殿は今夜もご乱心

不倫が趣味の夫と暮らす
みりこんでスリリングな毎日をどうぞ!

夫婦心中

2013年01月06日 16時46分08秒 | みりこんぐらし


「オレと心中してくれ!」

夫は言った。

義父アツシの会社が、いよいよ倒産するか否かの瀬戸際を迎えた

昨年秋のことであった。


心中といっても本当に死ぬのではなく、命運を共にして欲しいということだ。

会社の始末に加え、病身の親に振り回される日々で

夫は精神的に追い込まれていた。

私の図々しさと無責任な励ましは、彼の必要とするところであった。


ここで「おまえ」「あんた」と手を取り合えば

それなりの夫婦像が、一体できあがるはず。

が、そんな純情は、すでにどこかへ置き忘れた私であった。

昔から、おいしい時はよそのオネエちゃん…

痛そうだったり、苦しそうな時だけ女房…

という習慣は、どうにかならんもんか。


心中と言うからには…と、私は口走った。

    「どこでっ!」

「ゆ…夕焼け山…」

夫はノってくれた。

なかなかいいヤツじゃないか。


夕焼け山は、遠足で登るのにちょうどよい

我が町のシンボル的存在のお山である。

    「ええ~?」

私はちょっと不満であった。

いや、その時、不満に目覚めたのであった。

死ぬならば、実家の町にある桜山!と、その瞬間、思ったのだ。

幼い頃から慣れ親しみ、校歌にも歌われた桜山が良くなってきた。

意外な感覚であった。


夕焼け山だ、桜山だと議論しているうちに

義父アツシの会社の閉鎖も、新会社の立ち上げも

親会社の尽力で、どうにかなっていった。

我々があんまりバカで頼りないから、助けてもらえたのだと思う。


そんな甘い話があるものか、絶対だまされている…

乗っ取り屋に引っかかったんだ…と世間は言う。

悪いことは言わない、今のうちに手を引け…

これが本当だったら、宝クジに当たるよりすごい…とも、人は言う。

しかし、身を削って他を救い、喜びを分かち合うことで繁栄した社風が

私の感覚にヒットした。


頭は、人を幸せにするためにひねるもの。

腰は、人を尊重するために曲げるもの。

足は、人を助けるために千里を駆けるもの。

身体の正しい使用方を、背中で教えてくれる親会社の人々であった。

感謝と恩義の気持ちは、日増しに強くなる。


後で知ったことだが、親会社の所在地が

奇しくも母の生まれた町内という偶然もあった。

昨年春、上の妹も、就職した甥も、たまたまその町に転居していた。

我々姉妹を陰に日向に支えてくれた父方の従姉妹の勤務先も、同じ町であった。

大都市の中の狭い一角に、関係者集合。

これらは多くの偶然の、ほんの一部である。

何か大きな力が、総動員してくれているような気がしてならない。


だから、もしもだまされたって、いいもんね。

こんなに面白い目に会わせてくれたのだ。

すべてを奪われ、捨てられたあかつきには、笑って礼を言おう。

が、いまだにその気配は無いばかりか、再生後は再び手放して

我々に独立経営させる方針らしい。


調査や分析が進み、私も経理をするようになってわかったが

義父アツシの会社がだめになったのは

不況や公共工事の減少も確かにあったものの

そもそも詐欺に引っかかったためであった。

友人である元県会議員に、マンモス霊園を造成するとだまされ

厳しい経営の中、長年に渡って多額の資金をつぎ込んでいた。

アツシは友人と言い張るが、くだんの元県議が

病床のアツシを見舞うことは、これまで一度も無かった。

これからも無いだろう。


くもり時々詐欺。

ひと山当てるバクチ癖に翻弄された、哀しき昭和経営。

これが破綻の主たる原因であった。


アツシの迷走が無ければ、単独経営は充分可能ということだが

もはやそんなことはどうでもいい。

我が身に起きた幸運を噛みしめるばかりである。

何が幸運か…地獄で仏に会ったこともだが

一番の幸運は、年齢や病気を理由に現実から目をそむけるほうでなく

汗を流して尻ぬぐいをするほうになれたことである。


幸運は、もう一つ起きた。

夫の実家で寝起きし始めて9ヶ月…私は10キロ痩せたのだ。

心労ではなく、仕事や家事で走り回った成果である。


ただ、外で遊び歩く暇が無いため

せっかく入手したスレンダーボディ?を

人に見せびらかせないのは、ちょっとザンネンよ。

何かを得れば、何かを失う…人の常ではある。
コメント (14)
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