殿は今夜もご乱心

不倫が趣味の夫と暮らす
みりこんでスリリングな毎日をどうぞ!

婆ネタ・5

2025年02月09日 16時49分17秒 | みりこんぐらし
サチコが入院を今月末まで延長した理由は

同級生のデイサービス仲間メイ子ちゃんについた嘘が

バレないようにするための格好…
 
格好というワードで延長の謎が解明されると

もう一つ残っていた疑問も自然に解消された。

今回、どうしてサチコが素直に入院したか…である。


それは、施設の職員に向けた格好。

延長がメイ子ちゃんに向けた格好なら

入院は施設の職員向けの格好というわけだ。


最初は誰でもそうであるように、サチコは入院を嫌がった。

嫌がるというより、正月に行き場の無い自分をしきりに嘆く。

担当医には「入院します」と言ったものの

例のごとく、心が揺れ続けるヒロイン状態だ。


施設には、「実子が帰省しなければ入院」と伝えてあった。

こういうのも個人情報なので、メイ子ちゃんを始め

デイサービスの利用者に漏れることは無い。

しかしその伝達は職員全員が共有していて

入れ替わり立ち替わり、デイサービスの迎えが来るたびに

「娘さんが帰られるから、いいですね!」

サチコにそう話しかけていた。


けれども12月の半ばになると

実子のマーヤが正月の帰省に消極的だとわかってきた。

帰省の話が出ても電話が無い、かけても留守、リターンも無し。

これが続けば、認知症でもわかる。


その頃から、サチコは精神安定剤とビールを飲み始めて

朝、起きられなくなった。

私はサチコがよくやる、周囲を困らせて気を引くための

パフォーマンスと思っていたが

本人はマーヤが帰らないとわかって絶望したと思われる。


一人娘に対するサチコの思いは、尋常でなく強い。

帰らないとなると、サチコにはやるべきことがあった。

施設の職員に、マーヤが冷たい娘だと思われないよう立ち回ること。

それには入院しかなかった。


「入院するから、帰省はしなくていい」

先にそう断ったという格好にすれば、娘の低体温は問われず

ついでに「娘から嫌われた母」という汚名も払拭できる…

誰もそんなこと思やしないんだけど

いつも他人のそういう部分を見透かして、あざ笑ってきたサチコは

いざ自分にそういう事態が訪れると

人の目や口が気になってしょうがないのだ。

このような面倒くさい性格が

サチコの脳と心を破壊したのかもしれなかった。


ともあれ入院のお陰で穏やかな日々を満喫中の私だが

ひとたび楽をしてしまったら、もう以前には戻れないかも。

そこで今は、入れる余地の無い市内の施設を諦め

遠くの施設に連絡を取ったりパンフレットを取り寄せて

虎視眈々と勉強中。


安く入れることで人気の特別養護老人ホームは

入居資格が要介護3以上なので、要介護2のサチコは入れない。

要介護2でも入れる有料老人ホームは費用が高い所しかなく

元公務員のサチコの年金でも厳しいため、現実性が無い。


サ高住(サービス付き高齢者住宅)であれば

入居条件が要支援からなので、サチコでも入れる。

夜間も当直がいて、希望すれば三食が付き

デイサービスや入浴介助も受けられる賃貸アパートのようなもので

私の住む町にもある。


が、何だかんだの上乗せで毎月の費用が20万近くかかり

生活はアパートで一人暮らしをするのとあまり変わらない。

入院したら部屋を返すか

あるいは借りていたいなら家賃を払い続けなければならず

しかもアパート扱いだから看取りができない。

つまり終の住処にはならないので人気が無く、いつも空き部屋がある。


同級生けいちゃんのお父さんも、マミちゃんのお父さんも

他に数人の知り合いの親が、生前はサ高住を利用したが

皆、数ヶ月で出てしまった。

今は別の知り合いが、施設の順番待ちをする母親を入居させているが

サ高住で順番待ちをしたら、永遠に順番が来ないという黒い噂もある。


サチコに手がかかるようになって以来、私はどこかで思っていた。

入れる施設が無いまま、立ち退きの日が来てしまったら

国土交通省あたりに「おそれながら」と申し出て

何とかしてもらおう…。


しかし甘かった。

悪名高いサ高住の親分は厚生労働省ではなく

国土交通省の管轄らしいではないか。

町内のサ高住を紹介されて、終わりそう。


色々調べてみたが、入居させるのであれば

やはり特別養護老人ホームが一番良さげだ。

だから人気があって、なかなか入れない。


本人の収入に見合った費用で入れるのもそうだけど

民間でなく病院経営なので、病気に対して手厚く

看取りまで確実にやってくれるのはもとより

いちいち外出させて外部の病院へ連れて行く手間が少ない。

母体が大きいので経営不振で倒産したり

経営者が変わって混乱する可能性も少ない。


しかし私が最も注目する点は、施設内の売店の有無。

民間経営の小さい所だと売店が無いので

やれ衣類だティッシュだと、施設や本人から連絡が来たら

いちいち買って届けなければならない。

料金を支払えば買い物を代行してくれる所もあるそうだが

施設によってあったり無かったり、確実でない。

よって医療法人が母体の特養で、売店のある所が私の希望。

要介護3になって申し込み、順番が回ってきたらの儚い夢である。


しかし特養ではないものの、県境に一軒、これはと思う施設がある。

デイサービスを受けながら、永遠に宿泊できる形態の施設だ。

うちからは遠いが、マーヤの住む関西からは少し近くなる立地も魅力。

この際、バトンタッチだ。


さっそく電話をしたら、要介護2のサチコでも可能だそうで

一度、見学に来るよう言われた。

が、何しろ遠いし、今は雪深いので行けそうもない。

春になったら考えようと思っている。

《完》
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婆ネタ・4

2025年02月07日 09時44分44秒 | みりこんぐらし
サチコが自ら進んで入院し

さらに自ら入院期間を延長したのはなぜか。

去年の夏、初めて入院した時は脱走を企て

洋服や大きいマスクを持って来いと私に命じたサチコが…

家もお金も継子に盗られると罵詈雑言を吐いていたサチコが…

今回、滅多に電話をかけてこないのは明らかにおかしい。


思いつくままの電話も迷惑だが、あんまり静かだと

また急に何を言い出すやら、反動が怖いじゃないの。

今はサチコの世話から解放されてパラダイスだけど

いつか突然の電話でそれが終わると思ったら

油断するわけにいかないじゃないの。


しかしやがて、不気味な静寂の理由が明らかになった。

…ショウタキのデイサービスには、メイ子ちゃんという

サチコの同級生も通っている。

二人の実家は近所で、幼馴染みでもあった。


大音響のマシンガントークを炸裂させ

ガハハ!と笑う陽気な彼女は、陰気な気取り屋のサチコと対照的だが

人を人とも思わぬ所や自慢しいの女王体質はサチコと同じなので

二人は仲良しじゃない。

それでも生き残っている同級生は彼女だけだから

お互いに伴侶を亡くして一人暮らしという共通点をよすがに

サチコの方が幾分遠慮する形で付き合っている。


代々米問屋を営んできた裕福な家付き娘のメイ子ちゃんは

数々の自慢案件を持つが、中でも一番の自慢は

私より一つ上の娘さんが岡山の開業医に嫁いでいること。

それをデイサービスでも自慢しまくるので

サチコは大いに気に入らない。

娘自慢はサチコの十八番でも、医者の妻というカードを出されたら

サチコ基準では負けになるらしく、いつも悔しがっている。

デイサービスに行きたがらないのは

メイ子ちゃんも原因の一つだと私は見ているのだ。


この正月が明けた10日過ぎ、実家の様子を見に行くと

メイ子ちゃんから遅い年賀状が届いていた。

それにはこう書いてある。

“前にも話しましたけど岡山の娘が迎えに来てくれたので

デーサービスが休みの間はそちらで厄介になりました。

娘夫婦と孫たちが良くしてくれて楽しい正月でした。

サチコさんも久しぶりに娘さんと会って嬉しかったでしょう。

またデーサービスでたくさん話をしましょうね”


メイ子ちゃんもどっぷり認知症だが、なかなかどうして

しっかりした字と文章だ。

サチコはこの年賀状をまだ見てないが、見たら逆上するのは確定。


ともあれ内容から推測するに、メイ子ちゃんとサチコの間で

施設も弁当も休みになる年末年始の6日間をどう過ごすかが

話題になっていたらしい。

サチコはメイ子ちゃんへのライバル心で

マーヤが帰省すると自慢していたようだ。


入院を延長したのは、そのメイ子ちゃんに会いたくないから。

3月からデイサービスに行けば、ほとぼりは冷めており

正月の話は回避できる寸法だ。


時の流れを利用して、別の結果にすり替えたり

無かったことにする…

これは狡猾なサチコが昔から使う手の一つなので、間違いない。

何が何でも入院を続ける決意だから

どうでもいい継子と接触する必要は無いのだ。

病院でひたすら息を潜め、月日が過ぎ去るのを待つ…

それがサチコの計画である。


「認知症の老人が、そこまで考えられるだろうか?」

認知症を知らない人は思うかもしれない。

しかし認知症はある日突然、急に何もわからなくなるわけではない。

その前に、頭がはっきりしている時とそうでない時を繰り返す

長い助走がある。

“まだら”と呼ばれる時期だ。


まだら期には、ボンヤリしているかと思えば

突如しっかりしたり、こざかしい知恵で何やら画策することがあり

認知症の診断を疑ってしまいそうなことがよくある。

特に、本人が強いこだわりを持つ事柄に関しては

その現象がよく現れる。

が、そこは悲しいかな認知症。

こだわりを通すために子供じみた嘘をついたり

恥ずかしい作り話や小細工をやらかすことも、ままある。


サチコのこだわりは、“格好”。

元々自意識過剰なので、格好をつけるために何でもするさ。

娘が帰省してくれる…

メイ子ちゃんについた嘘を隠し通すためならば

2ヶ月の入院なんざ、へのカッパ。

入院を延長した原因がわかったので、私は退院までの残された日々を

存分に楽しむことができそうだ。

《続く》
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婆ネタ・3

2025年02月05日 10時27分47秒 | みりこんぐらし
寒波が襲っていますが、皆様の所は大丈夫でしょうか?

くれぐれも気をつけてお過ごしください。



で、私を悩ませている当のサチコだが

昨年末から現在に至るまで、依然として精神病院へ入院中。
 
時間に余裕があるもんで、2日の節分には巻き寿司を作っちゃった。

いつものビンボー寿司と…


エビマヨ巻き

家族で豆まきもして、楽しかった。



サチコは、デイサービスの年末年始の休業が終わる1月6日が

退院予定だった。

しかし実家の玄関その他を修繕する業者の日程が決まったため

私が1月末までの延長を希望。

コロナ禍の遺産で材料が入りにくいのと

儲けにならない工事は後回しにされるのとで

昨年9月に頼んだ工事が1月になったのだ。


サチコは今もって、この工事に納得していない。

「どうせ立ち退きになって壊すのに、もったいない!」

と主張し

「継子が友だちの大工とグルになって、私の金を取ろうとしとる」

とまでほざきおった。


しかしショウタキのケアマネからは

「玄関の修繕はまだですか?」

と催促され続けているし、私も玄関を直すのは

必要なことだと思っている。

人の世話にならなければ生活できなくなったのだから

人が出入りしやすように家を整備するのは要介護者の義務とすら思う。

サチコが家に居たら、業者に暴言を吐きまくるのは明白なので

留守の間にやってしまうもんね。


工事が終わり、1月の末が近づいたので

病院の相談員と電話で話し合った。

「せっかく慣れたデイサービスが振り出しに戻るので

早めに退院された方がいいと思うんです」

相談員は言う。


サチコが退院すると、またデイサービスの送り出しが始まって

慌ただしくなるが、もっともな意見だと私も思った。

デイサービスに通い始めた初期は、施設へ行っても昼には帰ってしまい

午後は私に電話の嵐だった、あの悪夢が再び始まるのはごめんだ。


さらに入院に関しては、3ヶ月ルールというのがある。

最大3ヶ月間は入院できるが、長く入院すると

次に本当に調子が悪くなった時、退院して3ヶ月が経過しなければ

再び入院することはできない。

相談員は、そのことも心配している様子。


そして元気なサチコを引き留めたら

病院が民間施設の商売を邪魔する格好になるので

それを避けたいという都合もあるようだ。

少人数の利用者で運営されるショウタキは

一人が長く休むと減収が大きいのである。


私が退院を承諾したので、相談員は病棟のサチコと面談して

退院の日を決めることになった。

しかしサチコは、「まだ入院していたい」と言う。

説得不可能な性格は相談員もわかっているので

サチコの強い希望が通され、退院は今月末まで延長された。

実家の修繕も終わり、だから私は今、自由の身なのである。



話は遡って昨年11月。

施設が年末年始に休業すると知ったサチコが不安定になった時

私はこう思っていた。

「デイサービスが休みになるから、寂しいのだろう」


そして12月に入ると、サチコは自ら入院したいと言い出した。

その頃にはすでに入院を決めていたので

行く行かないで揉める恐れが無くなり、私は安堵したものだ。

しかし一方、「何でこんなに素直なんじゃ?」
 
と、いぶかしくも思った。

あまのじゃくサチコの素直は、ちょっと怖いじゃないか。


そのまま年末が来て、すんなり入院したが

昨年の夏に初めて入院した時とは違って、今回は異様におとなしい。

インフルエンザの流行で面会が禁止になっているため

私が病院へ呼ばれることはなく、彼女も滅多に電話をしてこない。

「入院も2回目だから、慣れたんだろう」

そう思いながらも

「あのサチコがなぜ…」

違和感は、ずっと拭えないままだった。


エナジーバンパイアは、◯ぬまで治らん。

エナジーバンパイアとは、周囲の人間の時間や労働力を搾取し

愚痴や悪口を聞かせ続けて活力を吸い取る者のことだそうで

つまりサチコそのものじゃん。

そのモンスターが、こんなにもおとなしいのには

きっと何かがあるに違いないのだ。


やがて今頃になって、サチコが自ら進んで入院し

さらに自ら入院期間を延長した理由が判明した。

その真相は、単純なものだった。

《続く》
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婆ネタ・2

2025年02月02日 13時49分59秒 | みりこんぐらし
油断ならない施設…ショウタキ。

サチコに要介護が付くまで、そんな施設が存在することを知らなかった。

デイサービスに宿泊、希望があれば日に2回の弁当配達で安否確認…

施設と最初に面談した時、そのシステムを聞いた私は

「何と素晴らしい施設があるものよ」

と感激したものだ。


「1ヶ月単位、あるいは暑い間や寒い間

本人の希望があって、お部屋が空いていたらいつでも泊まれます」

そう言われたからこそ、喜んで契約したショウタキ。

しかしフタを開けたら泊まりは週一、デイサービスは一日おき。

なかなか入れない老人ホームの代わりに

宿泊という形でしっかり泊まらせてくれ

あと先はデイサービスと弁当でしのぐ所だと思っていたら

違っていた。


「もっと泊まれないのか」とたずねても、答えはすげない。

「本人の希望があれば、です。

お母様は長期宿泊どころか、週一の泊まりも嫌がられますし

9室あるお部屋も、長期となると空けられるかどうか

今はわからないので難しいかもしれません」

“本人の希望があれば”、“お部屋が空いていたら”

事前に提示した伏線が、施設と職員を守る寸法。

プロの話術に、舌を巻いた私である。


誤解の無いよう申し上げておくが、それはあくまで私にとってのこと。

私が何でも裏を見ようとするひねくれた人間であり

サチコとは戸籍上、無関係の他人というイレギュラーな状況だからだ。

ショウタキのシステムが合っていて

助かっている利用者やご家族もおられるはずである。


ともあれサチコが難しい人間で、扱いに困るのは百も承知。

それをうまくやってくれるのがプロであり、施設だと思っていたが

施設では、親の性格も家族の責任になってしまうらしい。

「お母様の症状や気持ちを考えると

ここは娘様に少し頑張っていただいて…」

こればっかりで、私の負担はどんどこ増えていく。

さりげなく子供の孝行心を刺激して

やるべきことを増やすのもまた、プロの技。

孝行心の無い私は、持ち前のひねくれ根性でそう受け取るが

親を大切に思う子供なら、ひとたまりも無いだろう。


その例が、中学の同級生ミッくん。

彼は単身赴任で長らく海外に居て

奥さんは留守を守りながら、認知症になった彼の母親を

何年も一人で介護していた。

しかし数年前、奥さんが脳出血で倒れたため

ミッくんはすぐさま退職して帰国、母親の世話を引き継いだ。

幸いにも奥さんは生還し、今は無理の無い程度に

母親を介護するミッくんのサポートをしている。


寝坊してデイサービスに遅れたサチコを施設に送ったり

書類や薬のやり取りで施設へ行く時には、いつも彼を見かける。

気のいい子なので、施設から言われるままに母親を送迎しているのだ。


彼らの住まいは町外れで、送迎に時間がかかる。

しかし家族が送迎すれば、施設から送迎車を出さずに済むので

車や人員が浮くではないか…ひねくれた私はそう見ている。

私も一度、自力の送迎を打診されたことがあるからだ。


まずデイサービスの送り出しを提案され、これは飲んだ。

サチコが行きたがらないのと、玄関に外鍵が無いため

裏から出入りするという物理的な問題があったからだ。

が、送り出しに慣れてくると

「同じ遠くから来られるなら、朝だけでも施設まで送っていただくと
 
お母様も安心されると思うんですよ」

そのような意味のことをさりげなく言われた。


ミッくんは母親の近所に住んでいるし、家事をする必要も無く

母親だけに専念できるので支障は無かろうが

JRで3駅離れている私には無理。

「施設までの道が狭いので怖い」

と断ったが、朝の送り出しは

迎えの車と人員を節約するための前触れ… 

私はひねくれた心で、そう思った。


中学の頃から変わらない笑顔で

楽しそうに母親を連れて来るミッくんを見るたび

私の汚れきった心は洗われる。

しかし一方、脳出血で倒れた彼の奥さんは

近未来の私のような気がしてならない。

自分を大事にしよう…改めてそう誓う日々である。


ちなみにショウタキの料金は

要介護2・デイサービス週3・宿泊週1・日に2回の弁当配達

洗濯が施設任せで、1ヵ月約7万5千円。

弁当は昼も夕も、1食600円だ。

これに泊まりが増えると、朝食料金と宿泊料金で

一泊あたり5千円ちょっとが加算される。

このようなことを知るのも糧といえば糧だけど

あんまり役に立ちそうもない。

《続く》
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婆ネタ・1

2025年02月01日 09時15分35秒 | みりこんぐらし
「また婆ネタかよ…」

実家の母サチコ関連の記事をアップすると

お立ち寄りくださる方々の溜め息が聞こえそうだ。

本当に申し訳ない。

いつも我慢してくださって、本当にありがとうございます。


そう言う私だって、よその年寄りの話なんか面白くないもんね。

特にサチコのような人物の話は、胸くそ悪いぞ。

だけど、書くのは面白い。

壊れた年寄りが何を考えているか…

介護関係者が何を求めているのか…

その時は全然わからなくて当惑するんだけど

後で「なるほど」と納得することがよくあるのだ。

これがしゃべらずにおられようか。


自宅の姑に実家のサチコ…

二人の老女にかまける状況でも、唯一の趣味は続けられる。

それは人間観察。

生きとし生けるものの心模様や、世の仕組みを知るという

腹の足しにならないことが好きな私にとって

老人を媒体にもたらされる新しい知識は

厳しい日々の中で与えられる、小さな糧なのかもしれない。



さて91才のサチコが、認知症と鬱病で前後不覚となった現在

安全を確認した地元の人々は、徐々に本音を口にし始めた。

近所、趣味の仲間、商売などでサチコと長く関わってきた人たちが

その激しい気性を恐れ、引き、遠巻きにしてきたのがよくわかる。

皆、優しいのでダイレクトな表現ではないが

表向きではサチコを気遣う言葉の端々から、それを感じる。

「この人たちは何もかも、わかっていたんだな…」


サチコが壊れて以降、実子が寄りつかなくなったのも

存在を消されていた継子が急に現れたのも

「あのサチコさんなら、そうだろう」

と納得され、誰も不審に思わない様子。

説明不要の安堵感は、糧の一つである。


今まで未知の世界だった介護業界のあれこれを知るのも、やはり糧。

昨年、サチコが要介護2と認定されて以来

デイサービスだのケアマネだの、初めてづくしで

何もわからなかった私だが、やっと少しわかってきた。

ケアマネって、ズタズタの年寄りとその家族の救世主じゃないのね。

施設と利用者の間に入って何をするかというと

施設が円滑に運営できるよう

利用者との兼ね合いを調節するお仕事なのね。


老人の世話で疲弊している子世代が

優しく導いてくれるケアマネを信頼するのは無理もない。

しかし地獄に仏とばかりに、ありがたがったり

親孝行な子供と思われたくて

何もかもあの人たちの言う通りにしていたら、えらいことになる。


ケアマネだって人間だから、利用者や家族との相性によって

当たり外れがあるという。

サチコに付いたベテランのケアマネは、誠実でいい人だ。


しかし寂しい寂しいと訴え続け、問題行動を起こすことで

誰でもいいから無給の召使いをゲットしたいサチコとは

一定の距離を取りながら、できる範囲で関わるスタンスを

保ちたい私には手強い相手。

「これこれこういうことがありましたから

今日、様子を見に行ってあげてください」

「これから電話で事情を聞いてあげてください」

うっかりしていると、頻繁な訪問や電話を指導され

サチコとの距離を縮められてしまうため、油断できない。


けれどもそれは、サチコが関わっているのが老人ホームと違い

小規模多機能型居宅介護施設…通称ショウタキだからだ。

“小規模”というからには、少人数の利用者を対象に

少人数の職員で運営する施設。

“居宅介護”というからには、自宅で生活を続ける人のための施設。


日本は凄まじい高齢化に対応できず、完全入居できる老人施設が足りない。

だから政府は、要介護度の認定をなるべく進ませない方針に決め

やたらと自宅での生活を推奨するようになった。

しかしヨレヨレの老人が一人で生活するのは、誰が考えても大変だ。

特に困るのが風呂と食事。

老人を自宅で生活させなければ、商売は成り立たないので

その鬼門である風呂と食事を

デイサービス、宿泊、弁当の配食といった“多機能”でカバーし

自宅生活をサポートするのが、このショウタキという施設らしい。


転倒、ヒートショック、事故、火事などの危険から

老人を守るという建前があるので

施設の目や手が行き届かないところは、家族がカバーすることになる。

多機能によって至れり尽くせり

ありがたい施設であることに異論は無いが、結局のところ何かあるたびに

家族の負担は一つ、また一つと増えていき

確か別居しているはずが、知らず知らず同居と似た状況に近づいていく。

そんなショウタキの現実を知ったのも、やはり糧の一つである。

《続く》
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