殿は今夜もご乱心

不倫が趣味の夫と暮らす
みりこんでスリリングな毎日をどうぞ!

お雑煮

2017年01月04日 22時01分51秒 | みりこんぐらし
明けましておめでとうございます。

昨年は大変お世話になり、ありがとうございました。

本年もどうぞよろしくお願い申し上げます。


さて、昨年末のある日、友達のユリちゃんが言いました。

「1月3日、うちのお寺へお雑煮食べに来ない?」


ユリちゃんは、ここに時々登場する同級生です。

市外のお寺に嫁いでいますが、実家もお寺。

後継者がいないため、僧侶であるユリちゃんのご主人モクネンさんが

彼女の実家のお寺も面倒を見ています。

私の実家はユリ寺と宗派が違いますが、お墓はユリ寺の一角にあり

ユリちゃんと私は仲良しの友達でありながら

お寺の娘と墓檀家という関係も持ち合わせているのでした。


「行く!行く!」

私たち数人の同級生は、お酒が入っていたのもあって大乗り気。

3日の10時半に、ユリ寺へ集合することになりました。


ところが‥

「仕事のシフトが変わった」

「子供が急に帰省することになった」

などの理由によって、参加者は一人減り二人減り

年の瀬には誰もいなくなりました。


残るは私一人。

5〜6人でなだれ込むはずが、大幅に減少したわけです。

みんなで行くと言った時の、ユリちゃんの嬉しそうな顔を思い浮かべると

申し訳ないような気持ちです。

私一人だと知ったら、どんなにがっかりすることでしょう。

そこで約束の3日、枯れ木も山の賑わいとばかりに

我が夫を連れて行くことにしました。


夫はお雑煮が食べられません。

赤ん坊の時、お餅を喉に詰まらせて死にかけたからです。

けれども察しのいい男ですから

「帰りに二人で墓参りすればいいじゃん」

そう言って、嫌がりもせず付いて来ました。


ユリちゃんとお雑煮を食べて、お墓参りをして帰る‥

それが我々夫婦の予定でした。

しかし、そうはいかなかったのです。


お寺には、信者さんが集まっていました。

小さいお寺なので10人ほどですが、何やら張り詰めた雰囲気。

11時から、モクネンさんによる

初勤行(はつごんぎょう)が行われるそうです。


よく考えれば、お寺で食べ物がふるまわれるからには

お経がセットなのは常識でした。

夫はじっとしているのが苦手です。

文句は言わない男ですが

貴重な正月休みに苦手なことを強いるのは気の毒です。

ユリちゃんから詳しいことを聞かないまま

食い気に走った己の浅はかを悔やみました。


関門はお経だけではありません。

信者さんたちは次々と、本堂の仏前にのし袋をお供えしています。

お経とふるまいがあるからには、金一封のお供えも必要なのでした。

ユリちゃんは賑やかしのために我々同級生を呼び

ご馳走してくれる気だったようですが

いい年をした夫婦がのこのこ行って、タダ飯にありつくのは恥というものです。


運良く私のバッグには、簡易のし袋がありました。

来る途中、コンビニで買ったものです。

お寺の賽銭箱にいくばくか投じようと

一万円札をくずしに寄り、ついでに買ったのです。

この幸運に胸をなでおろす私でした。


禅宗のお経は長いので夫の耐久性が心配でしたが

中座せず何とか耐え抜きました。

信者さんの中に小学生の男の子がいて

とてもおとなしかったのが、ライバル心を刺激したようです。


お経が終わると、一人ずつ仏前に進み出て焼香です。

しおらしくうつむいて、夫の後ろに続く私。

父親の仏事で慣れたらしく、夫の如才ない立ち居振る舞いに

「もう、こいつの後ろでハラハラせんでええわい」

と満足する私。


ふと彼の足元に目をやると

「ヒ〜ッ!靴下に穴があいとるやんけ〜!」

とっさに仲良し夫婦を装い、夫の後ろに密着しつつ

身体を張って靴下の穴を隠蔽。


戦慄の焼香が無事終了すると、いよいよお雑煮のはずですが

本堂の隣の部屋には宴会の準備が‥。

大鍋でカジュアルにお雑煮がふるまわれると思い込んでいた私ですが

これは鍋の具材にお餅も入る、れっきとしたパーティーだと知りました。


鍋パーティーは和やかで楽しく、ちゃんこ風の鍋は絶品。

割り箸がおみくじになっていて、夫と私は揃って中吉でした。


割り箸には、それぞれ言葉が印刷してあります。

夫のは「運命の出会いあり」

「まだ運命の出会いが残ってるらしいわ〜!」

お互いの夫婦の事情を知るユリちゃんと私は、そう言って笑いました。

私のは「夢に向かってGO」

「良さげだけど、夢に心当たりが無い!」

そう叫んで信者さんたちと笑い転げながらも

私の頭の中は靴下の穴でいっぱい。

「なぜ!今日に限って!」

己の不注意を悔やむ私よ。


確か去年は会社の新年会で、夫の靴のカカトが取れたんだっけ。

でも、良い年でした。

今年は靴下のカカトに穴。

きっと、良い年です。
コメント (6)
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