彦根市の中西部にある荒神山の西麓に、ぽつりとたたずむ木造平屋の醸造所。
約1km先の湖岸の手前に集落があるほかは田畑が広がる彦根市石寺町でクラフトビールを作る「彦根麦酒(ビール)」だ。
5月2日にオープンしたばかりで、「飲めば、石寺町の美しい風景を思い出すような味を作りたい」との目標を掲げる。
↑写真:中日新聞より
現在販売している商品は2種類。地元産の小麦を使った「ISHIDERA(イシデラ) WEIZEN(ヴァイツェン)」は、小麦の風味と酸味が感じられる。「PALE(ペール) ALE(エール)」は、ホップの爽やかな香りと、すっきりした苦みが特徴という。
いずれも1本(330ml)税込み660円で、醸造所に併設する直売所で購入できる。
↑写真:中日新聞より
醸造責任者の小島なぎささんは、クラフトビールづくりに携わってまだ1年半ほど。製造中に温度が少しでも予定からずれれば、味や香りも大きくイメージから離れてしまう。試作品を飲んだ地域住民から厳しい意見を受けたこともあるが、「彦根の味を出したい」との思いで試行錯誤してきた。
彦根麦酒は、使われていなかった石寺町内の土地を活用するプロジェクトとして誕生した。滋賀県立大(彦根市)の教授が、町内で生産する小麦を生かして特産品を作り出すことを提案。地域住民と滋賀県立大、企業が協力して醸造所を設立した。
小島さんは、滋賀県立大を卒業した2014年から石寺町に住み、古民家を改装して学生向けの下宿を運営するなどまちづくりに関わってきた。
彦根市の統計によると、地区の人口は457人(3月31日現在)で、5年前から120人減少。集落の存続に危機感を持つ住民もおり、彦根麦酒に誘われた際は「仕事や居場所をいただいた石寺町のために、今度は私が仕事や居場所をつくる立場になりたい」と参加を決めた。
もう一人のスタッフで、営業を担当する水野華織さんも学生時代に石寺町に住んでおり、里山整備といった活動に携わった。ただ、ボランティアだけで町を活性化させることの難しさも感じていた。
「ビジネスがあれば、雇用が生まれて人が定住し、コミュニティーの持続が期待できる」。今も二人の他にアルバイトも雇っているが、事業を拡大して雇用を増やしたい考えだ。
目標は、麦芽やホップなど全ての原材料について、彦根市内で生産されたものを使う「ALL HIKONE BEER」を開発することだ。「荒神山と、湖岸近くまで続く田畑。この美しい風景が記憶に残るような味を作りたい」と2人は意気込む。
<中日新聞より>