殿は今夜もご乱心

不倫が趣味の夫と暮らす
みりこんでスリリングな毎日をどうぞ!

手抜き料理・恒例の年末オードブル

2024年12月31日 22時13分30秒 | みりこんぐらし
今年の大晦日も、例のごとくオードブルを作った。

作ってどうするのかというと、親戚と知人にあげる。

バカじゃなかろうか…自分でも思うが

年末にこれをやらないと、1年が終わった気がしないのだから

困ったものである。


とはいえ、今年のオードブル作りはきつかった。

昨日の30日に実家の母サチコが入院したので

ここ数日、その準備に時間を取られ

料理の支度が何もできなかったからだ。


入院の準備の何が忙しかろう…人はそう思うだろう。

が、敵は認知症である。

私の敗因は、実家で準備を進めたことだ。


衣類やスリッパ、タオルに歯磨きセット、マスク、シャンプー…

今回の入院は年末年始なので、病院の売店は休み。

足りない物を介護士に売店で買ってもらうことができないため

何もかも持って行く必要があった。

そこでここ何日か、家にある物や新しく買った物に名前を書いて

大きなバッグへ入れる作業を続けていた。


が、次の日に行ってみると、バッグはいつもカラ。

バッグすら見当たらないこともある。

サチコが中身を引っ張り出しては、どこかへしまい込むからだ。


どこへ片付けたか、本人は忘れているので

実家へ行くたびに、おびただしい品々を探索しては

一から詰め直す必要にかられる。

ちょっとした賽の河原(さいのかわら)状態。


何日目かで、鈍い私もさすがに考えた。

「準備は実家でなく、自分の家でやろう」

で、サチコの荷物を持って帰る。


しかし今度は「服が無い!パジャマも無くなっとる!」

サチコが騒ぎ出して、電話がジャンジャンかかってくる。

「入院まで、私が持って帰っとく言うたじゃん」

と言ったら

「ほうじゃったかいね?」

ずっと、この繰り返しだ。


昨日ようやく入院させたが、帰りが午後になり

他の用事に追われてやっぱり何もできないまま。

買い物だけは生協、次男の釣り仲間の食品問屋

高校の同級生、原君の移動スーパーを駆使して

バッチリ揃えていたので、その点だけは安心だ。


ええ、今朝からやりましたとも。

ほとんどかかりきりで、ようやく出来上がったのが午後4時。

このハード加減、まるでユリ寺だ。

作り終わったら耳鳴りがして、目がチカチカしたわさ。


巻き寿司、ポテトサラダ、スコッチエッグ、焼き豚

黒豆、焼肉、焼き芋、チーズの生ハム巻き。

ザッと作ったから、いつもにも増して荒々しいお料理だわ。



今年1年、本当にお世話になりました。

温かいコメントや応援ポチをありがとうございました。

来年もどうぞよろしくお願いいたします。

皆様のお幸せをお祈りしております。
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モンちゃん去る

2024年12月26日 16時09分57秒 | みりこんぐらし
「家を出ました。

携帯番号も変えました。

新しい電話番号は◯◯◯…です」

仲良し同級生で結成する5人会のメンバー、モンちゃんが

グループLINEでいきなり重大発表をしたのは昨日の昼のこと。

たまげた。


私がそのLINEを見たのは、モンちゃんの発信から1時間後。

他のメンバーはLINEの確認が早いので

おそらくみんな見ていると思われるが

突然のことにどう反応していいかわからず、沈黙を守っている様子。

ここは竹馬の友である私が何か言わないと…

そう思って返信。

「やるじゃんか!応援しています」


すぐに他のメンバーから、次々にLINEが。

「私も応援するから、話したいことがあったら何でも話してね」

「ずっと我慢して頑張ってたもんね」

「びっくりしたけど、後悔の無い人生を送るのが一番だよ」


モンちゃんは、ありがとうの言葉と共に

詳しいことはまた落ち着いてから…そうことわって

経緯をザッと話した。

転勤願いを出してOKが出たから、隣市にアパートを借りた…

旦那には「家を出ます、お元気で」

とだけ書いたメモを残して家を出た… 

旦那は今頃、探し回っていると思う…。


職場に転勤を願い出て、携帯番号まで変えるからには

よっぽどのことがあったのだと思う。

仕事が続かず暴力癖があり、大酒飲みの上にワガママ

しかも講釈たれの旦那だ。

モンちゃんは働き続けて、そのクズ旦那を養いながら

同居していた彼の母親を介護して看取り、一人娘を育て上げた。

置き去りにする価値は、十分にある。


仕事嫌いが災いして年金の少ない旦那は

モンちゃんに捨てられたら死活問題だ。

そりゃ必死で探すだろう。

もしも彼から問い合わせが来ても、知らないと言うつもり。


彼がうちの夫の同級生という条件だけを鑑みても

この先、一緒に暮らして幸せが待っているとは思えない。

あの年回りは、要注意なのだ。

うちの夫の場合は女だが、他の同級生も

酒、あるいはギャンブルで家庭を壊す男が多い。

家庭のみならず、自身の身体を壊す者も多く

あの学年の同窓会だけ

男子の物故会員が多いのも特徴である。


モンちゃんはこの秋、転んで足首を骨折した。

甲状腺の薬を飲んでいると骨がもろくなるそうで

何年前だったか、鎖骨を骨折したこともあった。

今回は右の足首なので、通勤の車を運転できない。

そこで家に居る旦那さんに送迎してもらっていたが

その度にブツブツ言われてウンザリだとこぼしていた。


モンちゃんの家から職場までは、ほんの1キロほど。

旦那は家でブラブラしているんだから送迎ぐらい当たり前だと思うが

行きは早起きがかったるいと文句を言い

帰りは迎えに行くまで酒が飲めないと文句を言う…

私はモンちゃんから直接聞いて、憤慨したものである。


人間、ピンチの時に相手の本心がわかる。

こんな男と一緒にいても仕方がない…

彼女はそう判断したのかもしれない。


今にして思えば11月の半ばから

モンちゃんが家を出る兆候は確かにあった。

県北へランチに出かける計画が持ち上がったが

モンちゃんは母親の法事が近いのを理由に、珍しく参加しなかった。


以後、働いているモンちゃんに合わせて

たいてい週末に計画される我々のランチやお茶には

やはり多忙を理由にして欠席。

11月末、横浜からけいちゃんが帰省した時には来たが

以後も欠席が続いている。


それきり、モンちゃんと会わない日々が続いた。 
 
5人会の発足以来、こんなに会わないのは初めてだ。

先日はマミちゃん、モンちゃん、私の3人のグループLINEで

マミちゃんが来年行くランチの計画を立て、日時を決めようとした。

しかしモンちゃんは、既読になって数日経っても返事が無い。

真面目な彼女には、考えられないことだ。


さすがに何か変だと思ったが、依然として忙しいのだろうと

そっとしておいた。

なるほど、家出の準備をしていたのだから忙しいはずである。

平日は普通に仕事をして、週末になるとアパートを探したり

転居先へ荷物を運んでいたのだろう。


旦那に見切りをつけたら最後

誰にも頼らず黙って行動する潔さに感服しつつ

いつも同じ町内にいると思っていたモンちゃんが

遠くへ行ってしまった寂しさは否めない。

行き先はついぞ隣の市といったって、もう以前のように会えないと思う。


ともあれ、ここは彼女の幸せを祈るところであるが

離れた方が幸せとわかっているので、とりあえず健康を祈る。

「今、一人でゆっくり晩ごはん食べたところです」

夜、モンちゃんからLINEがあった。
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フグの会

2024年12月24日 13時01分08秒 | みりこんぐらし
メリー・クリスマス!

クリスマスといえば思い出す。

幼い頃、父が山で木を切って、作ってくれたクリスマスツリー…

クリスマスの朝、目が覚めると枕元にあったプレゼント…

6年生の春に母が他界したので、その年からプレゼントは無くなった。

薄々わかってはいたけど、やっぱりサンタは母だった。


「この子たちが大きくなるのを見たい…

まだ生きていたい…」

死の床で絞り出すように言いながら、涙ぐんでいた37才の母。

それがどうよ。

「91年は長過ぎる…もう生きたくない…」

毎日そうボヤくサチコの面倒を見る日が、まさか来ようとは。

ここ、笑うところよ。



さて、先月のこと。

「来月の誕生日プレゼントに、カノジョとフグ料理を奢ってやる」

次男が言った。


この5月、結婚一周年の記念日に離婚した彼は

早くも新しい彼女と出会っていた。

家に連れて来たのは、10月の終わり頃だったと思う。

9月に愛犬パピを失い、未だ悲しみに沈む家族にハッパをかけようと

紹介を早めた様子が見て取れた。

しかし私にとっては、新しい心配が増えただけである。


今度のお嬢さんは、元嫁アリサと真逆。

次男より年上で、細く美しく上品…それでいて人懐こい娘さんだ。

私は野生児アリサの天真爛漫も好きだったが

これはこれで、どこへ出しても大丈夫という安定感がある。

次男のストライクゾーンの広さは、父親譲りらしい。


ともあれ次男カップルは、釣り仲間のやっている隣市の料理屋で

我々夫婦にフグを与えてくれるそうだ。

市内でフグを出す店は、すでに絶滅したため

フグ好きの私には願ってもないことである。


しかし、次男が予約していた今月21日の土曜日

夫はゴルフが決まっていたので行けない。

大事な取引先のコンペで、その後は打ち上げなので帰りが遅くなる。

しかも最大の問題は、夫がフグを好きでないことだ。


さらに問題は続く。

義母ヨシコをどうするか。

姑と生活していると、こういうことが厄介なのよ。

特にヨシコは、私よりもフグが大好物。

しかも“およばれ”に対して、異様に敏感だ。

およばれとは自分たち夫婦がされるもので

嫁の行くものではないという精神が、亭主亡き後も継続中。

家に置いて行ったら

眠り姫のパーティーに招かれなかった魔女状態は必至である。


「父さんの代わりに、ばあちゃんというわけには…?」

私は次男におずおずとたずねた。

招待される身として、メンバー変更は厚かましい行為だからだ。


「ええよ。

じゃあいっそ、アニキも誘おう」

次男の返事は気安かった。

この時点で、お金を出すのは次男たちでなく

こっちに移行したようだ。

ヤツの財布は傷まないのだから、何人になろうと寛大なものである。

長男も二つ返事で行くことになり

次男は予約日の前日、夫を除いた家族4人と彼女様で

合計5人と伝えた。


しかし、ここで彼女様が難色を示し始める。

「お父さんと、ご一緒したかった…」

幼児の時に父親を亡くしているため

夫と親しくなるのを楽しみにしているのは、以前から聞いていた。


それを知った夫は、フグの会へ参加する意向を表明。

取引先に、打ち上げを早退する連絡をした。

「親父も来るって」

次男は料理屋に一人増える旨を連絡し、彼女様にも知らせた。


すると喜ぶかと思いきや

今度はフグの会への参加そのものを渋り出した。

「人数が多過ぎて恥ずかしい」

というのが理由。

二人はしばらくの間、LINEでゴタゴタしていた。


「アラフォーにもなって、何が恥ずかしいだ。

もうええ、誘うな」

こういうところが、女の子を持たない私の短所と自覚している。

女子の複雑な胸中を思いやる、デリカシーが無いのよねん。


「家族で行くからいい」

次男は彼女様に言い、料理屋には

一人減って結局5人になったことを連絡した。

しかし彼女様、ここで危機感を覚えたのか

「電車で行って、ご挨拶だけして帰る」

と言い出す。

あ〜、嫌…こういう回りくどいの。

幹事とか、したことないんだろうな。


そこでまた、デリカシーの無い私が次男に耳打ち。

「無理せんでええ!また別件で仕切り直せ!」

そういうわけで、私への誕生日プレゼントだったはずのフグは

急きょ、家族の忘年会に変更された。




フグ刺しは一人前ずつ別盛り。

他の人に気を使わなくていいから、これは嬉しい。




鍋。

手前の黒いのは皮で、最初にしゃぶしゃぶで食べる。
 



雑炊はまあ、普通。

他にもフグの天ぷらなどがあり、一同大満足の夕べだった。

フグが苦手な夫は、肉中心の別メニュー。

飲み物も入れて、5人で3万4千円は安かった。


あれから数日経って思うに、ひょっとして彼女様…

最初は私ら夫婦に奢るつもりだったのが

人数が増えたため、大勢でタカられると思ったのではなかろうか。

「人数が多過ぎて恥ずかしい」の真意は、それかも。

そして「お父さんとご一緒したかった」の発言は

当初の予定通り、4人が良かったと言いたかったのかも。

わからないわ、デリカシーが無いから。


あれ以来、次男カップルは何げにギクシャクしているみたい。

知〜らんっと。
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年末が来た・4

2024年12月23日 08時30分00秒 | みりこんぐらし
今年、私はある特殊能力を身につけた。

それは、「見て見ぬふりができる」というもの。

窓ガラスは見える部分や手が届く範囲だけを磨き

部屋や庭も同じく部分的に掃除。

あとは見て見ぬふりだ。


以前は、だらしない性格なりに頑張っていた。

が、年寄りの世話に明け暮れた今年は、それどころじゃない。

自分の身体は自分で守らなければ。

見て見ぬふりって、案外できるもんだね。



さて私は相変わらず週に3回、デイサービスの送り出しに通い

合間で用事があれば実家へ行く日々である。

そんな先日、実家の母サチコが通うデイサービスから連絡があった。

彼女が色々とやらかしてくれるので

このところ、施設から電話やメールで頻繁に連絡が来る。

連絡を受けた私は指示に従うか、謝ってばっかりだ。


今回は、デイサービスに常駐する看護師からの電話。

「お母様のお尻に“褥瘡(じょくそう)”ができているのを

入浴の時に見つけました。

早めに皮膚科を受診してください」


それを聞いた私は、自然に緩む口元を押さえきれぬまま

看護師に確認した。

「褥瘡というのは…“床ずれ”のことですよね?」

「はい、床ずれです。

お尻の仙骨(せんこつ)の上に、小さいのができています。

広がると長引くので、軽いうちに皮膚科を受診して

塗り薬をもらってください」


床ずれ…今の私の耳には麗しい単語だ。

なぜなら、この生活が終わる兆しに聞こえるからである。


昔は老人や病人に床ずれができたら、◯期が近いと言われたものだ。

病院の厨房に勤めるようになると、それは昭和までの話で

現代は良い塗り薬があるため、一概に終わりとは言えないことを知った。

それでも、終わりに向かう道しるべのように感じてしまうじゃないか。

クックックッ…。


連絡を受けた翌日、足取りも軽く実家へ赴く。

「あんさん、床ずれができとるそうじゃないの」

サチコに言うと

「へ?知らんで?どっこも痛いも痒うもないで?」

「皮膚科へ行こうや」


で、私が勤めていた近所の病院に連行。

その日は週に一度、大学病院から皮膚科の先生が来る日だった。

床ずれの箇所の確認はしない。

私にお尻を見せるなんてサチコは嫌だろうし、私も見るのは嫌だ。


待合室で待つこと、2時間半。

ずっと座っていると、こっちが床ずれになりそうじゃ。

サチコは待つのに飽きて、通りかかる看護師を呼び止めては文句を言う。

「ちょっと!忘れとるんじゃないのっ?」

年寄り、特に認知症だと気が短くなるものだ。


ようやく順番が来て、診察室に入る。

看護師がサチコのズボンを下げ

医師が尻の肉をかき分けて患部を探した。

つまり彼女の床ずれは、探さなければ見つからないほど小さいらしい。


「これは…」

そして彼は絶句。

おお!いよいよ道しるべか!


医師は、私の方を向いて言った。

「あると言えばありますけど…

小さいし、もうほとんど治っています」

彼が指差した先には数ミリの、点のようなカサブタが一つ。

私は密かに失望するのだった。


「お薬は必要無いと思いますが、一応、出しましょうか?」

お願いします…私は答えた。

施設から病院へ行けと言われたら、行かないといけないのだ。

塗り薬は家と施設用の2個もらって、受診した証拠を提示するのだ。


何度も言うけど、介護施設って

利用者の家族に徒労を強いるのが好き。

こないだも

「お母様の小指の先に、青いアザのようなものができています。

ドアか何かで詰められたのかもしれません。

必要であれば外科を受診してください」

と連絡があった。

翌日見たら、小指の爪の付け根が1ミリぐらい青くなっている。

本人は気づいておらず、痛くもないと言うので放置した。


細かい観察は老人のためというより、施設の保身のためだろう。

保身と言ったら語弊があるが、利用者やその家族の中には

ごく小さなことにイチャモンをつけるのが生き甲斐の

クレーマーがいると聞く。

責任回避のために、小さな事象も見逃さないのは

介護従事者にとって技術の一つかもしれない。

私の心に小さく灯った希望…床ずれは、空振りに終わった。

《完》
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年末が来た・3

2024年12月22日 09時51分55秒 | みりこんぐらし
入院が決まると、相談員は心配そうに言った。

「今回、一週間でも入院すると

次に入院できるのは4月になります。

それまで大丈夫ですか?」


そうなのだ。

近年の入院制度には、3ヶ月ルールという縛りが存在する。

退院が不可能な症状など特別な事情が無い限り、入院期間は3ヶ月で

一度退院したら次の3ヶ月間は入院できないというルールだ。

トランプのババをいつ使うか…みたいなもので

こっちは婆の身の振り方について、思案のしどころなのである。


が、かまうものか。

なんなら正月が明けた後も3ヶ月、入院しときゃいい。

この夏は暑い間、入院していた。

今度は寒い間、入院すればいいのだ。

サチコが望めば、そして病院が了承すれば、という注釈はつくものの

こっちはもう、当たって砕けろの気分じゃ。


もはや、私の覚悟は決まっていた。

入院のカードが使えないなら

県内のみならず、日本全国に範囲を拡げて施設を探す。

地元や街中の施設は空いてなくても、山奥の過疎地なら空きがあるはずだ。


そうまでして、サチコを施設に放り込みたいわけではない。

本人が入りたいと言うからだ。

自分の気まぐれな発言がどんな結果を生むか

あの人もそろそろ知った方がいい。


このところ、私は以前にも増してバンバン言ってやるのだ。

「デイサービスに行っても寂しい、家に帰っても寂しい…」

「あの世も寂しいらしいで!」


「こんなに寂しいのに、何で生きとらにゃならんの?」

「◯なれんのじゃけん、生きるしかないが!」

返事に困るようなことをわざと言って

相手を暗い気持ちにさせる数々の語録はもう許さない。


中でもたびたび口にする、どうしようもない発言については

対処法をマスター。

「私は一人ぼっち…誰も一緒に暮らしてくれん…」

嘆き悲しむ悲劇のヒロインに

「子供を3人ぐらい生んどきゃ、どれかは引っかかったんよ。

自己責任じゃ!」


「ええことが一つも無い」

「あんただけじゃない!うちだって無いわ!

年寄りの世話に明け暮れる人生の、どこにええことがあろうか!」



「面白うないけん、行きとうない」

一日おきに行くデイサービスの朝

苦虫を噛み潰したような顔で言うこれには

「婆さん集めてチイチイパッパが面白いわけないが!

ようわかっとるわいね!

何で行くかいうたら、家族を安心させるためよ!

それがあんたの仕事!」

これらを言ったら静かになり、そのうちあんまり言わなくなった。


さらに毎週金曜日、デイサービスに泊まるのは未だに抵抗があり

「用事があるから泊まれません」

などと勝手に電話をかけることも多くて、施設を困らせている。

「みんなが次々に帰って、私は取り残される。

泊まったって寂しさは変わらん」

というのがサチコの主張だ。


「泊まりをドタキャンしたら、信用無くすよ!

ますます誰からも相手にされんわ!」

信用のフレーズはよく効いて、それからはおとなしく泊まるようになった。


が、施設の人たちが最も困っているのは

デイサービスにおけるサチコの不用意な発言だそう。

入浴のために洋服や下着の着替えを一式、施設に預けているのだが

このシステムが理解できないサチコは

「ここへ来たら服が無くなるから、気をつけた方がいい」

「私は他人のズボンを履かされて、帰らされた」

などと、他の利用者にしゃべるという。

他の利用者もバリバリの認知症なので

こういうことを言われたら不安になるというわけ。


そしてもっと困るのは、デイサービスに集まった利用者を数え

「今日は、いらん子が6人」

毎回、皆の前で言うそう。

いかにもサチコらしい。


この爆弾発言に、もちろん施設は揉める。

施設の人々はサチコの扱いに困惑し、完全に浮いてしまったサチコは

ますます寂しさがつのるという悪循環の図。

「うちではお世話できません」

今の施設から、そう宣告される日は近いかもしれない。


「色んな方がいらっしゃいますのでね、慣れていますから大丈夫ですよ」

病院でも施設でも、スタッフは心配する私にそう言った。

ただし私の心配は、サチコに向けられたものではない。

こっちはひたすら、サチコに接するスタッフの心配をしていたのだ。

《続く》
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年末が来た・2

2024年12月21日 14時46分25秒 | みりこんぐらし
主治医の厚意により、年末年始を病院で過ごせそうなサチコ。

すっかり入院する気になって、喜んでいる。


カンの鋭い彼女は、娘が帰省に積極的でないことを感じ取っていた。

電話はいつもサチコの一方通行、帰省の話が出始めても

マーヤからの連絡は全く無いのだから

カンが鈍くてもわかるというものだ。


日が経つに連れ、「娘に見捨てられた」という気持ちは強まって

サチコの精神は不安定になっていった。

認知症とはいえ、高いプライドをそのまま維持するサチコにとって

見捨てられた惨めさを実感するのは非常につらいことだった。


やがて彼女は、プライドを守る唯一の方法を考えつく。

「老人ホームに入るから、帰省の必要は無い」

自分から先に、そう告げるのだ。

彼女自身はこのシナリオに満足したようで

「もう一人暮らしは無理だから、老人ホームに入りたい」

と私に訴えるようになった。


しかし、サチコの言うがままに施設を見つけ

めでたく入居させたところで、何になる。

帰る帰ると無理を言って困らせるのは、目に見えているではないか。

サチコが求めているのは、本当に終の住処なのか。

それとも自身の体裁をつくろうために、ほんの一週間を過ごす宿なのか。

これをはっきりと見極めるまで

私はサチコの再三にわたる訴えに放置を決め込んでいた。


ところで、ここしばらくは

要介護2でも入れるグループホームを考え続けていた私。

けれども前回、精神病院の健診で相談員にたずねてみたところ

「認知症だけなら入れるんですが、鬱病という病名が付いていると

グループホームは受け入れが難しくなるんです。

あれでも探せば、受け入れてくれる所があるかもしれませんが…」

という返事だった。

“症”と“病”の違いを通感したものである。


介護保険を利用するようになり、施設のお世話になって3ヶ月…

介護関係者の独特な言い回しは理解したつもりだ。

「探せば」、「あるかもしれません」

二重の仮定は、つまるところ「ほとんど無理」ということである。

私はこの時点で、グループホームというカードを捨てた。


ともあれグループホームに諦めがつくと

不思議なことにサチコが本当に求めているのは

老人ホームへの入所でなく

デイサービスが休みの間に泊まる仮の宿だとわかった。

「だったら入院という手があるじゃないか…」

そう気がついたのも同じ頃で

ほどなく精神病院の受診日が訪れ、主治医に相談した次第である。


さて、主治医と我々の間で入院が決まり

日程の調整のために相談員と面談することになったが

その相談員から「待った」がかかる。

「入院は制限が多くて楽しくないし、テレビも見られないから

どこかショートステイのできる施設を探された方がいいと思うんです。

この施設の中から、どこか選んで連絡を取ってみられてはどうですか?」

そう言って、市内の老人施設のパンフレットを何枚か渡された。


ケアマネや相談員と接するようになって、いつも思うけど

あの人たちは、さりげなく家族に徒労を強いる。

裏で色々と、我々シロウトにわからない都合があるんだろうけど

上辺や口先の親身がうまいわ。


が、それらのパンフレットを見て

私より先に難色を示したのはサチコだった。

「市内では、ここが受け入れてもらえる可能性が高いんですが…」

相談員お勧めの施設は、一つ下の妹の元旦那シュンが勤めていた所であり

私の夫の姉カンジワ・ルイーゼが給食調理員として働いていた

いわくつきの老人ホーム。


「シュンがおった所へなんか、行くものか」

サチコは吐き捨てるように言う。

何かの拍子に身内だと知られる可能性が無いとは言えないので

サチコはそれを嫌っているのだった。


そうでなくてもここは、とても不便な場所。

クネクネの細い道を延々と登った先にある、崖の上だ。

私の大嫌いな、車が離合できない道である。

サチコでなくても、行くものか。


絶対に行きたくない施設が登場したことで

元々反抗的なサチコは、ますます入院したくなった。

その情熱に押された形で、入院は決まった。


これでホッとした私は、シクシクと痛んでいた胃が

たちどころにスッキリし、年賀状を書く余裕も出た。



今回は、郵便局のカタログで決めた年賀状。

私の好きな、ホールマーク製。

華やかな花柄が好きなのよ。

《続く》
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年末が来た・1

2024年12月20日 13時53分36秒 | みりこんぐらし
年の瀬になって、火事や物騒な事件が起こっている。

電話も変なのがかかってきて、何だか世知辛さを痛感。


「いらないお洋服や靴はありませんか?」

本当は貴金属の買い取りをしたい業者が

とりあえずそう言って家の電話にかけてくるのは

ポピュラーになったけど

近頃は強盗が、そんな電話で入る家を探すことが知られてきて

飛びつく人が減ってきたみたい。


そのためかどうか、最近は買い取り業者の戦略が変わってきた。

こっちが出たら、最初は何も言わずに黙っていて

10秒ぐらい沈黙してから名乗る。


若い人は無言電話だと思ってサッサと切るけど、年寄りは違う。

「もしもし?もしもし?」

と深追いする。

寂しいから、無意識に話し相手を求めるのだ。


これをやったら、向こうの思うツボ。

ちょっと機嫌を取れば

一人暮らしだの、昼間は自分だけだの、家族構成だの

個人情報を何でもしゃべってしまう。


人間って、話したいことを話したら

次は相手の言うことを聞いてしまうものだ。

買い取りの営業は、成立する可能性が高くなる寸法である。


最初は無言の、この電話…

うちにも何度かあったし実家にもかかってきたので

おそらく間違いないと思う。

お年寄りのいらっしゃるおうちは、気をつけていただきたい。


あと、携帯にかかるんだけど

向こうの電話番号の最初に➕(プラス)が付いているやつ。

私にかかったのは、➕806965…の番号。


これが、なかなか鳴り止まない。

怪しいので着信拒否したけど

あのしつこさじゃあ、うっかり出ちゃう人もいると思う。

もし出たら、よその国に繋がる詐欺…という話だけど

ロクなことはないから、こちらの方も気をつけていただきたい。



さて、実家の母サチコが通うデイサービスが

年末年始の6日間、完全休業することはお話しした。

デイサービスも、昼と夕の弁当も無い6日間をどう乗り越えるか。

私は頭を悩ませた。


一人ぼっちで正月を迎えさせるのは可哀想だと

冷酷な私でも思う。

実の親子なら、一晩ぐらい泊まりに行けば済むだろう。

しかし、あかの他人のサチコと私では無理。

私も嫌だけど、肝心のサチコの方が受け付けられないのだ。


そこで、今回ばかりはサチコの実子マーヤに

関西から帰省してもらおうと考えた私。

「おせち料理その他、食料は届けるから

大晦日から元旦の年越しだけでも一緒に過ごしてもらいたい」

マーヤにそう頼んだら、すんなりイエスと言ってくれたのでホッとした。


けれども今度は、サチコが異議を唱えた。

「一家5人で来られたらしんどいけん、マーヤだけにして欲しい」

気持ちはわかる。

料理や寝床の世話など、何をしてやるわけでもないが 

ただゾロゾロと来られるだけで、年寄りはストレスになるものだ。

何もしてやれなくなったからこそ、辛さは何倍にもなる。

そのため、マーヤに一人で帰省するように言ったら

「家族と一緒じゃないと、一人では怖い」


マーヤ一人の帰省を望むサチコと

複数人での帰省を望むマーヤの調整はつかなかった。

親の顔を見に帰るのに、一人じゃ怖いなんて…

人はそう思うだろうが、サチコの病的な恐ろしさは

私が一番よくわかっている。

実の親子の方が、逃げ場が無くて怖いと思う。


そこで夏に入院して以降、毎月受診している精神病院に相談。

主治医は、いとも簡単に言った。

「じゃあ年末年始、うちへ来る?

ご馳走は出ないけど、みんながいるから安心だよ?」


地獄に仏とは、このことだ。

美男子の先生に誘われて、サチコもまんざらではない様子。

入院は、すぐに決まりそうだった。

《続く》
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よそも大変らしい・3

2024年12月16日 11時10分01秒 | みりこんぐらし
Sさんからもらったシワ取りクリームのブツブツが消え

季節は秋から冬に変わった。

そして先日、最初にお話しした

“奥さんの軽自動車を誰かに30万で売りたい”

Sさんは、この要望を次男に伝えた。

つまり彼はディーラーでの査定をせず

言い値で買ってくれるお人好しの知り合いを紹介しろと言いたいのだ。


ここに、我々母子は違和感を持った。

車の売買に関してシロウトの次男に

そんな話を持ちかけるなんて、バカにしているではないか。

次男の知り合いなら、似たようなのがいると踏んだのか。


それにSさんの奥さんは、仕事に行っている。

仕事を辞めたとしても、不便な田舎なので車が無ければ困る。

よって車を買い替えたい場合は業者へ下取りに出し

その買取金額を元手に新しいのを買うのが

世間の常識というものだろう。


しかしSさんは、奥さんの車をただ売りたいだけ。

中古車販売業者だと値を叩かれるので、個人に売りたいのが人情だろうが

だったら奥さんはもう、車を必要としない状況にあると考えられる。

おかしいではないか。


次男は続けた。

「店の2階から、例の女の子が降りて来たのを見たんよ」

Sさんの店の2階は、居住スペースだ。

「トイレなら1階の店の奥にあるし、慣れた感じで

トントン…って降りて来た。

その音を聞いて、車を売る話は忘れたフリするって決めた」


賢明である…私は言い、次男に素朴な疑問をぶつけた。

「その子、専門学校へ行ったんじゃないん?」

「辞めて帰って来て、町内の居酒屋でバイトしようる」

「はあ?」


確認はしてないが、奥さんはおそらく家を出て

二人の息子さんのどちらかの所へ行ったと思われる。

息子さんたちは都会で生活しているため、車は必要無いので置いて行った。

それでSさんは、乗り手のいなくなった車をお金に変えたいのだ。


奥さんの要求で慰謝料の一部になるのか

店の運転資金か、それとも単に遊ぶ金欲しさかは不明だが

旦那の浮気相手が10代のガキ…

奥さんの衝撃は、いかばかりであろう。

茶髪のすれっからし、しかも子供に家庭を壊されたのだとしたら

腹が立つどころの騒ぎではないだろう。


こうも年が離れると、相手の若さはすでに問題ではない。

自分の旦那が犯罪スレスレのことをしでかした怒りや

ガキに鼻の下を伸ばす異常性に、鳥肌の立つ思いが先に来るだろう。

呆れてモノが言えないとは、このことだ。

奥さんがいなくなったSさんの家で

女の子はすでに女房気取りかもしれない。


年の離れた若い相手には

同年代の相手とはまた違った残酷がある。

人目を忍ぶわきまえを知らず、本人がいたって無邪気だからこそ

やることがえげつない…

若さゆえ、無知ゆえの残酷だ。


覆水を盆に返す気が無いのであれば、私は奥さんに教えてさしあげたい。

暴力でも訴訟でも、女を無傷で済まさない決意を旦那に示すこと。

それにビビッて旦那が謝った時は

「あんたの謝罪はいらない、私が欲しいのは女の謝罪」

そう言い切ること。


妻は、女に危害を加えたり謝罪をしてもらいたいわけではない。

むしろ対面どころか、すれ違うのも嫌なので関わりたくない。

妻の願いは、時間を浮気前に戻して欲しいことだけである。


けれどもタイムマシンなんて無いんだから、無理なことはわかっている。

そこで不実な亭主に向け、恨み言の羅列になるわけだが

ダラダラと何を言ったって、のぼせた男にはこたえない。

しかしこの二つを言えば

気の小さい浮気亭主は一発、いや二発で凹む。


そうさ…浮気する男は概ね、気が小さいものだ。

そして男の気の小ささは、経済力に比例する。

経済力が乏しい庶民だから、安く遊べる異性によろめき

その乏しい経済力を妻と愛人が取り合うから、ゴタゴタするのだ。


ただし、この二つを言ったら、多くの場合は離婚しか無くなる。

男はこれから先、妻の機嫌をうかがいながら

結婚生活を続けて行く実力が無いため

尻をからげて逃げ出すからである。


これを言って、離婚に至らなかったのが我々夫婦だが

さして特殊な現象ではない。

これを言うと、二人が駆け落ちして姿を消すので

そのまま、ついなあなあになってしまっていただけである。


ともあれ、Sさんのお宅に勃発したらしき事件。

我々母子が想像する通りなのか、または杞憂に終わるのか

現在のところは不明である。


Sさんが主催する忘年会は、毎年決まった店で開かれていたが

今年は問題の女の子がバイトしている居酒屋に変更された。

次男は誘われたが、断ったという。

「君子危うきに近寄らず…偉いが」

そう褒めると

「あの居酒屋、料理がショボいもん」

だってよ。

《完》
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よそも大変らしい・2

2024年12月13日 14時32分30秒 | みりこんぐらし
バイクに夢中な時代が終わった後も

息子たちは時々、Sさんの店へ顔を出していた。

まだバイクを持っている長男はともかく

とうにバイクを手放して釣り三昧の次男も、今だにSさんとは親しい。


そのSさんの店に、一人の女子高生が出入りするようになったのは

2年ほど前のこと。

原付バイクの売買で知り合ったらしい。

女子高生は学校帰りに店へ入り浸るようになり

Sさんは店の顧客で行くツーリングに彼女を連れて来るようになった。


「まさか…」

二人の睦まじさを目撃するにつけ

うちの息子たちを始め、店に出入りするバイク仲間は首を傾げた。

どちらかといえば真面目で商売熱心なSさんが

子か孫のようなJKに夢中になるなんて、考えられないからだ。


「Sさんは子供が男の子ばかりで、女の子がいないから珍しいんだろう」

「女の子は父親がいないそうだから

Sさんのことをお父さんのように慕っているんだろう」

皆は、そう思うことにしたという。


そのSさんは、毎年12月にバイク仲間を集め

会費制で盛大な忘年会を開く。

うちの息子たちも長年に渡り、欠かさず参加してきた。


けれども、一昨年のこと。

この忘年会に、問題の女の子が参加した。

中高年のバイク好きが集まる男ばかりの酒席に

女子高生の参加は違和感満載だったらしく

長男は翌年、つまり去年から忘年会には行かなくなった。

Sさんには、彼女とのデートを理由に断ったが

「未成年者ナントカの罪に巻き込まれたら嫌だ」

という本音があった。


長男は、年に数回あるSさん主催のツーリングにも行かなくなった。

例の女の子が、Sさんのバイクの後ろに乗って参加するからだ。

以後、Sさんに会うのは

自分のバイクのメンテナンスを依頼する時だけになった。

危険から距離を置こうとする彼の成長を、私は嬉しく思った。


一方、次男は去年の忘年会に参加した。

前年、女子高生がいたことに驚いた人が多かったようで

参加者が激減し、Sさんから是非にと言われたのもあるが

この十何年、ずっと兄弟で参加していたのに

急に二人とも行かなくなると変に思われる…

という気持ちもあった。


そして今年の春、女子高生はめでたく高校を卒業し

都市部の専門学校へ行くという。

ついては、その壮行会を開催するので参加して欲しい…

次男はSさんに誘われたが、これはさすがに断った。

表向きの理由は仕事。

しかしその本音は

「参加したら認めたことになるけん、奥さんは傷つくはず」

というものだった。

このような配慮ができるようになった次男の成長を

私は嬉しく思った。


そのまま夏が過ぎ、秋が来た。

久しぶりにSさんの店へ寄った次男は

旅行用の歯磨きぐらいのチューブを私に手渡した。

Sさんからもらった、シワ取りクリームだそう。

キンキラキンのキャップのそれは、いかにも高級そうだ。


「通販で定期購入しとったら

頼んでないのに何本も送られてくるようになったけん

腹を立てて断ったんだって。

見るのも嫌じゃけん、お母ちゃんにあげんさい言うて

ワシにくれた」

「何でSさんがシワ取りクリーム?

奥さんが使ったらええじゃん。

それとも奥さんには秘密で使いようたん?」

「知らん」


初老の男がシワ取りクリーム…

はは〜ん…ここで納得した私である。

Sさんと元女子高生はクロだ。


顔が良くても年は取る。

若い娘と付き合っていればなおさら、自身の老いが気になるものだ。

そこでシワ取りクリームを買い込み、無駄な努力を重ねる女々しさよ。


ともあれ、せっかくもらったクリーム。

さっそく塗りたくって寝たら

翌朝、鼻の頭とアゴに赤いブツブツができとるじゃないか!

ガックリ。

《続く》
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よそも大変らしい・1

2024年12月10日 09時21分50秒 | みりこんぐらし
気がつけば、もう12月。

こないだまで暑い暑いと言っていたのに、早いものだ。

今月末で65才になるのに先駆けて、先日、介護保険証が届いた。

黄色い介護保険証をしげしげと眺めつつ

願わくばこれを使うことなく、あっさりとこの世を去りたいと思うけど

こればっかりは、天にお任せするしかないわ。



さて先日、次男が唐突に質問した。

「ねえ、旦那さんが浮気しとったら、奥さんはわかるもの?」

アハハ…私は笑って答えた。

「誰に聞いとるんね、わかるさ」

「どこでわかるん?」

「髪の毛」

「え…?」

簡素な返事は意外だったらしく、次男は驚いた様子だ。


亭主の浮気を発見するアイテムは、多々ある。

最もわかりやすいのは、金遣いが荒くなること。

それから眉、ヒゲ、鼻毛のチェックで

鏡を見る回数が増えることが挙げられる。


他には洋服にファンデーションが付いていたり

車に見知らぬ飾りがぶら下がっていたり

誕生日やクリスマスの後で、新しい持ち物が増えていたり

知らない飲食店のレシートなどの、いわゆる物的証拠。


ただし化粧をしない相手もいるし

子供じみた飾り物を好まない相手もいる。

プレゼントのお返しをしないケチな相手もいるし

外食で釣らなくても、住居に上げてくれるので安く済む相手もいるため

浮気発見のための共通アイテムではない。


その点、髪の毛だけはどんな相手にもある。

そして、必ず抜ける。

特に夜遊びで寝不足になると、実によく抜ける。


女は、他人の髪の毛に敏感なものだ。

公共の洗面所にへばりついた髪の毛を目にして

美しいと思う女はいない。

他人の髪の毛に、嫌悪を感じるのが女。

よって長さ、色、質…自分の髪との違いは、ひと目でわかる。

それぞれ、1本として同じ物は無い。

だから旦那の服や車から、必ず発見される。


わざわざ探すわけではない。

うちの場合、夫の衣服に長いのが1本

引っかかってユラユラしていたり

車の助手席に乗った際、私の背中やズボンにくっついている。

これで何回、ヤツの秘密を知ったことか。

というより、髪の毛で確信を持った以外の浮気を

私は知らないと言っても過言ではない。


妻が知れば、必ず終わりが来る。

そしてそれはたいてい、惨めな終わり方である。

妻帯者と遊びたい女子には、丸坊主がお勧めじゃ。


感じが悪いので、私は夫にニットやフリースを極力着せない。

それらの素材は、髪の毛がくっつきやすいからである。

何でよその女の汚らしい髪を見にゃならんのじゃ。

だから髪の毛を持ち帰らないよう、夫の衣類はツルツルした素材を選ぶ。

これも家庭平和保持の一環である。

家庭を守るとは、やたら敵を設定して戦うことではない。

母親が明るく過ごすことなのだ。



とまぁ、いい気になって解説をぶった後、今度は私が次男に問うた。

「何でそんなこと聞くん?」

「Sさんに、車を売る相談をされたんよ。

奥さんの軽自動車を30万の即金で買ってくれる人、探してくれって」

「買い替えじゃなく?」

「うん、何かおかしいじゃろ?

そういえば最近、奥さんを見んし、ピンときた」



Sさんとは、町内にある小さなバイクショップの店主。

50代後半の穏やかな人で、小柄だが、なかなかのイケメンだ。

若ければAKBか何かに入れそうな可愛らしい奥さんとの間には

すでに独立した二人の息子さんがいる。

不況と少子化で経営は厳しく

奥さんはずいぶん前からパートに出て家計を支えていた。


今でこそ、うちの息子たちのバイク熱はすっかり冷めたが

彼らがまだ若かった頃は

しょっちゅうSさんの店へ出入りしていたものだ。

けれども私は、Sさんに良い印象を持たないまま現在に至っている。

彼にとって、独身で実家暮らしのバカな兄弟はいいカモだったらしく

売りつけ方に疑問を感じたからだ。


頻繁に新車を買わせようとするのもだが

一度など「女房の手術費が必要」という理由で

彼らに中古を買ってくれと泣きついたことがある。

希少な車種なので数年後にプレミアがつくと言われ

幼稚な同情心も相まって、その気になりかけていた息子たちに

「よその家を救う前に、自分の家を救え!」

私は怒鳴ったものである。


息子たちが言うように本当にいい人ならば

親をハラハラさせる商売はしないはずだ。

カネコマのお軽(かる)…それが私の持つSさんの印象であり

それはそのまま、我が夫と重なるところがあった。

《続く》
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