提案書が漏洩したことにより、米国の非営利団体「EcoHealth Alliance」がDARPAに提出した高リスクなコロナウイルス研究の内容が明らかになった。この提案書では、コウモリに関連するSARSコロナウイルスに人間特有の切断部位を挿入する計画が記されており、特にフーリン酵素と相互作用する切断部位が注目された。DARPAはこの提案を却下したが、エコ・ヘルス・アライアンスの代表であるピーター・ダスザックは、提案の公開を認めたものの、その信憑性には異議を唱えなかった。 科学者たちはパンデミックの原因となったウイルスの遺伝情報を解読し、フーリン切断部位がSARS-CoV-2の感染性を高める要因であることに注目している。しかし、この切断部位がどのようにウイルスに取り込まれたのかについては意見が分かれており、人工的に作られたウイルスの可能性を支持する科学者と、自然に発生したウイルスの説を支持する科学者がいる。 論文の中で、23人の科学者は、人工的に作られたウイルスがフーリン切断部位を利用する理由がないと指摘し、武漢ウイルス研究所での研究の形跡もないと述べている。一方で、提案書には新規のフーリン切断部位をコウモリのコロナウイルスに挿入する実験過程が記されており、その実施に関する計画が含まれている。具体的には、ヒト特異的な切断部位を導入し、哺乳類細胞やヒトの気道細胞でのウイルスの増殖を評価することが提案されていた。 また、提案書にはコウモリにワクチンを接種する計画も含まれていたが、パンデミックのウイルスが実験室から流出したという決定的な証拠は示されていない。エコ・ヘルス・アライアンスの提案は、議論を呼び起こしており、科学者たちはその内容がパンデミックの起源に関する考え方を変える可能性があると考えている。 ボストンの科学者アリナ・チャンは、提案書の内容がSARS-CoV-2の起源に関する新たな証拠を提供するものであるとし、研究室由来の可能性について徹底的に調査する必要があると強調している。ラトガース大学のリチャード・エブライトも同様の見解を示し、提案書に記載された内容がウイルスの起源に関する考えを変える要因となると述べている。 一方、他の研究者は、この提案に基づく研究が脅威ではないと主張し、遺伝子操作の多くがノースカロライナ州で行われることを指摘している。ウイルスの専門家たちは、提案書の内容が流出したウイルスの起源に関する議論を新たな次元に引き上げたと考えている。 提案書に記載されたウイルスは既知の病原体ではなく、研究者たちは人間に感染することがわかっているSARSウイルスではなく、コウモリウイルスを使うことで研究が「機能獲得の懸念」から除外されると主張している。しかし、複数の科学者は、この研究が脅威であると認識している。 スチュアート・ニューマン教授は、危険なウイルスになり得る可能性を否定することはできないと述べ、提案書の内容が懸念を裏付けるものであると指摘している。この研究がパンデミックに繋がったかどうかは不明だが、科学者たちは流出の可能性を否定できないとしている。 モンタナ・バイオテクノロジー・センターのジャック・ナンバーグ所長は、研究のリスクが非常に大きく、ウイルスを環境に放出した後に取り戻すことはできないと警告している。全体として、この提案書はSARS-CoV-2が研究室から流出した決定的な証拠ではないものの、流出の可能性を示唆するものであり、科学界での議論をさらに活発にする要因となっている。
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