「ちゃんぽん」といえば、白いスープに野菜などの具がたっぷりのった「長崎ちゃんぽん」を連想する。
でも、滋賀のソウルフード「近江ちゃんぽん」は、やや異なる。具だくさんなのは共通だが、スープは透き通った薄茶色。しょうゆラーメンに近い。
↑写真:中日新聞より
スープはあっさりしつつ、だしがよく効き、滋味深い。麺もコシがあって香り豊か。キャベツやモヤシ、ネギなど、たっぷりの野菜とともに味わうと、何とも優しい味がする。脂ギトギトのラーメンのような罪悪感を覚えずに食べられるのが、ありがたい。
「近江ちゃんぽんたるゆえんは『黄金だし』にある」。
専門店「ちゃんぽん亭総本家」を運営する「ドリームフーズ」(彦根市)の山本英柱(ひでき)社長は、愛され続ける理由の一つにスープのだしを挙げた。
北海道産コンブと6種類の削り節でとった和風だしに近江鶏のガラスープ、グループ会社のしょうゆを加えた澄んだスープを、同社では「黄金だし」と呼ぶ。
だしに合わせ、麺や具材にこだわる。スープがあっさりしている分、麺は「太すぎると小麦粉の味が強くなりすぎるし、細すぎると伸びやすい」と山本社長。太さの調整や粉選びを工夫する。具の主役、野菜は国産。鮮度を重視し、各店でカットする。豚肉もあっさりのスープに合うよう、臭みがない部位を使う。
常連から広がった独特の食べ方がある。出されたままで途中まで味わったら、レンゲ半分程度の酢をスープに加える。山本社長は「意外と酸っぱくなくて、スープをまろやかに『味チェンジ』できる」と話す。
更にお勧めは、同社オリジナルのラー油を入れる。「和風だしの味を楽しみ、次に酢を入れ、さらにラー油を入れる三段階。酸辣湯(サンラータン)ぽい味になる。但し、ラー油はかなり辛いので適量に」と山本社長。
↑写真:中日新聞より
独特のちゃんぽんは、1963年(昭和38年)に彦根市内で開いた食堂「麺類をかべ」で生まれた。
「手軽にたくさんの野菜を食べられ、しかもうまい」とドリームフーズ創業者で山本社長の父、一(はじめ)さんがほれ込み、1986年(昭和61年)に「をかべ」の経営を継承。他のメニューをなくし、「近江ちゃんぽん」に特化した店を滋賀県内、県外へ70店舗に広げた。
ご当地麺に定着した理由を、山本社長は「老若男女問わず愛され、日常的に食べても飽きないから」と説明する。彦根発祥ならではの事情がある。「いちげん客で売り上げを維持できる大都市と違い、地方で商売をしていくには、どれだけ飽きずに繰り返し来てもらえるかが重要だった」
だが、ここにも新型コロナウイルス禍が。乗り切るために、全商品を持ち帰り可能にした。工夫を忘れず、すぐに食べたい人には、熱い麺とスープを入れたタイプ。自宅の鍋で熱々を再現したい人には、生麺と温めていないスープ、具を入れたタイプを用意する。
店内、持ち帰りとも750円。自社サイトでも麺類やチャーハン、ギョーザなどをパックにして通信販売している。
彦根の小さな食堂から「滋賀県民食(ソウルフード)」に育ち、コロナという新たな壁にも立ち向かう。山本社長は語る。「伝統を継承しながら、時代に合わせた革新も持ち合わせたい。『昔おいしかったけど、今はもっとおいしい』と言われるよう、味や麺の太さなどを改良し、進化を続けたい」と語っている。
ちゃんぽん亭総本家(ドリームフーズ)
彦根市幸町74-1 ちゃんぽん亭本店2F
<中日新聞より>