「もし彼とつきあって、結婚してたら

 どうなってるかな~って、よく考えるのよ」

どうなるもこうなるも…セントバーナードとチワワ…。

言いたいけど、我慢した。
コメント (21)
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