殿は今夜もご乱心

不倫が趣味の夫と暮らす
みりこんでスリリングな毎日をどうぞ!

レジェンド・4

2016年02月27日 22時26分55秒 | みりこんぐらし
見てくれ部門に続き、出勤部門も

使う側と使われる側の意識に

大きな差がある。


悩める若者の出勤時間は、ギリギリが多い。

遅刻する度胸は無いが、不満は表現したい‥

自分の難儀の対価としては少ないと感じる給料で

こき使われる時間は1分でも惜しい‥

早く行ったら、苦しみが早く始まるだけ‥

ギリギリ出勤について

若者なりにもっともな理由を並べるが

どれも反抗心から生まれている。


悩める若者は、ささやかな反抗心を表現する

デモンストレーションとして軽く考えているが

周囲の受け止め方は異なる。

上司や同僚は、人の出勤時間を

ちゃんとチェックしているものだ。

ささやかな反抗心と引き換えに、失うものは多い。


仕事に悩む若者がいるぐらいだから

同僚の仕事も同じようにきつい。

同僚だって、あんまり行きたくない。

遠くても、身体がしんどくても

我慢して出てくるのに

自分より遅く来るやつがいる。

ひそかに注目するのは当然である。


交代制の仕事であれば、もっと注目する。

次が来ないと、自分の仕事に終わりが見えない。

来るのはわかってはいるが

顔を見なければ、ホッとする瞬間は訪れない。

交代要員の訪れは

解放が近いことを知らせる嬉しい合図なのだ。


日々同僚を待たせ、その心をすさませていることを

ギリギリに出勤する者は知らない。

和だの円満だのを望みながら

自ら叩き潰しているのがギリギリ出勤である。


上司は、もっと注目している。

挨拶を交わした直後は

ひそかに壁か腕の時計を見ているものだ。

上司にとって部下の出勤時間は

心象及び勤怠評価の上で、重要な物差しである。


残業は、いくら頑張っても物差しにならない。

わずかでも残業代が発生するからだ。

残業の規制は年々厳しくなっており

人件費削減の面においても

残業を奨励する企業は今や皆無。

近年では残業の多い社員は、能力を疑われる。


それだけなら本人の問題だが

残業の多い部下を持つ上司も

人件費削減に非協力的という罪により

部下の知らない所で上から管理能力を問われて

ガミガミ言われている。

部下の時間外勤務の集計なんぞ

見たくもないのが本音だ。

時間外勤務の対象にならない出勤時間に

目が行くのは当然である。


残業が当たり前の職場や

サービス残業ばかりの職場もあるが

残業に焦点を当てて頑張ったつもりになり

見返りが少ないと苦しむより

もう10分早く出勤する方が

世間の風を柔らかくするには効率が良い。


さらに、部下には無能に見える上司でも

経験だけは長い。

来るのが遅い者は、使えないか、続かないか

会社や自分に反抗心を持っているか

いずれにしても可愛げが無いことを

上司は経験で知っている。

例外を探してくれる物好きな上司は

滅多にいない。


その上、仕事というのは

始業時間や交代時間の直前に

よく事件が起きるものだ。

機械の故障、クレーム、急な段取り変更

出勤途中の誰かの事故‥

早めに出勤している者が協力し合って

急変の対策にあたることは、ままある。

労働基準法があるので誰も言いはしないが

始業前は一人でも多くの人数が欲しいのが

使う側の本音である。


一同が協力してピンチを乗り切った後

寝ぼけ面でやって来て何もしなかった。

もしくは出遅れて事情がつかめず

何もできなかった者の姿を周囲は忘れない。


仕事にゃなかなか来ないのに

飲み食いの席には早々とご登場‥

しかも会社から経費が出る時だけで

あとさきゃ欠席ときたもんだ‥

使う側は、よく見ているものだ。

そのような子を引き立ててやろうとは

誰も思わない。

こうして悩める若者は

能力発揮や親睦のチャンスを自ら失い続け

あてにされない人になっていく。


「あてにされると損よ」

そう言う大人もいる。

悩める若者は、これを聞いて揺れ

「もっともだ」とうなづく。


しかし、こと仕事においてこれを言う人で

有能な人物を私は見たことがない。

あてにされた経験が無いから言うのだ。

やり甲斐とは、あてにされることである。

仕事は、あてにされてナンボだ。


あてにされた見返りを求めるから、辛くなる。

給料をもらうだけでなく

会社に優しさや思いやりまでもらいたがり

与えられないから悩む。

会社が欲しい物を与えてくれないと泣くより

会社が本当に欲しがっているものを

自分から先に与えるのが

苦しみから脱出する近道だ。


まず10分早く出勤するところから

始めてもらいたい。

会社の欲しがるものは

通常、社則には書かれていない事柄である。

(続く)
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レジェンド・3

2016年02月27日 09時50分23秒 | みりこんぐらし
《なんとか(忘れた)キュラスとかいう花》


「身だしなみに無頓着」

「出勤時間が遅い」

「無愛想」

この三拍子がなぜ損なのか。

まず、身だしなみ部門から説明しよう。

身だしなみに無頓着、と柔らかく言ったが

要するに、見てくれが変ということだ。


悩める若者は、おしなべておしゃれでない。

悩んでいるからおしゃれどころでないのか。

おしゃれじゃないから悩むことになるのか。

どっちなんでしょう‥

そう流したいところだが

私はあえて、おしゃれじゃないから

悩むことになるのだと言いたい。


飾り立てて仕事へ行く必要は無いが

各社の経営者が望む最低ラインは必ずある。

会社は社長の命、重役の魂だ。

どんな会社であろうと、それは変わらない。

門、玄関、部屋、電話や電灯一つ一つにまで

経営者の思いは詰まっている。


その命や魂の大切な場所に

ナメた格好で出入りされて嬉しい者はいない。

できる範囲でいいから

見てくれを整えて参上つかまつるのが

正しい社会人である。


一方、働く人の多くに、その意識は無い。

元々身をかまうのが好きな人や

親を見て育ち、最初から意識の高い人もいるが

ほとんどは毎日通って働いているうちに

少しずつ理解していく。

給料や立場に成果を感じるようになると

さらに理解は深まる。


悩める若者は、何しろ悩んでいるのだから

そこまで考える余裕がない。

そこまで考えないから、悩むとも言える。

心も格好も、学生だからと許されていた当時のまま。

色あせたトレーナーや

すり切れた運動靴で甘えているのだ。


会社と学校は違う。

給料が発生する会社という組織は

「みんな一緒、みんなお友達」だった

学校とは異なり、見てくれで判断される。

見てくれの奥に隠されている能力や長所なんか

誰もわざわざ探しちゃくれない。


外見を整えて出勤する気のない者は

ナメられる。

会社に対して、その程度の礼節しか

持ち合わせていないと認識されるからだ。


礼節は、真剣さや誠意の表現方法だ。

本人に人一倍、真剣さや誠意があっても

一番わかりやすい髪や衣服は

「無い」というサインを出してしまっている。

使う側と使われる側

双方の意識の落差を知らない悲劇である。


礼節を惜しむ者は、信頼されない。

信頼を得られない者は

周囲から、ぞんざいに扱っていいと認識される。

だからぞんざいに扱われる。

ナメられてるんだから、そりゃ辛い。


一話目で話した新入社員A君は

入社式に喪服を着て来た。

通常、これは変の部類に入る。

しかし前の月まで高校生で

スーツを買えなかったA君は

お父さんの喪服という

A家にとって最上級の正装で臨んだ。


子供ながらに精一杯示した

礼節意識の高さがダイちゃんの涙を誘った。

入社式に列席した社長以下、取締役達の心も

大いに揺さぶられたことであろう。

その後の給料前借り発言も

礼節を通していれば、ご愛嬌になるのだ。


ありのままの姿見せるのは、アナと雪の女王に任せ

悩める若者には、礼節に基づいた外見の修正を

行ってもらいたい。

今までの訓練ができていないので

面積の少ない、靴から始めると安全だ。


昨日まで履いていたイモ靴、ブタ靴を脱ぎ捨て

ぜひともいい靴を買ってもらいたい。

高級な靴は、身を守る。

ナメちゃいけないのかな?と思わせる威力があるのだ。


スニーカーは、いくら値段が高くてもあかん。

年配者には値打ちがわからない。

若者の運命を握っているのは、上司。

つまり年配者である。


良い皮を使った美しい靴を

専門店で何足か揃えてもらいたい。

複数必要なのは、交代に履いて休ませるためだ。

靴を買う時、一緒にブラシなど

メンテナンスの小物も手に入れ

手入れをしながら大切に履いてもらいたい。


たとえ靴一足でも、上質な物を持つようになると

人の身につけている物の値打ちがわかってくる。

服の良さを見極めるには修行がいるが

皮は種類が少ないのでマスターしやすい。

「あ、いい名刺入れですね」

「この靴、高いでしょう」

人に向けて、今まで一度も

言ったことなんか無いであろう言葉も

おべんちゃらでなく、自然に口走るようになる。


自分のこだわりを見つけてもらった相手の喜びは

予想以上に大きいものだ。

「わかってくれる子」を誰が粗末に扱おうか。

人を笑顔にしたら、自分にも返ってくることを

やがて知ることになるだろう。

(続く)
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レジェンド・2

2016年02月25日 10時32分58秒 | みりこんぐらし
私の周辺に限って‥と限定させていただくが

悩める若者には、いくつかの共通点が見受けられる。

まず物理的な共通点は、寝不足。

介護関係、医療関係、学習塾の講師など

不規則な仕事に就いていることが多いからだ。


不規則な仕事は人が続かないので

いつも募集がある。

そこへ行くんだから、きついのは当たり前である。

寝不足だと身体も弱るが

人の何気ない言動や、ちょっとした出来事が

必要以上にこたえるようになり、心も弱る。

会社が、労働条件が、人が‥と苦しむ前に

まず寝不足の克服を考えた方がいい。

病院の厨房で不規則な仕事をしていた私は

その経験から、早めの入浴をお勧めする。


悩める若者に入浴する時間をたずねると

一様に「寝る前」と答える。

仕事から帰ると趣味や遊びに没頭したり

クヨクヨと我が身を憂うのに忙しく

風呂は最後のプログラム。


寝る間際までグズグズしている本当の理由は

一人暮らしの場合、風呂掃除がかったるくて

なかなかその気にならないからだ。

家族と同居の場合は

誰かが風呂の用意をするのを待っているのだ。


就寝直前に入浴すると、寝つきが悪くなる。

寝つきが悪いから、早く起きられない。

親にガミガミ言われて起こされれば

「こうなったのは金もコネも無い親のせい」

なんて、八つ当たりしたくもなるわいな。


ギリギリに起きるから、おしゃれどころじゃない。

寝癖頭にボロをまとい

始業時間直前に仏頂面で滑り込みゃあ

誰も「よく来たね」とは言うてくれまいよ。


当然、楽しくない。

楽しくないから悩みは深くなる。

その悪循環で、若いハートは

ますます追い詰められる。


仕事から帰ったら

すぐ風呂に入る習慣を始めてもらいたい。

しっかり眠って気力と体力を取り戻し

すっきりした頭と心で

改めてあれこれ考えて欲しいものだ。



次に基本精神の共通点としては

妥協で就いた仕事が

ハズレだったと主張するところ。

「本当にやりたいことじゃなかった」

「親に勧められて」

たいてい、こうおっしゃる。


それが悪いとは言わない。

若者とは、そういうものだ。

「本当は違う」を保険にして

あとは誰かのせいにしているうち

にっちもさっちもいかなくなって

何の解決にもならないと思い知る。

それを繰り返して大人になっていくのだ。


ただ、この基本精神でいる間は地獄が続く。

未来ある若者が苦しむのを見るのは、辛いものだ。

できるだけ早く、この繰り返しから

脱出してもらいたい。


そのために、使う側と使われる側の

意識の違いを知ることが必要になってくる。

先ほどキーワードが出たのにお気づきだろうか。

「寝癖頭にボロ」「始業時間直前」「仏頂面」

寝不足に次いで悩みを深めている要因は

身だしなみに無頓着、出勤時間が遅い、無愛想

この三拍子である。


私の知る限り‥と再度限定させていただくが

仕事で悩む若者は、この三拍子が揃っている。

「な~んだ、そんなこと?」

「僕は、私は大丈夫」

彼らはそう思っており、こう主張する。

「おしゃれができるほど給料をもらってないし

仕事が大変で余裕がない」

「遅刻はしたことない」

「嫌なことを顔に出さないよう

気をつけているつもり」

個性という便利な言葉もあることだし

使われる側としては、これでいい。


が、使う側は違う。

それでは足りない。

「はっきりと目に見える事柄が

金銭を払う側の求める水準を満たしてない」

使う側にとって、三拍子の意味はこれである。


三拍子が揃うと、どうなるか。

すごく損する。

このメカニズムを知らないばっかりに

むざむざ辛苦の海へと身を沈めているとしたら

もったいないことである。

次回は、三拍子がなぜ損なのかを

説明させていただく。

(続く)
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レジェンド・1

2016年02月22日 19時59分58秒 | みりこんぐらし
《庭で野生化しているクリスマスローズ》


本社の経理部長、ダイちゃんは

役員なので人事も担当しており

社員の募集、面接を始め

入社後の健診や制服なんかの面倒も見ている。


本社では3年前から、年に1~2名ずつ

高卒の新入社員を採用するようになった。

県内または隣県に点在する工場へ

地元の子供を入れ

現場の仕事に従事させながら資格を取得させて

技術者を育てるシステムだ。

国は高校新卒の正社員登用を奨励しており

やらないよりはやった方が

地域貢献したことになるので

会社にとって何かといいらしい。


ただしダイちゃんの言うことにゃ

高校生の採用面接は、すごく気を使うそうだ。

本人の健康状態、家族構成、親の職業など

聞いてはいけない事柄の規定がいくつかあり

履歴書の記載事項も、名前と卒業年度の他は

部活と趣味にとどまる。


うっかり兄弟の人数なんか聞こうものなら

相手は子供なので、すぐ学校に伝わり

クレームが来るそうだ。

データが少ないため、採用はバクチに等しいらしい。


昨年、島しょ部の生コン工場に採用された

高卒の男の子がいる。

バクチ面接で採用され、入社後にわかったデータによると

彼は父子家庭の子供だそうだ。


入社式の時、スーツを用意できなかった彼は

父親の持ち物とおぼしきダブルの喪服で臨んだ。

彼と同年代の息子を持つダイちゃんは

そのケナゲさに涙が出たという。


入社式が終わると、A君はおもむろに

ダイちゃんのそばへと近づき

ごく自然な口調でこう言った。

「給料の前借り、今日できますか?」


「まだ働いてないから、無理なんだよ」

ダイちゃんはそう答え、A君は

「はい」と返事をした。

親切なダイちゃんは、帰りの交通費はあるのかとたずね

A君は、大丈夫ですと答えた。


あれから約1年、高校の新卒入社で

現在残っているのはA君のみ。

「ハングリー精神があるんだろうな」

ダイちゃんは目を細め、満足そうである。


入社式の日、年端もいかない子供に

給料の前借りを言わせたのは

父親の差し金かもしれず

一家の主がその経済観念と無知を兼ね備えていれば

暮らしぶりも推して知るべし。

それでもA君とダイちゃんのやり取りは

我々の心を打った。


父親の後始末という地獄を見た我々には

かわいそうを超越した

みずみずしい感動が湧き上がる。

会ったことのないA君は

我々にとって伝説の男となった。


ダイちゃんは今後も、A君を何かと気にかけ

可愛がるだろう。

ダイちゃんの信仰するカルト教に誘われる日も

近いと思われる。


この話をしたのは、最近、私の周りに

仕事で悩む若者が多いからだ。

昔は同年代の悩みを聞いていたものだが

今じゃ、その子供世代が社会人になった。

年を取ったものだ。


悩みの内容は、昔と違ってきている。

上司と合わない、同僚とうまくいかない

などの人間関係は減り

労働条件そのものが悩みになっている。

悩みの程度も深刻で

カウンセリングや薬が必要なレベル。


今の若者は、かわいそうだ。

長引く不況で人を減らすだけ減らし

彼らの座れる椅子は、ほとんど残っていない。


彼らの多くに与えられた席は

トゲトゲのボロボロ椅子。

時代が、政治が、大人が

彼らの席を用意してやれなかった。

ただのおばさんの私にどうにかできるはずもないが

大人の一員として残念であり

申し訳なくもあり、恥じている次第である。


しかし、厳しい状況に置かれた若者の方も

環境に合わせた能力を身につける必要がある。

悩む若者に会うたび感じるのは

相手の立場になってものを考えてみるという

想像力が少しばかり足りない点だ。


相手の立場になってものを考える‥

聞き飽きたセリフかもしれない。

友達や同僚に対しては、実行しているかもしれない。

が、一度でも雇う側や、上司の立場になって

部下である自分を

客観的に眺めたことがあるだろうか。

おそらく無いと思う。


無いのは当然である。

経験が無いのだから

一体何を想像すればいいのか

わからないだろう。


A君の話をしたのは、彼を笑うためではない。

友達や同僚ならぶっ飛んでしまいそうな出来事が

上司にとってはそれほどでもない‥

立場によって感じ方の落差があるのを

説明するためである。


使う側と使われる側の心境の落差に目を向け

そのへだたりを埋める技術を

身につけておかなければ

今のブラックな職場でいくら頑張っても

辞めてよそへ移っても

同じことになる可能性が高い。

若者に不利な時代だからこそ

必要な技術といえよう。

長くなったので、詳しくは次回に。

(続く)
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びっくり

2016年02月15日 19時43分39秒 | みりこんぐらし
最近びっくりしたこと。

隣に住む83才のおばさんは

加齢でマブタの筋肉が衰え

目が開きにくくなったため

二重マブタにする整形手術をした。


これは美容扱いでなく、病気なので

眼科で保険適用の手術をしてくれる。

長生きが普通になった現代では

このような治療が一般的になったのだ。

おばさんは我ら一家にしばしの別れを告げ

娘さんの住む都会の眼科へ入院した。


数日後、帰ってきたおばさんは

くっきりぱっちり、目だけ芸能人。

びっくりした。


不自然な仕上がりが気になるのか

おばさんはあまり外へ出なくなった。

「かわいいよ」「日が経てば落ち着くよ」

などと言ってはみたが

何のなぐさめにもならない様子で

引きこもる日々が続いている。



さて去年の秋、腰を傷めて

足が立たなくなった義母ヨシコ。

年が明けて、歩けるようになったと思ったら

風邪を引いた。

咳で腰痛が悪化し、降り出しに戻る。


しかし、いつまでも寝込んではいられない。

2月には義父アツシの一周忌がある。

ヨシコは思うように動けない体をおして

一周忌の準備を進めた。

その日は法要と会食だけでなく

できあがった墓での骨入れ式も予定しており

プログラムは盛りだくさんである。


親戚には早めに案内をしていた。

だが、体調不良で気弱になったヨシコは

御仏前のお金を辞退し

親戚一同と和やかに会食して

最後のお礼にしたいと言い出した。


それを再度、親戚に伝えたところ

参加者倍増。

病気で行けないはずの者は、急に元気になった。

仕事が忙しくて行けないと断った者は

急に体が空いた。

足の悪い者の息子は、突然親孝行に目覚め

親に付き添って一緒に来ると言う。

びっくりした。


「行く」と一言、言ってくれればいいものを

多くは煮え切らない態度で気を持たせて

段階的に歩を進める。

「行けないと言ったけど

もしかしたら何とかなるかもしれないから

ちょっと待ってみて」

「行けそうな感じだから

2~3日後にはっきりした返事をする」

「やっぱり大丈夫みたい」

このまどろっこしい三段階を経て

やっと参加が決まるのだ。


マネジメントに慣れていないヨシコは

それら親戚の段階的な電話を受けては

会食の会場となるホテルと

茶の子を用意する店に連絡して

数の変更を伝えるのが日課となる。

その上、大幅な予算修正を余儀なくされ

釈然としないヨシコであった。


こうなってみると、最初の案内でした返事を

くつがえさなかった者や

「御仏前を受け取ってもらえないなら

せめてお供えの品を」

と言って届ける者の清々しさが際立つ。

「普通が大事」

改めて、そう思う我々であった。


そして昨日、2月14日の日曜日。

一周忌の法要は、無事に営まれたか。

否。

前の晩にアツシの80才の妹、死亡。


あっさりした面白い叔母で

一周忌には最初から

「体調不良で行けない」を通した

清々(すがすが)メンバーの一人である。

びっくりした。


当日は、お寺での法要が終わったら

今度はお坊さんを連れて、お墓へゴー。

さっさと骨入れを済ませ、ホテルへゴー。

会食が終わったら、葬儀場へゴー。

慌ただしかったが

衣装を変える必要がなかったのは

便利だった。
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続・仁義なさそうな戦い・その2

2016年02月08日 10時46分29秒 | みりこんぐらし

暦は2月に入った。

破壊王、松木氏を送り込み

田中氏との関係を崩壊させた永井部長。

仕上げに松木氏の監督責任を名乗り出れば

今までの失態は消去される。


最後に誰かにババを引かせて

自分は逃げ切る‥

これぞ永井部長の処世術、永井トランプ。

この術で、平穏な日常を取り戻したかに見えた

永井部長だった。


しかしその翌日、運命は再び

彼の監督責任を問うこととなる。

営業部の銀行OB、65才の大下さんを

ご記憶だろうか。

彼の社内不倫が発覚したのだ。

相手は同じく営業部で働く

50代の女性事務員である。


「社内不倫?どこにでもあるじゃないか」

そう言う人が多いだろう。

しかし本社は違う。

どちらかといえば自由でフランクな会社だが

倫、不倫にかかわらず、社内恋愛だけは厳しい。

これは社長の方針である。


40代の社長は、元化学者の秀才。

ひどく頭のいい人の中には

ひどくだらしない人もいるが

反対にひどく潔癖な人もいて、社長はそっち。

しかし偏屈ではない。

明晰な頭脳と端正な外見

かつ穏やかな人格品性で

皆の尊敬を集めている。


聖なる社長は、自身の家庭のみならず

社員とその家族もファミリーと呼んで

気にかける温かい人だ。

一方で、経営者に欠かせない

シビアな合理精神も持ち合わせている。

会社の評判を貶め、社内の空気をよどませ

ファミリーを悲しませる社内不倫は

社長が最も忌み嫌う、非生産的行為なのだ。


そのためかどうか

男性社員が圧倒的に多い中で

数少ない女性社員は

なぜか光浦靖子さん似ばかり。

有能でいい子‥

間違いは起きそうにない‥

そんなタイプだ。


美しいのを連れて来て

「恋をするな」と止めるより

最初から安全パイを採用した方が

より合理的かつ生産性が高い。

人選に作為を感じる私よ。


そういえば合併する時

河野常務からたずねられた。

「ヒロシは、女遊びの方は大丈夫だろうな。

社長はこういうことを一番嫌うからな」

私は胸をはって答えた。

「大丈夫です」

嘘ではない。

夫は女遊びはしない。

全部本気だ。



さて‥

「大変です!

本社は今、パニックですよ!」

大変と言うわりには嬉しそうな

野島青年の密告によれば

時は前夜、場所は深夜の歓楽街。

手をつなぎ、いちゃつきながら歩く2人と

バッタリ出くわした人物がいけなかった。

たまたま会合で訪れていた、社長である。


私は大下さんと面識はないが

毎年1回、新年会で会う夫の表現を借りれば

「幸楽のお父さん」。

ドラマ「渡る世間は鬼ばかり」で

泉ピン子のご主人役を演じる俳優さんに

そっくりだそうだ。


相手の人には、会ったことがある。

光浦靖子さんが金太郎飴のごとく並ぶ

本社の女子社員の中で

一番女性らしい雰囲気の人だった。


出くわした時、社長が何を言ったかは不明だ。

「もう来るな」と言われたのか

2人が「もう行かない」と言ったのかは

知らないが

翌朝、2人が出勤しないところを見ると

関係を認めたのは間違いない。


社長の怒りはすさまじかった。

まず重役達を呼んでこっぴどく叱り

次に、2人の直属の上司である

永井部長の監督責任を厳しく追求した。


「たまたま起きるのではない。

上が正しく仕事をしていない所に

こういうことが起きるんです」

と本当のことを言われた上

営業部は今後、解体と再編を視野に入れ

社長の管理下に置かれることに決定。


社長の保護観察が付いた永井部長

本当に仕事をしなければならなくなった。

そこでさっそく夫に連絡。

「B社へ一緒に行ってもらえませんか?

去年、入札の前に、責任者を紹介すると

言ってたでしょう。

その人に会わせてくださいよ」

当時は何度言っても無視したが

今になって、振り出しに戻りたいらしい。


不倫事件なんて知らないことになっている

夫は言った。

「大下さんがB社の担当じゃろ?

大下さんに連れて行ってもらいんさいや。

あの大下さんを差し置いて

さしでがましいことはできんよ。

辞退させていただきます」

復讐心に燃え、いつになく饒舌な夫。

絶句する永井部長。

大下さんと女性社員の辞表が出されたのは

3日後のことであった。

(完)
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続・仁義なさそうな戦い・その1

2016年02月03日 17時09分16秒 | みりこんぐらし
《今日は節分なので、巻き寿司。

うちはカンピョウや穴子を入れないので

簡単にできます》



こんなに早く続編に着手するとは

思わなかったが、新たな展開があった。

これがしゃべらずにおらりょうか‥

ということで、お付き合いお願いします。



「営業の常識を知らない夫に

営業部が振り回された」

社内向けの結論は、これで落ち着いた

永井営業部長。

しかし田中氏との問題終結は

彼にとって火急の課題であった。

関係修復を見込んで

自分の代わりに送り込んだ65才の部下

大下さんが撃沈した今

早く何とかしておかないと

上に知れて面倒くさいことになるのは

時間の問題だ。


そこで名案を思いつく。

松木氏だ。

そう、瓦屋でアルバイトをしていた時

本社に拾われて我が社の営業課長に就任した

営業成績ゼロの男である。


彼は行く先々でトラブルを起こすため

遠くの生コン工場へ飛ばされた。

工場長の肩書きは付いたが、給料はそのまま。

所属も営業部のままの宙ぶらりんで

永井部長の手下として使い走りの日々。

「この男がいるじゃないか!」

永井部長がそう思ったかどうかは知らないが

目の付けどころは喝采に値する。


永井部長は彼に、田中行きを命じた。

そして狙い通り、松木氏はやってくれた。

本社営業部、生コン工場、我が社

名刺を3種類持って活動している彼は

アポ無しで突撃し、田中氏との面会に成功した。


松木氏は我が社の名刺を出し

さっそくご挨拶。

「うちはヒロシさんの会社を助けてやって

今も面倒を見ているんですがね」


これが田中氏を激怒させた。

「面倒を見る」

それは田中氏の前で

決して言ってはいけない言葉だった。


田中氏はヤクザではない。

しかし基本精神は、ザ・任侠。

古くから建設業界に生き

かつ、けっこう大きい会社の経営者には

この精神が息づいている人が多い。

面倒を見るというのは、そっちの世界では

全てを引き受ける度量が必要な作業であり

直接手を下してない者が

簡単に口にしてはならないのである。


「あんたが助けたんじゃなかろうが」

「いや、うちの会社がですね‥」

「社長か、あんた」

「いや、そうじゃなくて‥」

「助けた、面倒見た言いながら

ヒロシの会社の名刺を出すとは

どういうこっちゃ。

ここの名刺出すんなら

ヒロシを上にしてモノ言えや。

勘違いすな!」

そう怒鳴られて、逃げ帰った松木氏であった。


田中氏と懇意になる計画はパー‥

それでいいのだ。

最終的に誰がめちゃくちゃにしたか。

今の永井部長にとって最も重要なのは

責任の所在だった。

松木氏なら、絶対にやってくれる。

松木氏こそ、永井部長最後の核兵器なのだ。


思い通りにならないとなると

破壊へ走るのは、ゲスの習性である。

その際、ゲスがおしなべて気にするのは保身。

破壊と保身の両方を欲張るから

やることが醜く、いやらしい。

ゲスがゲスたるゆえんである。

自称ゲス研究家の私は、そう考えている。


松木氏が田中氏に怒られた翌日

田中氏は本社の専務と会合でバッタリ会う。

1月末のこの時期は、議員や商工会

各種協会の新年互礼会が続くため

田中氏と本社の重役が

いつかどこかで会うのは必然であった。


「あんたとこ、とんでもないバカを雇ってるな」

田中氏から話を聞いた専務は、怒り心頭。

松木氏を呼んで厳しく注意した。


後日、専務は改めて永井部長を伴い

田中氏の会社へ謝罪に行った。

永井部長、監督不行き届きの軽い罪は被ったものの

これまでの経緯のもみ消しには成功した。

松木氏の起用は当たりだったのである。


(続く)
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