ある日、自分のあばら骨に触ったら、肉を通して骨を感じるまでの距離が
遠くなった気がした。
ヤバイで、こりゃ。
いずれ…そのうち…暖かくなったら…涼しくなったら…
と先延ばしにしていたが、とうとうウォーキングを始めた。
朝、家族を送り出すと、何もかもほったらかして家を出る。
まるで家出。
すぐ近所に、車の通らない河川敷がある。
そこを目指すのじゃ!
日焼けが気になるので、できれば夕方以降にしたいところではあるが
夫の両親の家へ食事を持って行かなければならない。
時間など選んでいては、いつまで経っても実行できんのじゃ。
とにかく1回やってみて、後のことはそれから調整するんじゃ。
河川敷へたどり着くまでに、仲良しの年配の奧さん
岩見夫人の家がある。
たまたま庭から私の姿が見えたらしく、声を掛けられた。
「みりこんさ~ん!なにごと?」
「歩くのよ!今日から歩くの!」
「思い詰めた顔してるから、何かあったのかと思ったわ」
「あったわよっ!太ったのよ!」
「私も歩こうかな…」
「一緒に行きましょうよ」
「待って、支度するから」
しばし待つと、ジャージにスニーカーで現われた岩見夫人。
手にはタオルとペットボトルを持つ本格的スタイルが勇ましい。
着の身着のままの私とは大違いだ。
2人で歩いていると、やはり河川敷を歩いていた知り合いと合流。
そのうち、岩見さんのご主人も追いかけて来た。
皆でザクザク行進する。
「Gメン75…」
そうつぶやく者がいる。
「白い巨塔…」
そう笑う者もいる。
どっちにしても、古っ!
ペチャクチャしゃべりながら、河川敷を一周して解散。
そしてわかった。
歩くって、美容や健康のためというより、頭のためなのかもしれない。
脳みそがクリアになるというのか、とてもスッキリする。
ウォーキングといえば、我が夫。
もう15年以上続けている。
平日も歩くが、休日には5キロ10キロは平気で歩く。
歩き始めた当初、夫の目的は健康ではなく
メール及びデートのためであった。
「ちょっと歩いてくる」と家さえ出れば
歩きながらメールざんまいだろうと、デートに流れようと自由である。
誰も気にせず、何も言いやしないのだが
彼としては、会社や家からフラリと姿を消せる
もっともな理由が欲しかったらしい。
徘徊老人のごとく、朝、散歩に出たきり
夜になっても、次の朝になっても、帰らないことも多かった。
しかし今は、つかの間でもお会いしたいと申し出てくれる
けなげな婦女子もいなくなったので、純粋に歩いている模様。
子供達は長年、そんな彼のことを「アルクハイマー」と呼んでいる。
それでも夫は、一応ウォーキングの大先輩だ。
「すごくスッキリして、気持ちが良かった!」
と敬意を表して報告する。
「そうだろ?頭が軽くなるんだよな!」
夫は嬉しそう。
頭もお尻も、元々軽いんじゃなかったっけ…
とは言わない、優しい!私であった。
ともあれ、結婚31年にして初めて、夫婦共通の趣味ができた。
夫は時々「一緒に歩こう」と誘う。
彼の実家から愛犬パピを強奪し、お供をさせることもある。
夫と歩くのは、近所にある農道。
夫の叔母が、いつも愛犬と散歩する道だ。
平坦で、人も車も滅多に通らない理想的コースである。
ため池を一周すると長い道のりになるので、初心者の私にはハードだが
痩せたいという欲にすがって歩き続ける。
しかし、私は衝撃的な事実を思い出した。
「ねえ…てるみ叔母さんは、何年もここを歩いてるんだよね…」
「朝晩2回」
「タケシ君もだよね…」
タケシ君とは、てるみ叔母さんの40代の息子である。
てるみ叔母さんはトイプードルを
タケシ君はやたらとデカい雑種を連れて
それぞれ毎日2回も、この道を散歩しているのだ。
「どっちも太めだよね…というか、肥満児…」
「散歩じゃ痩せんぞ。
オレを見ろ!いい見本じゃないか。
歩くとメシがうまいんだ」
「…」
希望はこっぱみじん。
それでも“もしや”の三文字を胸に、とぼとぼと歩く。
ところで、2人で散歩って、老夫婦の王道ではなかろうか。
とうとうそういう年になったのだ…がっくり。
王道じゃなくて、農道だけど。
遠くなった気がした。
ヤバイで、こりゃ。
いずれ…そのうち…暖かくなったら…涼しくなったら…
と先延ばしにしていたが、とうとうウォーキングを始めた。
朝、家族を送り出すと、何もかもほったらかして家を出る。
まるで家出。
すぐ近所に、車の通らない河川敷がある。
そこを目指すのじゃ!
日焼けが気になるので、できれば夕方以降にしたいところではあるが
夫の両親の家へ食事を持って行かなければならない。
時間など選んでいては、いつまで経っても実行できんのじゃ。
とにかく1回やってみて、後のことはそれから調整するんじゃ。
河川敷へたどり着くまでに、仲良しの年配の奧さん
岩見夫人の家がある。
たまたま庭から私の姿が見えたらしく、声を掛けられた。
「みりこんさ~ん!なにごと?」
「歩くのよ!今日から歩くの!」
「思い詰めた顔してるから、何かあったのかと思ったわ」
「あったわよっ!太ったのよ!」
「私も歩こうかな…」
「一緒に行きましょうよ」
「待って、支度するから」
しばし待つと、ジャージにスニーカーで現われた岩見夫人。
手にはタオルとペットボトルを持つ本格的スタイルが勇ましい。
着の身着のままの私とは大違いだ。
2人で歩いていると、やはり河川敷を歩いていた知り合いと合流。
そのうち、岩見さんのご主人も追いかけて来た。
皆でザクザク行進する。
「Gメン75…」
そうつぶやく者がいる。
「白い巨塔…」
そう笑う者もいる。
どっちにしても、古っ!
ペチャクチャしゃべりながら、河川敷を一周して解散。
そしてわかった。
歩くって、美容や健康のためというより、頭のためなのかもしれない。
脳みそがクリアになるというのか、とてもスッキリする。
ウォーキングといえば、我が夫。
もう15年以上続けている。
平日も歩くが、休日には5キロ10キロは平気で歩く。
歩き始めた当初、夫の目的は健康ではなく
メール及びデートのためであった。
「ちょっと歩いてくる」と家さえ出れば
歩きながらメールざんまいだろうと、デートに流れようと自由である。
誰も気にせず、何も言いやしないのだが
彼としては、会社や家からフラリと姿を消せる
もっともな理由が欲しかったらしい。
徘徊老人のごとく、朝、散歩に出たきり
夜になっても、次の朝になっても、帰らないことも多かった。
しかし今は、つかの間でもお会いしたいと申し出てくれる
けなげな婦女子もいなくなったので、純粋に歩いている模様。
子供達は長年、そんな彼のことを「アルクハイマー」と呼んでいる。
それでも夫は、一応ウォーキングの大先輩だ。
「すごくスッキリして、気持ちが良かった!」
と敬意を表して報告する。
「そうだろ?頭が軽くなるんだよな!」
夫は嬉しそう。
頭もお尻も、元々軽いんじゃなかったっけ…
とは言わない、優しい!私であった。
ともあれ、結婚31年にして初めて、夫婦共通の趣味ができた。
夫は時々「一緒に歩こう」と誘う。
彼の実家から愛犬パピを強奪し、お供をさせることもある。
夫と歩くのは、近所にある農道。
夫の叔母が、いつも愛犬と散歩する道だ。
平坦で、人も車も滅多に通らない理想的コースである。
ため池を一周すると長い道のりになるので、初心者の私にはハードだが
痩せたいという欲にすがって歩き続ける。
しかし、私は衝撃的な事実を思い出した。
「ねえ…てるみ叔母さんは、何年もここを歩いてるんだよね…」
「朝晩2回」
「タケシ君もだよね…」
タケシ君とは、てるみ叔母さんの40代の息子である。
てるみ叔母さんはトイプードルを
タケシ君はやたらとデカい雑種を連れて
それぞれ毎日2回も、この道を散歩しているのだ。
「どっちも太めだよね…というか、肥満児…」
「散歩じゃ痩せんぞ。
オレを見ろ!いい見本じゃないか。
歩くとメシがうまいんだ」
「…」
希望はこっぱみじん。
それでも“もしや”の三文字を胸に、とぼとぼと歩く。
ところで、2人で散歩って、老夫婦の王道ではなかろうか。
とうとうそういう年になったのだ…がっくり。
王道じゃなくて、農道だけど。